- 更新日 : 2024年9月27日
建物売買契約書とは?地主が承諾しないケースのひな形をもとに書き方や注意点を解説
建物売買契約書とは、建物の売買に関する条件を定めた契約書です。借地上の建物も売買できますが、地主が承諾しない場合は、裁判手続きの申立てに関する事項を契約書に定める必要があります。本記事では、地主の承諾を得られていない借地上の建物の建物売買契約書につき、書き方やレビュー時のポイントなどを、条文の具体例とともに解説します。
目次
建物売買契約書とは
建物売買契約書とは、建物の売買に関する条件を定めたうえで、売主と買主の間で締結する契約書です。
建物は高価であるケースが多く、さらに1点もので個別性が高いため、建物売買契約書において契約条件を明確化することが重要です。建物売買契約書では、売買代金の金額や支払方法、所有権移転の手続きなどを定めます。
建物売買契約を締結するケース
事業者が建物売買契約書を締結するのは、自ら所有している建物を売却する場合か、または他人(他社)から建物を買い取る場合です。
他人から借りている土地(=借地)の上に所有している建物についても、売買の対象とすることができます。ただし、地主の承諾を得ずに建物を売買することは、借地契約で禁止されている土地の無断転貸に該当するケースがあります。
借地権の譲渡について地主の承諾が得られない場合には、借地権者は裁判所に対して、地主の承諾に代わる許可を申し立てることができます(借地借家法19条)。この場合は、建物売買契約書を締結するに当たって、裁判手続きの申立てに関する事項を定めておきます。
建物売買契約書(地主が承諾しない場合)のひな形
借地上の建物の売買を地主が承諾しない場合に締結する建物売買契約書のひな形は、以下のページからダウンロードできます。実際に建物売買契約書を作成する際の参考としてください。
※ひな形の文例と本記事で紹介する文例は、異なる場合があります。
建物売買契約書(地主が承諾しない場合)に記載すべき内容
借地上の建物の売買を地主が承諾しない場合に締結する建物売買契約書には、主に以下の事項を定めます。
- 建物を売買する旨・建物の表示
- 建物等の譲渡代金・手付金の額と支払方法
- 借地権譲渡の許可申立て
- 所有権の移転・登記手続き
- 公租公課の負担
- 契約の解除
- その他
建物を売買する旨・建物の表示
例)
第1条
甲と乙は、甲が所有する以下記載の不動産(以下「本件建物」という)を、現状有姿のまま、乙に対して敷地の借地権(以下「本件借地権」といい、本件建物と本件借地権を総称して「本件建物等」という)とともに売り渡し、乙がこれを買い受けることを約した。
(本件建物の表示)
所在 ○○県○市○町○丁目〇番
家屋番号 ○○
種類 ○○
構造 ○○
床面積 1階 ○○平方メートル
2階 ○○平方メートル
売買の対象とする建物の情報を記載したうえで、その建物を売買する旨を明記します。
建物の情報は、所在・家屋番号・種類・構造・床面積を登記事項証明書の内容に沿って記載しましょう。
売買の対象が借地上の建物であり、かつ買主が地主以外の者である場合は、建物とともに借地権も売買の対象とします。建物売買契約書においても、建物と併せて借地権も譲渡する旨を明記しましょう。
建物等の譲渡代金・手付金の額と支払方法
(例)
第2条
本件建物等の売買代金(以下「売買代金」という。)は〇〇円とする。
2 乙の甲に対する売買代金の支払いの方法は、以下のとおりとする。
⑴ 本契約締結日において、売買代金の一部として、手付金○○円を甲指定の銀行口座に振り込んで支払う
⑵ 甲が、次条に定める許可の裁判を申し立て、当該許可の決定が確定した後、本件建物等の引渡しと引き換えに、残金○○円を甲指定の銀行口座に振り込んで支払う
建物および借地権の譲渡代金と支払方法を定めます。譲渡代金の一部を手付として前払いする場合は、その旨も記載しましょう。
なお、契約上別段の定めがなければ、相手方が契約の履行に着手するまでの間、買主は手付の放棄、売主は手付の倍返しによって売買契約を解除することが可能です(民法557条1項)。手付解除の期間などを制限する場合は、その制限の内容も明記しましょう。
借地権譲渡の許可申立て
(例)
第3条
甲は、乙に対し、本契約締結後〇日以内に、○○裁判所に対し、地主の借地権譲渡承諾に代わる許可の裁判を求める申立てを行う。
2 前項の許可が得られなかった場合、本契約は失効し、甲は、受領済の金員を無利息で遅滞なく乙に返還しなければならない。
3 第1項の裁判にかかる費用は、甲の負担とする。
借地上の建物の売買を地主が承諾しない場合は、売主において裁判所に対し、地主の借地権譲渡承諾に代わる許可裁判の申立てを行うべき旨を定めます。
裁判所の許可が得られなかった場合には、建物の売買を実行すると借地契約違反の状態が生じるので、売買契約を失効させます。この場合、手付金などを無利息で返還する旨を定めておきましょう。
所有権の移転・登記手続き
(例)
第4条
本件建物の所有権および本件借地権は、乙が売買代金の全額を支払い、甲がこれを受領したときに、甲から乙に移転する。
2 甲は、本件建物の所有権および本件借地権の移転の時期までに、本件建物および本件借地権に関し、抵当権、賃借権その他乙の権利行使を阻害する負担がある場合は、これを速やかに抹消する。
3 第1項の所有権移転が生じた後、甲は直ちに、乙に対して本件建物およびその敷地を引き渡すものとする。
