- 作成日 : 2024年11月7日
ペーパーレス化・脱ハンコで印鑑は不要に?効果や課題を解説
ここ数年、ペーパーレス化や脱ハンコの動きは、企業の業務効率化やコスト削減に向けて加速しています。特に、電子契約や電子署名の導入が進み、従来の紙ベースの契約や印鑑の使用が見直されつつある状況です。しかし、どこまで印鑑が不要になるのか、また、ペーパーレス化による効果はどこまであるのか、一方で課題はないのかなど、企業が対応すべきポイントはまだ残されています。
本記事では、ペーパーレス化の進展や効果、課題について具体的に解説します。
目次
- ペーパーレス・脱ハンコはどこまで進んでいるのか?
- ペーパーレス・脱ハンコでどのような効果が得られたか
- ペーパーレス化・脱ハンコを進める際の課題点
- 電子契約システムを導入する手間がかかる
- 取引先に電子契約の同意を得るのが難しい
- 取引先に電子契約システムを導入する手間がかかる
- 社内に電子契約サービスの導入目的の説明や同意を得ることが難しい
- 電子契約サービスのシステム構成や機能(電子署名やタイムスタンプなど)が分かる要員が社内にいない
- 電子契約の法制度要件(電子帳簿保存法や電子署名法など)が分かる要員が社内にいない
- 電子契約サービス関連のコストが高い(初期導入コスト、運用保守コスト、電子証明書取得コストなど)
- 紙の契約書と電子契約書が併存していて業務が煩雑になっている
- 電子契約の業務プロセス(申請・承認フローなど)の設計が難しい
- 電子契約サービスの製品や導入パートナーの比較検討が難しい
- 電子契約書をクラウド環境に保管することに理解が得られない
- 特に問題はない
- 社内でのペーパーレス化・脱ハンコの進め方
- ペーパーレス契約で電子印鑑を使用する際の注意点
- ペーパーレスが進むと印鑑は必要なくなる?
- ペーパーレス化・脱ハンコで企業の競争力を高めよう!
ペーパーレス・脱ハンコはどこまで進んでいるのか?
2024年時点で、日本における電子契約の導入は大幅に進展しています。以下、電子契約の実施状況について見ていきましょう。
電子契約の実施状況(2024年)
最近の調査によると、電子契約の導入率は着実に上昇しています。全業種平均で電子契約を導入している企業の割合は62.7%に達し、前年比で5.2ポイント増加しました。その中では、当事者型の電子契約を採用する企業が最も多いことが報告されています。
この背景には、2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法の影響が大きいと考えられます。同法により、電子取引データの電子保存が原則義務化され、2024年1月1日からは完全義務化されました(電子帳簿保存法第4条第3項)。
これにより、多くの企業が電子契約システムの導入を進めたと推測されます。
電子契約の導入効果としては、特にコスト削減や業務効率化が挙げられています。また、電子契約の利用によるセキュリティ強化も多くの企業で実感されています。
また、デジタル庁が推進する「デジタル社会の実現に向けた重点計画」においても、行政手続のデジタル化が進められており、これが民間企業のデジタル化を後押ししています。
※参照:一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)「企業IT利活用動向調査2024」集計結果
業界別の動向
先の調査では、「電子情報の利用をまったく予定していない」に加え、現状で利用していない「電子契約の利用を準備・検討中」を除く、既に利用している企業を業界別に列挙しています。
これによると、情報通信業での利用率が88.7%と最も高い一方、サービス業では66.0%と最も利用率が低くなっています。情報通信業については、デジタル技術に精通した業界特性を反映していると考えられます。サービス業においては、対面でのやり取りや紙の書類を重視する傾向があり、特に小規模な事業者では、従来の紙ベースの契約に慣れていることも影響しているでしょう。
情報通信業に次いで利用率が高いのは、以下、建設・不動産業の83.9%、金融・保険業の80.2%となっています。建設業については2001年4月に建設業法が改正され、建設業務の請負契約を電子書面で交わせることが可能となりました。さらに2020年には、電子契約の利用を後押しするグレーゾーン解消制度が開始されています。不動産業では2022年5月に施行された改正宅地建物取引業法により、重要事項説明のオンライン化が可能になったことも影響していると考えられます。
