- 更新日 : 2025年1月16日
取締役会議事録の押印は電子署名でも対応可能!電子化の方法や注意点を解説
テレワークが進む現在、取締役会議事録への押印は煩雑な作業になりつつあります。
取締役会議事録を電子ファイルで作成し、電子署名が行えたら業務効率は向上するでしょう。ここでは取締役会議事録の基本を確認した上で、取締役会議事録を電子ファイルで作成した場合の押印方法や、その際の注意点などを解説します。
目次
取締役会議事録とは?
取締役会議事録とは、企業が行う取締役会の内容をまとめた議事録のことです。取締役会は企業経営にとって重要な判断を行う会で、会社法によって取締役会の設置が求められる企業は3ヶ月に1回以上開催しなければならないと定められています。
取締役会が行われた場合は、会社法により議事録(取締役会議事録)を作成する義務があります。取締役会議事録には、出席した取締役と監査役が署名または記名押印を行う必要もあります。
取締役会議事録は代表取締役の選任や退任といった登記に必要であり、金融機関からの借入時に提出を求められることもあります。
取締役会議事録への押印のこれまで
前述のとおり、取締役会議事録には出席者の署名または記名押印が必要(会社法第369条第3項)です。その際に使う印鑑は、認印でも構いません。ただし、例外があります。それは商業登記規則などで、実印の押印と印鑑登録証明書の添付が必要と定められている場合です。
そのほか、取締役会において代表取締役を選出する場合などは、出席する取締役と監査役の実印および印鑑登録証明書の添付が必要です。なおこの場合でも、会社の登記届出印による押印が可能な場合、他の取締役は認印でよいとされています。
会社法の改正により、取締役会議事録でも電子署名が可能に!
これまでは取締役会議事録への押印が必要でしたが、会社法の改正によって電子ファイルで取締役会議事録を作成することが認められました。しかし、電子ファイルで作られた取締役会議事録には押印ができません。そこで使われるのが、電子署名です。
電子ファイルで作られた議事録への押印について、会社法第369条第4項に「法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない」と定められました。この「措置」については、会社法施行規則第225条に「法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする」と定められたのです。
取締役会議事録は企業が存続する限り増えていくため、電子ファイルでの作成が認められたことで、保存も容易になったと言えます。電子ファイルによる取締役会議事録と電子署名であれば、昨今スタンダードになりつつあるテレワークでも対応できるため、この改正は朗報でしょう。
また、会社法施行規則第225条第2項には、電子署名の要件が定められています。それは「取締役会議事録作成を行った者の電磁的記録であることを示すためのものであること」と「電磁的記録について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること」などが証明できるという要件です。
参考:e-Gov法令検索会社法
参考:e-Gov法令検索 会社法施行規則
取締役会議事録を電子化する方法
取締役会議事録を電子化する方法としては、以下の2つの方法があります。
- 電子署名サービスを利用する
- 社内で電子化し、電子証明書を利用した電子署名を付与する
電子署名サービスを利用する
取締役会議事録の電子化は、クラウド型電子署名サービスを活用する方法が主流となっています。2020年5月の法務省の新見解により、事業者が代理で電子署名を発行・付与する立会人型の電子署名も有効と認められるようになりました。
その結果クラウド型の電子署名サービスの利用が可能になったため、認定局による厳格な本人確認が必要な電子証明書の取得手続きが不要となり、より柔軟な電子化が可能になっています。
社内で電子化し、電子証明書を利用した電子署名を付与する
社内の文書管理システムを活用して、取締役会議事録を電子化する方法もあります。ただし、この場合も電子署名の要件を満たさなければなりません。利用できる電子証明書には「商業登記電子証明書」と「公的個人認証サービス電子証明書」の2種類があります。
