- 更新日 : 2025年3月25日
民法109条とは?表見代理の要件や110条との違いをわかりやすく解説
民法109条は、表見代理について定めた法律です。表見代理とは、代理権のない者が代理人であると誤信させて代理行為を行うことです。代理権のない行為は原則無効で本人には効果帰属しませんが、表見代理が成立すると認められると有効で、本人に契約の効果を適応できます。
本記事では、民法109条で定める表見代理について解説します。表見代理の要件や110条との違い、民法109条に関連する判例も紹介します。
目次
民法109条とは
民法109条の条文は次の通りです。
- (1項)第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。
ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 - (2項)第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
最初に、民法109条の概要と目的について解説します。
民法109条の概要
民法109条は、代理権のない人(無権代理人)が代理権を所有するように見せかけて代理行為を行った場合の取り扱いを規定するものです。
1項の「代理権を与えた旨を表示」とは、代理権を与えたと誤解させるような行為や状態のことです。代理権を与えた旨を表示した場合、無権代理人が行った代理行為は「表見代理」として法的効果が生じ、本人に契約の効果を帰属させることができます。無権代理人が行った売買契約も表見代理が成立すれば、本人に効果が及びます。
ただし、相手方が代理権はないことを知っていたり、過失によって知らなかったりした場合は無効です。
2項では、代理権を与えた旨を表示した場合、表示した範囲を超えて代理行為を行った場合の取り扱いを規定しています。原則表示した範囲内で責任を負いますが、「代理権があると信ずべき正当な理由」があれば範囲外の代理行為についても責任が生じます。ただし相手方が、代理権があると信じたことについて過失がないことが前提です。
表見代理の1類型の要件を規定し、代理権の授与を信頼した者を保護する
表見代理は、代理権が授与されたことを信頼した者を保護するために設けられた法律です。
表見代理が認められると、代理権を信頼した者が期待した効果が生じます。たとえば、表見代理によって土地を購入した人は、代金の支払い義務を負うとともに土地を取得する権利を得ます。
表見代理と認められるのは、次の3つのケースです。
- 代理権を与えた旨を示したケース
- 代理行為が与えられた権限を超えているケース
- 代理行為が権限消滅後に行われるケース
1つ目のケースの取り扱い(表見代理に該当する要件など)を定めた民法109条は、表見代理の1類型です。2つ目、3つ目のケースについても、民法の別の条で規定されています。
民法109条が適用されるケース
民法109条1項または2項が適用されるケースを具体的に解説します。「代理権を与えた旨を表示」しているかどうかなど判断が難しい面もあるため、当事者となった場合は専門家に相談することをおすすめします。
1項が適用される場合
1項と2項が定める表見代理はどちらも、「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示」することが前提です。B所有の建物の購入を希望するAが、代理権を与えていないCを建物売買交渉の代理人であるかのように紹介し、CがAの名前でBの売買契約を行ったケースを例に売買契約の有効性を考えてみましょう。
一般的に、Cは無権代理者であるため売買契約は無効です。ただし、代理人であるかのように紹介したため表見代理と認められれば、Aは責任を取って売買契約を履行(不動産を購入し代金を支払う)しなければなりません。
しかし、Cが代理権を持っていないことをBが知っていた場合、契約は無効です。Bから契約の履行を求められた場合、Aは拒否できます。
2項が適用される場合
2項が適用される可能性があるのは、表示した範囲を超えて代理行為を行った場合です。たとえば、前述のケースでは建物の売買について代理権を与えた旨を表示していますが、Cが土地も同時に売買契約を締結してしまったケースなどです。
原則表示した範囲を超えた代理行為は無効ですが、Bには「代理権があると信ずべき正当な理由」があったことが認められれば土地に関する契約も効果を持ちます。
民法109条における代理権授与の表示とは
民法109条における代理権授与の表示とは、具体的には次の行為などが該当します。
- 代理権授与書や委任状、これらに類似する書類を交付する
- 従業員に決定権者と誤認させるような役職名(「〇〇統括責任者」「〇〇部長」)を名乗らせる
- 相手方に代理人であるかのように紹介する
- 代理人であるかのような行為を黙認する など
上記に該当しても表見代理と認められるかどうかは、状況次第です。通常求められる程度の注意を払っていれば気づくようなケースは表見代理とは認められません。
民法109条2項における「代理権があると信ずべき正当な理由」とは
民法109条2項における「代理権があると信ずべき正当な理由」は表示した範囲を超える代理行為に対するものであるため、該当するケースは限定されます。
前述の「民法109条が適用されるケース」で解説したケース(Aが建物売買契約について代理権授与を表示、Cが範囲外の土地についてもBと売買契約を締結)で考えてみましょう。
たとえば、代理権授与の表示(AがCを建物売買交渉の代理人であるかのように紹介)に加えて、Cに白紙の委任状を交付したり、Bに対し「Cは頼りになるから何でも任せている」と吹聴したりした場合、代理権があると信ずべき正当な理由があると判断される可能性があります。
民法109条2項と民法110条の違い
表見代理と認められる3つのケースを紹介しましたが、民法110条は「代理行為が与えられた権限を超えているケース」の取り扱いを規定するものです。正式な代理人が、与えられた範囲外の代理行為をした場合、民法109条と同様に取り扱うことを定めています。
民法109条2項と110条の違いは、代理権授与の有無です。前者は代理権を授与されていない無権代理人の代理行為の取り扱いを規定しているのに対し、後者が規定するのは代理権が授与された正式な代理人の行為です。
民法109条に関連する判例
民法109条の表見代理に関する判例を紹介します。最高裁判所判決(1970年7月28日・民事判例集第24巻7号1203頁)では、無権代理人が交付された白紙委任状などを濫用したことにより、白紙委任状の発行者の責任が問われました。概要は次の通りです。
- AがBに不動産を販売し、AはBの代理人Cに白紙委任状を交付した。
- Cは白紙委任状を濫用し、Aの代理人としてDとの間で不動産の交換契約を行う。
- Aから白紙委任状が交付されていることから、DはCに代理権があると信じた。
最高裁では、Dには「代理権があると信じたことに正当の理由」があればAに責任があるとして、原判決を破棄しました。白紙委任状の交付が、「正当な理由」の判断材料となった判決です。
表見代理を回避するために代理権の範囲を明確に
民法109条は、代理権を与えた旨を表示した場合の取り扱いを定めたものです。代理権がないことを知らなかった第三者を保護するために、善意・無過失を前提に無権代理人の代理行為を表見代理として有効化できます。
代理を依頼するとき、または代理人と契約するときは、代理権の範囲を明確にしてトラブル回避を図りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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