- 作成日 : 2023年11月17日
インサイダー取引とは?対象となる行為や防止策をわかりやすく解説
インサイダー取引とは、株価に影響する事実を知る上場企業関係者が、事実の公表前に自己の利益や損失回避を目的として有価証券等を売買することです。家族や友人との話で何気なく重要事実を口にしたことから行われる場合もあります。
本記事では、インサイダー取引の概要、対象者や行為、企業での防止策についてわかりやすく解説します。
目次
インサイダー取引とは
インサイダー取引とは、重要事実を知った上場企業関係者が、事実の公表前に自己の利益や損失回避を目的に有価証券等の売買を行うことです。金融商品取引法で禁止されている不正取引の代表格です。
ここで言う「重要事実」とは、上場している株式の株価に大きな影響を与え得る情報を指します。
では、なぜインサイダー取引は禁止されているのでしょうか。法律上の定義を踏まえて解説します。
金融商品取引法における定義
金融商品取引法第166条によると、インサイダー取引の定義は以下のように整理できます。
インサイダー取引とみなされるポイントは、「会社関係者が、重要事実を職務上知ったときに、事実の公表前に売買をする」ことです。上記すべてに当てはまると、インサイダー取引とみなされます。
禁止されている理由
会社の内部にいる人間しか知り得ない情報(重要事実)は、株式の価格に大きな影響を与える可能性があります。したがって、重要事実を先に知って行うインサイダー取引は、以下の理由で禁止されています。
- 一般の消費者が不利な立場で取引を行うことになる
- 金融証券市場の信頼性や公平性、健全性が損なわれる可能性がある
インサイダー取引は金融商品取引法違反です。違反すると、各種罰則が適用されます(罰則の詳細は後述)。
インサイダー取引規制の対象
ここからは、インサイダー取引で規制される対象者や有価証券について解説します。
規制の対象者
インサイダー取引の規制対象は、上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知った会社関係者です。対象は金融商品取引法で規定されています。会社関係者でなくなった期間が1年以内の者も、法律上「会社関係者」とみなされます。
インサイダー取引の規制対象となる「会社関係者」は、次のとおりです。
規制対象となる有価証券
インサイダー取引として規制される有価証券や取引は、次のとおりです。
- 当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買
- 特定有価証券等の有償による譲渡
- 合併や分割による承継
- デリバティブ取引
上記「特定有価証券等」には、次の証券等が挙げられます。
- 社債券
- 優先出資証券
- 株券
- 新株予約権証券
- 投資証券
- その他政令で定める有価証券など
規制されている具体的な行為
インサイダー取引は、大きく次の2種類に分けられます。
- 重要事実を知った者が事実の公表前に有価証券を売買するケース
- 他人の利益もしくは損失回避のために重要事実を伝達する、もしくは取引を勧めるケース
ケースごとに、規制されている具体的な行為を見ていきましょう。
重要事実を知った者が事実の公表前に有価証券を売買するケース
金融商品取引法では、重要事実を知った会社関係者や業務上情報を受け取った者が、事実が公表されない期間中に株式等を売買すること(同166条)や公開買付や売付けを行うこと(同167条)が禁止されています。
対象となるのは、以下のような事例です。利益が出ていなくても、未公開の重要事実を知って株式の買付けを行った時点で、インサイダー取引となります。
- 自社に大幅な利益増や損失計上があることを同僚から聞き、持株会で購入していた自社株を、事実の公表前に売却した
- 数ヶ月前に退職した社員が、自社の今期売上高がかなり上昇することを在籍中に知り、退職した会社の株式を購入した
- 近況報告がてら自社Aと取引先Bが業務提携する旨の重要事実を家族に話した結果、家族がA社株式の買付けを実施した
- ある飲食店の従業員が、店に来ていた上場会社社員が、食事中に自社が合併する話をしているのを聞いた。従業員は、事実の公表前に上場会社株の買付けを実施した。
他人の利益もしくは損失回避のために重要事実を伝達する、もしくは取引を勧めるケース
会社関係者が、他人の利益供与もしくは損失回避のために情報を伝達する、もしくは取引を勧めることも禁止です(金融商品取引法167条の2)。以下のようなケースが該当します。
- 利益を得させる目的で、ある会社を子会社化する企業の株式買付を知人に推奨した
- 利益を得させる目的で、公開買付が行われる事実を知人に伝え、知人は公開買付前に株式の買付けを行った
- 利益を得させる目的で、勤務先が自社株の取得を行うことを決定した旨を友達に伝え、自社の株式購入を推奨した
何が重要事実の公表にあたる?
