- 作成日 : 2025年1月17日
不動産仲介会社の電子契約の流れは?メリット・デメリットや注意点も解説
不動産仲介会社の電子契約は、2022年5月の宅建業法改正により全面的に解禁され、重要事項説明書から契約書まで、ほぼすべての書類を電子化できるようになりました。
この記事では、不動産仲介取引の電子契約について、導入のメリットや具体的な手順、注意点まで詳しく解説します。
目次
不動産仲介会社の電子契約が解禁されたのはいつから?
2022年5月、デジタル改革関連法の一環として宅地建物取引業法が改正され、不動産取引における電子契約が全面的に解禁されました。従来は紙での契約が必須とされていた重要事項説明書や売買契約書、媒介契約書などの電子化が可能になりました。
そもそも電子契約とは?
電子契約とは、紙の契約書の代わりに電子データを用いて契約を締結する方法です。契約書への押印の代わりに電子署名を使用し、契約内容の確認から締結まで契約の一連の流れをすべてオンライン上で完結します。
紙ベースの契約書と比較すると管理コストが削減できる、業務の効率化が図れるなどさまざまなメリットがあり、契約書以外にも発注書や同意書なども電子化が進んでいます。
不動産仲介会社の電子契約の法的効力
不動産仲介業務における電子契約は、民法や電子署名法、さらにはデジタル改革関連法に基づき、紙の契約書と同等の法的効力を有しています。
ここで、不動産仲介会社の電子契約の法的効力について整理しましょう。
契約成立の法的根拠
まず、民法第522条では、契約は当事者間の合意によって成立すると規定されています。そのため不動産契約においても、紙の書面か電子的な手段かを問わず、合意があれば契約は有効です。電子契約が紙の契約書と異なるのはその形式のみであり、契約の成立要件には影響しません。これを契約方式自由の原則と呼びます。
ただし、不動産関連においては契約方式自由の原則の例外があり、事業用定期借地権設定契約や定期借地権設定契約(存続期間を50年以上とする定期借地権の設定がある場合)などは、書面の作成が成立条件です。
電子署名の効力と重要性
「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)第3条では、電子署名が「本人だけが行うことができることとなるもの」である場合、その電磁的記録は真正に成立したものと推定されるとされています。
デジタル改革関連法がもたらす影響
さらに、2021年に成立した「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(デジタル改革関連法)により、行政手続きや民間取引における電子的な手段の利用が明確化されました。
不動産契約を含む取引においても、重要事項説明書や宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面において宅地建物取引士の押印・直接の署名が不要になり、電子契約が可能になった経緯があります。
これらの法的根拠に基づき、不動産仲介会社における電子契約は紙の文書と同じ法的効力を持つといえます。
不動産仲介会社が電子化できる契約
不動産仲介会社では、2022年5月の宅建業法改正により、ほとんどの契約書類を電子化できるようになりました。電子化可能な契約と書類について、以下に紹介します。
賃貸借契約
- 賃貸借契約書本体
- 重要事項説明書(35条書面)
- 契約締結後書面(37条書面)
- 連帯保証契約書
- 駐車場使用契約書
更新契約
- 更新契約書
- 更新に関する重要事項説明書
- 更新手続きに関する契約書類
管理委託契約
- 管理委託契約書
- 清掃契約書
- メンテナンス契約書
- 建物の維持管理に必要な契約書
不動産売買契約
- 媒介契約書(34条の2書面)
- 重要事項説明書(35条書面)
- 売買契約書(37条書面)
- 物件状況確認書
- 売買契約に付随する契約書類
このように、ほとんどの書面を電子化可能です。ただし、重要事項説明書(35条書面)や売買契約書などの契約締結後書面(37条書面)など、電子化が認められた書類であっても相手方の事前承諾が必要なものもあります。
不動産仲介会社が電子化できない契約
2022年5月の宅建業法改正により不動産業界における電子契約の流れは急速に早まりましたが、一部電子化できない書類もあります。
- 事業用定期借地契約
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約
- 任意後見契約書
これらの書類は公証人の権限に基づいて作成される公正証書であるため、電子化はできません。
不動産仲介会社が電子契約を締結するまでの流れ
電子契約であっても、オンライン上で契約を締結するということ以外は従来の書面による契約の流れとほとんど変わりはありません。
ここでは、不動産仲介会社が電子契約を締結するまでの一般的な流れを紹介します。
重要事項説明を実施する(IT重説)
電子契約においては、まずオンラインで重要事項説明(IT重説)を行います。IT重説は宅地建物取引士が行い、重要事項説明書(電子書面可)を事前に送付しておくなどの一定の条件を満たす必要があります。
契約条件を確認する
契約内容への合意を得られた後は、電子契約システム上で契約書の内容を入念に確認します。特に契約条件や特約事項などの重要な部分については、相手方と共に画面共有しながら確認し、認識の相違をなくしましょう。
電子契約書を準備する
契約書類は電子契約システムの規格に適合した形式で作成し、システムにアップロードします。この際、契約書の内容が正確に反映されているか、文字化けや書式崩れがないかを入念にチェックします。契約当事者全員がアクセスできる状態で共有し、内容の最終確認を行います。
電子署名による契約締結を行う
