• 作成日 : 2022年5月20日

定型約款とは?民法改正のポイントをわかりやすく解説

定型約款とは?民法改正のポイントをわかりやすく解説

令和2年4月1日に施行された改正民法により、初めて「定型約款」が法律上の制度となりました。今回は、定型約款の定義や具体例、定型約款と定型取引の違いについて解説します。また、これまで日常的に使われていた定型約款が法制度となった背景や、改正民法のポイントなども詳しく見ていきます。

定型約款(ていけいやっかん)とは?

市民生活における個人間の関係を規律する「民法」は、社会の流れや人々の考え方の変遷に対応し、何度も改正されてきました。これまでは家族法と呼ばれる親族・相続に関する規定の改正が多かったのですが、平成29年公布、令和2年施行のいわゆる「民法大改正」では、債権規定においても大幅な改正が行われました。「定型約款」が法律用語として初めて登場するのもその一環です。

定型約款と定型取引の関係

これまで「約款」という言葉は「予め契約に定められている条項」という意味で使われてきましたが、改正民法により定型約款は「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されました(改正民法548条の2第1項柱書、以下「法」とします)。

「定型取引」が指す取引は、同項柱書で以下のように定義されています。

  • ① ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引
  • ➁ その取引内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの

①においては、契約の相手方が誰であろうと同じ内容・方式で行う取引であることが求められます。個別事情に応じて内容を変更する取引は、定型取引とはいえません。

②は取引内容の画一性はもちろんのこと、画一的であることが当事者の双方に合理的であることも要件として求めています。「合理的」とは双方の手間や時間をなくしたり、短縮したりできるということです。

これらの要件を満たす「定型取引」に使用するものでなければ、定型約款とは認められません。

参考:民法|e-Gov法令検索

定型約款の具体例

では定型取引、ひいては定型約款にあたるとされるのは具体的にどのようなものでしょうか。

最も一般的なものは「鉄道等の旅客運送取引における運送約款」でしょう。

あまり気にすることはありませんが、普段私たちが電車に乗る時には、その都度鉄道会社と旅客運送契約を交わしています。事業者が不特定多数に対し、条件が整えば誰であっても電車に乗せるという画一的な取引を、利用者側も納得して利用しているのです。
路線バスや飛行機などの利用時も、同様に旅客運送としての定型取引となります。

また、銀行の口座を開設する際の「普通預金規定」も、口座開設者が誰であっても適用され得るよう、事業者である金融機関が作成した定型約款といえます。

電気やガスの供給に関する約款や、保険契約の際に契約者に手渡す約款なども定型約款です。インターネット上の取引で、申し込みの前に提示して「内容に同意します」にチェックすることが求められる条項の規定も、多くは定型約款に該当します。

注意しなければならないのは、保険契約や銀行口座開設のように事業者と契約者が直接何らかの手続きを行う場合はさておき、実際には上記の約款は存在しているものの、日々電車に乗る時にいちいち定型約款を確認しないという点です。切符を買うたびに駅員が約款を提示していては、駅が混雑してしまいます。

そこで、民法548条の2第1項では、定型取引を行うことに双方の合意があれば、定型約款の個別の条項についても合意をしたとみなす「みなし合意」という規定を設けました。しかし、みなし合意の規定は、約款を予め契約者側に表示しておくことを前提としているため、個々の契約者への表示が難しい鉄道業界や航空業界では鉄道営業法や航空法などの特別法で、事業者が定型約款を自社のホームページ上に掲載する等といった方法で公表していれば「みなし合意」にあたるとしています(鉄道営業法18条ノ2、航空法134条の3)。

