- 更新日 : 2024年8月30日
分離可能性条項とは?設定するケースや具体的な書き方を解説
契約書を作成する際には「分離可能性条項」という条項を設けることがあります。本記事では分離可能性条項の意味や設定するケース、文例や分離可能性条項を作成する際のポイントについて説明します。
目次
分離可能性条項とは
分離可能性条項とは契約内容の一部が無効になったとしても、その他の条項は有効であり続けることを定めた条項です。契約締結時点では有効な契約であっても、法令の改正や司法の判断によって無効となってしまうケースもあります。また、外国と取引する場合、日本国内では適法な事柄でも、相手国では違法となってしまうケースも考えられます。
分離可能性条項を設定しておけば、仮に特定の条項が無効となってしまったとしても、その他の条項の有効性を維持し、契約を継続させることができるのです。
分離可能性条項を設定するケース
契約書に分離可能性条項を設定するケースとして大きく、以下の2つが挙げられます。
法令が変わる可能性があるケース
原則として契約は関連法令に基づいて締結しなければなりません。仮に、法改正があった場合は、改正後の法律に従って履行する必要があります。法令が変わることによって影響を受ける条項がある場合、分離可能性条項を設定すれば、法令が変わったとしても当該条項以外の条項は有効であることが明らかになります。
例を一つ見てみましょう。2010年6月18日に改正出資法が施行され、上限金利が29.2%から20%に引き下げられました。2010年4月に「1.本件貸し付けにかかる利息を支払う」「2.利息は年21%とする」といった内容の条項が含まれる金銭借契約を締結した場合、6月18日以降は第2項が違法な条項としてみなされ無効となってしまいます。
そこで、あらかじめ分離可能性条項を定めることで、第1項は引き続き有効となり、債権者は利息の支払いを債務者に求め続けることができるのです。ただし、第2項は無効となるため、金利は改正出資法のルールに則った額に変更しなければなりません。
国際取引を行うケース
分離可能性条項がよく用いられるケースとしてもう一つ挙げられるのが国際取引です。日本と海外とでは当然のことながら法律が異なります。例えば、日本では合法な事柄も、アメリカでは違法となってしまう場合があります。その逆も然りです。また、アメリカでも法改正がされてこれまでは合法だった事柄がある時期を境に違法となってしまうケースも有り得ます。
分離可能性条項を定めておくことで、仮に相手国の司法当局に契約の条項の一部が法令違反であると判断されても、そのまま取引を継続することができます。
分離可能性条項の文例
それでは実際に分離可能性条項とはどのような条文になるのか、文例を紹介します。特に、分離可能性条項は海外の取引先との契約を締結する際に設定されるケースも多いため、英文も併記しました。
本契約のいずれかの条項が違法、無効または執行不可能と司法当局に判断されても、本契約のその他の条項または規定の適法性、有効性または執行可能性には何ら影響を及ぼさない。
If any provision of this Agreement is determined by any judicial authority to be unlawful, void or unenforceable, this shall not in any way affect the legality, validity or enforceability of any other terms or provisions of this Agreement.