電子署名は、不動産仲介会社側が先に実施し、その後契約相手方が行うのが一般的です。電子署名法に基づく電子証明書を用いることで、電磁的記録の成立の真正性が担保されます。
契約書面を電子交付する
契約締結後は、契約書本体、重要事項説明書、契約締結後書面などの必要書類を電子的に交付します。電子交付された書類は、電子帳簿保存法の要件を満たす形で保管しなければなりません。
不動産仲介会社が電子契約を導入するメリット
電子契約の導入により、不動産仲介会社は業務効率化からコスト削減まで多岐にわたるメリットが得られます。以下に主要なメリットを解説します。
契約業務を効率化できる
不動産取引では、売主・買主、貸主・借主、仲介業者、宅地建物取引士など、多くの関係者とのやり取りが必要です。従来の紙の契約では、関係者間での書類のやり取りや押印に時間を要していましたが、電子契約の導入により契約締結までの時間を大幅に短縮できます。
また、契約書の修正が必要な場合でも、オンラインで対応できるためタイムロスがなく、業務の効率化が可能です。
収入印紙代が不要になる
電子契約では、収入印紙が不要です。特に不動産取引では、契約金額に応じて印紙税額が高額になることが多いため、大幅なコスト削減が期待できます。これは電子契約における大きなメリットだといえるでしょう。
オンラインで取引が完結する
IT重説と電子契約の組み合わせにより、契約手続きを完全にオンライン化できます。その結果、遠方の顧客や多忙な顧客との取引もスムーズに進められるようになるでしょう。
また、契約当事者が複数人いる場合でも、オンラインなら各自が都合の良いタイミングで電子署名を行えるため、契約締結までの時間を大幅に短縮できます。
契約書の保管場所が不要になる
電子契約では、契約書類をデータとして保管できるため、物理的な保管スペースが不要です。オフィススペースの有効活用ができることに加え、スペースの確保や管理コストもかかりません。
不動産仲介会社が電子契約を導入するデメリット
メリットが多い不動産契約の電子契約ですが、いくつかのデメリットもあります。
- 取引先との調整が必要
- セキュリティ面での課題
- 法的リスクへの対応
以下で詳しく見ていきましょう。
取引先との調整が必要
電子契約の導入には、取引先の理解と協力が不可欠です。特に高齢のオーナーや電子機器の操作に不慣れな取引先との契約では、従来の紙での契約を希望されるケースも多く、一律での電子化が難しい面もあります。
そのため、紙の契約と電子契約を並行して運用する必要が生じ、そうなるとかえって業務が煩雑になる可能性が否定できません。
セキュリティ面での課題
電子契約はオンラインで行われるため、セキュリティは重視しなければなりません。契約書には取引の詳細、個人情報、機密情報が含まれており、サイバー攻撃や担当者のミスなどによるデータ漏洩や改ざんのリスクが存在します。
また、非対面での契約となるため、契約当事者の本人確認が極めて重要となり、なりすまし防止のための厳格な対策が必要です。
法的リスクへの対応
電子契約の有効性が認められているとはいえ、特に高額な不動産取引においては、トラブルが発生した際の法的リスクへの対応が必要です。紛争が生じた場合の証拠保全や、電子署名の有効性を巡る争いなど、新たな法的課題に対する備えが求められます。
また、歴史が浅いことから電子契約に関する判例が少ないことも、リスク要因のひとつといえるでしょう。
不動産仲介会社が電子契約を導入している事例
不動産仲介会社における電子契約の導入事例として、全国規模で中古不動産の売買事業を展開する企業の成功例があります。
同社では、自社開発の不動産管理システムと電子契約をAPI連携させ、月間約900件の媒介契約の半数を電子化することに成功しました。その結果、契約締結までの時間が大幅に短縮され、1通あたりの契約コストを5分の1に削減。さらに、契約締結率は従来の紙での契約と比較して約2倍に向上しています。
特に遠方の不動産オーナーとの取引がスムーズになり、契約書の修正や価格変更への迅速な対応が可能となりました。導入後も継続して売買契約書や賃貸借契約書など、さらなる電子化の範囲拡大を進めています。
不動産仲介会社は電子契約システムの導入で契約業務がより簡単に
電子契約システムの導入により、不動産仲介会社における契約業務は大幅な効率化が可能です。
従来の紙ベースでは1週間以上かかっていた契約手続きが、電子契約によって最短1日で完了できるようになりました。特に遠方の顧客との取引では、来店不要でスマートフォンやパソコンから手続きが完結できるため、利便性が格段に向上します。
また、契約書の作成から締結までの工程が簡素化され、修正や変更もオンラインで即時対応が可能です。さらに、契約書類の検索や管理も容易になり、契約業務の負担はかなり軽減できます。
電子契約システムの導入は、業務効率化とコスト削減を同時に実現するソリューションとして、不動産仲介業界に新たな可能性をもたらしています。
これからは不動産取引においても電子契約が主流に
不動産取引の電子契約が全面解禁され、スマートフォンやパソコンで契約手続きが完結できるようになりました。不動産仲介会社はもちろん、契約する相手方にとっても来店が不要になる、オンラインで時間を問わず手続きできるなどのメリットをもたらします。
DX推進の流れ、また2022年5月の宅建業法改正をきっかけに、不動産業界全体でデジタル化が進んでいます。電子契約はこれからの不動産契約の主流になっていくことは想像に難くないため、できるだけ早い段階で電子契約サービスの導入を検討することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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