- 作成日 : 2024年11月7日
契約法務とは?業務内容や重要なポイント、求められるスキルを解説
契約法務とは契約にまつわる法的リスクを管理し、企業を守る業務のことです。契約書の作成やチェックが主な役割であり、この業務を適切に遂行するには法的知識や経験が欠かせません。
本記事では、契約法務における重要なポイントや担当者に求められるスキルなどを解説しているので、契約法務について知りたい方はぜひ参考にしてください。
目次
契約法務は「予防法務」の1つ
契約法務は、法務のうち「予防法務」と呼ばれるジャンルに分類される業務です。
予防法務とは、文字通り、事前に法的な問題が発生するリスクを予測し、対策を講じることで、企業の損失や法的紛争を未然に防ぐことを目的とした業務を指しています。
企業活動において“契約”はあらゆる場面で発生します。
例えば、商品やサービスの売買、オフィスの賃貸借、ある作業の業務委託、従業員の雇用など、多岐にわたります。これらの契約において契約内容が不明確であったり、法令に違反していたりすると、後々トラブルに発展して企業に大きな損害を与える可能性があります。
契約法務では、このようなトラブルを未然に防ぐために適切な形で契約書を作成すること、作成された契約書の内容に不備がないか・不利な条件が含まれていないか、といったことを調べていきます。
予防法務と「戦略法務」「紛争処理法務」の違い
法務には大きく3つの機能があるとされており、予防法務もそのうちの1つです。残りの2つについては、呼び方はいろいろありますが「戦略法務」「紛争処理法務」が挙げられます。
予防法務はトラブルを未然に防ぐことを目指す法務ですが、これに対し紛争処理法務はすでに発生したトラブルを解決するための活動を意味します。例えば相手方との交渉や訴訟対応などは法務のうち紛争処理法務に分類されます。
他方、戦略法務は事業戦略を法的な側面からサポートする活動のことを指しています。
「トラブルにどう対処するか」といった消極的なものではなく、「どのようにM&Aを進めると自社にとって良いか」「どのように新規事業立ち上げを進めると効果的か」と戦略を考える際の法的な支援が戦略法務にあたります。
それぞれ目的や役割が異なりますが、いずれも企業の健全な発展に貢献する重要なものです。
契約法務と商事法務の違い
「商事法務」という言葉もあります。
契約法務が企業と外部との契約に限定した言葉であるのに対し、商事法務は企業と外部との契約法務に限らず「企業内部の運営に関する法務」も含んだ言葉という区別をすることができるでしょう。
例えば契約法務だと契約書の作成に関する取引先との交渉や、契約書の審査などを主な業務として行いますが、商事法務という言葉を使う場合は次の業務内容も含まれるようになります。
契約法務の役割・業務内容
契約法務の役割・業務内容は大別すると①契約書の作成業務、②契約書の審査業務、の2つです。これらについて詳細を解説していきます。
契約書の作成業務
「契約書の作成業務」では、新規の取引や契約内容の変更などに応じて、自社にとって有利かつリスクを抑えた契約書の作成を目指します。
実務の内容は各社各様であり、自社の方針に従うことが重要ですが、以下で基本的な業務の流れを紹介します。
《 契約書作成の具体的な流れ 》
- 取引内容のヒアリング(関係部署から契約内容についてヒアリングを行い、契約条件などを把握。必要に応じて、現場の担当者に同行して取引先との打ち合わせに参加)
- 契約書雛形の選択・修正(過去の契約書も参考に、取引内容に合った雛形を選択。必要に応じて条項の追加や削除、修正を行い、個別の取引に最適な形で契約書を作成する)
- 契約書案の作成(契約書案を作成。以下の点には注意する)
- 曖昧な表現を使うことや解釈の余地のある表現は避ける。
- 関連する法令に違反する条項がないことを確認する。
- 違法・適法の観点だけでなく、自社の利益が確保できているかどうか、という視点からもチェックを行う。
- 関係部署との調整(契約書案について、関係部署と内容を確認し、調整。必要に応じて修正を加えて最終的な契約書案を作成)
- 取引先との交渉(契約書案を基に取引先と交渉を進め、合意形成を目指す)
- 契約の締結(交渉が成立すれば署名捺印を行う)
なお、昨今導入が増えている「電子契約」であればこの流れをスムーズに進めやすくなり、時間も労力も紙ベースより少なくできます。
契約書の審査業務
「契約書の審査業務」では、取引先から提示された契約書の内容を精査し、自社にとって不利な条項やリスクとなる条項がないかを確認していきます。
ここで重要となるのが「リスクの洗い出し」と「相手方との交渉」です。
リスクについては、例えば次の点をチェックしていきます。
- 万が一トラブルが発生した場合の責任範囲が明確か、過大な責任を負わされていないか。
- 損害賠償責任が生じる条件やそのときの賠償額について自社が不利になっていないか。
- 相手方に有利な条件で契約解除ができるようになっていないか。 など
また、相手方との交渉については実質的な力関係も関わってきます。本来的には対等な立場で契約は交わせるものですが、あまり強気に出てしまうと契約をしてくれない危険性が高まります。
「他の取引先にする」といえる立場にあるのなら問題ありませんが、自社が相手方に依存してしまっている場合は多少の不利な条件は受け入れるなどの譲歩も必要になってくるでしょう。その辺りの判断についても契約書の審査業務において行うこととなります。
契約法務の業務において重要なポイント
契約法務の業務を適切に行うには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。これらのポイントを理解し、実践することで、企業は法的リスクを最小限に抑え安定的な事業活動を継続することができるでしょう。