また、金融・保険業については厳格な規制下にある業界でも、電子契約の信頼性と効率性が認められていることが分かります。
ペーパーレス・脱ハンコでどのような効果が得られたか
「ペーパーレス・脱ハンコでどのような効果が得られたか」について、「企業IT利活用動向調査2024」の集計結果に基づいて解説します。
コスト削減
コスト削減(印刷代、郵送費、保管費用など)は、電子契約の導入による最も顕著な効果の一つです。集計結果によると、48.6%の企業がコスト削減を導入効果として挙げています。電子契約により、契約書を紙で印刷し郵送するためのコストや、紙の書類を保管するための費用が削減されます。さらに、契約書の電子保管により、保管スペースの削減も実現され、企業全体の経費削減に寄与しています。これにより、特に契約数の多い企業では年間で大きなコスト削減効果が期待されています。
業務負荷の軽減
電子契約は、契約にかかる業務負荷の軽減にも大きな効果をもたらしています。調査によれば、41.1%の企業が業務負荷の軽減を報告しています。従来の紙ベースの契約では、印刷、捺印、郵送、受領確認、保管など多くの手間がかかりますが、電子契約ではこれらのプロセスが簡略化され、契約に要する時間と労力が大幅に削減されます。また、契約プロセスの自動化により、ヒューマンエラーの減少にもつながり、業務の精度と効率が向上します。
印紙税の節約
契約書には通常、印紙税が必要ですが、電子契約では印紙税が不要なため、39.7%の企業がこの節約効果を実感しています。紙ベースの契約書では、金額に応じて数千円から数万円の印紙税が発生しますが、電子契約ではこの費用が完全に免除されるため、特に大量の契約を取り扱う企業にとっては大きな経済的効果があります。こうした税制上のメリットは、「電子帳簿保存法」の改正にも関連しており、紙の契約書の義務が緩和されることで、電子契約の普及がさらに促進されています。
契約書管理の効率化
契約書管理の効率化も、電子契約の大きな利点として挙げられます。調査では、38.9%の企業が契約書管理の効率化を効果として挙げています。従来の紙の契約書では、物理的なファイリングや保管が必要でしたが、電子契約ではデジタル化された契約書を簡単に検索、整理、保管することが可能です。また、クラウドストレージを利用することで、契約書へのアクセスが迅速化し、必要な情報を瞬時に引き出せるようになります。これにより、契約の管理やトラッキングが容易になり、事務処理の効率が大幅に向上します。
契約時のセキュリティの強化
電子契約は、セキュリティの強化という点でも効果があります。調査では35.5%の企業が、電子契約の導入によりセキュリティが向上したと回答しています。電子契約には、暗号化技術や電子署名が導入されており、契約書の改ざんや不正アクセスを防ぐことが可能です。また、紙の契約書とは異なり、紛失や盗難のリスクも大幅に軽減されます。法的には、「電子署名法」に基づき、電子署名は押印と同等の法的効力を持つため、契約の信頼性も確保されます。
契約締結や取引完了までの期間の短縮
29.2%の企業が、電子契約を利用することで契約締結や取引完了までの期間が短縮されたと回答しています。電子契約では郵送の手間が省かれ、契約書のやり取りがリアルタイムで行えるため、契約プロセス全体が加速します。これにより、取引の迅速化が実現され、ビジネスのスピードが向上します。
テレワークや在宅勤務への対応
27.4%の企業が、電子契約の導入によりテレワークや在宅勤務への対応が容易になったと回答しています。電子契約により、契約業務が場所に依存せずに行えるようになり、リモートワーク中でもスムーズに契約手続きを進めることが可能です。この点は、特にコロナ禍以降の働き方の変化に対応したものであり、今後もこの傾向は続くと予測されています。
取引先とのビジネス機会の増加
19.7%の企業が、電子契約の導入により取引先とのビジネス機会の増加を実感しています。電子契約の導入により、契約手続きが迅速に進むため、新規取引の立ち上げや商談の成立が早まることが背景にあります。特に国際取引において、異なるタイムゾーンの企業との契約も円滑に行えるため、ビジネスの拡大に寄与しています。
企業の先進性やDXのアピール
