• 更新日 : 2024年8月30日

契約書の甲乙表記とは?優劣はある?使わないほうがいい理由も解説!

契約を締結する際、契約書の「甲」「乙」といった表記を見たことがある方は多いでしょう。中には、日常的にこれらを使いこなして契約書を作成されている方もいらっしゃるかもしれません。

そもそも、「甲」「乙」とはいったい何なのでしょうか。甲と乙でなければいけないのでしょうか。今回は意外と奥深い、契約書の甲乙表記について解説します。

契約書の甲乙表記とは?

「甲」や「乙」は、当事者同士の会社名や氏名を置き換える記号のような役割を果たします。例えば、「株式会社鈴木商事は株式会社山田製作所と●●契約を締結する。株式会社山田製作所は株式会社鈴木商事に対し□□を履行し、鈴木商事は……」と、いちいち正式名称を記載すると文章が非常に長くなってしまい、書くのに手間もかかります。

そこで、「株式会社鈴木商事(以下「甲」とする)は株式会社山田製作所(以下「乙とする」)と●●契約を締結する。乙は甲に対し□□を履行し、甲は……」というように、当事者を甲と乙に置き換えると契約書の本文が簡潔になります。フォーマットを作って使い回す場合も、冒頭の会社名だけを変更すればよいので、非常に効率的です。

ちなみに、契約書では必ずしも甲乙表記を使う必要はなく、正式名称のままでも、「A」「B」というようにアルファベットの記号を使っても問題ありません。

契約書の甲乙はどっちが上?優劣はある?

契約書を作成する際に迷うのが、甲乙の使い分けです。特に契約時は、相手方に失礼がないよう細心の注意を払わなければなりません。せっかく契約に結びついたのに、書類で不快感や不信感を与えて関係が悪化したり、契約がキャンセルになったりするのは非常にもったいないことです。

甲と乙に優劣はあるのでしょうか。甲と乙のどちらを自社にして、どちらを相手方にすればよいのでしょうか。ここからは、甲乙のマナーについて見ていきましょう。

基本的に甲乙には序列がない

結論からいうと、甲と乙に優劣はありません。
ただし、そもそも甲乙の由来は十干の「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」であり、その順番のとおり甲には「第一の」、乙には「第二の」という意味もあります。したがって、甲のほうが乙よりも上位であると捉えられるケースもあります。

しかし、前述のとおり契約書上では甲乙は記号に過ぎず、どちらが上位(下位)ということはありません。

お客様を甲、事業者を乙とするのが一般的

「お客様を甲にしなければならない」といった決まりはありません。自分あるいは自社がどちらで表記されていたとしても、目くじらを立てる人はあまりいないでしょう。しかし、前述のとおり「甲は乙よりも優れている」という意味合いもあるため、相手方が気にすることもあるかもしれません。

そのため、お客様を甲、自社あるいは自分を乙としておいたほうが無難です。

契約書に甲乙表記を使うメリットは?

甲乙表記は、法律上のルールではなく商習慣です。それにもかかわらず、多くの契約書で使われているのはなぜでしょうか。甲乙表記のメリットについて考えてみましょう。

まずは、前述のとおり表記の手間を省けることが挙げられます。いちいち「株式会社●●」といったように、正式名称を表記するのは大変です。冒頭に「株式会社●●(以下「甲」とする)」「株式会社●●(以下「乙」とする)」として、甲乙表記を使うことにすれば、その後は正式名称を書く必要はありません。また、同じ契約書のフォーマットを複数の取引先や顧客に対して使う場合、冒頭の「株式会社●●(以下「甲」とする)」としている部分の会社名を変えるだけで済むので効率的です。

契約書を作成する側だけでなく、読み手にとってもメリットがあります。甲乙表記を使うことで本文が短くなるため、読みやすくなり、内容が伝わりやすくなります。

契約書に甲乙表記を使うデメリットは?

