• 作成日 : 2022年10月28日

特許無効審判とは?請求できるケースや手続きの流れを解説

特許は、特許庁の審査官による審査をクリアしたもののみが権利として成立しますが、特許無効審判という手続によって権利として成立した特許を無効に出来る場合があります。

今回は手続きの流れや特許無効審判が請求できるケース、特許が無効となる理由など、特許無効審判の基礎知識について解説します。

特許無効審判とは

特許は、特許庁の審査官による審査をクリアすることによって特許権として成立し、発明者やその承継人が特許権者となります。特許権者には、特許発明(特許を受けた発明)を独占的に実施する権利が与えられ、特許権者は、第三者による特許発明の無断実施に対して、その実施を差し止める権利と、損害賠償を請求する権利を持ちます。

(特許無効審判)
第百二十三条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。

引用:特許法|e-GOV法令検索

特許無効審判とは、利害関係人が特許庁に特許の取り消しを求める手続きのことです。特許が無効である理由を主張して証拠を提出し、特許庁で審議してもらい、その特許が無効であると判断された場合はその特許権が消滅し、始めから存在しなかったことになります。

特許は権利者を守る制度であると同時に、他者の権利を制限する制度です。仮に本来特許権を付与すべきでない者に特許権が付与された場合、特許申請者に対して不当な権利を与え、同時に他者の権利が侵害されることになります。これを是正するために、特許無効審判という制度が設けられているのです。

特許無効審判と特許異議申立の違い

特許異議申立とは、特許権の付与に対して再度審査を求めることができる制度のことです。特許権が特許権者に付与された後は、特許掲載公報によってその旨が公表されます。特許掲載広報の発行から6ヵ月間は、その特許に対して異議申し立てを行うことができます。これに関しては、特許法第113条で定められています。

第百十三条 何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許庁長官に、特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合において、二以上の請求項に係る特許については、請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。

引用:特許法|e-GOV法令検索

特許無効審判は特許の無効を求める制度で、利害関係人のみが行うことができます。特に期限は決められていません。一方、特許異議申立は特許の審査のやり直しを求めることができる制度で、特許掲載公報の発行から6ヵ月間という期限はありますが、誰でも申し立てを行うことができます。

特許無効審判と延長登録無効審判の違い

特許権の有効期限は出願から20年で、それ以降は権利が消滅します。しかし、医薬品や農業などの分野では消費者の安全性の確保などを理由として、有効期限を延長することが認められています。利害関係人は延長登録無効審判を請求することで、その延長を無効にするよう求めることができます。

第百二十五条の二 第六十七条の三第三項の延長登録が次の各号のいずれかに該当するときは、その延長登録を無効にすることについて延長登録無効審判を請求することができる。

引用:特許法|e-GOV法令検索

特許無効審判では特許権の取り消しを求めることができ、申請が認められればその特許は過去に遡って無効となります。一方で延長登録無効審判は、あくまで特許の有効期限を延長させないよう求める制度です。特許無効審判も延長登録無効審判も、申し立てを行えるのは利害関係人であることは共通していますが、特許権の延長に関しては医薬品や農業などの特定の分野に限られています。特許権の延長の場合、申し立てができるのは基本的にその分野に携わっている人です。

どのような場合に特許無効審判を請求できる?

特許無効審判は、その特許に無効である理由が存在する場合に申請することができます。無効理由に関しては、特許法123条の各項に定められています。

一 その特許が第十七条の二第三項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願(外国語書面出願を除く。)に対してされたとき。
二 その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされた場合にあつては、第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
三 その特許が条約に違反してされたとき。
四 その特許が第三十六条第四項第一号又は第六項(第四号を除く。)に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたとき。
五 外国語書面出願に係る特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が外国語書面に記載した事項の範囲内にないとき。
六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
七 特許がされた後において、その特許権者が第二十五条の規定により特許権を享有することができない者になつたとき、又はその特許が条約に違反することとなつたとき。
八 その特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の訂正が第百二十六条第一項ただし書若しくは第五項から第七項まで(第百二十条の五第九項又は第百三十四条の二第九項において準用する場合を含む。)、第百二十条の五第二項ただし書又は第百三十四条の二第一項ただし書の規定に違反してされたとき。

