• 更新日 : 2024年11月12日

フリーランス新法で個人事業主は何を確認すべき?メリットや違反への対応を解説

フリーランス新法で個人事業主の権利が強化されます。2024年11月施行予定のこの法律は、フリーランスの労働環境を保護し、多様な働き方をサポートすることになるでしょう。

本記事では、新法のメリットや個人事業主が確認すべき点、違反への対応方法などを詳しく解説します。

フリーランス新法とは?

フリーランスの権利を保護するため、2023年4月に成立した法律です。

この法律は、増加傾向にあるフリーランスの働き方を背景に、その権利保護を目的とし、業種を問いません。従来、労働基準法の適用外であったフリーランスは、不利な契約条件や不当な扱いを受けても、泣き寝入りせざるを得ないケースがありました。

2023年4月に国会において成立したフリーランス新法では、企業側に契約条件の書面明示や60日以内の報酬支払などを義務付け、フリーランスの労働環境整備と不当な扱いの禁止を定めているのが特徴です。

2024年11月1日より施行され、今後フリーランスの労働環境の改善が期待されています。

フリーランス新法で個人事業主にどのようなメリットがあるのか?

フリーランス新法は、個人事業主にとって、より働きやすい環境を実現するための法律です。取引条件の適正化や就業環境の整備など、さまざまなメリットがあります。なかでも、これまであいまいになりがちだった契約内容や報酬の支払期日などが明確化されたことは、フリーランスにとって大きな進歩といえるでしょう。

取引条件が適正化される

これまでの業務委託契約では、口約束で業務委託契約を結ぶケースも見られましたが、新法では書面または電磁的方法での契約明示が義務付けられました。業務内容や報酬額などがあいまいなまま業務開始となることを防ぎ、トラブルを未然に防ぐことが期待できます。

報酬の支払期日に関しては、委託物受領後60日以内と定められました。これまで課題とされてきた報酬支払いの遅延や未払いが抑制され、フリーランスはより安心して業務に集中できるようになります。

また、フリーランスが不利な立場に立たされるような、不当な要求を禁止する条項も盛り込まれました。正当な理由のない報酬減額や返品、著しく低い報酬額の設定、経済的な負担を強いる行為などがこれにあたります。

就業環境の整備が行われる

フリーランス新法では企業がフリーランスとの業務委託契約において、委託内容や報酬の額を明示することが義務付けられました。これは書面や電磁的方法で行われるため、契約内容があいまいになりにくく、個人事業主は安心して業務を進められます。

また、報酬の支払期日についても明確な規定があり、委託物を受け取った日から60日以内の報酬支払いを義務付けられました。これにより、個人事業主は不安定なキャッシュフローに悩まされることが少なくなるでしょう。

さらに、新法には取引の公正性を保つための禁止事項も含まれています。たとえば、受託者側に非がないのに受領拒否や報酬の減額、返品は禁止されており、不当に低い報酬額の設定も認められていません。加えて、正当な理由なく物品や役務の利用を強要したり、契約内容の変更を一方的に行ったりすることなども禁止されています。

フリーランス新法で個人事業主が確認・対応すべきこと

フリーランス新法の施行により、個人事業主と発注者の間の取引関係がより明確になります。個人事業主は、この法律について熟知し、必要な対応を取ることが重要です。以下では、フリーランス新法に基づいて個人事業主が確認・対応すべき主要なポイントについて解説します。

具体的な支払い期日を定めておく

フリーランス新法では、個人事業主は報酬の支払期日について注意する必要があります。発注者は成果物受領日または役務提供日から60日以内に支払期日を設定しなければなりません。この期間はできるだけ短くすることが求められています。

