- 更新日 : 2024年5月17日
契約書に印鑑は必要?種類や位置、押印のタイミングなどを解説
契約書における印鑑は、自分自身の意思で契約を交わしたことを示すために用いるものです。後のトラブルを防ぐため、特にビジネスの場で作成される書面にはよく使われていますが、具体的にはどのようなシーンで必要となるのでしょうか。
この記事では契約時の印鑑の必要性や印鑑を持っていないときに代用する方法、契約に使う印鑑の種類や押し方についてご紹介します。
目次
契約書に印鑑は必要なのか?
契約書における印鑑(はんこ)とは、「この契約書を読んで内容に同意しました」という証拠を残すために必要なものです。
契約締結の証拠として契約書は作成されますが、肝心の「誰が契約を交わしたのか」という部分が明らかにならなければせっかくの契約書も機能しません。名称(会社名等)を記載することで当事者の特定はできますが、「そのようなものは作成していない」と一方が主張してしまうことによって、言い逃れを許してしまう恐れもあります。
こうしたトラブルを防ぐために印鑑は大きな役割を果たします。書面上に契約の相手方しか持っていない印鑑で押印がなされていると、「私は同意していない」という主張は容易にできなくなるのです。
契約書に印鑑が必要になる具体的なシーン
契約書に印鑑が必要になるシーンはビジネスであれプライベートであれ、さまざまあります。例えば以下のようなものが挙げられます。
- 雇用契約…従業員と企業が雇用関係を結ぶ際に締結する
- 業務委託契約・委任契約…外部の事業者(法人やフリーランス)との間で仕事を委託・受託する際に締結する
- 売買契約…商品を購入する・販売する際に締結する
- サービス利用契約…サービスを利用する・提供する際に締結する
- 賃貸借契約…アパートやマンション、土地など賃貸物件を借りる・貸す際に締結する
- ローン契約…住宅ローンや自動車ローンなどを利用する際に契約する
- 自動車売買契約…自動車を購入する・販売する際に契約する
- 不動産売買契約…土地や建物を購入する・販売する際に契約する
ほかにもさまざまな契約があり、契約書に印鑑を押す機会はしばしばありますので、対応できるようにしておきましょう。
印鑑の代わりに代用できるもの
印鑑が手元にない場合は自筆の署名を代わりにすることもあります。役所の手続きなどでは親指に朱肉を付けて指紋の跡を残す「拇印」で代用できる場合もあります。また、契約書を電子データで受け取る、あるいは電子データとして送る場合は電子印鑑(印章の跡である印影を画像化したもの)を付与して代用することも可能です。さらに、近年では電子契約システムを使ってインターネット経由で印鑑なしに契約を締結することもできます。
ただし、銀行での手続きや自動車売買契約、不動産売買契約などの金額が大きい取引の場合、多くのケースでは印鑑が必須となり、忘れた場合は契約ができない可能性もあるので、しっかりと用意しておくことに越したことはありません。
印鑑の種類は大きく分けて4つある
ビジネスで使う印鑑の名称として主に「代表者印」「銀行印」「社印・角印」「ゴム印」の4つがあり、それぞれ異なる印鑑のことを意味します。また、利用するシーンによってこれらの印鑑を使い分ける必要があります。それぞれどのようなものなのか、見ていきましょう。
代表者印
その名の通り会社の代表者である旨と会社名が掘られた印鑑のことです。法人実印や社長印あるいは印影の形が丸いことから丸印と呼ばれることもあります。法務局で印鑑登録をするもので信用性が高く、個人の「実印」と同じような立ち位置です。そのため、今回ご紹介する印鑑の中では最も重要なものといっても過言ではありません。
取引金額が大きい重大な契約を締結したり、法的な手続をしたりする際に使用します。丸印は会社の代表者(社長)が決裁した証です。紛失や盗難を防ぐために、厳重に管理しましょう。
銀行印
銀行印は銀行に届け出をした印鑑のことを指します。銀行口座の開設や入出金など銀行で必要となります。代表者印や実印とは別の印章を作って登録するのが一般的です。
今はATMやネットバンキングが普及して使う機会は減ってきましたが、窓口で手続をする際には必要なものとなりますので、銀行に行く際には必ず持参しましょう。ただし、銀行印と通帳があれば現金の引き出しなどができてしまうため、代表者印と同様に盗難や紛失には十分に注意する必要があります。
社印・角印
社印とは会社名が刻印された印鑑のことです。印影が四角い形をしているため、角印とも呼ばれます。代表者印は印鑑登録しますが、社印は登録しないため、個人の「認印」と同じような感覚で使います。
領収書や請求書、見積書、契約書など、さまざまなビジネス文書に使うことができ、社印が押印された書類を目にする機会、押印する機会も多いかと思います。社印については以下の記事でも詳しくご説明しています。
ゴム印
ゴム印とは会社名や住所などの情報が刻印された印鑑です。スタンプの面がゴムでできているものが一般的であることから、ゴム印と呼ばれるようになりました。住所印と呼ばれることもあります。
書類がたくさんあると、会社名や住所を手書きするのは大変です。ゴム印を使えば押印するだけなので手間を省略することができます。また、郵送物の宛名書きにも使われることがあります。
こちらは契約を締結する印鑑というよりは、業務を効率化するツールとして使われている側面が強いといえます。
契約書に使用する印鑑の押し方
会社で使う印鑑にはさまざまな種類がありますが、印鑑の押し方についてもさまざまあります。
用途や押す場所によって契約印、契印、割印、消印、訂正印、止印、捨印の6つに分けられます。それぞれ見ていきましょう。
契約印
契約印とは契約書の内容に同意したことを意味する印鑑です。契約書の印鑑=契約印といっても過言ではないほど重要なものです。
署名欄の右横、もしくは署名にかぶせて押印します。署名欄と離れ過ぎていると、後述する「捨印」と勘違いされる可能性があるため、なるべく署名のすぐ横に押印するよう意識しましょう。
