• 作成日 : 2025年1月31日

名誉毀損とは?侮辱罪との違いや訴えるための条件などをわかりやすく解説

名誉毀損とは「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」することで、一般的には刑法230条に定められている罪のことです。名誉毀損罪に問われると、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」に処されます。

名誉毀損は、刑法上罪に問えない場合でも、民事上の不法行為に該当すれば損害賠償請求できる可能性があります。

本記事では、名誉毀損の基本と侮辱罪との違いなどについてわかりやすく解説します。

名誉毀損とは

名誉毀損は、刑法230条に規定されている罪のことで「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」することを指します。名誉毀損をした者は、3年以下の拘禁刑または罰金刑に処されます。

「公然」とは「不特定または多数人が知り得る状態」のことです。例えば、AさんがBさんについて「Bには傷害罪の前科がある」などとSNSに書き込むといったことが挙げられます。ユーザーなら誰でも見られるSNSに書き込めば、多数人に伝わる「公然」に該当し、事実を摘示していることになるためです。

名誉毀損と侮辱罪の違い

侮辱罪とは、刑法231条で定められている罪のことで「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、(中略)拘留又は科料に処する」と規定されています。名誉毀損も侮辱罪も、人の名誉に対する罪です。

名誉毀損と侮辱罪の一番の違いは、「事実の摘示」があるかどうかです。名誉毀損は事実の摘示が要件ですが、侮辱罪は事実を摘示せずに人の名誉を害することで成立します。

例えば、AさんがBさんに対し、不特定多数の人が見ている前で「お前は最低な奴だ」と言ったとします。この場合、「最低な奴」は事実の摘示とはいえないため、名誉毀損には当たりません。一方、事実の摘示はなくてもBさんを侮辱したことには該当するため、侮辱罪が成立します。

名誉毀損で訴えるための条件

相手を名誉毀損で訴えるためには、刑法230条1項に規定されている3つの法律要件(「公然性」「事実摘示性」「名誉毀損性」)を満たすことが必要です。どのような事実があれば要件に該当するのか、各要件について詳しく解説します。

公然性があること

刑法230条1項は、まず「公然と」事実を摘示したことを名誉毀損の成立要件としています。具体的には、相手の行為が不特定多数の人へ伝わる可能性がある状況でなされることが必要です。

例えば、「お前は昔傷害事件で逮捕されたことがある」という発言を、他に誰もいない部屋で1対1で言われたり、1人に対するメールだけに送られたりした場合は、「公然性がある」とはいえません。

一方、不特定多数の人が聞いている前で上記のような発言をされた場合や、SNSやインターネット掲示板など不特定多数の人が目にする場所に書き込みをされた場合は「公然性がある」と認められます。

また、情報を伝えるのが2〜3人程度であったとしても、そこからさらに不特定多数の人へ広められる可能性が認められれば、「公然性がある」といえることになります。

事実摘示性があること

名誉毀損の2つ目の要件は「事実を摘示」していることです。ここでいう「事実」とは、相手の社会的な評価を低下させる具体的な事実を指します。したがって、「馬鹿だ」「最低だ」などの表現は具体的な事実を摘示しているとはいえず、要件を満たしません。

一方、「○○は社内の複数の女性と不倫関係にあるから最低だ」といった発言の場合は「複数の女性と不倫関係にある」という具体的な事実を摘示しているため、要件を満たす可能性が高いといえます。

また、ここでいう「事実」とは「真実」という意味ではありません。よって、発言が真実でなくても要件を満たし、名誉毀損が成立する可能性があります。

名誉毀損性があること

「名誉毀損性があること」とは、「人の社会的評価を低下させる性質であること」を指します。

社会的評価は客観的に判断されます。よって、相手の主観のみで「傷ついた」と思っても、客観的に「社会的評価を低下させた」と判断されなければ、名誉毀損性は認められません。

例えば、AさんがBさんに「Bさんは背が小さくてかわいいよね」と言ったとします。Bさんが「背が小さいと言われて傷ついた」と思ったとしても、客観的に社会的評価が低下したとはいいにくいでしょう。

したがって、この場合、名誉毀損性は認められない可能性が高いです。

名誉毀損の民事責任

名誉毀損は、民事法上の責任を問うことも可能です。名誉毀損の民事責任が認められれば、損害賠償として慰謝料請求ができる他、ケースによっては謝罪広告や訂正・取消広告の掲載、表現の削除などを求めることができます。

名誉毀損の民事責任が認められる条件や慰謝料の相場、時効について解説します。

名誉毀損は民法上の不法行為に該当

名誉毀損は、民法709条が定める「不法行為」に該当します。不法行為とは「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」することです。つまり、故意によっても過失によっても、他人の保護されるべき名誉を侵害した場合は、不法行為になります。