甲乙表記には、デメリットもあります。特に契約書を読み慣れていない人は、内容を理解するのに時間がかかります。読んでいる途中で、どちらが甲でどちらが乙なのかがわからなくなってしまうこともあるでしょう。また、途中で甲と乙が入れ替わっているミスも時々あります。それによって、契約の内容が真逆に捉えられてしまうおそれがあります。

例えば、〇〇製作所の社員が契約書を読み、「株式会社〇〇製作所は株式会社△△商事に対し損害賠償責任を負う」と書いてあれば、自社が損害賠償責任を負う立場であることがひと目で理解できるでしょう。しかし、「乙は甲に対して損害賠償責任を負う」と書かれていた場合、ひと目でどちらに損害賠償責任があるのかがわかりにくくなります。「株式会社△△商事が株式会社〇〇製作所に対して損害賠償責任を負う」と、まったく逆の解釈をしてしまうこともあるかもしれません。

甲乙表記を用いると、契約書を読み慣れている人にとっては内容が理解しやすくなりますが、読み慣れない人にとってはかえって理解しにくくなることもあるのです。

契約書を読む際は、「自分は甲と乙のどちらなのか」をしっかり認識しながら読み進める必要があります。

英文契約書では甲乙表記を使わない

日本の契約書では甲乙表記がよく使われますが、海外ではどうでしょうか。一般的には、当事者の名前を書くケースが多いようです。契約内容によっては「Buyer(買い手)」「Seller(買い手)」、「Lessor(貸し手)」「Lessee(借り手)」、「employer(雇用主)」 「Employee(被雇用者)」というように、立場を表記することもあります。

日本の甲乙表記のように「Company A」「Company B」と記号を使うケースもありますが、一般的ではないようです。海外企業と取引する際は、当事者の正式名称を記載しておくのが無難です。

契約書で使われる甲乙以外の略称は?

契約書では、甲乙以外の表記も使われます。前述のとおり、甲乙の由来は十干(甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸)です。甲乙以外の当事者がいる場合は「丙」「丁」「戊」……というように、順番に当てはめていきます。例えば3者が契約を結ぶ場合は「株式会社△△商事(以下「甲」とする)は株式会社〇〇製作所(以下「乙」とする)、□□貿易株式会社(以下「丙」とする)と××契約を締結する。甲は乙と丙に対し……」というように記載します。

なるべく甲乙以外のわかりやすい略称を使いましょう!

日本の商習慣となっている甲乙表記ですが、トラブルを避けるためには他の表記を使うのが無難です。書く手間がかかる、本文が長くなってしまうといったデメリットがありますが、すべて正式名称であれば意味を取り違える、取り違えられるリスクを大幅に低減することができます。「株式会社△△商事(以下「△△商事」とする)は株式会社〇〇製作所(以下「〇〇製作所」とする)」というように、略称を使っても問題ありません。

とりわけ当事者が多い契約では、注意が必要です。甲と乙だけならまだ理解できるとしても、「丙」や「丁」まで出てくるようなケースだと、契約書を読み慣れている人でない限り混乱は必至です。

契約書で最も大切なのは、お互いがその内容を理解することです。そのためにも、わかりやすい表記を心がけましょう。

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よくある質問

契約書の甲乙とは何ですか?

当事者の会社名や氏名を置き換える記号のようなものです。甲乙表記を使うことで、文中で正式名称を書く手間を省くことができます。詳しくはこちらをご覧ください。

契約書には甲乙表記を使うよう法律で決まっているのですか?

いいえ。あくまで商習慣です。「A」「B」というように置き換えても、あるいは「甲」「乙」に置き換えなくても問題はありません。詳しくはこちらをご覧ください。

契約書に甲乙表記は使うべき?

必ずしも使う必要はありません。わかりやすさを重視するのであれば、むしろ甲乙に置き換えないほうがよいケースもあります。詳しくはこちらをご覧ください。


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