契印
契印(けいいん、ちぎりいん)はページの見開き部分に押印することです。契約書が複数ページに分かれている場合、契印を押すことで差し替えを防ぐことができます。印鑑は契約印と同一のものを使います。製本されているものであれば帯と背表紙や裏表紙にまたがって押印します。
割印
原本と控えというように契約書が2通以上存在する場合はそれぞれの契約書が関連していることを示し、契約書の改ざんを防ぐ目的で割印を押します。契約書をずらして重ねて、両方に印影が残るように押印します。
割印の場合は複写などの不正を防止する目的で押印するので、契約印と同一のものである必要はありません。
消印
契約書に収入印紙を貼り付けする場合は消印(けしいん)を押します。収入印紙と契約書にまたがって印鑑を押すことで、収入印紙の使い回しも防ぐことができます。郵便切手も同様に消印を押します。
印鑑は契約印でなくてもよく、契約当事者が押印すれば問題ありません。また、印鑑ではなくサインで代用することも可能です。
契約書は課税文書にあたり、契約金額に応じて印紙税を納税し、収入印紙を貼り付けしなければなりません。消印がない場合は印紙税を納税したと見なされないため、過怠税がかかることになるので注意が必要です。
訂正印
訂正印とは契約書の文面に誤りがあったときに訂正するために押印します。本人が修正したことを示すために、契約印と同一の印鑑を使用する必要があります。
修正箇所の上に二重線を引き、その上もしくは近くに訂正印を押します。さらに、正しい内容を記載します。
「訂正印」と呼ばれる小さいはんこがありますが、契約書の場合は前述の通り契約印と同一の印鑑を押す必要があるため、契約書印と異なる「訂正印」を使うことはできません。
止印
止印(とめいん)とは、契約書などの文章が不正に書き足されることを防ぐためにする押印のことです。印影が付されていることで「契約内容についての記載はここで終わりました」と証明することができます。
そこで契約書の文末に余白があるときは最後の文字の後ろに押印を行い、その後に文章が続いても書き足されたことをわかるようにします。
捨印
訂正箇所が複数ある場合、都度上記のように訂正印を押して訂正しなければなりません。捨印(すていん)をあらかじめ押しておくことで、訂正印を使わなくても内容を訂正することができます。捨印の欄や契約書の空欄に契約印と同じ印鑑を押します。また、契約書が複数ページある場合は全てのページの同じ位置に押印します。
訂正印を押す手間を省くことができますが、逆にいえば相手方や第三者が勝手に訂正できてしまうというリスクもあるため注意が必要です。
契約書に押印をするタイミング
契約書への押印を行うのは、「契約書に記載された内容を全てチェックし、契約締結に納得ができたタイミング」です。そのため、押印は契約書の作成フローにおける最終段階といえるでしょう。
押印のタイミング・順序が変わっても契約は無効になりませんし、違法にもなりません。しかし契約内容が定まっていない段階、確認が十分に済んでいない段階で署名や押印を付した書面を渡していると、思わぬリスクを背負う可能性がありますので注意してください。
後から自社に不利な条項を設けられたとしましょう。「そのような契約には合意していない」と主張をしても、押印をしてしまっていることで第三者には合意を示したように見えてしまいます。反論も難しくなってしまうので、必ず押印は契約を締結する最終段階で行うようにしましょう。
契約書に押印をしないと、法律違反になる?
契約書には印鑑が必須と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。民法第522条には以下のような記載があります。
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。引用:民法|e-Gov法令検索
つまり、契約は相手方が承諾した時点で成立し、例外を除いて書面を作成する必要はないということです。押印はおろか契約書がなくても、極端にいえば口約束でも相手が同意すれば成立するのです。従って、通常の契約においては押印しなかったとしても法律違反には該当しません。
とはいえ、後々のトラブルを防ぐために契約書をしっかりと作成してお互いがその内容を理解し、合意したという証拠を残しておくことが大切です。
電子契約における電子印鑑の役割は?
昨今は紙で契約書を作成するのではなく、データとして作成するケースも増えています。この場合押印ができませんので「電子印鑑」を用いることがありますが、電子印鑑の役割も物理的な印鑑と同じです。
契約者の本人性を証明することがその役割であり、本人しか付することができないタイムスタンプ情報などを持った電子印鑑を使えば、「記載されている当事者の意思で契約を締結した」ことの証明となります。
なお、電子印鑑でも物理的な印鑑でも、そもそも契約締結に必須の要素ではありませんので契約の有効性には影響しません。そしてどちらも本人性を確認する効力を持ちます。
※印影の画像データを付けただけでは複製も容易であるため効果的ではありません。
契約書を作成する際は正しくはんこを使用しましょう!
法律で義務付けられているわけではありませんが、後々のトラブルを防ぐためには契約書に押印をして証拠を残しておくことが有効です。脱はんこという流れが強くなってきていますが、やはり商習慣として押印という文化は根強く残っています。特に取引金額が大きい重大な契約は押印が求められるため、使うべき印鑑の種類や正しい押し方を知っておきましょう。
一方で従来の押印の代わりに電子印鑑や電子契約による締結も普及してきています。こうした最近の契約事情も知っておけば、スムーズに対応することができるようになります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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