• 更新日 : 2024年11月14日

不動産賃貸は電子契約もOK!書類の準備や契約の流れ、保管方法を解説

不動産賃貸は電子契約が可能です。宅地建物取引業法の改正により電子化が可能になり、賃貸契約に関する一連の流れをオンラインで完結できるようになりました。これにより、不動産業賃貸の業務を効率化できます。

本記事では、不動産賃貸で電子契約できる書類や導入する前の確認事項、電子契約を締結するメリット・デメリットなどを解説します。

不動産賃貸は電子契約が認められている

2022年5月、宅地建物取引業法(宅建業法)の改正法が施行され、不動産賃貸の電子契約が認められるようになりました。

電子契約とは、インターネット・メール等を介して電子データにより締結する契約のことです。

不動産賃貸の取引では各種書類の書面交付が義務付けられており、これまでは紙の書類による契約が一般的でした。しかし、データ活用が急速に進む中で不動産賃貸の契約書類も電子化を望む声が多くなり、要望を踏まえ、2021年にデジタル改革関連法の中で「押印・書面の交付等を求める手続きの見直し」が盛り込まれました。その一環として宅建業法の改正が行われ、電子データによる書類の交付ができるようになりました。

デジタル改革関連法は、社会でデータの利活用が急速に進むなかで、デジタル化の推進に伴う社会の課題を解決するために施行された法律です。社会全体がデジタル化に向けて整備を進めており、不動産賃貸業務の電子化は、その流れに沿って行われています。

電子化の解禁により、不動産賃貸の申込から契約締結までの一連の流れをオンラインで完結することも可能になりました。

不動産賃貸で電子契約が可能な書類

法改正により、不動産賃貸の契約で変更になった点は次のとおりです。

申し込み契約締結の場面
法改正前オンライン申し込み可
  • オンライン可:オンラインによる重要事項説明(IT重説)
  • オンライン不可:重要事項説明書(35条書面)、宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面など
法改正後オンライン申し込み可
  • オンライン可:重要事項説明書(35条書面)

宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面(37条書面)

  • オンライン不可:事業用定期借地契約など

ここでは、法改正で電子契約が可能になった不動産賃貸の書類をみていきましょう。

重要事項説明書

重要事項証明書とは、契約を伴う取引において、契約上の重要な事項を相手側(入居者)に説明するための書類です。賃貸物件の詳細や、賃貸契約に関わる重要事項が記載されています。

宅地建物取引業法では、賃貸借契約書を締結する前に宅地建物取引士が重要事項の説明をすることを義務付けており、重要事項説明書はその説明の際に使用する書面です。交付義務が宅建業法の35条に定められていることから「35条書面」とも呼ばれています。

法改正前、重要事項の説明はオンラインでも可能でしたが、説明と合わせて書面での交付が義務付けられていました。宅建業法の改正により電子による交付ができるようになったため、すべてオンラインで完結することも可能です。

賃貸借契約書

賃貸借契約書は、不動産賃貸契約を締結する際に交付する書類です。宅地建物取引業者は、不動産賃貸契約が締結されたとき、主要な事項を記載した賃貸借契約書を遅滞なく交付しなければなりません。交付義務が宅建業法の37条に定められていることから「37条書面」とも呼ばれています。

法改正前は宅地建物取引士による記名押印のうえ、書面を交付しなければなりませんでした。法改正により押印は不要となり、電子データによる提供が認められています。

不動産売買契約書

不動産売買契約書は、不動産の売買が成立した際に交付する書類です。不動産賃貸と同じく宅建業法の37条に定められており、37条書面として交付が義務付けられています。

不動産売買は契約金額が高額になるため、契約書に必要となる印紙税も高額になりがちです。電子契約にする場合は課税文書にならず、印紙税が不要になるため、電子化は大きなメリットになるでしょう。

書面の交付が必要な文書もある

法改正後も電子契約ができず、書面の交付が要求される書類もあります。不動産賃貸の場面で電子契約が認められないのは、「事業用定期借地契約」の書類です。

借地借家法第23条により、事業用定期借地契約には「公正証書」による締結が必要とされています。公正証書とは、私人(個人または会社その他の法人)からの嘱託により、公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。公正証書は文書による作成が必要であり、電子化することができません。そのため、法改正後も紙による契約書の作成が必要です。

参考:e-Gov法令検索 宅地建物取引業法 

不動産賃貸に電子契約を導入する前の確認事項

不動産賃貸で電子契約を導入する際は、事前準備や確認すべき項目があります。

詳しくみていきましょう。

電子署名法に基づいた電子契約システムを選ぶ

電子契約が紙の書類と同じ法的効力をもてるよう、電子契約時は電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)に沿った契約で行うようにしましょう。電子署名法とは、電子契約が真正に成立したものと推定されるための電子署名の方式などについて定めた法律です。

紙で行う契約では、本人による署名捺印があれば、真正に成立したものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。同様に、電子契約の場合では、署名捺印の代わりに電子署名法の要件を満たす電子署名がなされた場合には真正に成立したものと推定されます。電子署名に法的効力を与えるためには、電子署名法に定められた条件を満たさなければなりません。

