• 作成日 : 2024年2月1日

分離可能性条項とは?設定するケースや具体的な書き方を解説

分離可能性条項とは?設定するケースや具体的な書き方を解説

契約書を作成する際には「分離可能性条項」という条項を設けることがあります。本記事では分離可能性条項の意味や設定するケース、文例や分離可能性条項を作成する際のポイントについて説明します。

分離可能性条項とは

分離可能性条項とは契約内容の一部が無効になったとしても、その他の条項は有効であり続けることを定めた条項です。契約締結時点では有効な契約であっても、法令の改正や司法の判断によって無効となってしまうケースもあります。また、外国と取引する場合、日本国内では適法な事柄でも、相手国では違法となってしまうケースも考えられます。

分離可能性条項を設定しておけば、仮に特定の条項が無効となってしまったとしても、その他の条項の有効性を維持し、契約を継続させることができるのです。

分離可能性条項を設定するケース

契約書に分離可能性条項を設定するケースとして大きく、以下の2つが挙げられます。

法令が変わる可能性があるケース

原則として契約は関連法令に基づいて締結しなければなりません。仮に、法改正があった場合は、改正後の法律に従って履行する必要があります。法令が変わることによって影響を受ける条項がある場合、分離可能性条項を設定すれば、法令が変わったとしても当該条項以外の条項は有効であることが明らかになります。

例を一つ見てみましょう。2010年6月18日に改正出資法が施行され、上限金利が29.2%から20%に引き下げられました。2010年4月に「1.本件貸し付けにかかる利息を支払う」「2.利息は年21%とする」といった内容の条項が含まれる金銭借契約を締結した場合、6月18日以降は第2項が違法な条項としてみなされ無効となってしまいます。

そこで、あらかじめ分離可能性条項を定めることで、第1項は引き続き有効となり、債権者は利息の支払いを債務者に求め続けることができるのです。ただし、第2項は無効となるため、金利は改正出資法のルールに則った額に変更しなければなりません。

国際取引を行うケース

分離可能性条項がよく用いられるケースとしてもう一つ挙げられるのが国際取引です。日本と海外とでは当然のことながら法律が異なります。例えば、日本では合法な事柄も、アメリカでは違法となってしまう場合があります。その逆も然りです。また、アメリカでも法改正がされてこれまでは合法だった事柄がある時期を境に違法となってしまうケースも有り得ます。

分離可能性条項を定めておくことで、仮に相手国の司法当局に契約の条項の一部が法令違反であると判断されても、そのまま取引を継続することができます。

分離可能性条項の文例

それでは実際に分離可能性条項とはどのような条文になるのか、文例を紹介します。特に、分離可能性条項は海外の取引先との契約を締結する際に設定されるケースも多いため、英文も併記しました。

本契約のいずれかの条項が違法、無効または執行不可能と司法当局に判断されても、本契約のその他の条項または規定の適法性、有効性または執行可能性には何ら影響を及ぼさない。

(英文)
If any provision of this Agreement is determined by any judicial authority to be unlawful, void or unenforceable, this shall not in any way affect the legality, validity or enforceability of any other terms or provisions of this Agreement.

分離可能性条項を作成する際のポイント

ここからは分離可能性条項を作成する際のポイントをいくつか見ていきましょう。

契約に適用される法令について把握しておく

まずは契約に関連する法令について把握しておきましょう。例えば、消費貸借契約書は民法や貸金業法、出資法などの法令に則って作成する必要があります。

法令の規定には法律が優先して適用される「強行規定」と、法律と異なる規定を契約で定めた場合にその規定が法律よりも優先して適用される「任意規定」があります。

例えば、先ほども例を挙げた利息は利息制限法に基づいて利率を設定しなければならず、同法において上限金利を超えた利息は無効とされており、これは強行規定にあたります。仮に、違反した場合は利息に規定されている条項が無効になってしまい、債権者がその状態で債務者に債務を履行させた場合は刑罰を受けるおそれもあります。

任意規定の例としては代金の支払いタイミングが挙げられます。民法633条には「請負における報酬の支払いは仕事の目的物の引渡しと同時に行わなければならない」と定められていますが、実際には契約であらかじめ取り決めておけば後払いや前払い、分割払いも可能です。これは民法第633条が任意規定であり、法律よりも契約の内容が優先されるからです。

契約書を作成する際には、契約にかかわる法令と、それが強行規定なのか任意規定なのかを確認しておきましょう。

分離可能性条項が必要であるかどうかを検討する

関連する法令に強行規定が含まれる場合、法令に条項が違反しているとその条項は無効となってしまいます。契約期間中に法改正があるとそれまでは適法であったとしても、改正法の施行後には無効となる可能性があります。

また、繰り返しになりますが国際取引を行う際には、自国内では合法であっても相手国内では違法になるケースも考えられます。

契約に強行規定による影響を受ける条項が含まれている場合、法令が改正されることが考えられる場合、国際取引を行う場合は、分離可能性条項の設定も検討しましょう。

分離可能性条項をレビューする際のポイント

ここからは契約書を受け取った側の会社や個人が押さえておくべきポイントについて紹介します。

強行規定に違反する条項が含まれていないかを確認する

そもそも契約書に強行規定に違反するような条項が含まれていないかどうかを確認しましょう。違反している条項がある場合は債務の履行にも影響してきます。

また、仮に強行規定の影響を受ける条項が含まれているのにも関わらず分離可能性条項が設定されていない場合、相手方に修正を求める必要が出てくる可能性もあります。契約書を受け取った側に関しても関連法令の知識は必須です。

契約締結前に弁護士にリーガルチェックをしてもらう

これは契約書を作成する側、受け取る側双方にいえますが、なるべく弁護士にリーガルチェックをしてもらいましょう。特に、国際取引を行う際には相手国の法律に詳しい弁護士にチェックを依頼するのがベターです。

分離可能性条項の役割をしっかり把握しておきましょう

法律はそのときどきの社会情勢に応じてこまめに改正がなされます。また、国が違えば法律も全然違ってくるものです。分離可能性条項を設定しておけば、たとえ一部の条項が法令に準拠せず無効となっても、契約全体の有効性を守ることが可能です。

まずは分離可能性条項の役割をしっかりと把握しておき、契約書を作成する際には必要に応じて盛り込みましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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