12.9%の企業が、電子契約の導入により自社の先進性やDX推進の姿勢をアピールできたとしています。電子契約を導入することで、企業がDXに積極的に取り組んでいることを社内外に示すことができ、特に新規取引先やパートナーに対して先進的な企業イメージを構築する効果があります。
導入効果は特に出ていない/分からない
2.6%の企業は、電子契約の導入効果がまだ特に現れていない、またはよく分からないと回答しています。これは、導入初期段階にある企業や、まだ電子契約の利用が定着していないケースが考えられます。
ペーパーレス化・脱ハンコを進める際の課題点
「企業IT利活用動向調査2024」の調査結果からは、電子契約の導入にあたってはシステム導入の手間や取引先との調整、社内の同意取得が主な課題として浮き彫りになっています。
電子契約システムを導入する手間がかかる
「企業IT利活用動向調査2024」の調査結果によれば、37.0%の企業が電子契約サービスのシステムを社内に導入する際に手間がかかると感じています。新しいシステムの導入には、既存のITインフラとの統合や、システムのトレーニングが必要です。また、社内のIT部門や現場担当者に負担がかかることから、導入のスムーズさが大きな課題となっています。この手間を軽減するためには、外部の専門業者や導入支援パートナーのサポートが必要となるケースも多く、システム選定段階からの計画的な取り組みが求められます。
取引先に電子契約の同意を得るのが難しい
33.8%の企業が、取引先に電子契約サービスの導入目的を説明し、同意を得ることが難しいと報告しています。電子契約の導入が進む中でも、取引先によっては従来の紙ベースの契約方法に固執していたり、電子契約に対する理解が不足していたりすることがあります。特に、中小企業やデジタル化が遅れている業界では、電子契約に対する信頼性や法的効力に対する懸念が大きいため、導入に向けた交渉や同意取得が障壁となることが少なくありません。
取引先に電子契約システムを導入する手間がかかる
29.9%の企業は、取引先に電子契約システムを導入してもらう手間を課題として挙げています。取引先にとっても、電子契約システムの導入には初期投資やシステム運用のためのリソースが必要であり、システムの運用体制が整っていない企業にとっては大きな負担となります。電子契約の普及には、取引先との協力体制の構築や、電子契約のメリットを共有する取り組みが重要です。
社内に電子契約サービスの導入目的の説明や同意を得ることが難しい
26.5%の企業が、社内での導入目的の説明や同意取得に苦労しています。特に、従来の紙の契約書に慣れている従業員や部門に対して、電子契約の必要性やメリットを理解してもらうことが難しいケースがあります。社内でのデジタル化を推進するためには、経営層やIT部門が主導し、全社的なコンセンサスを得るための説明会やトレーニングが不可欠です。
電子契約サービスのシステム構成や機能(電子署名やタイムスタンプなど)が分かる要員が社内にいない
22.3%の企業が、電子契約のシステム構成や電子署名・タイムスタンプといった技術的な機能に精通している人材が社内にいないとしています。このため、システムの導入や運用に関して外部の専門家に依存することになり、対応が遅れるケースもあります。こうした課題に対処するためには、社内のIT人材の育成や、外部コンサルタントとの連携が重要です。
電子契約の法制度要件(電子帳簿保存法や電子署名法など)が分かる要員が社内にいない
18.6%の企業が、電子契約に関する法的要件を理解している人材が不足していると報告しています。電子契約には、「電子署名法」や「電子帳簿保存法」などの法的要件が関係しますが、これらの知識が不足していると、適切な運用が困難になります。法務部門やIT部門の連携を強化し、法的知識の習得が求められます。
電子契約サービス関連のコストが高い(初期導入コスト、運用保守コスト、電子証明書取得コストなど)
16.5%の企業は、電子契約サービスの導入コストや運用コストが高いと感じています。初期導入費用だけでなく、運用保守や電子証明書の更新コストも含めると、長期的なコスト負担が懸念されます。これを解決するためには、費用対効果の分析や、複数のサービスの比較検討が重要です。
紙の契約書と電子契約書が併存していて業務が煩雑になっている