法で定めた条件を満たしていない場合、契約の効力を争う場面では法的根拠を示せないことになります。

法が求める条件は、次のとおりです。

  • 本人性(電磁記録の情報が、対象者の作成によるものであることを示す)
  • 非改ざん性(電磁記録の情報が改変されていないか確認できるもの)

この条件を満たすためには、電子署名法に対応した電子契約システムを選ぶ必要があります。

参考:e-Gov法令検索 電子署名及び認証業務に関する法律 |

必ず契約相手からの承諾を得る

電子契約を実際に締結するためには、相手側(賃借人)の承諾が必要です。宅建業法では、電子化を望まない消費者の保護などを目的に、相手方の同意・承諾を取得することが義務付けられています。電子契約の利用について承諾がない場合、従来どおり紙の書面で契約しなければなりません。重要な書類は紙で確認したいと思う人もいるため、電子契約を断られた場合は、強要しないことが大切です。

相手からの承諾を得る方法には、電子メールやWebサイトの回答フォーム、USBメモリ等の受領などがあげられます。

物件のオーナーへ事前に説明をする

賃貸契約で電子契約を導入する場合は、オーナーへの事前説明も必要です。電子契約では紙による契約よりも大きくフローが変わるため、業務の流れについてよく説明しておきましょう。

オーナーにも電子署名で対応してもらいたい書類がある場合は、事前に電子契約システムの使用方法についての説明も行い、慣れておいてもらうと安心です。

社内規程を確認しておく

電子契約の導入では、社内規程の確認・見直しが必要になる場合もあります。見直しが必要になるのは、主に印章管理規程や文書管理規程です。

印章管理規程は紙媒体を想定したものですが、電子契約で印章は電子署名に置きかわります。印章の保管は不要になって紛失や盗難の心配はなくなるものの、第三者によるなりすましのリスクがあるため、規程の見直しが必要です。

文書管理規程とは、会社で取り扱う文書の管理方法を定めた規程です。電子契約の導入で文書のオンライン保管をするようになったら、文書管理規程の改定も必要になるでしょう。オンライン上の保管場所や保存期間、管理者など、新たなルールを設けなければなりません。

契約書の文言を変更・調整しておく

電子契約を導入する際、紙の契約書で使っていた文言のほとんどは使用できますが、電子契約ではそぐわない文言や表現も存在します。そのため、テンプレートの文言を変更・調整しておかなければなりません。

変更が必要な項目は、主に次の部分です。

  • 書面の交付を必須とする条項
  • 後文

紙の契約書では、契約上の手続きについて書面の交付を必須とする条項を入れているものがあります。

たとえば、次のような条項です。

「本契約の有効期間は契約締結日から2年間とする。ただし、いずれかの当事者が相手方に対して、期間満了日の2ヶ月前までに書面による契約終了の意思表示をしなければ、さらに同じ条件で2年間更新され、その後も同様とする」

このような条項が定められている場合、電子契約の手続きの一部を紙の書類にするのは煩雑になるため、電子による方法にするか、並列する文言に変更した方がよいでしょう。

具体的には、上記の「書面による」という文言を「書面または当事者が合意した方法の電磁的記録による」もしくは「当事者が合意した方法の電磁的記録による」に変更します。

契約書の本文に記載する後文も、電子契約に合わせて変更しましょう。

紙の文書の場合、次のような文章を書くのが一般的です。

「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲及び乙がこれに記名押印又は署名捺印のうえ、各自1通ずつを保有する」

これは紙の契約書の原本を作成することを想定したものですが、電子契約の場合、容易に改ざんできない複製ファイルを作成でき、通数にかかわらず印紙税はかかりません。そのため、通数の文言は不要です。また、電子署名を行う電子契約では、記名押印・署名捺印の文言も必要ありません。

電子契約の場合は、次のような文言になります。

「本契約の成立を証するため、本書の電磁的記録を作成し、〇〇および△△が合意の後電子署名を施し、各自その電磁的記録を保管する」

これらを参考に、文言は自社の契約に合うように調整してください。

不動産賃貸の電子契約の流れ

不動産賃貸の契約を電子契約で行う場合、一連の流れは次のとおりです。

  1. 重要事項説明書・契約書をアップロードする
  2. 不動産賃貸業者が電子署名を行う
  3. オンラインによる重要事項の説明(IT重説)を実施する
  4. 相手側が電子署名を行う
  5. 契約の電子データをサーバーに保管する

契約の流れは、相手が電子契約を承諾していることが前提になるため、あらかじめ承諾をとっておきましょう。

電子契約の締結は、電子契約システムを使用するのが一般的です。電子契約システムを利用することで、相手方に電子契約を送付するタイミングにより自動で電子署名が付与されます。