インサイダー取引の要件は「重要事実の公表前に有価証券等を売買すること」です。「重要事実」と「公表」、それぞれの要件について解説します。
まず、「重要事実」となるのは次の事項です。
- 会社の決定事項(株式分割、新株発行など)
- 災害による損害の事実
- 会社に発生する事実(主要株主の異動、売上高の変化、決算高など)
次に、「公表」について見ていきましょう。公表とは、証券取引所の適時情報開示システム(TDnet)を通じて、証券取引所のホームページ内にある「適時開示情報閲覧サービス」に重要事実が掲載されたことを指します。重要事実が掲載された時点で、インサイダー取引の規制は解除となります。
自社サイトや各種メディアへ重要事実を掲載するだけでは、公表とはみなされません。「適時開示情報閲覧サービス」への掲載が必須となる点に注意しましょう。
インサイダー取引を防止するには?
企業内でのインサイダー取引を防止するには、以下のように社内ルールや法規制の周知徹底を図ることが大切です。
- 自社の株式売買やインサイダー取引に関するルールの周知
- インサイダー取引や重要事実についての社内研修
たとえ家族や友達との会話であっても、重要事実を軽々しく話すことは、インサイダー取引の元となり得ます。インサイダー取引を未然に防ぐためには、社内ルールや法規制を繰り返し周知し、社員のインサイダー取引に関する意識を高めることが大切です。
さらに、次のような社内制度の整備も必要です。
- 株式取引の承認制を導入する
- インサイダー取引に関する誓約書を提出させる
- 未公開の会社情報漏えいや不正利用への情報管理を実施する
- 重要事実は適時かつ適切に開示する
インサイダー取引はどのように発覚する?
インサイダー取引は、日本取引所自主規制法人による売買審査により発覚します。売買審査とは、簡単に言うと「法令上の重要事実が公表された上場銘柄に対して実施される審査」です。
売買審査では、次のような点が調査されます。
- 株価や売買高の推移
- 売買シェアの偏向性
- 売買した顧客情報
- 売買審査結果や売買委託者のデータ
- 重要事実を公表するまでの経緯
疑わしい取引は、売買調査を経て証券取引等監視委員会へ報告され、インサイダー取引と認定されます。
インサイダー取引を行った場合の罰則
インサイダー取引が告発されると、立件を経て逮捕される可能性があります。有罪となった場合の刑罰は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金です。2つの刑罰が併科される場合もあります。さらに、同法198条の2により、インサイダー取引で得た財産はすべて没収です。
インサイダー取引を行った結果、会社からの懲罰も受けることになります。減給、降格など、最悪の場合は懲戒解雇です。それだけでなく、会社の信用を失墜させ損害を与えたことにより、自社から高額な損害賠償を請求される可能性もあります。
インサイダー取引を防ぐためルールや制度の整備を
インサイダー取引は、重要事実を公表前に知ったことで有価証券を売買し、利益や損益を回避することです。自分ではなく、重要事実を伝えた相手が取引を行った場合も、インサイダー取引となります。
インサイダー取引を行った場合、社内での懲罰対象となります。さらに、刑事事件として立件され、逮捕されるかもしれません。有罪の場合、罰金または懲役の刑罰を科されるだけでなく、取引で得た財産がすべて没収されます。
インサイダー取引は企業の信用を失墜させる行為です。インサイダー取引の発生を防ぐために、社内ルールや法規制の周知徹底を図り、社内制度をしっかりと整備しておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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