- 作成日 : 2024年12月27日
飲食店の賃貸借契約の注意点は?契約書のチェックポイントやトラブル事例も紹介
飲食店の運営に関わる賃貸借契約では、「定期借家と普通借家の選択」「契約書の確認」「居抜き物件特有の注意点」など多くの留意点があります。特に、設備関連の取り決めや原状回復義務の範囲、近隣トラブルの防止策などは慎重な確認が必要です。当記事ではこれら飲食店における賃貸借契約の注意点をまとめて紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
飲食店の賃貸借契約では定期借家契約と普通借家契約のどちらがいい?
飲食店を始める時、店舗として使う物件に関して賃貸借契約を交わすことがあります。
契約形態として大きく①普通借家契約と②定期借家契約の2種類がありますので、それぞれの特徴を理解して自店に合った契約形態を選択することが大事です。
契約の種類 | 主な特徴 |
---|---|
①普通借家契約 |
|
②定期借家契約 |
|
契約の更新が認められる普通借家契約が一般的な契約類型となりますが、これから初めて飲食店の開業を行う方であれば、定期借家契約について検討してみるのもよいでしょう。
定期借家であれば初期投資を抑えられますし、業績に応じて他のエリアへの移転も検討しやすくなります。また、実績がなくても普通借家に比べて審査に通りやすく交渉がスムーズになりやすいでしょう。
一方、飲食店経営の実績がある方や特定のエリアで継続的に営業していくことが確定している方には、普通借家契約を前提に検討することになるでしょう。
定期借家契約で物件を借りた後に、普通借家契約に契約類型を切り替えるという方法もあります。ただし、契約類型を定期借家契約から普通借家契約に切り替えられるかどうかは貸主との交渉次第になりますので、必ず切り替えられるというものではありません。
飲食店における賃貸借契約書レビューの注意点
店舗を借りる際に取り交わす賃貸借契約書については、サインをする前によく記載条項を確認しておかないといけません。この契約書レビューを怠ると将来大きなトラブルが起こる危険性が高まってしまいます。
特に、飲食店特有の設備や営業形態に関する取り決めについては、慎重な確認が大事となります。特に着目したいポイントを以下に整理しますので目を通しておきましょう。
費用負担
飲食店の賃貸借契約では、一般的な事務所や店舗以上にさまざまな費用負担が発生します。
特に重要なのが「水道光熱費の計算方法や支払い方法」「共益費の算定基準」「空調設備等の維持管理費用の分担」などです。
契約書でこれらの情報が明確に記されているかどうか、よく確認するようにしてください。
店舗内設備の修繕費用負担に関して、貸主と借主の分担を明確にしておくことも大事です。一般的には、小規模な修繕は借主負担、構造に関わる大規模修繕は貸主負担とされますが、その境界を金額や修繕の種類で明確にしておきましょう。
賃料の支払い
賃料に関しては、「固定の賃料を支払い続けるタイプ」や「売上高に応じて賃料が変動するタイプ」、そして「固定賃料に売上歩合を組み合わせたハイブリッド型の賃料設定」というパターンもあります。
売上高に対応する場合には、売上の定義(税込みか税抜きか、配達売上やケータリング売上の扱いなど)や計算方法、報告義務の内容についての確認が必要です。
また、賃料の改定条項に関して、改定のタイミングや基準が明記されているかどうか確認しましょう。物価の変動に応じて賃料が変わることがあるのか、公租公課の増額に伴う賃料改定があるのか、などレビューを行うときには留意しておくべきです。
原状回復義務の範囲
飲食店で原状回復は、一般的なテナントと比べて対象範囲が広く、費用も高額になりがちです。厨房設備や換気設備、給排水設備などの設備の撤去範囲、床や壁の仕上げの回復方法、天井裏や床下の配管の処理方法など、具体的な原状回復の範囲と方法が契約書に記されているか、確認しておきましょう。
スケルトン渡し(内装なしの状態での賃貸)だったのか、造作付きだったのかによって、原状回復の範囲が大きく異なります。契約書には現状の詳細な記録(図面や写真)を添付し、どの状態まで回復する必要があるのか、明確にしておくことが大事です。
とはいえ契約書に定められているからといって、全てのルールが適用されるとは限りません。原状回復に関する特約があっても、過度に借主に不利な内容であるなど合理性を欠いているときなどには法令に従い無効となるケースもあります。
設備の位置変更や電気容量増設の可否
開業後に厨房レイアウトの変更や新規設備の導入が必要になった場合を想定し、設備の位置変更や電気容量の増設が可能かどうかを事前に確認することも大事です。
