• 作成日 : 2021年11月19日

建物賃貸借契約書とは?記載項目や雛形をご紹介

建物賃貸借契約書とは?記載項目や雛形をご紹介

建物賃貸借契約は日常生活に密接に関わる契約で、契約書の書き方には注意が必要です。住居用や事業用など、物件の内容によっても記載項目は変わってきますが、ここでは一般的な例を挙げつつ紹介していきます。
建物賃貸借契約の内容や印紙の扱いを含め、記載項目別の注意点を解説します。契約書の雛形・テンプレートについても当記事で紹介していきます。

建物賃貸借契約とは?

建物賃貸借契約とは、マンションやアパートなど、建物の貸し借りのために締結される契約です。住居用に貸し借りすることもあれば、オフィスビルなど事業用に提供されることもあります。

普通建物賃貸借契約

普通建物賃貸借契約は、1年以上の賃貸借期間を設ける賃貸借契約を指します。期間こそ定められていますが、貸主・借主ともに解約の意思を示さなければ、同条件で更新され続けるのが一般的です。

なお、特段の賃貸借期間を設けない契約もあり、賃貸人から解約を申し出る場合には、申し入れから6カ月の猶予時間が必要とされます。

定期建物賃貸借契約

期間の満了によって更新が行われず確定的に契約が終了する契約を「定期建物賃貸借契約」といいます。
定期建物賃貸借契約の場合、普通建物賃貸借契約で禁止されている1年未満の期間の設定や、賃料増減額の請求の排除など、貸主側の意思が反映されやすくなります。

普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の違い

普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の大きな違いは下表の通りです。

普通建物賃貸借
定期建物賃貸借
特徴
一般的な建物賃貸借契約
借主に有利
一定期間経過後必ず契約関係が終了する建物賃貸借契約
貸主に有利
使用目的
住居用、事業用いずれも可住居用、事業用いずれも可
契約の締結方法
口頭でも可口頭は不可
書面(公正証書等)によらなければならない
契約期間
1年未満の場合には「期間の定めがない」ものとみなされる1年未満の契約も可
契約の更新
原則更新
貸主からの更新拒絶には正当事由が必要
不可
※ただし再度契約を締結することは可能
賃料増減額の請求
可能
※特約による排除不可
可能
※特約による排除可能

注目すべき点は以下の通りです。

  • 貸主からの契約終了申し入れに必要な正当事由の有無
  • 貸主からの更新拒絶に必要な正当事由の有無
  • 特約による賃料増減額請求権の排除

それぞれの契約内容を理解するためにも、十分に注意が必要なポイントです。

建物賃貸借契約に関する法律

建物賃貸借契約に関わる法律には、「民法」「借地借家法」「消費者契約法」などがあります。

民法は不動産に限らず、非常に幅広い規律を定めた法律で、多くの法律の基礎ともいえる法律です。一方ですべての事例に対して網羅できない面も持ち合わせています。
借地借家法はその名の通り、土地や建物などの不動産取引に関する規律が定められている法律です。建物賃貸借契約の更新などにおいて、民法ではカバーしきれない一定の場合に適用される特別のルールを置いています。
そのため借地借家法が適用される場面では、基本ルールの民法は上書きされる形となり、借地借家法で定めているルールが優先されます。
また借主が消費者であれば消費者契約法が適用され、より借主保護の機能が働きます。

建物賃貸借契約の締結方法

建物賃貸借契約の締結は、貸主と借主が直接やり取りするのではなく、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。貸主にとっては、入居希望者とのやり取りが減る上、適切な借主を探してもらえるといったメリットがあります。また借主にとっても、複数の賃貸物件の中から自分にあった物件を選んでもらえる上、それぞれの大家と個別にコンタクトを取る必要がありません。

不動産会社が入居者を見つけ、申し込みを受ければ、入居の審査が行われます。主に、毎月の賃料を支払い続けることができる資力があるかどうかを問うことになります。その後入居希望者は賃貸に関する重要事項説明を受け、ようやく建物賃貸借契約の締結に至ります。

建物賃貸借契約書の記載事項と注意点

それでは肝心の契約内容についてですが、建物の賃貸借において記載すべき事項は多岐にわたります。以下ではそのうち基本的な条項を挙げ、それぞれの注意点を説明していきます。