不法行為としての名誉毀損であると判断されるためには「公然性」「事実摘示性」「名誉毀損性」の要件を満たす必要があります。

不法行為が認められれば、民法709条は「これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とあるため、被害者は加害者に対して損害賠償請求ができます。

損害賠償請求などの法的措置が可能

民法上の名誉毀損が認められれば、被害者は加害者に対して損害賠償請求が可能です。また、名誉を回復するための対応を求めることもできます(民法734条)。例えば、出版物やインターネットサイトなどに謝罪広告や訂正・取消広告を掲載する方法が挙げられます。

ただし、金銭によって賠償できる場合は、謝罪広告や訂正・取消広告の掲載までは求められないことも多いので注意しましょう。

他にも、名誉毀損となる表現の削除や差し止めを求めることも可能です。

民法にもとづく名誉毀損の慰謝料の相場

名誉毀損について民法上の不法行為が認められれば、被害者は加害者に対して慰謝料を請求できます(民法709条、710条)。

名誉毀損が認められた場合の慰謝料の具体的な額については、事案によって大きく変わります。なぜなら、一言で名誉毀損といっても、その態様や被害のレベルはさまざまだからです。

相場としては、個人が被害者の場合は10万〜50万円、企業が被害者の場合は50万〜100万円程度とみることができるでしょう。

ただし、この相場はあくまで大まかなものであることに注意してください。名誉毀損の態様によっては、相場以上の慰謝料が認められることもあれば、少額しか認められないこともあります。

民法にもとづく名誉毀損の時効

民事上の損害賠償請求ができる期間には、時効があることに注意しましょう。損害賠償請求の時効は、損害があったことと加害者を知った時から3年です。

では、損害や加害者を知らないままでいれば時効にかからないのかというと、そういうわけではありません。加害者などを知らないまま時が経ったとしても、不法行為の時から20年を経過すると損害賠償請求権は時効により消滅します(民法724条)。つまり、名誉毀損があったことや加害者を後から知って訴えたとしても、その名誉毀損が行われてからすでに20年を超えていると損害賠償請求はできなくなってしまうのです。

名誉毀損の刑事責任

名誉毀損は、刑事責任を問えるケースもあります。以下では、どのような場合に刑事責任を問えるか、名誉毀損罪に問われるとどのような刑事罰があるかについて解説します。また、名誉毀損罪を訴える際に気をつけたい時効についても説明します。

名誉毀損は刑法上の親告罪に該当

刑法にいう名誉毀損は、親告罪に当たります。親告罪とは、被害者自身が捜査機関に告訴状を提出して告訴しなければ犯罪にならない罪のことです。したがって、いくら名誉毀損で精神的苦痛を負ったとしても、そのまま何もせずにいたままでは加害者は罪に問われません。また、被害者以外の第三者が代わりに告訴することもできません。

名誉毀損を親告罪としたのは、被害者本人の気持ちを尊重するためです。被害者が、自身が受けた名誉毀損について、あれこれ捜査されたり裁判でいろいろ聞かれたりしては、余計に被害者が傷つくおそれもあります。

したがって、被害者自身が「名誉毀損で訴えたい」と告訴した場合に限り、罪に問う親告罪としたのです。

刑事告訴により懲役または罰金の対象に

名誉毀損罪として刑事告訴され、起訴されると、「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」に処される対象になります。

懲役・禁固刑になるか罰金が科されるかは、名誉毀損の内容がどのようなものだったか、どれほど被害者の社会的評価を下げたかなどによって異なります。

例えば、名誉毀損の事実があった場合でも、その程度が低いと認められる場合や被害者に対して真摯に謝罪をしたなどの事情がある場合は、情状の余地ありとして罰金刑で済むこともあります。

刑法にもとづく名誉毀損で逮捕されるケース

刑法上の名誉毀損で逮捕されるケースには、以下が挙げられます。

例えば、インターネットやSNSでの誹謗中傷は代表的なケースといえるでしょう。不特定多数の人が閲覧できる場で悪口や誹謗中傷を書き込み、拡散されるようなことがあれば逮捕の可能性もあります。

また、口コミサイトはマイナスの意見があることも織り込み済みのため、否定的な意見を書き込んだだけであれば罪に問われることはほとんどありません。しかし、嘘や不確かな情報を書き込んでお店の評価を著しく失墜させるような書き込みをしたり、執拗に何度も誹謗中傷を書き込んだりすると、逮捕の可能性が高くなります。

他には、メディアの偏向報道や街宣活動による誹謗中傷などが挙げられます。

刑法にもとづく名誉毀損の時効

刑法にもとづく名誉毀損にも時効があるため注意しましょう。刑法上の名誉毀損罪の時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。これは「公訴時効」と呼ばれ、犯罪が行われた後、一定の期間が過ぎると犯人を処罰できなくなる制度を指します。

名誉毀損罪に当てはめると、加害者が名誉毀損に該当する言動をした時から3年を過ぎると、検察官は加害者を起訴できません。よって、名誉毀損の事実があっても刑法上の罪に問えないことになります。

誹謗中傷や悪口による名誉毀損は成立する?