契約内容や目的を明確化する
契約書を作成・審査するうえで最も重要なのは、契約内容や目的を明確化することです。
契約当事者、契約の目的、取引内容、契約期間、支払い条件など、契約に関する必須の要素を漏れなく、かつ正確に定めていく必要があり、曖昧な表現や解釈の余地のある条項を設けるべきではありません。
意味の捉え方を巡って将来トラブルが起こるかもしれません。そのため誤解が生じないよう注意深く契約法務に取り組む必要があります。
自社が不利益を被らないようにする
契約は当事者間の合意に基づいて成立しますが、いったん合意してしまうと簡単になかったことにはできません。
契約書の内容を精査せずにサインしてしまうことで自社が大きな不利益を被ることにもなりかねません。
そこで契約法務担当者は、自社の利益を最大限に確保できるよう契約内容を精査し、必要があれば修正を提案する必要があります。特に責任範囲や損害賠償に関する条項は慎重に検討しなくてはなりません。
リスクを最小限に抑える
例えば、「相手方が契約を履行しない」「債務不履行に陥る」「予期せぬ事態が発生する」など、契約にはさまざまなリスクが伴います。
そこで担当者としては、これらのリスクを事前に予測すること、そのリスクを想定して適切な条項を設けることが重要です。
そのためには確かな法的知識が必要ですし、経験も必要になってくるでしょう。また、契約締結後も契約の履行状況を管理して迅速に対応することが大事です。
コンプライアンス・法令遵守を徹底する
契約は基本的に当事者間での合意があれば成立させられます。しかし、あらゆる事項が自由に決められるわけではなく、一定の事柄については法令で規制をされていることもありますので、その契約内容に関係する法令には留意しないといけません。
例えば独占禁止法や下請法、一般消費者との関係で適用される消費者契約法など、注意すべき法令はたくさんあります。
どこまで自由に定められて、何については自由に決められないのか、高い専門性がなければ判断は難しいでしょう。
契約法務の担当者に求められるスキル
契約法務の担当者には幅広い知識やスキルが求められます。企業の方や法務担当の方は以下の点に着目しましょう。
重視されるスキル | |
---|---|
法律の知識 | 契約法務の基礎となるのは、民法・商法・会社法・知的財産法など。 最新の法令や判例も把握し、正確な法的判断を行う必要がある。 |
交渉力 | 取引先との交渉において、自社の利益を主張しつつも良好な関係を維持できるようなバランス感覚が重要。相手方の意図を汲み取り、論理的に交渉を進める力が求められる。 |
コミュニケーション能力 | 関係部署や取引先との円滑なコミュニケーションは業務をスムーズに進めるうえで不可欠。相手に分かりやすく説明する能力、相手の意見を丁寧に聞き取る能力などが求められる。 |
問題解決能力 | 契約に関するトラブルが発生した場合には迅速かつ適切な対応が求められる。状況を冷静に分析し、関係法令や契約内容を踏まえて最適な対応方法を考えること、臨機応変に対応できる能力も重要。 |
ビジネス感覚 | 法的な観点に加え、ビジネス的な観点からも契約内容を判断できる能力があることが望ましい。 市場動向や業界の慣習などを理解し、自社の戦略に沿った契約を締結できるようビジネス感覚を磨くことが重要。 |
契約法務のキャリアアップに役立つ資格
契約法務のキャリアアップを目指すうえで役立つ資格はいくつかあります。勤める企業の業界・業種によっても変わってきますが、例として次の資格を取り上げることができます。
キャリアアップにつながる資格 | |
---|---|
弁護士 | 法律に関する最難関の国家資格であり、希少価値も高いためキャリアアップには効果的。 訴訟対応など高度な専門性が求められる法務も任せられるようになる。 |
司法書士 | 弁護士資格に次いで難関で、法律全般に関する知識、とりわけ登記手続きに強い専門家として知られる。 企業経営においては商業登記が必要となる場面も多い、 |
行政書士 | 官公署に提出する書類の作成や手続きの代理、権利義務に関する書類の作成などができる国家資格。 資格を取得しておけば一定の法的知識があることをアピールしやすくなる。 |
ビジネス実務法務検定 | 企業法務に関する基礎知識を問う検定試験。最低限の知識・能力があることのアピールができ、1級に受かれば希少な能力の持ち主であることを示せる。 |
TOEICなど | TOEICなどの語学関連の資格や検定もスキルアップに有効。 昨今はグローバル化も進んでおり英語力が求められることも増えてきている。 |
これらの資格以外にも、企業法務に関する専門知識を深めるためのセミナーや研修会に参加することでスキルアップを図ることも可能です。
契約法務はリスク回避のための重要な業務
契約業務は取引の基礎となる重要な業務です。契約内容をしっかりと確認し、必要に応じて相手方と条件についての交渉を行うことは、事業のリスクを回避するうえでも大事なことです。
取引内容によっては法律の知識など高度なスキルも必要となりますが、まずは取り組みを始めることが大事です。これまで契約法務に向き合ってこなかったという企業は、大きな不利益が生じる前に法務の重要性を見つめ直しましょう。資格持ちの従業員を雇用するのも有効ですし、顧問弁護士を付けるのも有効です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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