- 更新日 : 2024年11月27日
ライセンス契約とは?種類やロイヤリティの決め方など解説
知的財産を使用する場合は、使用者と所有者(権利者)がライセンス契約を締結しなければなりません。ライセンス契約を結ばないまま知的財産を無断で使うと、権利者から損害賠償を請求されることがあり、場合によっては犯罪に該当するおそれもあります。
今回はライセンス契約の意味や種類、ライセンス契約書に記載する項目、締結までの流れについてご説明します。
目次
ライセンス契約とは?
ライセンス契約とは、知的財産の権利者が第三者に対して知的財産権の使用を認める契約のことです。知的財産は、特許や実用新案、商標(特定の商品について他の商品と区別するために使用する文字や記号、図形など)、著作物(動画や画像、文章など)、意匠(デザイン)、営業機密、技術・設計のノウハウなど、多岐にわたります。
ライセンス契約を締結した場合、知的財産権者は、第三者に使用を許諾することになります。利用者が知的財産を使う代わりに対価を受け取ることができます。たとえば第三者であるA社が、デザイナーであるBさんが作ったキャラクターを使用したい場合は、A社とBさんがライセンス契約を結びます。A社はキャラクターを使うことができ、BさんはA社から使用料(ロイヤリティ)を受け取ることができます。
ライセンス契約におけるロイヤリティ(ライセンス料)
前章でもご説明したとおり、ライセンス契約を締結すれば第三者(使用者)が権利者の知的財産を使うことができるようになります。権利者はその対価として使用料(ロイヤリティ)を受け取ることも可能です。ここからはロイヤリティの決め方や相場について見ていきましょう。
ロイヤリティの決め方
ロイヤリティの金額の決め方には特にルールがあるわけではなく、そもそも、権利者がロイヤリティを受け取らない選択をすることも可能です。一般的にロイヤリティの金額は使用者と権利者が利用対象となる権利の種類、それによって得られる見込み収益、類似する権利のロイヤリティの金額などを総合的に考慮しながら協議して決定します。著名ブランドの商標や希少性が高いノウハウ、需要が高い製品を生産するために必要な特許技術などは、ロイヤリティも高くなる傾向があります。
また、一般的には独占的に知的財産が利用できるほうがロイヤリティは高額になる傾向があります。
ロイヤリティは、「月額●●万円」というように定額制にしたり、「売上の●%」というように出来高制にしたりもできますし、支払い方法に関しても双方で決められます。
後でトラブルにならないよう、ロイヤリティの金額や支払い方法に関しても必ずライセンス契約書に明記しておくようにしましょう。
ロイヤリティの相場
前述のとおり、ロイヤリティの金額は双方協議の上決めますが、平成 21 年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書の『知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤリティ料率に関する実態把握~』にロイヤリティ料率のアンケート調査が掲載されているので、迷った場合は参考にすると良いかもしれません。
特許権の平均ロイヤリティ料率は売上の3.7%、商標権は2.6%、プログラム著作権は6.3%、技術ノウハウは3.9%という結果が出ています。
なお、同じ権利区分でも分野によって平均のロイヤリティ料率は異なります。たとえば特許権全体では前述のとおり売上の3.7%が平均ですが、「バイオ・製薬」の場合は6.0%、「健康;人命救助;娯楽」では5.3%、「化学」では4.3%で、全体平均よりも高い傾向にあります。逆に「電気」は2.9%、「農業」は3.0%、「機関またはポンプ」は3.1%と、全体平均よりも低い水準です。同様に商標権やプログラム著作権に関しても分野ごとに違いがあります。