不動産賃貸の電子契約データの正しい保管方法

不動産賃貸契約の電子データは、適切なセキュリティ対策と電子帳簿保存法に沿った保管が必要です。

詳しくみていきましょう。

適切なセキュリティ対策を講じる

電子契約で問題となるのが、セキュリティ上のリスクです。セキュリティ対策が十分でないと、悪意ある第三者による改ざんや、情報漏洩が起こる可能性があります。

そのため、電子契約を利用する際は、適切なセキュリティ対策が欠かせません。対策として、契約書へのアクセス権を制限したり、セキュリティ体制が万全な電子契約システムを利用したりする方法があげられます。関わる社員のセキュリティに対する意識を高めることも大切です。

電子帳簿保存法に沿ったデータ保管を行う

不動産賃貸の電子契約で作成したデータは、電子帳簿保存法に沿って保管することが大切です。電子帳簿保存法とは、帳票を電子データで保管する際に守るべきルールを定めた法律です。対象は国税関係の帳簿・書類であり、不動産取引では決算書や契約書が該当します。

契約書などの書類は7年間の保存が必要であり、法の要件に沿っていれば電子ファイルでの保存が可能です。

不動産賃貸に電子契約を利用するメリット

不動産賃貸に電子契約を導入することで、コスト削減につながります。

主なメリットをみていきましょう。

印紙税が不要

前述のとおり、電子契約は印紙税が不要です。課税文書は、その文書を作成した人に印紙税を納める義務があります。この「作成」とは、紙など用紙によるものとされ、電子データを用いて契約を締結する電子契約は課税文書の作成には該当しません。

書面で締結した契約書は課税文書として印紙税がかかりますが、電子契約ではかからず、コストを抑えられます。

書類を郵送する手間がかからない

紙の契約書を作成する場合、必要書類の印刷から封入・封緘作業、投函といった手間がかかり、郵送代も必要です。電子契約にすることで、これらの手間やコストを削減できます。

契約件数が多いほど手間も時間もかかり、人件費も高額になるでしょう。電子契約であれば、書類を相手先のメールアドレスに送るだけで、コストがかからず、業務の効率化もできます。

不動産賃貸に電子契約を利用するデメリット

不動産賃貸で電子契約を利用することには、デメリットもあります。

紙と比較すると全体の内容が把握しにくい

書類の契約書に慣れていると、電子契約で使用する電子データは全体像が把握しにくいというデメリットがあります。大きい画面で表示するなど、全体像を捉えるための工夫が必要になるでしょう。

電子契約の導入で業務フローは大幅に変わるため、社内調整が面倒という現場の声も多いのが実情です。IT操作に馴染みがなく、電子契約システムに抵抗がある、あるいは慣れるまで時間のかかる社員がいるかもしれません。

不動産賃貸に最適な契約書管理システムの選び方

不動産賃貸に電子契約を導入する場合、契約書管理システムの利用がおすすめです。契約書管理システムであれば、インターネットを通じて契約書の送信から締結までのすべてのプロセスをクラウド上で完結できます。

契約書管理システムを選ぶ際は、次のポイントをチェックしましょう。

  • 操作しやすいか
  • 機能は豊富か
  • セキュリティ体制は万全か
  • 電子契約サービスがあるか

操作性は、導入後のシステム活用に大きく影響します。操作が簡単であれば業務効率化に役立ち、研修コストも抑えることができるでしょう。

機能の充実度も、業務効率に影響を与えます。また、万全なセキュリティ体制は、情報漏洩を防ぐために必須項目です。

電子契約をスムーズに進めるために、電子契約サービスがあることも確認しておきましょう。電子署名に対応しているか、法的に認められている形式を採用しているかも必ずチェックしてください。

操作性の高い契約管理システムとしておすすめなのが、「マネーフォワード クラウド契約」です。契約書の作成から申請・承認、締結、保存、管理まで、契約に関わる機能をすべてに対応します。

電子契約を導入している不動産会社の事例

電子契約の導入に成功した不動産会社の事例をみていきましょう。

不動産事業を展開する第一住建ホールディングスでは、2022年4月よりマネーフォワード クラウド契約を導入し、不動産に関わるさまざまな契約書に活用しています。同社ではトップダウンでの意思決定と、ボトムアップでの社内コミュニケーションにより、業務の電子化に踏み切りました。電子契約サービスを選ぶ際は、標準プランでワークフローを構築できることや、送信料が無料で取り扱う契約書が増えても金額が変わらないことを決め手にマネーフォワード クラウド契約を選んでいます。

高額な不動産の取引では1件の売買で収入印紙税が数十万円かかることもありますが、電子契約の導入でゼロになりました。さらに、契約業務全体のスピードが非常に早くなったという成果を得ています。

不動産賃貸の電子契約導入は事前準備が大切

不動産賃貸では電子契約が可能になり、賃貸契約の一連の流れをオンラインで完結することが可能です。電子契約の導入で印紙税が不要になり、手間やコストを削減して業務効率化につながるというメリットもあります。

ただし、これまで紙の書類に慣れていた不動産業界では電子契約の導入で戸惑うことも多いでしょう。導入する際は事前準備が重要であり、契約管理システムや電子契約サービスの活用も必要になります。導入の手順を確認し、電子契約の運用を成功させましょう。


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