- 更新日 : 2024年8月30日
賃料増額請求書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
「賃料増額請求書」とは、建物や土地の賃料について増額を求めるときに発行する文書です。増額したい旨を借主に伝える際、貸主でこれを作成することとなります。
どのようなポイントを押さえて作成する必要があるのか、ひな形で具体例を紹介しつつ、各項目の書き方をここで解説します。
賃料増額請求とは
賃料増額請求とは、賃貸借契約に基づいて授受が行われている賃料について、相手方に増額を求めることをいいます。
賃料の増額は借主にとって重大な問題ですので、増額の意思表示を口頭で済ませるべきではなく、通常はこのとき賃料増額請求書を発行することとなります。
なお、「請求書」とはいえ、この文書を相手方に出した時点では増額した賃料の支払いが確定していません。あくまで意思表示を行うための書類であって、ここから交渉が開始されます。
事業者が賃料増額請求書を作成するケース
賃料の増額を求めるときは常に賃料増額請求書を作成すべきです。個人でも事業者でもこの点に変わりはありませんが、特に事業者が取引金額の大きな賃貸物件を取り扱っているときは慎重を期すため「作成は必須」と捉えておくべきです。
※文書がなくても意思表示自体は有効であるが、請求を行ったことの証拠が残せない。
増額の交渉そのものはいつ行っても構いません。相手方との合意があればいつでも増額が可能です。
しかしながら、増額請求は借主に対して不利益を押し付けることを意味しますので簡単には応じてくれないでしょう。そこで「増額が法的に認められるかどうか」が請求のタイミングを測る1つの基準となります。借地借家法の次の規定に着目してください。
(借賃増減請求権)
第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
つまり、税金の負担や物価の上昇、近隣の相場などの事情を総合的に考慮して「賃料が不相当に低くなった」といえるなら増額も認められる余地があります。このようなケースで賃料増額請求書を作成・提出することとなります。
賃料増額請求書のひな形
賃料増額請求書のフォーマットは自由なものを使用して構いません。必要な情報が記載されていれば問題ありませんので、こちらのひな形をもとに、賃料や物件情報などを書き換えていけば効率的に作成できることでしょう。
賃料増額請求書に記載すべき内容
賃料増額請求書に記載する内容は、下表の通りです。
記載すべき内容 | 記載方法 |
---|---|
表題 | 「賃料増額請求書」など、どのような文書であるのかを一言でわかりやすく記載する。 |
増額を求める旨 | 「本件建物の賃料を増額させていただきたく、ここにご請求させていただきます」など、増額をしてほしい旨を明確に記す。 |
増額の理由 | 「本件建物のある土地の固定資産税も増額が続き、本件建物の維持管理費用も年々負担が増すばかりで・・・」や「当初の賃貸借契約締結から〇年以上が経過し、その間の物価上昇が・・・」など、増額の根拠を記載。 根拠の記載の有無、妥当性、説明の仕方は結果に影響するためよく考えて記載する。 |
増額後の賃料 | 「本件建物の賃料を1カ月金✕円に改定・・・」など、増額後の賃料を明確に示す。 |
増額の適用される日付 | 「令和〇年〇月分より」など、増額後の賃料をいつから適用してほしいのか明記する。 過去にさかのぼって賃料増額請求を行うことはできないため、開始希望月は文書が届く日以降を指定する。 |
賃貸物件 | 「○○県○○市○町○丁目○番〇号の建物」など、どの物件に対する請求なのかを明確にする。 家屋番号等まで詳細に表示を行うとより良い。 |
契約当事者 | 誰が請求しているのか、誰に対して請求しているのかを明確にする。 氏名(事業者の場合は名称)と住所により当事者を特定する。 |
作成日 | 請求書を発行した日付が特定できるようにわかりやすく記載する。 |
これらの要点さえ押さえておけばすぐに完成させられるでしょう。
賃料増額請求書を作成する際の注意点
賃料増額請求書を作成するときは、増額理由をできるだけ具体的に記載してください。
単に「物価が上昇したから」とだけ記載しても借主が納得してくれない可能性が高いでしょう。そこで「本件建物の最寄り駅に当たる〇〇駅周辺の再開発に伴い、本件建物の所在する〇〇町周辺の同種物件の賃料相場は、月額〇〇万円から〇〇万円となっております」などと相場が上昇した背景まで含めるとよいです。さらにその裏付けとなる資料も添付しておくとさらに説得力が増します。
ただし、増額に関して一応それらしい理由があったとしても、増額が有効になるとは限りません。借地借家法第32条第1項(上記)の規定に沿い請求が認められるケースはそう多くないのです。
同法では、立場の弱い借主の権利を守るルールが多く設けられており、貸主が有利になる条件変更などは簡単に認められません。
そこで賃料増額請求書の作成に加え、交渉に関してトラブルになりそうなときは弁護士の力を借りるとよいでしょう。
賃料や経済情勢を一度見直して増額請求を検討しよう
昨今は物価が高騰しており、税負担も増してきています。長年賃貸借契約を更新している場合は一度賃料や経済情勢について見直してみましょう。賃料増額は簡単にできるものではありませんが、長期に渡り条件を変えていなかった場合、増額が法的に認められる可能性があります。
ただし賃料増額請求がきっかけで借主と揉めてしまうリスクもありますので、交渉は慎重に進めること、そして口頭で済まさず賃料増額請求書を作成しておくようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
質権設定契約書とは?ひな形をもとに文例や作成時の注意点を解説
質権設定契約書とは、債務の履行を担保するために設定する質権についてのルールをまとめた文書のことです。 どのような契約なのか、何をルールとして定める必要があるのかを説明し、当記事では契約書の文例も用いて具体的な記載事項、作成のポイントなどを紹…
詳しくみる自動車賃貸借契約書とは?ひな形をもとに書き方や項目を解説
自動車賃貸借契約は、一定期間自動車を貸与して賃料を受け取る契約です。自動車賃貸借契約においては、双方の義務を明確に記載し、かつ合意を得るために、契約書が必須となります。 本記事では、ひな形をもとに、自動車賃貸借契約書の書き方や必須項目を解説…
詳しくみる製作物供給契約とは?契約時に定めるべき事項をひな形とともに解説
製作物供給契約とは、製品の製作及び譲渡(納品)を委託する契約です。民法でいう請負契約に類似する性質を有しますが、民法や商法の規定との違いもありますから、具体的かつ明確な事項を記載した契約書が不可欠です。今回は、製作物供給契約を締結する際に定…
詳しくみる入会申込書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
入会申込書とは、特定の組織やサービスへの入会を申し込むために、申込者が事業者へ提出する書類です。入会に必要となる申込者情報を取得できるように、事業者が書面を作成します。 本記事では、入会申込書の書き方や押さえておきたいポイント、注意点を解説…
詳しくみる動産贈与契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
動産贈与契約書とは、動産を贈与するときに作成する契約書です。贈与は自身の財産を無償で与えることを示し、相手が受諾することで効力を生じますが、口頭で実施すると言った言わないのトラブルが発生する可能性があるため、契約書を作成するほうが良いでしょ…
詳しくみる産業廃棄物処理委託契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
産業廃棄物処理委託契約書とは、産業廃棄物、いわゆる「産廃」の運搬や処分などを他者に委託する場合に締結する契約です。 今回はその契約書の様式について、Word形式のひな形をもとに、記載事項などについて解説します。 産業廃棄物処理委託契約書とは…
詳しくみる