契約時には以下の点を確認しましょう。

  • 支払期日が明確に定められているか
  • 60日以内の期日となっているか
  • 再委託の場合、元請の支払日から30日以内か

支払期日が定められていない場合、成果物受領日が支払期日とみなされます。また、60日を超える期日が設定された場合、60日目が支払期日とみなされます。

また再委託の際は、元請けの情報や支払条件を、発注者から明示してもらうようにしましょう。

取引条件が書面に明記されていることを確認する

フリーランス新法に基づき、個人事業主が確認すべき最も重要なポイントの一つは、取引条件が書面で明記されているかどうかです。この法律では、発注者が取引条件の明示を義務付けており、トラブル防止のためにも取引開始前に確認が必要です。

【取引条件の確認すべきポイント】

確認項目内容
業務委託者と特定受託者の名称発注者とフリーランスの名称(法人名・個人名)が正確に記載されているか
業務委託をした日業務委託の合意日が書面に明記されているか
特定受託者の給付内容依頼された業務の内容が詳細に記載されているか
給付受領または業務提供の期日作業の完了日または業務提供を受ける期日が明示されているか
給付を受ける場所の記載業務が行われる場所について具体的に書かれているか
検査完了の期限検査が必要な場合、その期限が明示されているか
報酬額と支払期日報酬の金額および支払日が具体的に書かれているか
支払方法の詳細現金以外の支払方法がある場合、その内容が記載されているか

これらのポイントを確認することで、取引条件のあいまいさを防ぎ、安心して業務に取り組むことが可能になります。書面での確認がなされていない場合は、トラブルが発生するリスクも高まるため、必ず書面での明示を求めるようにしましょう。

他のフリーランスに業務委託する場合は書面で取引条件を明示する

受注者が受注業務の一部ないしは全部を他のフリーランスに業務委託する場合(いわゆる再委託の場合)においても、受注者が新法での特定業務委託事業者(従業員を抱える個人事業主、法人ないしは役員が2人以上いる法人)に該当する場合には、書面で取引条件を明示する必要があります。

再委託の場合には、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることが例外的に許されており、通常明示すべき事項に加えて次の3つの事項を明示しなければなりません。

  • 再委託である旨
  • 元委託者の名称(識別できるもの)
  • 元委託業務の対価の支払期日

発注者(再委託者)には小規模な事業者や従業員を抱える個人事業主が含まれます。彼らにとって、委託元からの支払いがまだない状態で再委託先のフリーランスに報酬を支払うことは、経営において大きな負担となるため、再委託が発生する場合には特別な支払期日を設定することが認められています。

フリーランス新法で定められる禁止事項

フリーランス新法では、1ヶ月以上の業務委託契約を結ぶフリーランスとその発注事業者間において、守るべきルールが明確化されました。発注事業者には7つの禁止行為が定められており、たとえフリーランスが合意していたとしても、これらの行為は法律違反となる可能性もあるため注意が必要です。ここでは具体例を紹介します。

理由なく受領を拒むこと

受領拒否事例
小売店→デザイナー売れ行き不振を理由に、一部をキャンセルし受領しなかった。
システム開発会社→システムエンジニア取引先からの仕様変更を理由に、あらかじめ決められていた納期に、フリーランスが当初の仕様に基づいて開発したプログラムを受け取らなかった。
アニメーション制作会社→アニメーター放送打ち切りを理由に、制作済みの原画を受領しなかった。

理由なく報酬を減額すること

報酬の減額事例
ゲーム開発会社→イラストレーター業績悪化を理由に、当初の合意よりも安い報酬を一方的に提示した。
ネイルサロン→ネイリスト業務委託契約を結んでいるネイリストに対し、サロンの改装費用を捻出するため「協力金」と称して、報酬から一定の割合を控除した金額で支払った。
出版社→記者銀行口座に振り込む際の手数料を、記者の同意を得ることなく報酬から差し引いた。

理由なく返品を行うこと

返品事例
イベント企画会社→フラワーデザイナーイベント後、装飾に使用した花が不要になったとして、一方的に返品を求めた。
工芸品メーカー→伝統工芸職人自社のロゴを入れた工芸品の製造を委託していたが、納品された品物を一度受け取った後、前回の発注時には問題視していなかった個体差を理由に返品を求めた。
広告制作会社→イラストレーター広告掲載が中止になったため、納品済みのイラストが不要になったとして返品した。

