- 作成日 : 2022年6月10日
意匠法改正まとめ – 2020年施行と2021年施行を解説!
意匠法は、知的財産権の1つである意匠権を保護するための法律です。時代に合わせて変化を続けており、最新の改正意匠法は2019年に公布され、2020年と2021年に施行されました。
今回は意匠および意匠権を含めて、意匠法の概要についてご説明します。特に最新の改正内容を中心に、その概要と目的を解説します。
目次
意匠法とは
意匠法が対象とする「意匠」および「意匠権」の意味を含めて、法律の対象や保護内容などの概要についてご説明します。
意匠・意匠権とは
意匠法は、意匠の保護や利用を図るために存在する法律です。ここでいう「意匠」とは、「デザイン(design)」を指します。ただし、意匠は「工業デザイン」であり、いわゆる芸術品とは異なります。大量生産される物品や建築物などの外観に何らかの工夫を施し、視覚的な美しさや機能的な使いやすさなどを加えるのが意匠です。
意匠法の第二条では、意匠を以下のように定義しています。
この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像……(中略)……であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。
建物や生活用品、衣服、工業製品など、私たちの身の回りにあるモノのほとんどには何らかの意匠が施されており、意匠権の対象となっています。
魅力的な意匠は、製品・サービスの競争力を高めてくれます。そのため、そのような意匠はしばしば模倣の対象となってきました。意匠権は、模倣品や海賊版の生産・販売などを防ぐ目的で、意匠に対して与えられる独占排他権です。
意匠法の概要
意匠を意匠権として保護するために、意匠の登録要件や意匠権の内容、保護対象などについて定めたのが意匠法です。意匠法に照らして一定の基準に該当すると認められた意匠について、特許庁へ意匠登録出願を行い、特許庁の審査を経て意匠権を得ることができます。保護期間は最長で25年間です。
特許庁における審査のポイントとして、特許庁を管轄する経済産業省は以下の2点を挙げています。
新規性:今までにない新しい意匠であること
創作非容易性:誰もが簡単に思いつくような単純なものでないこと
当然ながら類似のデザインが日本や海外で公然と知られていたり、意匠権として登録されている場合は登録することができません。
意匠法の公布日
現行の意匠法は1959年に公布され、1960年に施行されました。その後時代の変遷とともに幾度も改正が行われており、2022年時点で最新の改正意匠法は2019年5月17日に交付され、2020年および2021年の4月1日に施行されています。
意匠法改正の経緯
意匠法改正の背景には、デザインをめぐる技術革新や企業環境の変化があります。意匠法改正に向けられて設置された研究会の資料では、以下の4点が2019年改正以前の意匠法の課題として認識されていました。
- 画像デザインや空間デザインに対する保護の不足
- ブランド形成に資するデザインの保護の不足
- 意匠権存続期間の短さによるブランド形成・維持の難しさ
- 意匠権取得手続きに要する時間的・経済的負担の重さ
AIやIoT、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの技術革新によって、現代の企業は新たな顧客体験を提供することで市場競争力の強化を図っています。画像デザインや空間デザインの存在感が増す中で、従来の意匠法はこうしたデザインを適切に保護できるだけの内容を備えているとはいえませんでした。
また、一貫したコンセプトによるデザイン開発が企業のブランディングに果たす役割が大きくなる中で、もともと出願した意匠と同じコンセプトを持つ「関連意匠」の出願が本意匠の意匠公報発行前(本意匠出願から約8ヵ月程度)までしかできないという問題もありました。加えて、長期的なブランド活用の観点では、それまでの20年という意匠権存続期間も短いという意見もありました。
以上を踏まえ、これからの日本企業の競争力強化に寄与する意匠法のあり方が議論されて法改正が行われ、2019年(令和元年)に公布されるに至りました。以下の図のように、公布は2019年でしたが、施行は2020年(令和2年)と2021年(令和3年)の2回に分けられました。
