• 更新日 : 2024年8月30日

交通事故の損害賠償請求はどう行う?対応の流れを請求書のひな形つきで紹介

交通事故に基づく損害賠償請求とは、事故による損害を埋め合わせしてもらうための、被害者から加害者に対する請求のことです。交通事故の被害に遭うと、ケガの治療費や仕事を休んだ分の収入減、精神的なダメージなどさまざまな損害が発生します。

本記事では、損害賠償請求できる費用の相場や適切なタイミングを解説します。

交通事故における損害賠償請求とは?

交通事故における損害賠償請求とは、交通事故で損害を被った被害者が、その損害を加害者に補償してもらうための請求のことです。

民法709条では、自身の不法行為によって他人の権利や利益を損なったら、その損害をつぐなう責任を負うと定められています。これらの法律を根拠に、交通事故の被害者には加害者に対する損害賠償を請求する権利が認められています。

具体的には、事故による怪我の治療費、車の修理費、精神的な損害を弁償するための慰謝料などの請求が可能です。

損害賠償請求をする相手は、基本的には相手車両を運転していた加害者本人です。ほとんどのドライバーは自動車の任意保険に加入しているため、直接やり取りするのは加害者が加入している任意保険会社となります。

また、加害者が業務中に運転していた場合は雇い主にも使用者責任が発生します。加害者が未成年であれば、一定のケースにおいてはその親への損害賠償請求が可能です。

参考:e-Gov法令検索 民法

損害賠償請求で請求できる費用

交通事故で損害を被った場合に損害賠償請求できる費用は、大きく分けて「経済的な損害」と「精神的な損害」の2つです。

損害の種類損害の内容該当する項目
経済的な損害積極損害現実に支出が発生した損害
  • 治療費
  • 付添看護費
  • 入院雑費
  • 通院交通費
  • 葬儀費用
消極損害事故のせいで利益を得られなくなった損害
  • 休業損害
  • 逸失利益
物的損害被害者の「物」に生じた損害
  • 車両修理費
  • 代車使用料
精神的な損害事故により生じた精神的な苦痛
  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

また、損害賠償金は以下の3つの基準を基に算出されます。

自賠責基準自賠責保険の賠償額を算出する基準最低限の補償
任意保険基準各任意保険会社が独自に定める基準自賠責基準とほぼ同額か少し高い
弁護士基準判例を基に決められ、弁護士や裁判所が利用する基準3つのなかでもっとも高額

使われる基準によって賠償金額は大きく前後します。

これらをふまえて、交通事故で生じる損害の種類ごとに、賠償請求できる費用とその相場を解説します。

経済的な損害

経済的な損害は、事故で受けた損害を元どおりにするために発生した支出や、事故のせいで受け取れなくなった収入といった「お金」の損害です。

経済的な損害は以下の3つに分類できます。

  • 積極損害
  • 消極損害
  • 物的損害

それぞれの損害として損害賠償請求できる費用例を具体的に見ていきましょう。

積極損害

交通事故の被害者が事故によって支払わなければならなくなった損害を積極損害といいます。

積極損害として賠償請求できるのは以下のような費用が挙げられます。

  • 治療費
  • 付添看護費
  • 通院交通費
  • 葬儀費用

交通事故を原因とする怪我の治療費は、実際に被害者が負担した分は全額賠償請求できるのが基本です。

入院や通院、自宅での生活において付き添いの必要性が認められる場合には、以下の費用を目安に付添看護費が補償されます。

付添費用家族が付き添った場合の付添費用の相場(日額)
裁判所基準自賠責基準
入院付添費6,500円4,200円
通院付添費3,300円2,100円
自宅付添費3,300円または6,500円以上2,100円

通院にかかる交通費も請求が可能です。タクシーを利用した場合は必要性によって認められるケースもありますが、原則は公共交通機関の運賃やマイカーのガソリン代などが請求できます。

