- 更新日 : 2022年11月21日
電子契約のメリットとデメリットを解説!導入のポイントなど
電子契約には多くのメリットがありますが、導入の際はデメリットも確認しておく必要があります。デメリットを把握しておかないと、導入の途中で問題が発生した場合に対処できなかったり、既存のフローからの変更に不満を持つ関係者を説得できなかったりして、導入が滞るおそれがあるからです。
そこで今回は、電子契約のメリット・デメリットや注意点について解説します。電子契約の導入を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
目次
そもそも電子契約とは
電子契約とは、契約に関する当事者間の合意を電子的に行うことを指します。例えばインターネットを用いて相手方に契約書のデータを交付し、相手方も同様にインターネット上で当該契約書データに同意する旨を示すことで、電子契約を成立させることができます。
従来は契約内容を記した書面を作成して相手方に送付し、相手方が同意の意思を当該契約書に記すため署名押印して返送するという流れが一般的でしたが、電子契約の場合は書面を作成する必要がありません。
このように電子契約では印刷や郵送に係る作業は不要ですし、電子データの送信なら瞬間的に相手方が内容を確認できるようになるため業務効率も向上します。
電子契約サービスを利用することで利便性はさらに向上し、電子契約の導入や継続的な運用に係る企業側の負担も軽減させられるでしょう。
電子契約に関しては下記の記事でも解説しています。
電子契約のメリット
まず、電子契約のメリットを確認しておきましょう。管理やコストにおけるメリットは、以下の5つです。
契約業務を効率化できる
紙の契約書で必要だった業務を省略したり、ステータス管理を強化したりすることによって、契約業務の効率化を図れます。
紙の契約書をやり取りする場合は、印刷→製本→捺印→印紙貼付→宛名記入→封入→郵送という作業が発生するためかなり手間がかかりますが、電子契約ならこのような手間はかかりません。
また、システム上でステータス管理ができるようになります。紙の契約書では、どうしても「相手が契約書の到着に気付かない」「担当者や決裁者が不在で対応が遅延する」といった問題が発生しやすく、自社ではそれらをコントロールすることができません。電子契約であればステータスを可視化しやすいため、作業の遅延や抜け漏れが発生しにくいといえます。
印紙税などのコストを削減できる
前述のとおり、紙の契約書では印刷・製本・印紙貼付などの作業が発生します。これらは手間がかかるだけでなく、金銭的なコストもかかります。契約書を作成したり、保管したり、過去のものを探したりする際は、人件費もかかります。
電子契約であれば、このようなコストを削減することができます。このように契約書の作成及び管理に関するコストを削減できることも、電子契約のメリットといえるでしょう。
契約書の保管が容易になる
企業には、契約書を一定期間保管する義務が課せられています。紙の契約書の場合、原本を書庫などに保管するのが一般的です。
しかし、契約が増えると契約書を保管するためのスペースや部屋が必要になりますし、探しやすい形で保管するのは容易ではありません。管理が行き届かず、雑然と棚に入れてある企業も少なくありません。
電子契約であれば、データを保存するだけで済みます。物理的なスペースは不要ですし、検索できるようにしておけば探すのも簡単です。このように、電子契約を導入すると契約書の管理業務が効率的になります。
管理体制を強化できる
紙の契約書の保管がずさんになると、社外の人や他部署の人に契約書を見られてしまうリスクが高くなります。最悪の場合は書類の改ざんや契約書の破損・紛失が起こり、会社に甚大なダメージを与えるおそれがあります。
電子契約を導入すれば閲覧権限を細かく設定できるため、関係のない人に見られてしまうリスクを抑えられます。また、バックアップを取っておけば、万が一契約書データを削除してしまっても復旧が可能です。
更新等の漏れを防げる
導入する電子契約サービスによってはステータス管理機能が備わっているため、契約後の更新・解約を失念するリスクも抑えられます。各種契約をシステム上で管理できるのは、企業のガバナンスにとっても大きなメリットです。
在宅勤務に対応しやすい
総務省の「令和4年版情報通信白書」によると、テレワークが困難である理由として「ルールや制度が整っていない」ことなどの割合が多いと示されています。
電子契約を適切に運用することができれば、紙の契約書で必要とされていた業務を省略することができます。押印のために出社しなければならないといった問題を解決することができ、在宅勤務にも対応しやすくなるでしょう。
すべての契約に電子契約を利用できるわけではありませんが、ビジネスで利用される多くの契約類型に関してはすでに認められています。「書面の作成・送付等の作業があるから」「押印をしなければならないから」などの理由で在宅勤務を導入できていないのであれば、電子契約を導入することで解決ができるかもしれません。
電子契約のデメリット
電子契約の導入には多くのメリットがありますが、デメリットもあります。以下のようなデメリットがあることを念頭に置いて利用し、解決手段を検討するとよいでしょう。
社員のリテラシーを考慮する必要がある
電子契約サービスを導入するためには、既存の業務フローを一部変更する必要があるでしょう。紙の契約書に慣れ親しんできた社員は、電子契約の導入を良く思わないかもしれません。また、電子契約サービスをうまく操作できないことも想定されます。
電子契約を導入して業務効率化を図るためには、社員のITリテラシーや感情を考慮することも重要です。現場の状況を踏まえて、慎重に社内調整と啓蒙を進めましょう。
電子書類と紙の書類が混在する
法整備が進んで契約書の大半が電子化されましたが、2022年5月以降も電子化が認められていない契約もあります。
また、契約相手が紙の契約書しか取り扱っていないケースもあります。自社に合わせて電子契約書を作成・管理してもらうようにするか、あるいは相手に合わせてあえて紙で管理するかを調整しなければなりません。