分離可能性条項を作成する際のポイント
ここからは分離可能性条項を作成する際のポイントをいくつか見ていきましょう。
契約に適用される法令について把握しておく
まずは契約に関連する法令について把握しておきましょう。例えば、消費貸借契約書は民法や貸金業法、出資法などの法令に則って作成する必要があります。
法令の規定には法律が優先して適用される「強行規定」と、法律と異なる規定を契約で定めた場合にその規定が法律よりも優先して適用される「任意規定」があります。
例えば、先ほども例を挙げた利息は利息制限法に基づいて利率を設定しなければならず、同法において上限金利を超えた利息は無効とされており、これは強行規定にあたります。仮に、違反した場合は利息に規定されている条項が無効になってしまい、債権者がその状態で債務者に債務を履行させた場合は刑罰を受けるおそれもあります。
任意規定の例としては代金の支払いタイミングが挙げられます。民法633条には「請負における報酬の支払いは仕事の目的物の引渡しと同時に行わなければならない」と定められていますが、実際には契約であらかじめ取り決めておけば後払いや前払い、分割払いも可能です。これは民法第633条が任意規定であり、法律よりも契約の内容が優先されるからです。
契約書を作成する際には、契約にかかわる法令と、それが強行規定なのか任意規定なのかを確認しておきましょう。
分離可能性条項が必要であるかどうかを検討する
関連する法令に強行規定が含まれる場合、法令に条項が違反しているとその条項は無効となってしまいます。契約期間中に法改正があるとそれまでは適法であったとしても、改正法の施行後には無効となる可能性があります。
また、繰り返しになりますが国際取引を行う際には、自国内では合法であっても相手国内では違法になるケースも考えられます。
契約に強行規定による影響を受ける条項が含まれている場合、法令が改正されることが考えられる場合、国際取引を行う場合は、分離可能性条項の設定も検討しましょう。
分離可能性条項をレビューする際のポイント
ここからは契約書を受け取った側の会社や個人が押さえておくべきポイントについて紹介します。
強行規定に違反する条項が含まれていないかを確認する
そもそも契約書に強行規定に違反するような条項が含まれていないかどうかを確認しましょう。違反している条項がある場合は債務の履行にも影響してきます。
また、仮に強行規定の影響を受ける条項が含まれているのにも関わらず分離可能性条項が設定されていない場合、相手方に修正を求める必要が出てくる可能性もあります。契約書を受け取った側に関しても関連法令の知識は必須です。
契約締結前に弁護士にリーガルチェックをしてもらう
これは契約書を作成する側、受け取る側双方にいえますが、なるべく弁護士にリーガルチェックをしてもらいましょう。特に、国際取引を行う際には相手国の法律に詳しい弁護士にチェックを依頼するのがベターです。
分離可能性条項の役割をしっかり把握しておきましょう
法律はそのときどきの社会情勢に応じてこまめに改正がなされます。また、国が違えば法律も全然違ってくるものです。分離可能性条項を設定しておけば、たとえ一部の条項が法令に準拠せず無効となっても、契約全体の有効性を守ることが可能です。
まずは分離可能性条項の役割をしっかりと把握しておき、契約書を作成する際には必要に応じて盛り込みましょう。
マネーフォワード クラウド契約では弁護士監修の契約書テンプレートを用意しています。無料で利用可能ですので、以下のページからダウンロードしてご利用ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
債務確認書とは?効力や書き方をひな形つきで解説
債務確認書とは、自ら負担している債務の内容などを確認するため、債務者が債権者に対して交付する文書です。取引先に対して債権を有しており、その内容を明確化する必要がある場合は、債務者に対して債務確認書の提出を求めましょう。本記事では、債務確認書…
詳しくみる根抵当権一部譲渡承諾書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
根抵当権一部譲渡承諾書とは根抵当権者(債権者)が第三者に根抵当権の一部を譲渡することを根抵当権の設定者(債務者)が承諾する意思を示す書類のことです。 この記事では根抵当権一部譲渡承諾書の書き方や盛り込むべき内容について、ひな形も交えてご説明…
詳しくみる欠陥工事の補修請求は可能?請求できるケースの具体例や請求方法を解説
欠陥工事の補修請求は、建物の品質に問題がある場合に請求可能です。本記事では、請求が可能な具体例や補修請求の方法を解説し、施工完了時に確認すべきポイントや請求手順、相場や時効についても詳しく説明します。 欠陥工事の補修請求を行えるケース 欠陥…
詳しくみる雇用契約書は飲食店にも必要?労働条件通知書との違いや記載事項を解説
飲食店で従業員を雇う時は雇用契約書および労働条件通知書を作成しましょう。雇用契約書に関しては作成義務がないものの、トラブル予防のため必要となります。一方で労働条件通知書については交付義務があるため、働いてもらうのが知人であっても省略はできま…
詳しくみる機械売買契約書とは?ひな形をもとに記載項目や注意点を解説
機械売買契約書とは、機械の売り買いをするときに交わす契約書のことです。日常的に行われている売買と同じ契約類型ですが、目的物が機械であり高額な取引金額も発生しやすいことから、保証や契約不適合等のルールを明確化しておく必要性が高くなります。 本…
詳しくみる秘密保持契約書・NDAとは?雛形や作成方法を弁護士が解説
秘密保持契約書とは、取引等で相手方から提供される業務上の秘密や個人情報等を第三者に開示しないよう、情報管理の在り方について取り決めた契約書のことです。「NDA」「守秘義務契約書」とも呼ばれますが、事業者間の契約では「秘密保持契約書」と呼ばれ…
詳しくみる