詳しい調査結果は以下のリンクから閲覧できます。
ライセンス契約の種類
一口にライセンス契約といってもさまざまな種類があるため、用途や目的に応じて適した契約形態を選択する必要があります。ここでは、ライセンス契約の種類について見ていきます。
通常実施権設定契約
通常実施権設定契約は、ライセンス契約に定められた範囲内で知的財産を使用することができる契約形態です。専用実施権のような排他性がないため権利者は、複数の使用者とライセンス契約を結ぶことができます。
たとえば、新しい技術を発明して特許を取得したAさんがB社と通常実施権設定契約で契約を締結した場合、B社はAさんの技術を使うことができます。同時にAさんがC社、D社と契約を締結した場合、C社・D社もAさんの技術を使うことができます。
専用実施権設定契約
専用実施権とはその名のとおり、使用者が知的財産を自身のみが使える権利のことです。通常実施権と異なり、複数の使用者と契約を締結することはできません。
AさんがB社と専用実施権設定契約で契約を結んだ場合、B社のみがAさんが発明した技術を使うことができます。C社、D社といった他者はもちろん、権利者であるAさん自身も知的財産を使うことはできません。
専用実施権の場合はライセンス契約の締結だけでなく、特許庁で手続きを行う必要があります。
クロスライセンス契約
クロスライセンス契約は、特許権の権利者同士がお互いの特許を使うことができるようにするための契約です。一般的なライセンス契約では、権利者は自分の知的財産を使わせる対価として使用料を受け取りますが、クロスライセンス契約では相手の知的財産が対価になります。
たとえば、A社とB社がクロスライセンス契約を締結した場合、A社はB社の技術を、B社はA社の技術を使うことができます。クロスライセンス契約は、企業が協業して新しい技術や製品を開発する場合などによく用いられる契約形態です。
サブライセンス契約
サブライセンス契約とは、権利者から使用許諾を受けた使用者が、さらに第三者に使用を許諾する契約のことです。「再許諾」とも呼ばれます。
Aさんの技術をB社が使いたい場合は、一般的に通常実施権で契約を締結します。しかし、B社が子会社や関連会社であるC社やD社にAさんの技術を使わせたい場合は、各々がAさんと通常実施権契約を結ばなければなりません。サブライセンス契約を締結すれば、B社はC社やD社にもAさんの技術を使わせることができます。
ソフトウェアのライセンス契約
ソフトウェアライセンス契約は、ソフトウェアの著作権者がソフトウェアの使用者に対して使用を許諾する際に締結する契約です。特に権利者と数多くの使用者が個別で契約書を締結するのは工数の面で現実的ではないため、ソフトウェアを不特定多数のユーザーに販売・配布するケースではこのような契約が結ばれます。
ソフトウェアをインストールした後に利用規約が表示され、ユーザーが「同意する」というボタンをクリックすることで契約が成立するとみなされる「クリック・オン契約」や、包装などを開封すると規約に同意したとみなす「シュリンク・ラップ契約」という形態があります。
フランチャイズ契約
フランチャイズ契約とは利用者が商標や経営ノウハウを使用する代わりに権利者がロイヤリティを受け取ることができるという契約です。コンビニや飲食店、学習塾や介護施設など、さまざまな業種で取り入れられています。
利用者は大手企業や有名企業の看板や経営ノウハウを使って商売ができる、権利者はロイヤリティを受け取れるというメリットがあります。
利用者が権利者に決まった額のロイヤリティを支払う「定額方式」、売上の一部を支払う「売上歩合方式」、粗利益の一部を支払う「粗利分配方式」という支払い形態があります。
ライセンス契約には何を記載する?