使用目的

賃貸借契約においては使用目的を定めるのが一般的です。使用目的を明確に定めていなければ、原状回復の際に問題となることがあります。例えば貸主としては住居として貸したつもりでも、相手方が飲食店として使用してしまうおそれがあるのです。
貸主が意図しない利用のされ方により周囲の住人に対しても影響が及ぶことがありますので、「わざわざ設けるほどでもない」と思われる場合でも明確に記載しておきましょう。また、使用目的と後述の禁止事項を併せて設定しておけば、使用目的外の利用をしたときに契約解除ができるようになります。

賃貸借期間

契約期間に関する定めも非常に重要です。特に借地借家法との関係が重要で、同法が適用される場合には最低でも1年以上の契約期間を設けなければなりません。これより短い期間を設けてしまうと、法的には「期間の定めのない契約」として扱われます。「1年間の契約」になるわけではない点には注意しましょう。

賃料

当然ながら、毎月生じる賃料についても記載が必要です。月々いくら支払うのか、明確に示しましょう。

なお、必要に応じて賃料の増額に関する内容も記載しておくと良いでしょう。借地借家法が適用される場合、状況に応じて賃料の増額請求ができます。増額請求は法的に認められているため契約書内に記載する義務はありませんが、賃貸人とのトラブルを避けるためにも増額の可能性がある旨記載しておくと良いでしょう。
ただし、貸主の都合のみをもって簡単に増額ができるわけではありません。増税や近隣不動産の価格上昇など、相応の事由が必要です。

共益費

共益費はマンションやアパートにおける共用部分の管理維持にかかる費用です。
賃料と同じく月々支払うことになる費用ですので、やはり明確に記載しておくべきです。なお、賃料とは区別し、それぞれいくらかかるのかをわかりやすく記載しましょう。

敷金

敷金は保証金としての性質をもつ金銭です。建物の明け渡し後、未払いの賃料がある場合にはその分に充てられたり、原状回復に費用がかかるのであればそちらにも充てられたりします。こういった支払いを済ませた後に残額があるなら、その分は借主に返還する必要があります。

なお、契約終了時に一定割合の敷金が償却される旨契約に定めても有効です。つまり、「本件建物の明け渡し後、敷金は10%を償却し、その上で未払い債務等を差し引いて返還する」といった記載をすれば、全額を借主に返還する必要ななくなります。ただしあまりに不利な特約は無効になる可能性があります。
あまり一般的ではない特約のため、解約後揉めることのないよう契約時にこうしたルールがあることを伝えておくべきでしょう。

また、敷金と並んでよく出てくる金銭に「礼金」があります。こちらは借主から借主へのお礼や手数料といった性質をもつ金銭であり、返還が予定されません。敷金とは全く性質が異なりますので、混同しないように注意しましょう。

契約更新

借地借家法の適用がある場合、契約期間が満了する半年~1年前までの期間に更新を拒絶する通知をしなければ、貸主側から賃貸借契約を終了させられません。借主保護の観点から、賃貸借契約は自動的に更新するように法定されているのです。更新後も、それまでの契約内容と同一の内容が継続されます。
また、更新を拒絶する場合にも貸主には正当事由が求められるため、簡単に更新を拒絶することができません。

法的な借主保護が強力な一方、貸主には契約更新料を自由に設定する権利があります。「更新する場合、乙は甲に対し、賃料1カ月分の更新料を支払わなければならない」といったような、更新の度に金銭を受け取れる契約は、貸主側の権利を保護するためにも有効な手立てです。
ただし、高額な更新料の設定は住人の定着を阻害するおそれもありますので、適度な金額での設定を心がけましょう。

禁止または制限される行為

借主に禁止または制限したい行為がある場合には、禁止事項の条項を設けましょう。
一般的には、「目的外使用の禁止」「物件を第三者へ譲渡または転貸する行為の禁止」「第三者の使用のために提供する行為の禁止」「他住人への迷惑行為の禁止」「ペット飼育の禁止」などが挙げられます。

また、禁止まではしないものの、無断の造作による価値減少を防ぎたいのであれば別途その旨条項を設けましょう。造作を行いたいならあらかじめ設計図を提示すること、そして承諾を受けなければならないということを記載しておくのです。

他にも具体的な状況において必要と思われる禁止事項等があればここに記載しておくべきでしょう。ただし、ここに定めを置きさえすれば何でも制限できるわけではありません。

明け渡し

契約終了後、直ちに物件の明け渡しをしなければならない旨記載します。明け渡しに関しては原状回復や造作買取請求権などと併せて記載されることも多いです。

原状回復

通常、契約終了後、借主は物件を「原状に復して」明け渡さなければなればならないと定められます。つまり、借主は物件を借りる前の状態に戻してから返す義務があります。この原状回復に費用がかかる場合は敷金等から徴収され、不足分があれば追加で支払う必要があります。ただし損壊がある場合などとは異なり、経年劣化に関しては原状回復の義務が課せられません。