こうした経緯を踏まえ、次から2020年施行分と2021年施行分に分ける形で意匠法の改正内容の概要についてご紹介します。
2020年4月に改正された意匠法
2020年4月に施行された改正意匠法の概要について、特に「保護対象の拡充」「関連意匠制度の変更」「意匠権存続期間の延長」の3点を中心にご説明します。
2020年4月改正意匠法の概要
2020年施行分では、以下の7点が要点となっています。
- 保護対象の拡充
- 関連意匠制度の拡充
- 意匠権の存続期間
- 創作非容易性の水準の明確化
- 組物の意匠の拡充
- 間接侵害の対象拡大
- 損害賠償算定方法の見直し
前述の意匠法および意匠制度の課題を踏まえると、特に「保護対象の拡充」「関連意匠制度の拡充」「意匠権の存続期間」が重要と考えられます。
保護対象の拡充は画像デザインや空間デザイン、すなわち「画像」「建築物」「内装」のデザインが意匠法の保護対象に含まれたことを指しています。従来は何らかの物品および物品に記録・表示されている画像デザインのみが保護対象でしたが、画像そのものや不動産である建築物のデザイン、そして複数の物品から構成される内装も登録が可能になりました。
関連意匠制度の拡充とは、本意匠に類似する関連意匠の出願可能期間の延長と関連意匠の対象拡大を指しています。具体的には関連意匠を本意匠出願から10年を経過する日まで出願できるようになったことに加えて、「関連意匠を本意匠とする関連意匠」も出願できるようになりました。
また、意匠権の満了日が「出願日から25年経過した日」まで延長されました。これまでは「登録日から20年を経過した日」でしたが、長期にわたって企業や商品のコンセプトを象徴するデザインが増加したことを踏まえて、延長されたのです。
施行日
改正意匠法は2020年4月1日に施行されました。大半の規定はこの時に施行されています。
改正の目的
デザインの種類や用途が多様化する中で、今後の日本企業の競争力強化が強く意識されています。現行制度の対象拡大や期間延長など、幅広く意匠制度を活用できるような内容です。
2021年4月に改正された意匠法
改正意匠法のうち、2021年施行分については手続き面の変更が中心です。
2021年4月改正意匠法の概要
2021年4月改正意匠法のポイントは、以下の3点です。
- 複数意匠一括出願手続の導入
- 物品区分の扱いの見直し
- 手続救済規定の拡充
これまでは意匠登録出願のたびに願書を作成しなければならず、登録希望者に大きな負担がかかっていました。今回の改正によって1つの願書で複数の意匠を出願できるようになり、意匠登録の手間の削減が期待されます。
願書に記載する「物品区分」の粒度も変更されました。技術革新によって既存の区分の枠にとらわれないデザインが増えてきたため、従来の「物品区分表」が廃止され、新たな基準が制定されました。
また、今回の改正で手続救済規定として「指定期間経過後の請求による指定期間の延長」「優先期間経過後の優先権主張を伴う意匠登録出願」などが可能になりました。
施行日
改正意匠法の2回目の施行日は2021年4月1日で、これで2019年公布分がすべて施行されたことになります。
改正の目的
現代社会や企業のニーズに応えるため、意匠登録に関する一部の手続きが見直されました。出願者は、意匠制度をより活用しやすくなるでしょう。
意匠法改正について理解を深め、知的財産を守りましょう!
意匠法は、企業の競争力の源泉である工業デザインを適切に保護するための法律です。模倣されやすいデザインを守るためには、意匠法の理解や意匠権の効果的な活用が欠かせません。
2020年および2021年に施行された改正意匠法は、これまで以上に企業にとっての「使いやすさ」を高める内容を含んでいます。画像や内装を含めて保護対象に含まれた点など、変更点を把握して自社でも意匠権を活用できないか検討するとよいでしょう。
よくある質問
意匠法とは何ですか?
意匠(工業デザイン)を保護するための法律です。物品や画像、建築物、内装などのデザインの模倣を防ぐ役割があります。詳しくはこちらをご覧ください。
意匠法はいつ改正されましたか?
最新の改正意匠法は2019年5月に公布され、2020年4月1日および2021年4月1日の2回に分けて施行されました。 詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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