- 作成日 : 2024年4月5日
2022年6月施行の公益通報者保護法改正とは?事業者がおさえるべきポイントを紹介
2022年6月に改正公益通報者保護法が施行されました。改正を受けて、事業者には従事者の指定や通報に対応する体制の整備など、対応が求められます。違反により罰則が科せられる可能性もあるため、改正のポイントについて正しく理解しましょう。今回は、公益通報者保護法改正について、事業者が理解すべき重要なポイントを解説します。
目次
【2022年6月1日施行】公益通報者保護法改正のポイント
2022年6月1日に、改正公益通報者保護法が施行されました。
公益通報者保護法は、事業者の法令違反の発生と被害を防止するため、公益通報者を保護することを定めた法律です。公益通報とは、従業員や役員などが、事業者による違法行為を組織内の通報窓口や行政機関、報道機関などに通報することを指します。
そして、公益通報を行ったことを理由に従業員が不当な扱いを受けることを禁じ、通報者を保護するのが公益通報者保護法です。公益通報者保護法について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
近年、事業者による不祥事は後を経たず、社会問題となっています。不祥事を早期に発見・是正し、被害の防止を図ることが重要です。事業者自らが不正を是正しやすくするとともに、安心して通報を行える仕組みを整え、通報者をより保護できるよう、公益通報者保護法が改正されました。
以下では、改正公益通報者保護法における主な6つのポイントを紹介します。
- 事業者の体制整備の義務化
- 公益通報対応業務従事者の指定と従事者への守秘義務
- 公益通報者として保護される範囲の拡大
- 保護される通報対象事実の範囲の拡大
- 行政機関等への通報条件の追加
- 通報者の保護内容の拡大
参考:厚生労働省 公益通報者の保護
参考:消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)
事業者の体制整備の義務化
改正により、事業者には内部通報に適切に対応するための体制整備が義務化されました。
具体的には、公益通報を部門横断的に受け付ける窓口の設置、通報による悪影響を受けないような体制づくり、調査、是正措置の実施などが挙げられます。
ただし、従業員が300人以下の中小企業については努力義務とされています。この300人には役員は含まないものの、パートタイマーは含まれるため注意が必要です。
公益通報対応業務従事者の指定と従事者への守秘義務
改正により、事業者には公益通報対応業務従事者を指定することが義務付けられました。
公益通報対応業務従事者(以下、従事者)とは、内部通報の受付や調査、是正を行う者のことです。具体的には、内部通報受付窓口の責任者や担当者などが該当します。
事業者は、公益通報に対応する者を従事者に指定しなければなりません。そして、公益通報者を特定できる情報は、従事者以外扱えなくなりました。
従事者は、公益通報者を特定できる情報について守秘義務を負います。情報を漏らした場合、守秘義務違反として30万円以下の罰金が科される可能性があります。
公益通報者として保護される範囲の拡大
改正により、公益通報者として保護される対象に退職者と役員が追加されました。保護される対象は以下のとおりです。
- 労働者(正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマー、公務員)
- 退職や派遣労働終了から1年以内の者
- 役員
なお、取引先の労働者や退職者、役員も通報者に該当し、保護の対象となります。
保護される通報対象事実の範囲の拡大
保護される通報対象事実の範囲が拡大したのもポイントです。
これまで、保護の対象は公益通報者保護法や政令で定められた法律に違反する犯罪行為、つまり刑事罰の対象行為についての通報のみでした。改正により、過料の対象となる行為、つまり行政罰の対象になる行為への通報についても保護の対象となり、通報対象の範囲が拡大しています。
行政機関等への通報条件の追加
行政機関等への通報条件が追加され、通報しやすくなりました。従来と改正後の通報条件は以下のとおりです。
従来の通報条件 | 改正後に追加された通報条件 | |
---|---|---|
権限を有する行政機関への通報条件 | 通報対象事実があると信じるに足りる相当の理由がある場合の通報 | 通報対象事実があると思料し、かつ、氏名等を記載した書面を提出する場合の通報 |
報道機関等への通報条件 | 生命・身体に対する危害が生じると信じるに足りる相当な理由がある場合の通報 | 生命・身体のみならず財産に対する損害(回復困難または重大なもの)が生じると信じるに足りる相当な理由がある場合 事業者(役務提供先)が、通報者を特定させる情報を漏洩すると信じるに足りる相当な理由がある場合 |
条件が追加されたことで、より行政機関等への通報がしやすくなったと言えるでしょう。
参考:消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)
通報者の保護内容の拡大
改正により、通報者の保護内容に損害賠償責任の免除が追加され、保護の内容が拡大されました。
これまで、事業者が公益通報を理由に通報者を解雇するのは無効とされていました。同様に、退職の強要や降格、減給、退職金の減額といった不利益な扱いをすることも禁止されています。
さらに今回の改正により、公益通報によって損害を受けたことを理由に、事業者が通報者に対して賠償請求をすることも認められなくなりました。
事業者が対応すべきポイント
ここでは、改正公益通報者保護法を受けて、事業者が具体的に対応すべきポイントを紹介します。
- 従事者の指定
- 内部公益通報への対応体制を機能させるための措置
改正公益通報者保護法に適切に対応するためには、消費者庁の以下のハンドブックが参考になります。併せてご覧ください。
参考:公益通報ハンドブック
従事者の指定
前述のとおり、事業者は公益通報に対応する従事者を指定しなければなりません。従事者指定義務に違反した場合は、助言や指導、勧告、公表の対象となる可能性があります。
従事者の指定を行う際は、書面による通知のように、指定される者自身が従事者になることが分かるような方法を選びましょう。従事者は、公益通報者を特定できる情報について守秘義務を負う、重要な存在であるためです。
また、従業員に対して従事者指定制度に関する周知や教育活動を行うことも求められます。
内部公益通報への対応体制を機能させるための措置
内部公益通報への対応体制を機能させるための措置を講じることも必要です。単に窓口を設置するだけでは、十分に機能せず形骸化してしまう恐れがあります。
公益通報者保護制度に関する従業員への教育や周知のほか、定期的な体制の見直しや内部規程の策定・運用、通報記録の保管などの措置を講じましょう。
通報を受けて是正に必要な措置をとった後は、措置が適切に機能しているかをチェックし、必要に応じて措置を変更することも大切です。
事業者が押さえておきたい改正の注意点
事業者は、公益通報者保護法が改正された背景について正しく理解し、事業者が負うべき責務を理解する必要があります。
前述のとおり、公益通報者保護法が改正された背景には、企業による不正が相次いでいたことが挙げられます。従来の公益通報者保護法では、公益通報者の保護や通報対象事実の範囲が不十分であるなど、実効性が乏しいのではないかという問題が指摘されていました。そこで、2015年に消費者庁による検討会が設置され、議論の末法改正に至った、という次第です。
事業者には、こうした社会背景を踏まえて改正されたことを理解し、内部通報制度の整備が重要な責務であることを認識することが求められます。
公益通報者保護法改正の概要を理解し、対応体制を整えよう
2022年に改正公益通報者保護法が施行されました。改正により、事業者自らが不正を是正しやすく、そして公益通報者がより安心して通報できるようになったのがポイントです。 具体的には、公益通報に対応する体制整備や従事者指定の義務化、通報者の保護範囲拡大といった改正が行われました。
事業者が公益通報者保護法改正に対応するためには、まずは改正点について正しく理解することが欠かせません。事業者内部での自浄作用を高めて適切に対応し、社内外から信用される事業者を目指しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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