特に、以下の点について明記されているかチェックしておきましょう。
- 厨房設備のレイアウト変更の可否とそのときの手続き
- 電気容量の増設可能範囲と費用負担
- 給排水設備の増設や変更の可否
- 排煙・換気設備の改修可能範囲
これらの変更には建物の構造上の制限が関係することも多いため、建築基準法や消防法上のルール、技術的な可否と契約上の可否の両方を確認する必要があります。
指定業者の有無
多くの商業ビルでは、設備工事や定期的なメンテナンスに一般的な慣行として貸主の指定する業者の利用が義務付けられています。
そこで契約書から以下の内容を確認する必要があります。
- 設備工事における指定業者の範囲
- 定期点検や清掃の指定業者の有無
- 害虫駆除や排水管洗浄などの衛生管理作業の指定業者
- 指定業者を利用しない場合の手続きや条件
指定業者の利用は工事やメンテナンスのコストに直接影響するため、事前に業者のリストや標準的な費用の目安を確認しておくようにしましょう。
また、指定業者以外の利用が認められる場合の条件(資格要件や事前承認の手続きなど)についても要チェックです。
飲食店の賃貸借契約書レビューでは、以上で紹介した各項目については重点的に確認しておき、必要に応じて追加の条項や細則を設けることも検討しましょう。
飲食店が居抜き物件を賃貸借契約する際の注意点
「居抜き物件※」を契約する際は、通常の賃貸借契約の場合に加えて、前テナントから引き継ぐ設備や内装に関する確認事項が発生します。
※居抜き物件とは、以前テナントで使用されていた内装や厨房設備や排気設備、給排水設備などがそのまま残された物件のこと。
経費削減の観点から居抜き物件は魅力的ですが、慎重な判断が必要です。
造作譲渡の対象を明確にする
居抜き物件では、前テナントが設置した造作物や設備を譲り受けることになります。この際、譲渡対象となる造作物や設備を契約書で明確に特定することが重要です。
例:厨房設備、空調設備、電気設備、給排水設備、内装、カウンター、テーブル、椅子などの備品類。
また、造作譲渡に関しては以下の点を明確にする必要があります。
- 譲渡価格の内訳と支払い条件(価格の算定基準や支払い方法、時期なども)
- 各設備の所有権の移転時期
- 保証や契約不適合責任の範囲
- メンテナンス履歴や取扱説明書等の引き継ぎ
内装や設備に問題がないか確認する
居抜き物件の内装や設備は、前テナントの使用による経年劣化や損傷が生じている可能性があります。契約前には専門家を利用するなどして設備の状態をチェックしておきましょう。
例えば給排水設備に関しては、配管の詰まり具合や腐食、水漏れの有無を確認します。特にグリストラップや排水管は、飲食店特有の油脂による劣化が起こりやすいため、清掃状態や補修履歴の確認が重要です。
電気設備については、契約電力容量が予定している営業形態に適しているか、配線や分電盤の状態、アース設備の有無などを確認します。古い物件では電気容量が不足していることもありますので、その場合は増設工事でさらにコストが発生してしまいます。
換気設備については、排気能力や防火ダンパーの状態、ダクト内の清掃状況を確認します。特に、油煙を多く扱う店舗の場合、ダクトの清掃状態が重要です。
前テナントの撤退理由を知っておく
前テナントの撤退理由を把握することは、物件や立地の特性を理解するうえで重要な情報となります。営業不振による撤退なのか、他の理由による撤退なのかで物件の評価が変わってきます。
この観点からチェックすべきポイントは以下の通りです。
- 売上や集客の状況
→ その立地での商圏規模や需要を把握するため。 - 近隣とのトラブルの有無
→ 騒音や臭いなどの問題の起こりやすさを把握するため。 - 建物や設備の問題
→ 設備故障や建物老朽化などによるリスクを確認するため。
これらの情報は、貸主や不動産仲介業者から直接聞き取ることが難しい場合もありますが、可能な限り情報収集を行うようにしましょう。また、近隣店舗や地域の商店会などからも情報を得ることで、より実態に即した判断が可能になります。
飲食店で定期借家契約の居抜き売却をする際の注意点
前項では飲食店の居抜き物件を利用する立場からの注意点を紹介しましたが、次に、居抜き売却(譲渡)をする場合の注意点について紹介していきます。定期借家契約物件の場合は特に留意しておきたい点がありますので、以下の項目に注目してください。
店舗引き継ぎ後の残契約期間を買取希望者に伝える
定期借家契約は契約期間満了により終了するため、買取希望者に対して以下の点を明確に説明する必要があります。
- 現在の契約の残存期間
- 月額賃料や共益費などの諸経費
- 敷金・保証金の残額と返還条件
- 原状回復義務の範囲と想定費用
