• 作成日 : 2025年1月17日

不動産売買の電子契約の流れは?事例やデメリット、電子化できない書類も解説

不動産取引においても電子契約が全面的に解禁されたため、不動産売買においても電子契約が可能です。ただし、電子化できない書類もあるため注意が必要です。

本記事では、不動産売買の電子契約の流れや電子化できる書類・できない書類、電子化するメリット・デメリットについて解説します。

不動産売買における電子契約とは

不動産取引においては、不動産取引に関して法律上作成が義務とされている書面があったため完全な電子化が難しい側面がありました。しかし、2022年の法律改正・施行にともない、不動産取引においても契約の電子化が全面的に解禁されています。ここでは、不動産売買における電子契約の基礎について解説します。

そもそも電子契約とは?

電子契約とは、契約に関しての証拠となる契約書を紙ではなく、電子ファイルで作成する契約のことを指します。電子契約では紙の契約書における印鑑の代わりとして、電子署名やタイムスタンプといった技術を用いて誰が作成したのかを証明するのが特徴です。電子署名やタイムスタンプによって、改ざんされていないことを証明できます。

また、タイムスタンプの付与により、その時刻に電子ファイルがすでに存在していたことも証明可能です。電子契約では、これらの仕組みを活用することで書面契約と同様の法的有効性を担保できます。

不動産売買はいつから電子化できる?

不動産売買に関する契約の電子化は、2022年の宅地建物取引業法(宅建業法)改正・施行により全面的に解禁されました。ただし、電子化ができない書類も一部存在する点には注意が必要です。

不動産売買で電子化できる主な契約書

不動産売買で電子化できる主な契約書は、以下のとおりです。

  • 媒介契約書
  • 重要事項説明書
  • 賃貸借契約書
  • 不動産売買契約書

それぞれ詳しく見ていきましょう。

媒介契約書

媒介契約書とは、家を売る際などに不動産会社に仲介をお願いする場合に締結する文書のことです。媒介契約書には、次の3つが存在します。

  • 一般媒介契約
  • 専任媒介契約
  • 専属専任媒介契約

重要事項説明書

重要事項説明書とは、売買対象の物件や取引条件に関する重要事項が記載された書類です。不動産を売買する際や賃貸借契約を結ぶ際には、物件についての重要事項を記載した書面を交付し、宅地建物取引士が説明することが法律で義務付けられています。

買主や売主へ説明する際に交付する重要事項説明書も電子化が可能です。

賃貸借契約書

賃貸借契約書とは、賃貸物件を借りる際に交付する契約書のことです。不動産賃貸契約が締結されたとき、宅地建物取引業者は賃貸借契約書を交付する義務があります。

法改正前は宅地建物取引士による記名押印のうえ、書面交付していましたが、法改正にともない押印が不要となり、電子データによる契約締結が可能になりました。

不動産売買契約書

不動産売買契約書とは、不動産売買が成立した場合に交付する書類のことです。こちらも、賃貸借契約書同様、交付が義務付けられていますが、書面の交付に代えて電子データによる契約締結が可能です。

不動産売買で電子化できない契約書

不動産売買においては、一部の契約書については電子化できないため注意が必要です。電子化できない契約書としては次のようなものが挙げられます。

  • 事業用定期借地契約についての書類
  • 企業担保権の設定または変更を目的とする契約についての書類

事業用定期借地に関する契約は、公正証書による締結が必要です。公正証書とは、私人からの嘱託によって公証人がその権限に基づいて作成する公文書を指します。公正証書は文書による作成が必要なため、電子化できません。

そのほか、「企業担保権の設定または変更を目的とする契約」についても、公正証書による契約締結が必要なため、電子化できません。

不動産売買の電子契約を締結するまでの流れ

不動産売買の電子契約を締結するまでの流れは、以下のとおりです。

  1. 重要事項説明書などの契約書類を作成する
  2. IT重説を実施する
  3. 不動産売買の電子契約を締結する
  4. 契約書を電子交付する
  5. 契約書を電子帳簿保存法の要件を満たして保管する

ここから、それぞれの内容を解説します。

重要事項説明書などの契約書類を作成する

まずは、契約に向けて重要事項説明書などの契約書類を電子ファイルで作成する必要があります。その際に用いられる電子ファイルは、PDF形式が一般的です。

IT重説を実施する

審査が通ったら、売主・買主に対してIT重説を実施します。IT重説とは、オンラインで重要事項説明書の内容を説明することです。重要事項の説明は、従来の方法と同じく宅地建物取引士が行います。

ただし、IT重説を行う際は、次の点に注意が必要です。

  • IT重説について相手の承諾を得て、記録に残す
  • 承諾後でも書面への変更が可能であることを説明する
  • 送付した重要事項説明書などの書類に改変がないか確認する
  • 宅地建物取引士証をカメラに映す

IT重説は相手方の承諾を得たうえで行うことが必要です。あわせて、承諾を証明できる記録を残しておきましょう。また、内容を互いに確認し合い、内容に改変がないことも確認してください。

不動産売買の電子契約を締結する

契約内容に関して合意が取れたら、電子契約を締結します。契約当事者双方が契約書データに電子署名を行いましょう。電子署名が、紙の契約書における押印に該当します。

契約書を電子交付する

契約締結後、買主・売主に契約書を電子交付しましょう。電子契約ではスムーズに締結がなされるため、契約書類の交付までの期間も短く済むのが特徴です。

契約書を電子帳簿保存法の要件を満たして保管する

契約書を電子交付したあとは、電子データをサーバーに保管します。その際は、電子帳簿保存法に沿って保管することが重要です。

電子帳簿保存法とは、帳票を電子データで保管する場合に守るルールが定められた法律です。契約書は7年間の保存が必要なほか、電子帳簿保存法の要件を満たした保存が求められるため注意しましょう。

