- 作成日 : 2022年2月16日
債務不履行における損害賠償とは?
債務不履行を理由とする損害賠償については、主張すべき要件事実や請求可能な範囲、時効期間など、民法に規定されているルールを知る必要があります。
この記事では、損害賠償請求を行うために満たすべき要件や注意点、また債務者側にとっても重要な帰責事由などについて解説します。
目次
債務不履行における損害賠償とは?
損害賠償請求権が生じる主な原因は、「不法行為」と「債務不履行」です。
不法行為は契約関係にない第三者との関係でも生じる問題であるのに対し、債務不履行は当事者間の契約関係を前提とする問題です。
債務不履行とは「債務の本旨に従った履行をしないこと」又は「債務の履行が不能であること」を指すので、契約どおりに仕事をしなかったために損害が生じた場合は、債務不履行による損害賠償請求を検討することになります。
ただし、債務不履行における損害賠償請求を行う場合は要件事実の主張立証をしなければなりせん。このことについて、詳しく解説します。
債務不履行の損害賠償に関わる「要件事実」について
「要件事実」とは、ある法律効果として発生する権利の存在を主張するために必要な具体的事実のことです。
債務不履行による損害賠償請求を行うには、以下の4つの要件事実を主張する必要があり、いずれも債権者による主張立証が求められます。
- 債務の存在
- 債務不履行の事実
- 損害の発生
- 債務不履行と損害との因果関係
「債務の存在」は、当事者間で契約が締結されたことにより示します。
「債務不履行の事実」とは、相手方が債務の履行をしないことを意味します。債務不履行の態様には「履行遅滞」「履行不能」「不完全履行」があります。履行遅滞は履行が可能であるのに履行期を過ぎてしまうこと、履行不能は履行ができなくなること、不完全履行は不完全な給付をしたことを意味します。
売買契約を締結したにもかかわらず、売主が商品の全部または一部を納品しないといったことは、債務不履行の事実にあたります。
賠償請求を行う以上、「損害の発生」も前提として必要です。契約に違反する事実があっても、損害が生じていなければ損害賠償請求はできません。
仮に債務不履行の事実と損害の発生が認められたとしても、「債務不履行と損害との因果関係」が認められなければ損害賠償請求はできません。ここでいう因果関係とは、「債務不履行がなければ損害が発生しなかったであろう、という相当因果関係」のことです。損害の発生が相手方の債務不履行を原因とするものでなければ、相手方に責任はありません。
債務不履行の損害賠償に関わる「帰責事由」について
民法第415条第1項但し書きでは、債務不履行が債務者の帰責事由ではない事由によるなら、債務者は損害を賠償する責任を負わないと規定されています。
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
引用:民法|e-GOV法令検索
注意が必要なのは、債務者の帰責事由の存在は債権者が主張すべき請求原因事実ではないことです。つまり、請求を行う債権者が主張立証する必要はなく、債務者が責任を免れるために帰責事由の不存在を主張立証しなければならないのです。
逆に言えば、債権者から前項の要件事実を示されたとしても、債務者は「自己の責めに帰することのできない事由が原因である」と示すことで責任を免れることができるのです。
ただし、帰責事由の不存在は条文にあるように「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されます。
例えば、通常想定できない規模の大地震が生じたために売買の目的物の引渡しができなかった場合は帰責事由なしと評価されやすく、売主の失火により目的物の引渡しができなかった場合は帰責事由ありと評価されやすいです。
帰責事由の存否に関しては、各契約の趣旨や個別の事情に合わせて検討しましょう。
債務不履行の損害賠償に関わる「故意と過失」について
帰責事由に関して「故意」や「過失」が問題になることもあります。
特に不法行為に基づく損害賠償で問題となるケースが多く、故意または過失によって損害が生じた場合は、その行為を働いた者に対して損害賠償請求が可能になります。
ただ、故意、過失は、債務不履行における「帰責事由」と同じものではないという議論があります。
そのため、債務者に過失がない場合であっても、契約の趣旨に照らし、帰責事由があると判断される可能性があります。「過失なし」=「債務者の責めに帰すべき事由なし」とは限らないのです。
故意又は過失がないので大丈夫、ではなく、それ以外にも債務者側の責めに帰すべき事由といえる事情がないか注意しましょう。
債務不履行における損害賠償が依拠する法律(民法)
債務不履行及び債務不履行に基づく損害賠償に関する基本的なルールは、民法に規定されています。
民法は債務不履行に限らず私人間の権利義務関係を規律しており、数ある法律のベースとして機能する一般法でもあります。
債務不履行の責任に関しては主に第412条~422条の2で定められており、債権一般に関するルールについては、他の条文でも細かくルールが設けられています。
近年法改正により債権に関する大幅なルール変更があったため、債務不履行に限らず常に最新の情報を取得することが実務でも重要といえます。
参考:民法|e-GOV法令検索
債務不履行における損害賠償の範囲
債務不履行に基づく損害賠償の範囲に関しては、民法第416条で以下のとおり定められています。
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
引用:民法|e-GOV法令検索
要は、損害賠償の範囲は「債務不履行により通常生ずべき損害」+「予見すべき特別の事情によって生じた損害」であるということです。
何を「特別の事情」とするかは契約の内容等によって異なりますが、これが認められる場合は損害と債務不履行に因果関係が認められたとしても、債務者の予見可能性が認められなければ債務者は責任を負いません。
反対に、「債務不履行により通常生ずべき損害」には債務者の予見可能性は求められません。
債務不履行における損害賠償の金額
損害賠償の金額は、損害の大きさによって変わります。
企業対個人の契約よりも、企業間の契約のほうが大きくなる傾向があります。取引金額自体が後者のほうが大きくなりやすく、企業対個人の契約において、企業が一般消費者に損害賠償を請求する場合については消費者契約法によって損害賠償の予定額に制限があるからです。
企業間であれば数百万円といった額になることも珍しくなく、取引の規模によっては数千万円、数億円になることもあります。対個人の場合は主に違約金などという名目で、契約金額と同等かそれ以下で請求がなされるケースが多いです。
債務の不履行に関して、当事者は損害賠償の額を予定し、違約金等を定めることができます。損害賠償額の予定の定めがあれば債権者は損害額を立証する必要がなくなるため、損害賠償請求が行いやすくなります。
ただし債務不履行による損害に関して債権者に過失がある場合は、「過失相殺」により賠償額から過失の割合に応じて減額されます。
債務不履行における損害賠償に時効はある?