特に残存期間が2年未満の場合は投資回収期間の観点から買手が付きにくくなる可能性がありますので、売却価格の設定にあたっては残存契約期間を考慮することが大事です。
契約期間満了後の再契約可否を確認する
定期借家契約の場合、契約期間満了後の再契約には貸主との新たな合意が必要です。そのため売却前に以下の点を貸主に確認し、買取希望者に伝えることも大切です。
- 再契約の可能性
- 再契約時の賃料改定の有無
- 再契約時の契約期間
- 再契約時の保証金・敷金の条件
特に貸主が再契約に前向きでない場合や、大幅な賃料増額を予定している場合は、買取希望者の判断に大きく影響する可能性が高くなります。
そこで契約期間満了後の立ち退きリスクも考慮し、充分な投資回収期間を確保できるよう適切な売却のタイミングを検討しましょう。
なお、居抜き売却と賃貸借契約の承継には貸主の承諾が必要となるため、売却交渉の早い段階で貸主への打診を行うことが望ましいといえます。
飲食店の賃貸契約でよくあるトラブル事例
飲食店の賃貸借契約においては、一般的な店舗と比べて設備面や近隣との関係で特有のトラブルが発生しやすい傾向にあります。実際にはどのようなトラブルがよく起こるのか、その内容と対処法について押さえておきましょう。
設備・内装の不具合
飲食店では、設備に関するトラブルが起こりやすくなっています。
例えば「給排水設備の不具合」です。これは飲食店の営業に直接影響を及ぼす重大な問題ですので、大きな問題が発生する前に対処しておくことが望ましいです。排水管の詰まりによる水漏れなどは事前の設備確認で防げるケースも多いため、契約前には必ず設備のチェックを行っておきましょう。必要に応じて専門の業者に依頼します
電気設備に関しては、契約時の容量が実際の使用に不足しているケースも散見されます。特に、以前カフェの経営が行われていた場所でラーメン店の経営を行う場合のように、業態の変更があるときは調理機器の増設などにより電気容量が不足する危険性もあります。契約前に予定している設備の消費電力を確認し、必要に応じて増設工事の可否と費用負担などを貸主と協議しておきましょう。
契約内容の解釈に関する問題
「契約書を作成したから安全」というわけでもありません。ルールが定められていても、表現方法によっては複数の解釈ができてしまうこともあるのです。
特に多いのが「原状回復の範囲」を巡っての争いです。飲食店の場合、油汚れや臭気の除去、専門設備の撤去など、一般の店舗より原状回復費用が高額になりがちです。そこで契約終了時のトラブルを防ぐため、契約書にルールを定めることが一般的なのですが、記載方法があいまいであったり、異なる意味で読み取ることができたりすると、結局揉め事が回避し切れません。そのため特にトラブルになる可能性が高い項目については、弁護士にも相談して作成をサポートしてもらうことが望ましいといえます。あるいは作成した契約書案の確認を弁護士にしてもらうとよいでしょう。
ほかにも「営業時間の制限」や「業態変更の可否」などに関しても解釈違いによるトラブルが起こり得るため注意してください。
近隣との騒音・臭気トラブル
貸主ではなく、近隣とのトラブルが原因で賃貸借契約が解除される危険性もあります。特に問題となりやすいのが「騒音」や「臭気」です。騒音に関しては、店舗からの音楽や客の声、深夜の片付け作業や早朝の仕込み作業による音などが問題となる可能性があります。換気扇やクーラーの室外機の音にも留意しましょう。トラブルを防ぐには、防音工事の実施や営業時間の制限の確認、作業時間帯の調整、機器の設置場所の適切な選定などが有効です。
臭気問題に関しては、特に焼肉店やラーメン店など強い臭いが出やすい業態で注意が必要です。換気設備の性能不足や清掃不足が原因となることが多いため、適切な換気設備を選定すること、定期的なメンテナンスや清掃を行うことなどに留意しましょう。
賃貸借契約前に契約書の内容や物件の実態を精査しよう
どの事業者においても借りる物件についてよくチェックすることは大事ですが、とりわけ飲食店では慎重にならないといけません。
定期借家とするのか普通借家とするのか、費用負担や設備関連の取り決めはどうなっているのか、原状回復義務のことなども契約書でどのように記載されているのか精査しましょう。
加えて、当該物件の実態についても調査しておくべきです。以前どのように利用されていたのか、現在設備の状態はどうなのか、など事前のチェックが後々のトラブルを回避するうえでとても大事になってきます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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