一方で、契約書内に本件物件を「現状のまま」明け渡さなければならないと記載すれば、この原状回復の義務を免除することになり、借主側が有利な内容となります。

修繕

修繕費に関して、何をどちらが負担するのか、負担者の定めを記載しましょう。
原則として物件の使用収益に必要な修繕義務は貸主にあります。ただし、借主が自分で持ち込んだ備品や備え付けの備品の修繕費は、借主自身の負担になります。

修繕費は非常に揉めやすい事項のひとつです。大きなトラブルになるおそれもありますので、双方の負担範囲は明確化しておくべきです。単に「大きな修繕」「小さな修繕」などと区分けしたのでは不十分です。生じる可能性の高い具体例を示し、例えば「照明器具に関する毀損等の修繕は、借主が費用負担して行う」などと記載しておくのが良いでしょう。

また、大規模な修繕に関して貸主に負担を課したとしても、やはり公序良俗違反や信義則違反に該当して無効になる可能性があることは知っておきましょう。

造作買取請求権の放棄

こちらも明け渡しや原状回復と併せて記載されることが多い項目です。借地借家法では、貸主の同意を得て建物に造作した場合、借主は貸主に造作を買い取るように求める権利があります。もし造作の買取請求を防ぎたいのであれば、契約書に買取請求権の放棄を求めるよう盛り込んでおきましょう。

例えば「明け渡しの際、乙は甲に対して、造作買取請求権など一切の金員を要求しない」などと記載します。造作の請求権は法的に認められている権利ですので、規定を置いていたとしても有効になるとは限らず、立退料といった形で金銭を支払うことになる場合もあります。

連帯保証

連帯保証に関する定めは貸主のリスクを低減するための重要な条項です。
主たる債務者である借主と連帯責任で債務を負う者(連帯保証人)を設定し、未払い家賃を回収しやすくするのです。連帯保証人は、賃料支払いなどの債務の弁済に関しては借主と同じ立場に立たされるため、借主の資力に不安要素がある場合でも、連帯保証人から債権を回収できるようになります。

なお、「連帯保証人」と「保証人」は異なる概念ですので、明確に区別しなければなりません。一般用語としての保証人は連帯保証人を指して呼ばれることが多いのですが、保証人には抗弁権が認められていますので、貸主が保証人に支払いを求めても保証人が「先に借主本人に請求してください」と主張できます。一方の連帯保証人は抗弁権が認められませんので、請求に対して支払い義務を負わなければならないのです。

よって、連帯保証人による強い保証を求めるのであれば、契約書内に「連帯保証人」や「連帯して」という文言を含めるようにしましょう。

合意管轄

合意管轄とは、当該契約に関してトラブルが発生し、訴訟提起をすることになった場合、どこの裁判所で争うかを決めることをいいます。
住所地が離れた者と争うことになれば、裁判所の立地が訴訟に係る負担に大きく影響してしまいます。これは単に移動の負担がかかるというだけでなく、弁護士費用が変わってくることにも関係しています。

なお、確実に特定の裁判所にだけ管轄を認めるには、契約書内に「○○裁判所を専属的合意管轄裁判所とする」と記載すべきです。「○○裁判所を合意管轄裁判所とする」としたのでは覆される可能性があります。

和解合意

訴訟に備えた条項のひとつに「和解合意」があります。
例えば「本契約について争いが生じたとき、当事者は民間紛争解決手続きにより解決を図るものとし、当該判断を最終のものとしてこれに従うものとする。」などと定めます。紛争の長期化を防ぎ、早期にトラブル解決を図るため、和解による終結に関して合意をしておくのです。

協議

「協議」あるいは「協議解決」は紛争回避を目的とした条項です。
当事者間の協議によって解決することとし、できるだけ裁判所などを介した面倒な手続きをせずに解決を目指そうという意向を示すのです。

多くの契約書で設けられる条項ですが、契約書内に協議解決の規定を設けていても法的にはあまり意味はありません。そのため最終的に訴訟を提起する可能性は残りますが、こうして契約書内で協議による解決を示しておくことで、双方の姿勢を促す効果は期待できます。