債権の行使は、永久にできるわけではありません。一定期間が経過すると、時効によって権利が消滅するからです。
債務不履行に基づく損害賠償請求権に関しても、
- 行使可能であることを知ったときから5年
- 権利が行使できるときから10年
のいずれかが経過すると消滅時効を迎えます。
ただし債務不履行が原因で命を落としたり、怪我を負ったりした場合は2.の「10年」が「20年」まで延長されます。
請負の目的物に関しては、契約不適合の事実を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しない場合は損害賠償請求ができなくなるという特則が設けられています。
「引渡しにより履行を終えた」という請負人の期待を保護する必要があるからです。品質等に関して契約不適合と評価される目的物を注文者に引渡した場合も、注文者が不適合の事実を知ったときから1年以内にそのことを請負人に通知しなければ、「不適合の事実を知ったときから1年」で債務不履行に基づく権利の行使ができなくなります。
なお、引渡しのときに請負人が不適合を知っている場合や、または重大な過失によって知らなかった場合は保護する必要がないため、この特則は適用されません。
契約における債務不履行の場合の損害賠償について理解しておこう!
契約どおりの履行がないため、損害を被った場合は損害賠償の請求を検討することになります。ただし、要件事実の主張立証が必要で、消滅時効期間を徒過しないうちに対応しなければなりません。
逆に債務者の立場である場合は、責任を免れるためには帰責事由がないことを自ら主張立証しなければなりません。
どちらの立場であっても、債務不履行や債権一般に関する民法上のルールを理解しておくことが重要です。
よくある質問
債務不履行における損害賠償とは何ですか?
債務不履行における損害賠償とは、契約を締結したにもかかわらず債務者が責任を果たさなかった(債務を履行しなかった)ことで生じた損害に対する賠償のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
債務不履行における損害賠償の金額はおおよそいくらになりますか?
発生した損害額または事前に予定した賠償額によって異なり、債権者に過失がある場合は過失相殺によって減額されることもあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
特定商取引法とは?概要や実務上の注意点をわかりやすく紹介
「特定商取引法」では特定の取引に適用されるルールを定め、クーリングオフ制度などにより消費者保護を図っています。 そこで通信販売や訪問販売など、同法で定められた特定の営業方法を行っている企業は同法の内容を理解する必要があります。当記事でわかり…
詳しくみる監督者責任とは?監督義務者の責任と意味をわかりやすく解説
故意または過失によって他人に損害を与えた場合は、賠償責任を負うことがあります。賠償責任は行為を行った本人が負うのが原則ですが、直接危害を加えていない方に「監督者責任(監督義務者の責任)」が問われるケースもあります。 特に、小さな子どもや高齢…
詳しくみる準拠法とは?契約における意味や国際取引における注意点を解説
準拠法とは、法律関係に適用される法のことです。契約書の内容に疑義が生じた場合や、契約に関して具体的な紛争が生じた場合には、準拠法に従って契約が解釈・適用されます。特に国際取引の契約書では、準拠法を明記することが大切です。本記事では準拠法の例…
詳しくみる業法とは?定義について種類とともに解説
「業法」や「業法違反」という言葉を目にすることがありますが、「業法」とは何を意味し、業法にはどのような種類があるのでしょうか。本記事では業法の定義を紹介し、業法の種類について具体的な法令名を挙げて説明します。また、2020年以降に改正された…
詳しくみる著作者とは?法的な定義や権利を解説
著作者とは、著作権や著作者人格権を取得した主体を指します。このうち、財産権である著作権は他の人に譲渡をすることも可能です。著作者が著作権を譲渡すると著作者以外の人に著作権が帰属し、権利行使できるようになります。 今回は著作者の意義や権利、業…
詳しくみる労務提供とは?労働者と交わす契約の種類や労務の内容、労働契約違反について解説
従業員を雇うことで、会社は賃金を支払う代わりに、事業のために必要な業務を従業員に行ってもらうことができます。雇われている会社のために従業員が働くことを「労務提供」といいます。当記事では労務提供について詳しく解説します。 労務提供とは? 「労…
詳しくみる