また交通事故で被害者が亡くなった場合、通夜や葬儀などの法要にかかる費用などが賠償請求できる損害として認められます。

参考:自動車損害賠償保障事業が行う損害の塡補の基準実施要領

消極損害

事故がなければ手に入っていたはずの利益が得られなくなった損害が消極損害です。消極損害には以下の2つが挙げられます。

  • 休業損害
  • 逸失利益

休業損害は、事故のケガのせいで仕事を休まざるを得ず、収入が減少した分を補償するものです。収入のない主婦(主夫)であっても、休業損害の賠償請求は可能です。

休業損害は以下の計算式で算出されます。

自賠責基準日額6,100円×仕事を休んだ日数
弁護士基準(事故前3か月の収入÷90日(または実稼働日))×仕事を休んだ日数

逸失利益とは、事故による後遺障害や死亡を理由に失われた将来の収入のことです。被害者の職業や収入、年齢、後遺障害等級などを反映する計算式によって、逸失利益の金額が求められます。

参考:国土交通省 自動車損害賠償保障事業が行う損害の塡補の基準実施要領

物的損害

交通事故によって生じた「物」に対する損害である物的損害は、以下のようなものがあります。

  • 車両の修理費
  • 車両時価額
  • 代車費用
  • 休車損害

破損した車両は、修理が妥当と認められた場合には適正な修理費を請求できます。車の損傷が大きく修理費が車両時価額を上回る場合は、車両の買替費用として、車両時価額に買替諸費用を加えた金額が補償されます。

修理期間中に代車の必要性が認められた場合、代車費用も請求可能です。被害を受けた車が営業車の場合、稼働できなかった間の利益の損失である休車損害の請求も認められます。

精神的な損害

精神的な苦痛やダメージといった精神的な損害は、金銭での埋め合わせとして慰謝料を支払ってもらいます。交通事故で損害賠償請求できる慰謝料は以下の3種類です。

  • 入通院慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料

入通院慰謝料を自賠責基準で求める場合、次の計算式を使います。

 

  • 入通院慰謝料=4,300円×対象日数
  • 対象日数は「初診日~治療が終了した日までの期間」か「実際に入院・通院した日数×2」の少ないほうの日数

 

後遺障害慰謝料は、認定を受けた後遺障害の等級によって慰謝料の相場が定められています。後遺障害等級は症状や部位により14に区分され、数字が小さくなるほど障害の程度が大きくなります。自賠責基準の後遺障害慰謝料は、等級によって32万円~1,650万円です。

死亡慰謝料は、亡くなった被害者の遺族の人数や家庭内での立場に応じて算出されます。

自賠責基準の場合、本人分の死亡慰謝料400万円に加えて、遺族の人数や扶養家族の有無によって550~950万円が加算されます。

損害賠償請求を行うべき期間

損害賠償請求を行うのは、治療終了後の損害が確定した段階で行うべきです。最終的な損害額が未定なまま損害賠償請求のための示談交渉を開始すると、あとから請求漏れが出る恐れがあります。

ただし、損害賠償請求ができる期間には限りがあります。示談交渉を始める適切なタイミングと、損害賠償請求権の消滅時効について理解しておきましょう。

示談交渉を始めるタイミング

交通事故の損害賠償請求は、すべての損害が出そろってから行いましょう。通院中や完治する前に損害賠償請求をすると、それ以降の治療費などの損害が補償されないおそれがあります。

これ以上は損害が出ないと確定できる状態になってから、損害賠償の金額や内容を話し合うための示談交渉を開始しましょう。

人身損害をともなう事故の場合、具体的なタイミングは以下のとおりです。

  • ケガが完治したとき
  • 症状固定して後遺障害等級の認定を受けたとき

ケガが完治する前に通院を辞めてしまうと、それ以降に症状が悪化してしまったときの治療費が補償されない可能性があります。完治してからトータルでかかった治療費や休業損害などが確定後、示談交渉を始めましょう。

ケガの完治が難しく後遺障害が残る場合、医師が「これ以上治療しても症状の改善が見込めない」と判断すると「症状固定」が言い渡されます。症状固定となるのは、事故から6ヶ月ほど経過してからが一般的です。

症状固定された後は、それ以降に治療を続けたとしても、治療費や休業損害などを加害者側へ請求できません。後遺障害等級認定の認定結果が出たら損害が確定するため、そこから示談交渉を始めましょう。

損害賠償請求権の消滅時効

示談交渉は損害が確定してから行うべきですが、損害賠償請求権には時効があります。人身損害は5年、物的損害は3年の時効期間を過ぎてしまうと、消滅時効となり損害賠償請求ができなくなるため注意が必要です。