業務領域や契約相手によっては、すべてを電子契約に切り替えることができません。その場合は電子契約書と紙の契約書が混在するため、管理が煩雑になります。しかし、今後法改正によって電子契約が認められる契約が増える可能性があるので、紙の契約書の存在によって電子契約を断念する必要はないでしょう。
電子契約を導入する上での注意点
担当者は、電子契約のメリット・デメリットを踏まえて導入の是非を判断することが求められます。最後に、電子契約の導入にあたって注意したいことを2つ紹介します。
対応書類など、関連する法律を定期的に確認しよう
前述のとおり、中には法律によって紙の契約書を作成しなければならない契約もありますが、今後ペーパーレスがさらに浸透すれば法律が改正され、電子契約が認められるかもしれません。
したがって、業務関連の契約書が電子契約に対応しているか否かを確認するだけでなく、今後の法改正の動きも定期的に確認することをおすすめします。
これまでの業務フローが、電子契約を導入することでどう変わるか明確化しよう
既存の業務フローが、紙の契約書を前提としているケースは多いでしょう。また、社内の関係者だけでなく顧客やパートナー会社など、社外の関係者にも対応の変更を依頼する必要があるかもしれません。
社内外の関係者に既存の業務フローを確認するとともに、電子契約の導入によって本当に業務効率化を図れるのか、業務フローはどのように変更するかなどを検討するとよいでしょう。
電子契約に関連する法律
電子契約に関連する主な法律には、①電子帳簿保存法、②電子署名法、③e-文書法があります。それぞれの法律ではどのようなルールが設けられているのか、以下で簡単に紹介します。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法(正式名称:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、その名のとおり国税関係帳簿書類の保存に関する特例を規定している法律です。
同法の趣旨は、第1条でもこのように示されています。
第一条 この法律は、情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等について、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)その他の国税に関する法律の特例を定めるものとする。
同条からわかるように、国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減することが目的ではありますが、“適正な納税義務の履行” も確保しなければなりません。
そこで同法では単にデータとして帳簿や請求書、領収書などの保存すべてを認めるのではなく、一定の要件を満たした上で保存することを求めています。
例えば、取引先から受領した紙の請求書であってもスキャンして保存(スキャナ保存)することも可能ですが、その際にはタイムスタンプの付与が必要です。その他、保存方法に応じて満たすべき要件が同法で定められていますので、一定水準以上の環境が整備されていなければなりません。
電子帳簿保存法に関しては、下記の記事で詳しく紹介しています。
電子署名法
電子署名法(正式名称:電子署名及び認証業務に関する法律)には、電磁的記録に対する真正な成立の推定と、特定認証業務に関することが規定されています。
同法第1条でも、以下のとおり目的を掲げています。
(目的)
第一条 この法律は、電子署名に関し、電磁的記録の真正な成立の推定、特定認証業務に関する認定の制度その他必要な事項を定めることにより、電子署名の円滑な利用の確保による情報の電磁的方式による流通及び情報処理の促進を図り、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
多くの企業にとって重要なのは、「電磁的記録の真正な成立の推定」に関する規定です。同規定により、“本人による一定の電子署名が付されているのなら、その電子文書等は真正に成立したものと推定する”ことができます。
民事訴訟法では「署名または押印がある私文書は真正に成立したものと推定する」との規定が置かれているのですが、これは紙を前提とした規定です。電子文書にこの規定をそのまま適用することはできません。
そこで、電子署名法により類似の仕組みが導入されたのです。
詳しくは下記記事もご覧ください。
e-文書法
e-文書法は、文書の電子化・電子保存に関して包括的なルールを規定している法律です。文書の電子保存についての共通事項を定めた通則法と、電子管理を行うための手続きなどを定めた整備法で構成されています。
特定の種類の文書のみを対象としているわけではないため、電子帳簿保存法の適用を受ける文書の他、電子帳簿保存法では規律されていない稟議書や人事関連資料、有価証券報告書などの文書の保存についても対象としています。
e-文書法では、①見読性、②完全性、③機密性、④検索性の4つを電子文書が満たすべき要件としており、電子帳簿保存法などで別途要件が課されていない文書に関してもこの4つは満たすように環境を整備することが大切です。
e-文書法についての詳細は下記記事をご覧ください。
電子契約のメリット・デメリットを踏まえて導入の判断を
電子契約の導入によって業務効率化やコスト削減などを期待できますが、業務フローを変更する必要があるため、一部の社員から反対されるかもしれません。
電子契約のデメリットにも配慮しつつ、既存フローの下で業務を行う人に満足してもらえるように導入を進めることが大切です。
よくある質問
電子契約のメリットは何ですか?
業務効率化やコスト削減、契約書管理の容易さ、管理体制の強化、更新・解約漏れの防止などが考えられます。詳しくはこちらをご覧ください。
電子契約のデメリットは何ですか?
電子データならではの社員のリテラシーへの配慮が必要になることと、電子契約未対応書類の存在によって電子契約と紙の契約書が混在することがデメリットといえます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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