• 作成日 : 2023年11月17日

民法とは?事業者が知っておきたい概要や改正をわかりやすく解説

民法とは、個人や法人といった私人間の行動に対して適用される法律です。民法により私人の権利が保護され、経済活動を円滑に進めることが可能となります。

本記事では、民法の基本的な事項を見ていきます。事業者が押さえておくべき民法の概要や、2020年に改正された内容、勉強方法についてわかりやすく解説します。

民法とは

民法とは、私人間の権利や義務に対して適用される、全5編で構成された法律です。私人の権利を保護するために存在します。

「私人」とは、国や地方公共団体、行政以外の個人や法人のことです。私人は公人の反対語になります。「公人」は、国や地方公共団体、行政のことです。

民法の規定があることで私人間の権利義務関係が明確になり、契約や経済活動を円滑に進められるようになります。

民法の目的

民法は、シンプルにいうと「人や企業のための法律」です。人や企業を守るために存在します。物品を売買したりお金の貸し借りをしたりする場合や、故意や過失により損害賠償を請求する場合など、一定のルールがないと円滑に取引が進みません。円滑な取引を進めるために、民法というルールが必要になるのです。

民法の効力が及ぶ範囲は、取引や経済関係だけではありません。夫婦や家族についてもルールが定められています。たとえば、民法では結婚するときの条件や遺産を分割する際の割合などが決められています。

これら民法の規定により、私たちの生活上のルールが成り立っているのです。

民法の基本的な原則

民法は、下記の3原則に沿って構成されています。

  • 権利能力平等の原則
  • 私的自治の原則
  • 所有権絶対の原則

権利能力平等の原則とは、人は誰でも同じ権利能力をもつということです。民法ではこの原則により、性別や地位に関係なく平等に権利をもつことが規定されています。

私的自治の原則とは、私人間の権利義務は、各人の自由意思にもとづいて決定できるということです。同時に、国が私人に対して、強制的に権利や義務を決めるべきではないことも表されています。

所有権絶対の原則は、物の所有権を有している人が、自由に所有物を使用したり処分したりできることを意味します。公人が私人の所有物を勝手に所有、処分することは、民法上認められません。

民法が適用される行為

民法は私人対私人の関係で想定される問題について、ルールを定めた法律となります。したがって、適用対象は個人と企業にかかわる行為全般です。個人対個人、個人対企業、企業対企業のケースが該当します。

具体的には、物品の売買、金銭の貸し借りに関するトラブルといった財産関係の規定や、結婚や相続、遺言といった家族間の問題などが、民法の適用される行為となります。

民法の構成

民法は全5編で構成されています。具体的な構成は、次のとおりです。

  • 第1編:総則
  • 第2編:物権
  • 第3編:債権
  • 第4編:親族
  • 第5編:相続

さらに、第1編~第3編は「財産法」、第4編~第5編は「家族法」と呼ばれています。

企業の取引においては財産法の知識が必須です。ここからは、事業者にとって必要な財産法の概要について解説します。

総則(第1編)

総則は、民法全体に共通するルールを規定した項目です。具体的には、以下の事項が規定されています。

  • 権利能力
  • 意思能力
  • 行為能力
  • 意思表示
  • 代理
  • 時効 など

私人対公人(国や地方公共団体)、あるいは公人同士のルールを定めた法律である「公法」に対して、私人間のルールを定めた法律は「私法」と呼ばれます。また、対象が特定されず、広く適用される一般的な法律は「一般法」と呼ばれています。

つまり民法は、私人間のルールを定めた「私法」の「一般法」です。したがって、民法の総則で定められた規定が、私法全体のベースとなります。

物権(第2編)

物権では、物に対する権利に関するルールが定められています。物権について規定されていることから「物権法」とも呼ばれています。

物権の代表格は、物を所有する権利である「所有権」や、物を事実上支配する権利である「占有権」です。つまり物権とは、自分の所有物を自由に使用できるだけでなく、自身の判断で収益を得るための利用や売却もできる権利になります。

この他、物の使用価値を支配する地上権や地役権、物の交換価値を支配する抵当権も、物権法の対象となります。

債権(第3編)