これらの規定により、多くのケースで約款の提示がなくとも取引が成立し、社会生活がスムーズに回っているのです。

参考:鉄道営業法|e-Gov法令検索

定型約款に関して民法改正のポイント

定型約款について、ある程度おわかりいただけたかと思いますが、なぜ定型約款に関する法制度を新設する必要があったのでしょうか。

それを説明する前に、改正民法に「定型約款」が取り入れられた背景や、既存の制度の問題点を確認しておきましょう。

定型約款に関する民法改正の背景、それまでの制度の問題点

これまでも、約款は事業者が不特定多数と取引する時を想定し、日常的に使われてきました。とはいえ、細かい決まりが長々と記載されている約款を渡され、その内容をすべて確認した上で契約に臨む人は稀でしょう。しかし、約款は契約に関する条項、すなわち契約書の内容そのものであり、契約当事者にとって重要なものです。それにもかかわらず約款について明確な基準がないままでは、契約上のトラブルが生じた際に双方の解釈が相違を招き、解決の妨げとなります。

訴訟になってもケースバイケースで判断するしかなく、過去の裁判例を判断材料とするのは難しかったのです。

改正点 ① 定型約款の定義

上記の問題を解決するため、民法改正時に約款の定義を置き、基準を明確にすることになりました。

前述のとおり、定型約款は「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」と定義されました。

改正点 ➁ 定型約款という名称

日常生活において、これまで約款として事業者と契約者間で交わされていた書類には、非常に多くの種類がありました。今回の「定型約款」という名称は、これまで浸透していた「約款」の概念と切り離し、規律の対象となるものを明らかにするために付けられました。

改正点 ③ 定型約款が契約の内容となるための要件

前章でも一部紹介しましたが、定型約款が契約の内容となり得る要件は、民法584条の2第1項で以下のように規定されています。

①不特定多数の利用者に対する、

②取引の内容の全部又は一部が画一的であることが双方にとって合理的な取引につき
③契約の内容とすることを目的として事業者側が準備した条項群であること

引用:民法|e-Gov法令検索

①②は定型取引の定義としてすでに説明しましたが、③は契約時に契約内容について相手方と交渉することを想定せず、事業者側が予め作成したものであることが必要であるという規定です。

したがって、個々の事情により交渉を必要とする部分があるため、画一的な内容にすることが合理的とはいえないフランチャイズ契約や、個別交渉が必要な建物賃貸借契約などは上記の要件を満たさないため、定型約款ではないと考えられます。
定型約款は施行されたばかりの制度なので、いわゆる「約款」がどのような場合に定型約款と認められるかは、今後裁判などで徐々に明確になっていくでしょう。

改正点 ④ 不当条項の取り扱い

「みなし合意」は定型約款の内容が画一的で、常識の範囲内であることを前提として成立するものですから、その内容に通常予測できない、契約者のみが不利になる条項が入っていては、定型約款としてみなし合意があったと認めるわけにはいきません。

そこで、民法548条の2第2項では、①相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重し、②その定型取引の態様、実情、取引上の社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるような不当条項を含んだ約款については、法的拘束力を否定すると規定しました。

改正点 ⑤ 既存の契約についての変更について

事業者が定型約款の内容を変更したい場合、以下のいずれかの要件を満たせば、これまでの契約者の個別の合意を得ることなく変更できます。

  • その変更内容が一般的に契約者の利益になるもの
  • 変更の必要性や変更後の内容が相当であるなど、変更が合理的といえるもの

ただし、事業者は変更内容や変更の時期について、インターネットなどで事前に周知しなければなりません(民法548条の4)。

定型約款を使用する際は民法の改正についても押さえておこう

約款が存在する取引はたくさんあります。今回の民法改正で新たな規定が加わったことで、定型的な約款を画一的に取り扱えるようになりました。約款を準備する事業者は、改正民法において自社の約款が定型約款の要件を満たすかどうか、しっかり確認しておきましょう。

よくある質問

定型約款とは何ですか?

事業者が不特定多数を相手に定型取引を行う際に、契約の内容とすることを目的として予め準備しておく条項の総体です。詳しくはこちらをご覧ください。

定型約款の具体例を教えてください。

旅客運送取引における運送約款や、電気やガスの供給に関する約款、保険約款、インターネットサイトの利用規約などがあげられます。詳しくはこちらをご覧ください。


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