14.7%の企業では、紙の契約書と電子契約書が併存することで業務が複雑化しています。一部の取引先が電子契約に対応していない場合、両者を同時に管理する必要があり、かえって業務が非効率になるケースがあります。これを解消するには、取引先との調整や、社内プロセスの再設計が必要です。
電子契約の業務プロセス(申請・承認フローなど)の設計が難しい
12.5%の企業が、電子契約における業務プロセスの設計に苦労しています。特に、申請や承認フローのデジタル化は、従来の紙のプロセスをそのまま移行するだけではなく、より効率的な設計が求められるため、難易度が高いと感じる企業が多いです。
電子契約サービスの製品や導入パートナーの比較検討が難しい
9.1%の企業が、電子契約サービスの選定において、どの製品や導入パートナーを選ぶべきか悩んでいます。市場には多くのサービスプロバイダーが存在し、それぞれの機能やコスト、サポート体制が異なるため、慎重な比較検討が求められます。
電子契約書をクラウド環境に保管することに理解が得られない
8.2%の企業は、電子契約書をクラウド環境に保管することに対する社内外の理解が得られないとしています。セキュリティやプライバシーに対する懸念が主な原因であり、クラウドサービスの安全性を説明する必要があります。
特に問題はない
一方で、2.6%の企業は電子契約の導入において特に問題は感じていないと回答しています。これは、既に電子契約のメリットを十分に享受し、スムーズに運用できている企業が該当します。
社内でのペーパーレス化・脱ハンコの進め方
ペーパーレス化・脱ハンコの効果と課題を踏まえたうえで、ペーパーレス化を成功させるための具体的なステップを解説していきます。
①ペーパーレス化への目標を設定する
ペーパーレス化を進める際は、まず明確な目標設定が必要です。例えば、「1年以内に社内書類の80%をデジタル化する」「印刷コストを50%削減する」など、具体的で測定可能な目標を設定します。これにより、ペーパーレス化の進捗を確認し、関係者全員が共通の目標に向かって取り組めます。また、法的要件も考慮し、「電子帳簿保存法」などの法令に準拠したペーパーレス化を目指すことが重要です。
②データ化する書類の優先度を決める
次に、デジタル化する書類の優先順位を決定します。契約書や取引記録など、保存義務のある重要書類からデータ化を開始し、社内の業務に大きな影響を与える書類に焦点を当てます。紙での保管が不要になるものや、日常的に頻繁に利用されるものを優先的にデジタル化することで、業務の効率化が期待できます。各書類の法的保存期間や法令も確認し、適切な管理体制を構築することが必要です。
③必要なシステムやサービスを検討する
ペーパーレス化を進めるためには、適切なシステムやサービスの導入が欠かせません。例えば、電子署名や電子契約サービスを選定し、クラウドベースの文書管理システムを活用することで、業務の効率化が図れます。また、システムを導入する際には「電子帳簿保存法」や「電子署名法」などの法制度に対応した機能を持つ製品を選ぶことが重要です。初期導入コストや運用保守費用を考慮しながら、長期的なコスト削減につながるサービスを選定します。
④運用ルールを決める
システムの導入後は、運用ルールを明確に定めます。書類の保存形式、アクセス権限の管理、バックアップの頻度など、運用上のガイドラインを作成し、社内全体で統一した運用ができるようにします。特に、個人情報や機密情報を取り扱う場合、適切なセキュリティ対策を講じ、データの改ざん防止やアクセス制御を強化することが求められます。運用ルールが徹底されないと、デジタル化によるメリットが最大化されない恐れがあるのです。
⑤社内に周知して実行する
ペーパーレス化の目標や運用ルールが決まったら、全社的に周知し、実行に移すことが大切です。説明会やトレーニングを通じて、社員に新しいシステムや運用方法を理解してもらい、日常業務に組み込んでもらいます。電子契約やデジタル化に対する理解を深めてもらうことで、導入のハードルが下がり、スムーズな運用が実現します。IT部門や管理部門が主導して継続的なサポートを提供することも重要です。
⑥取引先や顧客へ協力を依頼する
社内でペーパーレス化が進んでも、取引先や顧客の協力がなければ完全な脱ハンコは実現できません。取引先に電子契約のメリットを説明し、協力を依頼することが重要です。特に、中小企業や電子契約に慣れていない取引先に対しては、分かりやすい説明を行い、電子契約が法的に認められた安全な方法であることを伝えることが必要です。取引先の電子契約への移行を促進するための支援も、企業間の信頼関係構築に寄与します。