4 甲および乙は、売買代金の全額の支払いが完了した後、直ちに、甲の乙に対する本件建物の所有権移転登記手続を行う。本件建物の所有権移転登記にかかる費用は、乙の負担とする。
5 甲は、前項の所有権移転登記手続を行うに際し必要な一切の書類を乙に交付するとともに、当該登記手続きについて必要なその他一切の協力を行うものとする。
売買代金の支払いと建物の所有権および借地権の移転は、公平性の観点から同時履行とするのが一般的です。
建物の所有権の取得を第三者に対抗するためには、所有権移転登記を具備しなければなりません(民法177条)。登記手続きは、特段の事情がない限り、譲渡代金の支払いと同日付で行います。建物売買契約書では、売買代金の支払いが完了した後直ちに登記手続きを行う旨、および売主が登記手続きに協力する旨を定めておきましょう。
借地権についても登記することができますが、土地上の建物が登記されていれば借地権の対抗力を備えることができるため(借地借家法10条1項)、実務上は借地権の登記手続きを行わないのが通常です。
公租公課の負担
(例)
第6条
本件建物の公租公課は、本件建物引渡日までを甲、引渡しの翌日以降を乙の負担とし、日割り計算によって精算する。
建物に係る固定資産税や都市計画税などの公租公課は、引渡し日を境に日割り計算をするのが一般的です。建物売買契約書においても、公租公課の分担方法を明記しておきましょう。
契約の解除
(例)
第7条
甲または乙は、相手方が次の各号の一つに該当した場合、相当の期間を定め、その履行または是正を催告したにもかかわらず、当該履行または是正がされないときは、本契約を解除することができる。
⑴ 本契約の定めに違反したとき
・・・・・
2 甲または乙は、前項による解除に基づく損害を被ったときは、相手方に対してその賠償を請求することができる。
建物売買契約を解除できる場合を定めます。契約違反(売買代金の不払い・建物の引渡しの不履行など)のほか、売買の支障となり得る具体的な懸念があれば、その内容を解除事由として掲げましょう。
その他
上記のほか、建物売買契約書には以下の事項などを定めます。
- 危険負担
- 反社会的勢力の排除
- 誠実協議
- 合意管轄
など
建物売買契約書(地主が承諾しない場合)を作成する際の注意点
建物売買契約書を作成する際には、売買の条件を明確に定めることが大切です。売買代金や費用の分担、引渡しや所有権移転登記手続きなどに関する事項を契約書に明記しましょう。
また、借地上の建物を売買するに当たって、地主の承諾を得られない場合には、借地借家法に基づく裁判手続きの申立てに関する条項を定める必要があります。地主の承諾に代わる裁判所の許可が得られない場合には、売買契約が失効する旨を明記しておきましょう。
借地権付き建物の売買交渉は仲介業者を通じて行うのがおすすめ
借地上の建物の売買に関しては、手続きについて特有の注意点があるうえに、地主の承諾を得られず頓挫しやすい傾向にあります。
そのため、借地権付き建物の売買に精通している不動産仲介業者に手続きや地主との交渉を依頼するのが得策です。スムーズに売買を成立させるため、ノウハウを活かして対応してもらえます。
借地権の譲渡を地主が承諾しない場合の対応方法
借地権の譲渡(借地上の建物の譲渡を含む)を地主が承諾しない場合には、借地権者は裁判所に対して、地主の承諾に代わる許可を申し立てることができます(借地借家法19条1項)。
借地権の譲渡許可申立事件は、通常の訴訟ではなく「借地非訟」という手続きによって審理されます。借地非訟手続きは非公開で行われ、裁判所の職権探知が認められているなど、訴訟とは異なる特徴を有しています。所要期間は半年から1年程度が目安です。
裁判所は、原則として鑑定委員会の意見を聴いたうえで、以下の事情を考慮して、借地権の譲渡について地主の承諾に代わる許可を与えるべきか否かを判断します(同条2項、6項)。
- 借地権の残存期間
- 借地に関する従前の経過
- 借地権の譲渡または転貸を必要とする事情
- その他一切の事情
なお、裁判所が定める期間内に、地主が自ら建物および借地権を譲り受ける旨の申立てをした場合には、裁判所は相当の対価を定めて地主に対する譲渡を命ずることができます(同条3項)。この場合、建物と借地権は地主に対して譲渡することになるので、第三者との間で締結していた建物売買契約は失効させる必要があります。
借地権付き建物の譲渡には地主の承諾が必要|建物売買契約書の定めを工夫しましょう
借地権付き建物を譲渡する際には、原則として地主の承諾が必要です。地主の承諾を得られない場合には、裁判所に対して地主の承諾に代わる許可を申し立てることになります(=借地非訟事件)。
地主の承諾を得られていない段階で建物売買契約書を締結する場合は、上記の裁判所に対する借地非訟事件の申立てにつき、契約書の中で対応する条項を定める必要があります。具体的には、売買契約の締結後一定期間内に申立てを行うべき旨、および裁判所の許可が得られなければ売買契約が失効する旨を定めておきましょう。
そのほかにも、建物売買契約書においては、売買代金や所有権移転の手続きなどの条件を明確に定めることが大切です。契約交渉の結果を適切に反映して、売主・買主間のトラブルの防止に努めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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