市場の適正価格よりも著しく低い報酬額を定めること

買いたたき事例
工務店→一人親方自社が建設する住宅の外構工事を委託している下請に対し、施工の単価を改定するにあたり、十分な協議を行わずに一方的に単価を設定し、通常の対価を大幅に下回る報酬額を決めた。
食品メーカー→映像クリエイター自社商品の広告動画の制作を委託した際、見積書作成時よりも大幅に短い納期で発注したにもかかわらず、当初の見積額のままとし、通常の対価を大幅に下回る報酬額を設定した。

正当な理由なく物の購入や役務の利用を強制すること

購入・利用強制事例
冠婚葬祭業者→ナレーター運営する結婚式場での披露宴などの司会を委託している相手に対し、発注担当者が式場で提供しているおせち料理やクリスマスケーキの購入を求めた。
番組制作会社→カメラマン自社が制作する放送コンテンツの撮影を委託している相手に、自社の関連会社が手がけた映画のチケットを、特定の目標枚数を設定して購入させた。

金銭、役務など経済上の利益を提供させること

不当な経済上の利益の提供要請事例
運送会社→運送ドライバー荷物の運送のみを委託していたにもかかわらず、委託範囲外である荷積み作業を無償で行わせた。
音楽制作会社→作曲家自社が制作する楽曲の候補として複数の楽曲案を依頼し、採用した楽曲について知的財産権を自社に譲渡する契約を結んでいたが、採用されなかった楽曲の知的財産権も無償で譲渡させた。

理由なく内容を変更する、またはやり直しさせること

不当な給付内容の変更・やり直し事例
ソフ トウェア開発会社→プログラマー新規ソフトウェアのプログラム作成を依頼し、プログラムの受領後に、定められていた検査基準を意図的に厳しく設定し、発注内容と異なるとして無償での再作業を求めた。
イベン ト企画会社→シェフ自社主催のイベントで提供する料理の企画・調理を委託したものの、イベントが中止となったことを理由に委託を取り消し、シェフが準備のために負担した費用を補償しなかった。

参考:内閣官房 ここからはじめるフリーランス・事業者間取引適正化等法

取引先が違反した場合の対応方法

フリーランス新法に違反する行為を受けた場合の相談先を、2つ紹介します。

フリーランス・トラブル110番に連絡する

フリーランスのトラブルや悩みに対応する無料の相談サービス「フリーランス・トラブル110番」が設置されています。

これは第二東京弁護士会が厚労省の委託を受けて運営する窓口で、未払い問題や契約上のもめごとなど、多岐にわたる相談を受け付けています。電話やメールでの相談を受け付け、状況に応じてオンライン面談や直接の面談も可能です。

参考:厚生労働省 フリーランス・トラブル110番

公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の窓口に直接連絡する

フリーランス新法施行後であっても、すべての発注者が法令を遵守するとは限りません。違反行為を受けたフリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の窓口へ申出が可能です。

各省庁は調査を行い、違反が確認されれば適切な措置を講じます。報告徴収・立入検査・助言・指導・勧告が行われ、改善が見られない場合は命令や公表に至ることもあります。

フリーランス新法を理解して、より良い取引環境を築こう!

フリーランス新法は、個人事業主の権利を強化し、公正な取引環境を整備する法律です。この法律を理解し活用することで、個人事業主はより安定した事業運営が可能となります。

取引条件の明確化や適正な報酬支払いなど、新法がもたらすメリットを最大限に活かしましょう。同時に、他のフリーランスに業務を委託する際は、自らも法律を遵守する立場になることを忘れてはなりません。

フリーランス新法を通じて、個人事業主がより良い取引環境で活躍できる社会の実現を目指しましょう。


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