債権は、人に対して行為の実行を請求する権利=「債権」について規定された部分です。「債権法」とも呼ばれ、下記のような行為について規定しています。

  • 金銭の支払いを要求する
  • 契約に基づき行為の実行を請求する
  • 物品の引き渡しを請求する

「債権」という用語は金銭貸借の際によく使われますが、法律上はサービスや物品など金銭貸借以外の請求でも使用されます。

民法では、権利を請求する債権をもっている者を「債権者」、債権により定められた行為を実施する義務がある者を「債務者」と呼びます。

なお、契約により労働義務を要求できる権利を有している場合も「債権者」です。

直近の民法改正の概要

2020年4月1日、民法の債権分野(債権法)が大きく改正されました。債権法は、明治29年の制定から約120年間、実質的な見直しがなかった分野です。今回の改正は、現在の社会情勢への対応と、裁判や取引の実務で採用されているルールの明文化のために実施されました。

今回の改正では、まず契約時に定められる「約款」についての定義が追加されています。約款とは、あらかじめ定められた詳細な契約条項です。今回の改正では、この約款を「定型約款」とし、どのような場合に契約条項として認められるのかが規定されました。

部屋の賃貸借が終了した際に、通常の使用で生じた汚れや経年劣化について、借主は現状復帰不要であることも明文化されています。こちらは、民法の規定がないことからトラブルの原因となっていた部分です。

さらに、時効についても大きく見直されました。「時効」とは、契約の効力が有効な期間です。今回の改正では、職業別に定められていた時効が5年間に統一されました。そして、元々あった「権利を行使できるときから起算して10年で債権は消滅する」旨に加えて「権利が使える事実を知ったときから5年間で債権は消滅する」旨の規定が加えられました。こちらについては、下記記事でも紹介しています。

また、保証すべき上限額(極度額)の定めがない個人の根保証契約も、今回の改正により無効となったのです。根保証契約については、下記記事で詳しく解説しています。

民法を把握する上で役立つコンテンツ

民法についての書籍やコンテンツは、豊富にあります。だからこそ、どれを選ぶべきかわからない方も多いのではないでしょうか。

ここからは、民法を学ぶ上で役立つコンテンツとして、民法の入門書民法の改正内容について理解を深めるコンテンツをそれぞれ紹介します。

民法の入門書

社会人で初めて民法を学ぶ方におすすめする書籍は、次の3冊です。

  • 伊藤真の民法入門 第7版 講義再現版(日本評論社)
  • リーガルベイシス民法入門(日本経済新聞出版社)
  • 民法(全)<第3版>(有斐閣)

いずれも、民法全体をわかりやすく解説した書籍です。大学の法学部で教科書としても使われているため、民法の基本を押さえるために適した書籍といえるでしょう。

民法の改正内容について理解を深めるコンテンツ

2020年の民法改正について理解を深めたい場合、次の書籍がおすすめです。どちらも、今回の民法改正がQ&A方式で解説されています。

  • 民法改正ここだけ押さえよう!(中央経済社)
  • 一問一答 民法(債権関係)改正(商事法務)

漫画で解説されている書籍やサイトで学習してもいいでしょう。

「マンガでやさしくわかる試験に出る民法改正」は、今回の改正で押さえたいポイントや参考条例が掲載されています。「桃太郎と学ぶ民法(債権法)改正後のルール」は、桃太郎がさまざまな法律トラブルに巻き込まれる中で、改正民法のポイントやトラブルの解決方法を学んでいく、漫画形式のコンテンツです。

なお、当サイトでも民法改正で規定された「定型約款」「根保証契約」「時効」についての解説記事を用意しています。詳しく知りたい方は、あわせてお読みください。



民法は私たちの日常生活や経済活動に必要な法律

民法は、私たちの生活に必要なルールを定めた法律です。民法のおかげで、私たちの生活の秩序が保たれています。企業が経済活動をするにあたっては、全5編からなる民法のうち、前半の総則、物権、債権分野の学びが必要です。

民法は2020年に、現状に即した形に大改正されました。具体的には、定型約款規定、部屋の賃貸借契約における原状復帰範囲の明確化、時効期間の変更、極度額がない根保証の無効化などです。

経済活動においても、民法の存在は必須となります。本記事を参考にさまざまな書籍やサイトを使って、積極的に民法を学んでいきましょう。


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