損害の種類起算点時効期間
物的損害事故日3年
障害による損害事故日5年
後遺障害による損害症状固定日5年
死亡による損害死亡日5年

重度のケガのため治療やリハビリに時間がかかるケースや、後遺障害認定の結果に納得できず再審査を受けるケースなどでは、示談成立までに時間がかかる恐れはあります。

時効が迫っている場合は、加害者側へ損害賠償請求を求める催告や、加害者に賠償金を支払う意思があると示してもらう債務の承認といった方法で時効の延長が可能です。

一方、加害者側の自賠責保険や自身の任意保険へ保険金を請求する場合、請求権利は3年で消滅するため注意しましょう。

損害賠償請求を行う流れ

損害賠償請求を行う流れを理解する前に、交通事故発生から解決までの流れを確認しましょう。

1.交通事故発生時の対応
・警察や自分が加入する保険会社へ連絡し、事故状況や相手方情報を記録しておく
2.病院を受診・治療
相手方保険会社と連絡を取り、治療費の支払いを受けながら入通院して治療をする
3.ケガの完治もしくは症状固定
ケガの完治か症状固定後の後遺障害等級の認定が済むまでは示談交渉を開始しない
4.損害賠償請求
示談内容に双方が合意したら示談金が支払われる

損害賠償金を請求するための示談交渉は、ほとんどのケースにおいて加害者が加入する任意保険会社が相手になります。具体的な流れは以下のとおりです。

  1. 加害者側の保険会社に損害額確定の連絡を入れる
  2. 保険会社から示談内容(損害賠償金の金額や過失割合など)が提示される
  3. 合意であれば署名捺印した書面を取り交わし示談が成立、示談金が支払われる

加害者側の保険会社から示談内容が提示されたら、間違いや納得いかない点がないかしっかり確認しましょう。示談が成立するとキャンセルはできないため、話し合いや書面上で疑問点があれば、すぐに承諾しないことが大切です。

損害賠償請求のための示談書のひな形・テンプレート

また加害者が任意保険に加入しておらず、加害者に対して直接損害賠償を請求する場合、損害賠償請求のための示談書の送付が必要です。記載すべき内容の漏れがないよう、以下のようなテンプレートを活用しましょう。

弁護士に相談すべきケース

交通事故の損害賠償請求では、弁護士に相談したほうがよい結果が得られるケースも多いです。以下のケースに当てはまる場合は、弁護士への相談を検討しましょう。

  • 保険会社から提示された損害賠償額が少ないと感じる
  • 後遺障害が残る

賠償額に納得がいかない場合、弁護士に依頼すると、自賠責基準や保険会社基準よりも高額な弁護士基準での賠償金を支払ってもらえる可能性が高まります。

弁護士基準の損害賠償金は、過去の判例を基にした法的な正当性が高い金額です。法律の専門家である弁護士が主張することで、より説得力が増し、請求を認めてもらいやすくなります。

後遺障害が残るケースでも、弁護士への相談が有効です。後遺障害の等級が1つ変わるだけで、慰謝料の金額は大きく上下します。弁護士に依頼すると、後遺障害等級の認定で不利な扱いを受けないよう、専門知識を活かして適切な審査対策をしてもらえます。

一方で、弁護士に依頼するには弁護士への報酬を支払わなければなりません。損害賠償の金額によっては、弁護士への依頼によって増額する賠償金よりも、弁護士費用のほうが高額になる可能性もあります。相談の段階で、増額できる賠償金や弁護士費用の目安を確認しておきましょう。

交通事故の損害賠償請求は慎重に進めよう

交通事故における損害賠償請求は、事故の被害者が加害者に対して、自身の損害を補償してもらうために行います。相手車両を運転していた加害者本人に損害賠償を請求しますが、加害者が加入している任意保険会社へ請求することが多いです。

損害賠償請求できるのは、事故により支払いが必要となったケガの治療費や、働けなくなった期間の損害、事故で受けた精神的苦痛に対する補償などが挙げられます。損害賠償の金額に納得できない場合や後遺障害が残るケースでは、弁護士への相談も検討しながら慎重に対応しましょう。


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