• 作成日 : 2022年8月26日

出版契約書とは?目的や書き方を解説

出版契約書とは?いつ作るのか、書き方や注意点も解説

出版業界では紙媒体の売上の減少が続いていますが、一方で電子出版は着実に売上を伸ばしています。紙であれ電子であれ、出版にあたっては一般的に出版契約を結ぶことになりますが、その際に出版契約の種類や契約書記載内容、出版契約書ならではの注意点などをあらかじめ知っておくと、後々のトラブルを防ぐことができます。

出版契約書とは

出版契約とは、当事者の一方(著作権者)が相手方(出版者)に対して自身の著作物の出版を許諾し、相手方が自己の計算で当該著作物の複製と頒布販売を行う旨を約する契約のことです。
出版契約は著作権との絡みもあり、民法におけるいわゆる「典型契約」に当てはめるのが難しい特殊な契約形態とされています。いずれにせよ、二当事者の合意により成立する「双務」「諾成」契約であることは間違いありません。

出版契約書は特定の著作物に関し、著作権者(厳密には著作権の支分権である複製権等保有者ですが、この記事ではわかりやすく「著作権者」と表します。)と出版者の間で、どのような形で出版するかについての合意内容を記載した書類です。もっとも、書面での契約が義務付けられていない諾成契約ですから、両者の信頼関係による口頭のみの契約もときにはあるようです。
しかし、既述のとおり出版契約は複雑な契約形態ですし、出版費用や印税など金銭面でトラブルに発展したりすることがあります。したがって、出版契約は書面で締結することが推奨されます。

出版契約の種類

出版契約と一口にいっても、著作権者と出版者の間で何を約束するかによって、いくつかの種類に分けられます。典型的な契約は以下の3つです。

出版権設定契約

出版権とは、特定の著作物について原作のまま頒布する目的で印刷などの方法で複製できる、また複製物を公衆送信できる権利のことです(著作権法、以下「同」)80条1項参照)。出版権は著作権者が出版者に設定することで生じ(同79条、80条1項参照)、設定された出版者はその設定した範囲内において当該著作物について原則独占的に出版できるようになります。他者はもちろん、著作権者自身も当該著作物を出版することはできません。もし誰かが勝手に当該著作物を出版した場合、出版権者は権利侵害として出版の差止請求や(同112条)損害賠償請求ができます(同114条および民法709条)。
なお、出版権の設定は文化庁に登録しなければ第三者に対抗できず、差止請求などが行えません(同88条)。もっとも、いわゆる海賊版業者のように不正に出版を行っている者に対しては、登録がなくとも差止等の請求はできるとされています。

出版権設定契約は、著作物に対して強い専有力を有する出版権を著作権者が出版社に対して設定する内容の契約です。出版社は当該著作物を独占的に出版できますが、特段の定めがない限り著作物の引渡しから6ヶ月以内に出版行為をしなければならず、その後も継続的に出版を行わなければならないなどの義務が課せられます(同81条)。
確かに出版権を独占されたまま出版を放置されては、著作権者はどうしようもありません。81条の規定は、著作権者保護のために必要なのです。

著作権譲渡契約

著作権譲渡契約とは、特定の著作物の著作権を、その著作権者が出版者などに譲渡するという内容の契約です。著作権は他者への譲渡が可能で(同61条)、譲り受けた側は半永久的に出版権だけでなく、翻案権(脚色や映画化などができる)なども有します。
もっとも、出版のみが目的であれば著作権は不要ですから、出版契約において著作権譲渡そのものを契約内容とするケースはそれほどありません。翻案が必要になったとしても、別途契約を交わせば済むからです。

利用許諾契約

利用許諾契約とは出版許諾契約ともいい、著作権者が出版者に作品の利用(出版)を許可するという内容の契約です。出版権の設定と異なり、著作権者は複数の出版社に対して出版許諾契約を交わすことができるため、出版者がその作品を他者に出版されたくない場合には「独占的利用許諾契約」を締結します。
独占的利用許諾契約がありながら著作権者が他の出版社にも利用を許諾した場合、出版者は著作権者に対して損害賠償請求(民法415条)しかできません。他の出版者への差止めや損害賠償は、請求できないのです。

3つの類型のうちどの契約内容で締結するかは当事者の協議によりますが、出版者側は出版による利益を得ることが主な目的ですから、出版権設定契約を締結するのが合理的といえます。

出版契約書はいつ作る?

出版契約の締結時期は特に決まっていないため、契約書の作成時期についても当事者双方の事情で変わります。
すでに著作物がある状態で、出版者がその作品を確認した上で契約を締結するケースもあれば、人気作家などの場合は出版社から注文を受ける形で出版契約を締結してから作品の制作を始めるケースもあります。
ただし、契約書の作成時期によって記載すべき内容が変わることがあるので、作成の際には注意しましょう。

出版契約をする際の注意点

出版契約のうち、出版権設定契約を交わす際の主な注意点について説明します。

出版権設定契約の解除

契約は、一方当事者に契約内容の履行遅滞や不履行があれば他方当事者が解除できます(民法541条)し、あらかじめ契約書で解除事由を定めておけば当該解除事由による解除も可能です。
また、著作権法では著作権者に対して、例えば期間内に出版されなかった場合(同81条違反)などに「出版権消滅請求権」を認めています(同84条)。

出版契約書で特に確認しておきたい項目

出版権設定期間は、契約書で定めておかないと最初の出版日から3年で消滅するため(同83条2項)、自動更新や3年以上に設定をする場合は必ずその旨を記載しておきましょう。

また、著作権者側は出版権設定に対する対価(印税)条項を確認することが大切です。パーセンテージはもちろん、それが発行部数に対してか売上部数に対してかで対価は大きく変わります。発行部数や印税の支払日についても確認しなければなりません。

出版契約書に収入印紙は必要?

著作権者から許諾を受けて著作物を出版する場合に作成する契約書(出版権設定契約、利用許諾契約の場合)への収入印紙の貼付は不要です。
ただし、著作権譲渡契約の場合は売買契約同様、譲渡額に応じた額の収入印紙の貼付が必要です。

出版契約書の書き方

一般的な出版権設定契約書のテンプレート(雛形)は、一般社団法人「日本書籍出版協会」のサイトに掲載されています。条項が詳細に記載されているため、そのまま使用したり、必要事項のみ抽出して作成したりすることができます。丁寧な解説も付いているので、やや長いですが契約書を作成する前に目を通しておきましょう。
出版権設定契約書に特有の記載事項としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 設定権を設定することと設定期間
  • 著作権使用料(印税)
  • 著作物の引渡し時期
  • 出版時期と部数
  • 公衆送信や二次的使用に関する取り決め

出版契約書は著作権の知識を持った上で作成を!

に分かれます。一般的な契約条項に加えて著作権の扱いも関係するため、契約当事者双方に著作権に関する知識が求められます。特に著作者側は契約自体に慣れていない場合があるので、契約に臨む前に専門家の助言を得るなどして、不利な内容の契約を締結しないように注意しましょう。

参考:著作権法|e-Gov法令検索
参考:民法|e-Gov法令検索

よくある質問

出版契約書とは何ですか?

特定の著作物に関して、著作権者と出版者の間でどのような形で出版するかについての合意内容を記載した契約書です。詳しくはこちらをご覧ください。

契約書に収入印紙の貼付は必要ですか?

出版権設定契約や利用許諾契約の場合は不要ですが、著作権譲渡契約の場合は必要です。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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