単に誹謗中傷や悪口があっただけでは、すぐに刑法上の罪に問うことは難しいでしょう。なぜなら、名誉毀損罪と判断されるためには、「公然性」「事実摘示性」「名誉毀損性」といった要件をすべて満たさなければならないからです。

仮に、内容があまりに悪質であったり、何度も継続的に言われたり精神的な苦痛を負ったと認められる場合は、民事上の慰謝料請求などができる可能性はあります。

一方、誹謗中傷や悪口を大勢の人に言いふらされたり、SNS上などで拡散されたりした場合は、名誉毀損罪に問える可能性が高まります。

例えば、2人きりの場で「お前は馬鹿だ」と言われただけでは名誉毀損罪は成立しません。しかし、不特定多数が閲覧できるSNS上で「Aは馬鹿で成績も最下位で皆に嫌われていた」といった事実を書き込まれた場合は、名誉毀損罪が成立する可能性が高いといえるでしょう。

口コミでの批評も名誉毀損で訴えられる?

口コミで批判的な内容を書いた場合、名誉毀損で訴えられる可能性はゼロではありません。一般的に口コミは良い評価もあれば悪い評価もありますが、あまりに悪質でお店の社会的評価を低下させるものの場合は名誉毀損が成立することもあります。

例えば、「料理があまり美味しくなかった」「店員が不親切だった」程度であれば名誉毀損が成立することはまずないでしょう。

一方、「ここの店長は昔傷害罪で捕まった前科がある」「出された料理に毎回虫が入っている」などの事実を摘示し、社会的評価を低下させた場合は罪に問われる可能性もあります。また、刑法上の罪に問われなくても、慰謝料や損害賠償請求が認められる可能性が高いでしょう。

インターネットの名誉毀損に関する裁判例

インターネットの名誉毀損に関する裁判例として、民事上の名誉毀損が認められたケースと刑事上の名誉毀損が認められたケースの2つを紹介します。

民事上の名誉毀損が認められたケース:損害賠償請求事件

インターネット上で第三者になりすまし、誹謗中傷を行ったことで民事上の損害賠償請求が認められた裁判例です(大阪地方裁判所判決平成29年8月30日 平成29(ワ)1649)。

被告は、自身の名前と顔写真を使用して第三者になりすましたアカウントを作り、インターネット掲示板で第三者を誹謗中傷する投稿を繰り返しました。

裁判所は原告の名誉権、プライバシー権、肖像権、アイデンティティ権を侵害したとして、被告に対し、慰謝料60万円、弁護士費用約70万円を原告に支払うよう求める判決を出しました。

被告は当初「なりすまし行為をしたことはない」などと主張していましたが、なりすましとして特定されたアカウントに投稿したと回答し、これを覆す証拠も出なかったため、名誉毀損と肖像権侵害が認められたのです。

刑事上の名誉毀損が認められたケース:名誉毀損被告事件

自身のホームページ上で、特定のラーメン店について虚偽の内容を記載した文章を掲載して、刑法上の名誉毀損罪が認められた裁判例です(最高裁判所第一小法廷判決平成22年3月15日 平成21(あ)360)。

被告人は、自身が作成したホームページ上で、特定のラーメン店について「カルト集団である」などと書き込みをしました。

この件について、最高裁判所は、被告人の一方的な立場から書かれたもので、確実な資料や根拠に照らして同書き込みには相当の理由があるとはいえないとして、名誉毀損罪に当たると判断しました。

ホームページ上での書き込みは、不特定多数が閲覧可能であり、被告人の書き込んだ内容は事実摘示性や名誉毀損性の要件も満たしていると判断されています。このようなケースの場合は、名誉毀損罪が成立しやすいといえるでしょう。

名誉毀損が成立するための条件を把握しておこう

名誉毀損を罪に問うためには「公然性」「事実摘示性」「名誉毀損性」の3つの要件を満たさなければなりません。加害者の言葉により傷ついたと感じても、その発言が閉鎖性のある場所で行われたり、事実の摘示があったとはいえなかったり、社会的評価を下げるとまではいえなかったりする場合、名誉毀損罪は成立しません。

もっとも、名誉毀損罪には当たらなくても侮辱罪であれば成立するケースもあります。また、刑事上の罪には問えなくても、民事上の不法行為に当たるとして慰謝料や損害賠償請求ができるケースもあります。

名誉毀損については、事案ごとに、法律上の要件を充足するかどうか当てはめて考えることが大切です。


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