中途解約

中途解約の条項は、契約期間途中による解約を認めるための規定です。
貸主は中途解約の条項を設けたところで正当事由がなければ解約できないため、主に借主の利益のために設けられます。

逆に、一定期間契約を継続させたいケースでは「中途解約禁止」の条項を設けます。中途解約禁止条項を設ける場合には、期間満了までの賃料相当額を違約金として設定すると効果的です。ただし違約金が高額過ぎると無効になる可能性がありますので注意が必要です。

建物賃貸借契約のテンプレート

建物賃貸借契約書のテンプレート、雛形については、国土交通省が公表している「賃貸住宅標準契約書」を見てみましょう。賃貸借契約に関する紛争の防止、借主の居住の安定や貸主の経営の合理化などを目的とした契約書のモデルが掲載されています。
民法改正や近年の社会情勢などを踏まえ、適宜改定もなされています。
こちらのページでその内容が確認できます。

住宅:『賃貸住宅標準契約書』について – 国土交通省

建物賃貸借契約に関して気になるポイント

契約に関して「印紙はどうする?」「押印のやり方は?」「契約書をなくしたらどうする?」といった疑問を抱く方もいることでしょう。以下で気になるポイントを解説していきます。

印紙について

契約書などの書面に取引金額を記載した場合には印紙税が課税され、納税のために収入印紙を貼り付けることがあります。
しかし、建物賃貸借契約書は印紙税の課税対象ではありません。当該契約書中に、物件の所在地や範囲を示す目的で敷地面積が記載されていたとしても同様です。

一方で、土地の賃借に関する契約書は課税対象となりますので、表題が建物賃貸借契約とされていても、敷地に関する賃貸借を含む場合には収入印紙を貼り付ける必要があります。

印鑑・割り印について

建物賃貸借契約書への押印は、実印が必須とされているわけではありません。認印であっても契約書は有効に機能します。

また、契約書を2部以上作成する場合には割り印もしましょう。複数の契約書に印影がまたがるようにして押印します。これは契約書の改ざんを防ぐためです。割り印に関しても実印であることが必須とはされていません。

ただし改ざん防止の効果を強めるのなら、やはり認印より実印を押印すると良いでしょう。

建物賃貸借契約書を紛失した場合

建物賃貸借契約書は、トラブルでもなければ見返すことが少ない書類です。そのため場所がわからなくなったり、紛失してしまったりすることもあり得ます。
この場合でも何かペナルティが課せられるということはありませんが、本当にトラブルが生じた際に対処できなくなります。
紛失したらトラブルが生じる前に、相手方に連絡してコピーをさせてもらいましょう。もしくは仲介会社に連絡をしてコピーをさせてもらっても良いでしょう。

建物賃貸借契約は電子契約で締結できるようになる

最近では電子取引の機会も増え、電子契約として契約を締結することも増えました。

ただ、すべての契約が電子契約として締結可能にはなっていませんでした。法律上、書面でのやり取りが求められている一部の契約に関しては電子化ができていなかったのです。例えば建物賃貸借契約書や重要事項説明書、定期建物賃貸借契約書も公正証書等を用いて締結することが条文に記載されており、オンラインでの完結はできない状況にありました。

しかし、法改正によりこれらのルールが変わります。すべての工程がオンラインで進められるようになり、普通建物賃貸借契約、定期建物賃貸借契約も電子契約が可能となります。

2022年5月から施行予定ですので、よりスムーズな契約手続きが進められるよう、体制を整えておきましょう。体制を整えるためにはマネーフォワード クラウド契約のような、電子契約サービスを導入することが一番の近道です。マネーフォワード クラウド契約であれば紙の契約書の運用も可能ですし、電子文書と併せて一元管理が可能です。

建物賃貸借契約書を正しく記載し、トラブルなく物件の貸し借りをしましょう

建物賃貸借契約は、トラブルが生まれやすい契約のひとつです。負担の分担や契約の更新、敷金・礼金など、様々な原因で揉める可能性があります。そのためこういったリスクを最小限に留めるためにも契約締結時から契約書の作成方法に配慮し、互いに納得がいく形の契約を行いましょう。

よくある質問

建物賃貸借契約書とは?

マンションやアパートなど建物の貸し借りにおいて交わされる契約書です。詳しくはこちらをご覧ください。

建物賃貸借契約書の記載項目には何がある?

賃料や敷金に関することから、使用目的、契約期間、禁止事項、解除事由、原状回復に関することなど、トラブルを避けるため様々な条項を定めていきます。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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