ここまで、ライセンス契約の種類についてご説明しました。さまざまな形態がありますが、契約書に記載しておくべきポイントの多くは共通しています。ここからは、ライセンス契約書に記載する内容についてご説明します。
契約の対象物
まずは対象物(権利)、すなわち「何の権利使用を許可するのか」について記載しましょう。対象物の名称や概要、定義はもちろん、「対象物が改変された場合はそれも対象に含まれるのか」といったことも含めて契約を締結する必要があります。
ライセンスの使用範囲
ライセンスの使用範囲もポイントとなります。どの地域で使用できるのか、どのような用途で使用できるのか、いつからいつまで使用できるのか、改変は許諾するのか(改変を許諾する場合はどの程度まで可能か)、独占的に利用できるのか、第三者にも譲渡できるのかといったことを契約書に記載しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
ロイヤリティの金額
前述のとおり、ライセンス契約を締結すれば権利者は第三者に知的財産を使わせる代わりに対価としてロイヤリティを受け取ることもできます。その金額や支払条件についても、しっかり記載しておきましょう。具体的な金額を指定できるほか、「販売金額の◯%」というように知的財産を利用したことで得た売上や利益の一部を受け取ることも可能です。
契約期間
そのライセンス契約がいつまで有効なのかを記載しましょう。契約期間を定めなければ、使用者がずっと対象物を使えることになる可能性があります。「令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日まで」というように、具体的な年月日を記載します。
表示義務
使用者が権利者から特許権などの使用の許諾を受けたことを表示したい場合、「権利者の承諾を得た場合に限る」など、表示をするための条件を契約書に記載します。
譲渡の禁止
ライセンス契約の権利を使用者が他者に譲渡することを防ぎたい場合は、譲渡の禁止についても明確に記載しておく必要があります。
解除・解約
権利者と使用者が、ライセンス契約を解除・解約できる旨とその条件を記載します。これによって相手方が規約違反や利用料の不払い、倒産、その他一方が不利になるような状況に陥った際に、ライセンス契約の解除・解約が可能になります。
合意管轄
ライセンス契約に関するトラブルが発生した場合、どの裁判所で審理するかを記載します。「◯◯地方裁判所」というように、具体的な裁判所名を記載します。
ライセンス契約の流れ
最後に、ライセンス契約を締結する際の流れについてご説明します。大きく「準備」「交渉」「締結」という3つのパートに分けられますので、それぞれについて見ていきましょう。
準備
相手方と直接交渉する前に、事前準備を入念に進めておく必要があります。使用者であればライセンスを使うことで達成できる目標や権利者の選定、使用したい対象物の権利関係、自社内のライセンス使用に関する方針やルールの策定などが挙げられます。
権利者側は、ライセンスを許諾する条件の策定やライセンスの提供にあたって発生し得るリスクの想定、使用者の選定(自分の目的を達成してくれる相手かどうか)などを検討する必要があります。
交渉
準備が整ったら相手方とコンタクトを取り、交渉を開始します。自分の利益を確保するだけでなく、相手方もメリットを享受できるよう意識しながら、お互いに条件などをすり合わせていきます。
ライセンスを使用したい人が権利者と交渉する場合、権利者に断られるケースもあります。場合によっては、特許の専門家である弁理士や法律の専門家である弁護士にアドバイスを仰ぎ、交渉に関与してもらうことで、円滑に契約を締結できることもありますので、必要に応じて弁理士や弁護士に相談してみましょう。
締結
お互いが合意に至れば、いよいよライセンス契約を締結します。契約書を作成し、自分と相手方が署名・捺印をした時点で契約が成立したとみなされます。ライセンス契約は、知的財産という財産をやり取りするための契約です。権利者と利用者は、ともに契約の内容を十分に確認し、納得した上で署名・捺印をしましょう。
ライセンス契約はお互いの将来に深く関わる重大な契約
デザインや技術、ノウハウなどの知的財産は、その権利がないがしろにされるケースが少なくありません。特にネットが普及した昨今では情報が無料で手に入り、著作物を簡単に複写し、ノウハウを活用できるようになりました。
しかし、知的財産はその名のとおり財産であり、取り扱い方によって大きな利益を得られる可能性もあれば、損失を被るリスクもあります。権利者は自分の財産を守ることを、利用者は権利者の大切な財産を快く使わせてもらうことを意識して、慎重にライセンス契約を締結しましょう。
マネーフォワード クラウド契約では弁護士監修のライセンス契約書のテンプレートを用意しています。無料で利用可能ですので、以下のページからダウンロードしてご利用ください。
よくある質問
ライセンス契約とは何ですか?
知的財産の所有者が、自分が所有する知的財産の利用を第三者に対して許諾する契約のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
ライセンス契約にはどのような種類がありますか?
通常実施権や専用実施権、クロスライセンス契約、サブライセンス契約、ソフトウェアライセンス契約などがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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