ペーパーレス契約で電子印鑑を使用する際の注意点
ここでは、ペーパーレス契約で電子印鑑を使用する際の注意点について確認していきます。法的枠組みと技術的な要件を正しく理解し、適切に運用することが大切です。
電子契約での印鑑の種類
電子契約で使用される印鑑には、主に電子印鑑と電子署名の2種類があります。電子印鑑は、従来の紙の契約書に押印する印鑑をデジタル化したもので、電子ファイルに押すことで契約書に印鑑の代わりとして使われます。一方、電子署名は、より厳密な本人確認を行う技術で、暗号化されたデジタル証明書を用いて契約内容を改ざんできないように保証する仕組みです。電子署名は「電子署名法」に基づき、紙の契約書における押印と同等の法的効力を持つと認められています。
電子契約を使用する際の注意点
電子契約を利用する際は、いくつかの重要な注意点があります。まず、本人確認の厳格さが重要です。電子印鑑は簡単にコピーできるため、信頼性の高い電子署名の使用が推奨されます。また、契約相手方が電子契約に対応しているかどうかを事前に確認し、相手方にも導入の意図を説明して同意を得ることが必要です。
さらに、データの保存方法にも注意が必要です。特にクラウドに保管する場合は、適切なセキュリティ対策やアクセス制御を施し、契約書が改ざんされないように保護する必要があります。
電子契約の法的効力
電子契約は、日本の「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」によって法的に認められています。電子署名を用いた契約は、紙の契約書に押印された印鑑と同等の効力を持ち、契約内容が改ざんされていないことを証明します。
また、2022年の法改正により、従来の押印が必要な手続きの多くが電子契約に移行可能となりました。これにより、企業間の契約のみならず、行政手続きや各種申請にも電子契約が広く利用されるようになっています。
※以下の記事も是非、参照してください。
ペーパーレスが進むと印鑑は必要なくなる?
印鑑の使用は徐々に減少していますが、公的機関との手続きや一部の重要契約では、まだ完全に不要にはなっていないのが現状です。印鑑の法的効力やどのような場面に印鑑が必要かについて見ていきましょう。
契約にあたり印鑑は必須ではない
日本では、契約において印鑑を押すことが長らく慣習化されていましたが、法的には契約に印鑑が必須であるわけではありません。契約の成立には、双方が合意したことが確認できれば十分であり、書面にサインや印鑑がなくても口頭での合意でも契約は成立します。これを支えているのは、日本の民法に基づく意思表示の自由の原則です。
また、ペーパーレス化が進み、電子契約が一般化している現状では、印鑑の代わりに電子署名が利用されることが増えています。電子署名は「電子署名法」に基づき、紙の契約書における押印と同等の効力を持ち、契約の信頼性を担保します。
公的機関との契約には印鑑が必要な場合もある
一方で、公的機関との契約や行政手続きにおいては、依然として印鑑が求められるケースがあります。2022年の法改正により、多くの行政手続きで押印が不要となったものの、特定の書類や重要な契約においては、印鑑が法的に求められることがあります。例えば、不動産登記や公証役場での手続きにおいては、実印や印鑑証明が必要な場合があります。これに対して、今後はさらなる法改正やデジタル化の進展により、これらの手続きでも電子署名や電子契約が導入されることが期待されています。
ペーパーレス化・脱ハンコで企業の競争力を高めよう!
ペーパーレス化と脱ハンコの推進は、企業に多くのメリットをもたらしますが、成功させるには課題への対処が必要不可欠です。電子契約の導入に伴うシステムの選定や、取引先との協力、法的要件の理解を深めることが重要です。
また、社内での運用ルールの整備や社員への周知を徹底し、効果的なデジタル化を進めていくことも大切です。ペーパーレス化を成功させるためには、全社的に周知したうえで段階的かつ計画的な導入に進めていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
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