引用:特許法|e-GOV法令検索

例えば、特許発明と同じ内容が特許出願時よりも前に世の中に公開されていた場合には、無効理由が存在することになります。特許法第39条に同一の発明について異なった日に二以上の特許出願があった場合には、最先の特許出願人のみがその発明において特許を受けることができる、とあります。

誰が特許無効審判を請求できる?

特許無効審判を出願できるのは、利害関係人のみです。これは、特許法第123条の2で定められています。

特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。

引用:特許法|e-GOV法令検索

例えば特許権者から特許権侵害で訴えられている人や、対象となる特許発明と似たような発明で特許権を有している人、特許発明と類似する発明を使用して製品を造っている人などが該当します。

無効理由に該当するケース

前述のとおり、特許の無効理由に関しては特許法123条の各項で定められています。例えば、自分の発明を第三者が勝手に特許を申請するケースです。例えば、A社が発明した技術についてB社が勝手に特許を出願した場合、A社が特許無効審判を請求することでB社の特許権が無効になる可能性があります。
また、特許発明と同じ内容が特許出願よりも前にインターネット上で公開されていた場合や、特許発明と同じ内容が特許出願よりも前に製品化されて販売されていた場合には、無効理由に該当する場合があります。

特許権者から特許侵害で訴えられた場合の対抗策として特許無効審判が請求されるケースが多いです。

証拠として提出できるもの

特許無効審判を請求する場合は、特許庁に審判請求書を提出し、その根拠を証拠によって示さなければなりません。証拠は文書や準文書(図面、写真、録音テープ、ビデオテープなど)、証人、鑑定人、当事者による証言、検証物などが挙げられます。

特許無効審判の手続きの流れ

特許無効審判では以下のような流れで審議が行われ、申立人の主張が認められた場合は当該特許権が無効になります。

  1. 特許無効審判請求を特許庁に行う
  2. 特許庁で方式調査、審理が行われる
  3. 特許権者に無効審判請求書の副本が送達される
  4. 特許権者(被請求人)が審判請求書を提出して意見を主張する
  5. 本審理(口頭審理または書面審理)が開かれる
  6. 審決(結果)が下される

両者は本審理の前に答弁書あるいは弁駁書によって、相手方に対してお互いの意見を主張します。本審理では審判廷でお互いが口頭あるいは書面で意見を主張し、審判官が証拠を考慮して審理を行い、審決が下されます。

特許無効審判の口頭審理にはオンラインでも出頭できる

これまで特許無効審判の口頭審理は、審判廷に出頭しなければなりませんでした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大やデジタル化の流れによって、2021年10月よりウェブ会議システムによるオンラインでの出頭も可能になりました。新型コロナウイルスの感染リスクを軽減したい場合や審判廷に出廷する負担が大きい方は、オンラインでの出頭を検討しましょう。

特許無効審判について正しく知っておこう

特に製造業者や技術者にとって、特許無効審判は他人ごとではありません。ご自身の権利を守るためにも、特許無効審判について正しく理解しておきましょう。

よくある質問

特許無効審判とは何ですか?

特許を無効にすることを特許庁に請求できる制度です。請求が認められた場合は該当する特許が取り消され、最初から存在していないことになります。詳しくはこちらをご覧ください。

どのような場合に特許無効審判を請求できますか?

自分の発明について第三者が勝手に特許を申請していた場合や、特許発明と同じ内容が特許出願よりも前に世の中に公開されていた場合には、利害関係人は特許無効審判を請求できます。詳しくはこちらをご覧ください。


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