不動産売買の契約書を電子化するメリット

不動産売買の契約書を電子化するメリットを紹介します。主なメリットは次の4点です。

  • スピーディーな契約締結が可能になる
  • 印紙税や郵送費などのコストを削減できる
  • 契約書を電子化して保管しやすくなる
  • 取引先とオンラインでやりとりできる

スピーディーな契約締結が可能になる

電子契約では、紙の契約書のように印刷や製本、宅地建物取引士の記名・押印などの作業が不要なため、スピーディーな契約締結が可能になります。

また、紙の契約書の場合、相手に書類を送付する必要もあります。契約書面に修正が必要になった場合は全員の訂正印が必要となるため、日数と手間がかかっていました。

しかし、電子契約であれば即時に相手へ契約書を送付できるため、時間を大幅に削減可能です。仮に修正が必要な場合でも、迅速に対応できる点も魅力といえます。

印紙税や郵送費などのコストを削減できる

不動産売買の契約書を電子化することで、印紙税や郵送費などのコストを削減できます。

紙の契約書の場合は郵送費が必要でしたが、電子契約では不要です。また、電子契約の場合は印紙税も発生しません。売買契約では印紙税が数万円〜数十万円かかるため、電子契約を導入することでそれらの費用を削れるのは大きなメリットだといえるでしょう。

契約書を電子化して保管しやすくなる

電子化すると契約書を電子データで保管できるようになります。それにより、物理的な保管場所が必要なくなるため、保管場所の確保にかかっていた費用を削減できます。

また、電子データであれば契約書の検索なども容易に行える点もメリットです。

取引先とオンラインでやりとりできる

電子契約ではインターネットを介して契約を締結可能です。遠方に住んでいる方との契約もオンラインで契約手続きを完結できるため、会う予定を調整したり、移動したりする時間を削減できます。

不動産売買契約をオンライン化することで書類のやりとりに時間がかからなくなるだけでなく、最短日数で契約を完了できる点は、買主・売主双方にとって大きなメリットです。

不動産売買の契約書を電子化するデメリット

不動産売買の契約書を電子化するデメリットを紹介します。主なデメリットは次の4点です。

  • 取引先の同意が必要となる
  • セキュリティ対策を講じる必要がある
  • 電子帳簿保存法に対応する必要がある
  • 既存の業務フローを見直す必要がある

取引先の同意が必要となる

不動産売買の契約書を電子化する際には、取引先の同意が必要です。売買契約や重要事項説明書の交付などには、事前承諾を得ることが電子契約の要件として含まれます。

そのため、取引先が書面による契約締結を希望する場合は電子契約ではなく、紙の契約書での対応が必要です。

セキュリティ対策を講じる必要がある

電子契約においては、オンラインでのやり取りが一般的です。オンラインでのやりとりではサイバー攻撃にともなう情報流出や、データの破損などの危険性があるため注意しましょう。

そのため、セキュリティ対策を十分に行ったり、データが破損した場合に備えてバックアップをとったりするなどの対策を行いましょう。

電子帳簿保存法に対応する必要がある

電子契約を利用する場合、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。

書面契約では書類の保存は7年間ですが、電子契約の場合は7年間の保存に加えて、電子帳簿保存法の要件を満たした保存が求められます。国税庁から要件を満たしていない旨が指摘された場合、青色申告の承認取り消しなどリスクがあるため、注意しましょう。

既存の業務フローを見直す必要がある

不動産契約の電子化にともない、既存の業務フローの見直しも必要です。たとえば、次のようなことが考えられるでしょう。

  • 相手方への意思確認や電⼦契約の旨の告知の行い方について
  • IT重要事項説明の際に使用するツールの選択
  • 電子署名依頼の送信の方法について など

これらは、電子契約においては欠かせないフローのため、あらかじめ社内で話し合って準備しておきましょう。

不動産売買の電子契約を導入した企業事例

不動産売買の電子契約を導入した企業事例を紹介します。ビル・マンションの運営・賃貸仲介・売買や建設、不動産投資などの不動産事業を展開する第一住建ホールディングスでは2022年からマネーフォワード クラウド契約を導入し、不動産売買の電子契約を導入しました。

現在は、不動産売買契約書や業務委託契約書、請負契約書など、さまざまな契約において電子契約を活用しています。導入のきっかけは、紙文化からの脱却でした。

郵送の手間や契約締結までのスピードにも課題を感じており、業務効率化を図るうえでもペーパーレス化の実現が必要だと考え、電子契約に踏み切りました。

導入当初は、電子契約での締結を嫌がられることもあったそうです。しかし、実際に使ってみた他社からも共感を得られたほか、社員からも便利さに驚きの声が上がりました。

さらに、導入により業務効率化やパフォーマンス向上につながっているほか、スピーディーに契約業務を進められる点に手応えを感じていらっしゃいます。

不動産売買に電子契約を取り入れて業務効率化を目指そう

不動産売買においても電子契約が可能です。不動産売買で電子化できる主な契約書としては、

媒介契約書、重要事項説明書、賃貸借契約書、不動産売買契約書などが挙げられます。ただし、電子化できない契約書もあるため注意しましょう。

不動産売買に電子契約を取り入れることで、スピーディーな契約締結や印紙税や郵送費などのコスト削減、契約書を電子化して保管しやすくなるといったメリットがあります。一方で、取引先の同意が必要な点やセキュリティ対策を講じる必要がある点などはデメリットです。

本記事で紹介した電子契約の導入事例などを参考に、不動産売買に電子契約を取り入れてみてはいかがでしょうか。


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