商業登記電子証明書は、法人代表者がオンラインで登記手続きを行う際に使用する証明書で、法務局に申請し、発行手数料を支払って取得します。
公的個人認証サービス電子証明書は個人が行政手続きで使用する証明書で、マイナンバーカードのICチップに格納されています。パソコンを利用する場合はICカードリーダー、スマートフォンの場合は対応機種が必要です。
取締役会議事録を電子化するメリット
取締役会議事録の電子化には、以下のメリットがあります。
- 業務の効率化
- セキュリティとガバナンスの強化
詳しく見ていきましょう。
業務の効率化
取締役会議事録の電子化により、紙資料の準備や保管といった手間が省け、業務プロセス全体の効率が向上します。印鑑収集や郵送の負担が軽減されるほか、議事録の作成から承認までの時間も短縮されるため、その分のリソースをほかの業務に回せるでしょう。
さらに、デジタル化された文書は検索や管理が容易で、過去の決定事項を迅速に確認できるため、経営判断の一貫性を高めるメリットもあります。
セキュリティとガバナンスの強化
取締役会議事録の電子化には電子署名、場合によってはタイムスタンプを活用するため、文書の改ざん防止や真正性の確保が実現します。また、アクセス権限を適切な設定によって情報漏洩リスクを低減できるほか、監査証跡を残すことで長期保存データの信頼性も維持できます。
取締役会議事録を電子化する注意点
取締役会議事録を電子化する際には、電子署名に関する要件を満たすほかにも以下の3つのポイントに注意する必要があります。
- 定款や社内規程の確認と改訂
- 登記申請時の対応
- セキュリティ対策と運用ルール
定款や社内規程の確認と改訂
取締役会議事録の電子化にあたっては、会社の定款や社内規程(印章管理規程や文書規程)を確認する必要があります。
従来の議事録作成で「記名押印」を義務付けている場合は、電子署名を認めるように改訂しなければなりません。特にグループ企業の場合は、全ての関連会社の定款や規程を統一的に見直すことが求められます。
また、印章管理規程で押印が義務付けられている場合は、その内容も適切に変更しておきましょう。
登記申請時の対応
取締役会議事録は登記申請にも使用されます。登記申請時に使用する議事録を電子化するには、法務省が認める電子契約事業者で電子証明をしなければなりません。
株式会社の本店所在地変更などのオンライン登記申請では、代表取締役の商業登記電子証明書もしくは公的個人認証サービス電子証明書が必要です。そのほかに取締役全員の電子署名が求められる場合もあるため、登記に対応できる体制も併せて整備しておくことが重要です。
セキュリティ対策と運用ルール
電子化された取締役会議事録はデジタルデータとして管理されるため、不正アクセスや情報漏洩への対策も欠かせません。
アクセス権限を適切に設定し、多要素認証などセキュリティ強化策を講じる必要があります。また、データ管理者や運用ルールを明確化し、定期的な監査を実施することで、安全な運用を確保しましょう。
電子署名を行うのは誰?出席者それとも監査役?
前述のとおり、取締役会議議事録に電子署名を行うのは、出席者である取締役と監査役全員です。これは、電子ファイルで取締役会議議事録を作成した場合も同じです。
利用できる電子署名はクラウド型電子署名(立会人型電子署名サービス)でも、マイナンバーカードを利用した公的個人認証サービスによる電子署名でも問題ないとされています。
取締役会議事録にタイムスタンプは必須?
電子化された取締役会議事録において、タイムスタンプの付与は法令上の必須要件ではありません。そのため法的要件を満たすという意味では、正しい方法での電子署名のみで問題ないといえます。
ただし、電子文書の長期保存や信頼性・透明性という観点から見ると、タイムスタンプの併用が推奨されます。電子署名に使用される電子証明書には有効期限があり、その期限が切れると電子署名の検証は困難ですが、タイムスタンプの付与によって電子署名が有効な期間内に作成された文書であることを後から証明できます。
また、取締役会議事録は株主からの閲覧請求の対象となる重要書類です。タイムスタンプを活用することで、文書の作成時期や内容の非改ざん性を客観的に示すことができ、より高い透明性を確保できます。
取締役会議事録をオンライン登記申請に利用できる?
取締役会議事録は、役員変更や本店移転などに伴うオンラインでの登記申請に利用できます。その際、議事録を電子化するには商業登記電子証明書や代表取締役の公的個人認証サービス電子証明書(マイナンバーカード)による電子証明書が必要です。
なお、代表取締役以外の取締役や監査役については、法務書指定の電子署名サービスを利用しての電子署名も可能です。
取締役会議事録は電子ファイルでOK!電子署名サービスも利用可能
取締役会議事録は電子ファイルで作成することができ、記名押印は電子署名で代用できます。これにより、テレワーク下での取締役会で印鑑を押す手間が省けるため、業務効率は大きく向上するでしょう。取締役会議事録に利用できる電子署名はいくつかあり、クラウド型電子署名やマイナンバーカードを利用した公的個人認証サービスも利用できます。この機会に、取締役会議事録で電子署名の使用を検討してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
取締役会議事録とは何ですか?
3ヵ月に一度行う必要がある取締役会の議事録で、会社法により作成することが義務付けられています。取締役会議事録には、出席した取締役と監査役全員の署名または記名押印が必要です。有効な電子署名を付せば、電子ファイルでの作成も認められるようになりました。詳しくはこちらをご覧ください。
取締役会議事録の押印は、電子署名を使用しても問題ないですか?
取締役会議事録を電子ファイルで作成する場合は、押印の代わりに電子署名を利用しなくてはなりません。紙の取締役会議事録と同じく、出席した取締役と監査役全員の有効な電子署名が必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
実印とは?銀行印・認印との違いや印鑑証明、作成する時のポイントを解説
実印は、企業や個人のさまざまな取引に使用される印鑑です。公的な書類や契約書に実印を用いることで、その信頼性が確保され、正式な意思表示であることを証明できます。 この記事では、実印の定義、銀行印や認印との違い、印鑑証明の方法、作成する時のポイ…
詳しくみる印相体とは?印鑑の書体の種類について解説
印相体は、実印として用いられることが多い印鑑用の書体の一つです。印鑑は企業において重要な役割を担うため、書体選びに悩む方は少なくありません。各書体の特徴について理解を深めておくと、用途に適した書体を選びやすくなります。今回は印相体をはじめ、…
詳しくみる割印とは?契印との違いと正しい押し方を解説
割印とは、複数の文書にまたがって捺す(おす)押印方法のことです。また、割印と混同されやすい押印方法に、契印があります。今回は割印と契印の違いや、割印の正しい押し方・位置、失敗しないためのコツなどを解説します。 割印とは 割印(わりいん)とは…
詳しくみる捨印を押す意味は?危険性や押さないリスク、正しい使い方を解説
契約書に捨印を押すことで、契約内容を後から簡単に修正することができます。しかし捨印にはリスクもありますので、安易に利用すべきではありません。 ここで、捨印が求められるケースや利用のメリット・デメリット、さらに捨印を押すことによるリスクや注意…
詳しくみる代表者印・丸印・会社実印の役割とは?角印の比較や作成ポイント
電子署名があればハンコ不要で契約完了という電子契約。 普及が進んでいるとはいえ、日本はまだまだハンコ社会としての実態を残しています。法人設立の際に登録が必要な代表者印をはじめ、シーン別に2~3種類の印鑑を使い分けている会社が多いでしょう。 …
詳しくみる印鑑届出書とは?提出時の書き方や必要な印鑑の種類について
印鑑届出書とは、会社の実印を登録(または登録した印鑑の変更)するために提出する書類です。会社設立にあたって印章を作り、「印鑑届出書」という書類を作成し、これを法務局に提出することで会社実印として使えるようになります。当記事では、この印鑑届出…
詳しくみる