- 更新日 : 2026年7月13日
使用者責任(民法第715条)とは?要件や事例などを解説
使用者責任とは、被用者が職務上の不法行為で第三者に損害を与えた際、企業も連帯して賠償義務を負う制度です。
- 企業は被害者から直接・全額の損害賠償を請求される
- 民法第715条に定める要件を満たすと責任が生じる
- 就業規則の整備と損害保険でリスクを軽減できる
直接雇用関係がなくても実質的な指揮監督下にある場合は、使用関係と見なされることがあります。
企業は従業員の行為によって第三者に損害が生じた場合、民法第715条に定める使用者責任に基づく損害賠償を請求されるリスクを負っています。
直接雇用の社員だけでなく、実態として指揮監督下にある者も対象になり得るため、自社のリスク範囲を正しく理解した上で対策を講じることが大切です。
目次
使用者責任(民法第715条)とは?
使用者責任とは、被用者(従業員)が職務上の行為で第三者に損害を与えた場合、使用者である企業も連帯して損害賠償責任を負う制度です(民法第715条)。実際に行為を行ったのは従業員であっても、企業は被害者から全額の損害賠償を請求されることがあります。
企業はさまざまなモノ・ヒトを管理しており、これらに付随する責任を負っています。例えば安全配慮義務や、労働災害を防ぐための対策を講じる責任などです。社内の安全のみならず、外部の第三者に生じた損害を賠償する責任も負っています。これが使用者責任です。
「従業員が職務上のミスなどで第三者に損害を与えた場合、その使用者である企業も損害賠償責任を負う」というのが使用者責任の考え方です。
この制度の根底には「報償責任」の考え方があります。企業は従業員を用いることで利益を得ている以上、その活動によって生じたリスクや損害についても負担すべきという原則です。使用者責任は、この報償責任の考え方を民法上の制度として具体化したものといえます。
賠償金の支払いを保証する立場ではなく連帯責任を負う立場となるため、被害者は従業員と企業のいずれに対しても損害賠償を請求できます。被害者が従業員に対して請求する前に企業に請求してきたとしても、企業は「従業員に請求してからにしてください」と拒絶することはできません。また、賠償額の半分を支払えばよいわけでもなく、企業は被害者から全額を請求されます。
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使用者責任が認められる要件は?
使用者責任が認められるためには、民法第715条の規定に基づき、大きく4つの要件をすべて満たす必要があります。企業として特に注意が必要なのは、要件の適用範囲が思いのほか広く解釈される点です。
【民法第715条】
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
ポイントとなる要件は以下のとおりです。
- 使用者と被用者の間に使用関係があること
- 被用者が不法行為の一般的成立要件を備えていること
- 被用者による加害が「事業の執行について」なされること
- 使用者に免責事由がないこと
それぞれについて、詳しく解説します。
使用者と被用者の間に使用関係がある
使用者責任が生じる前提として、行為者と企業が使用関係にある必要があります。
同法第715条第1項にも、冒頭に「ある事業のために他人を使用する者は」とあります。
直接雇用関係にある場合はもちろん、雇用契約を結んではいないものの「実質的に使用関係にある」という場合も、この前提に該当します。この判断においては、行為者が企業の指揮監督下で動いたかどうかがポイントとなります。勤務場所・勤務時間の拘束の程度、指示に対し諾否の自由があるかどうか、労務の代替性の有無などに着目して判断されます。
被用者が不法行為を行った
被用者自身に不法行為責任が成立しなければ、企業に使用者責任は生じません。
被用者が行った行為が不法行為であったといえる必要があります。不法行為に関する損害賠償責任は、以下のように規定されています。
【民法第709条】
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
被用者の行為の背景には「故意」または「過失」がなければなりません。第三者が損害を被ったとしても、被用者に故意も不注意もなかったのであれば被用者自身は不法行為責任を負わず、企業も使用者責任を負いません。
なお被用者に故意または過失があり、第三者に対する不法行為責任を負う場合は、企業に過失がなくても使用者責任を免れることはできません。
不法行為が事業の執行について行われた
職務に関連した不法行為でなければ、企業が使用者責任を負う可能性は低くなります。
被用者が不法行為責任を負うとしても、その行為が企業とは関係のないプライベートなものとして行われたのであれば、企業が責任を負う必要はありません。従業員の日常生活にまで企業が介入し、指揮監督を行っているわけではないからです。
しかしながら、使用者責任における「事業の執行」の範囲は広く捉えられているため注意が必要です。ある行為が直接的に職務の内容であるとまでいえなくても、第三者から見て職務中の行為であるように見えれば「事業の執行」であると判断されることがあります。
例えば、通勤のための自動車の運転自体は職務行為そのものではありませんが、業務命令など特殊事情があった場合、使用者責任の規定上は事業の執行について行われたものであると評価される場合があります。また、勤務時間外に被用者が社用車で事故を起こした場合、業務との密接な関連が認められる場合には、 事業の執行にあたると判断される可能性があります。
使用者の免責事由に該当しない
被用者の選任・監督に相当の注意を払っていたと立証できれば、企業は免責を主張できます。
同法第715条第1項の但し書きには、「被用者の選任や監督に関して相当の注意をしていた」または「相当の注意をしたとしても損害が生じるのは避けられなかった」といえるのであれば、企業は使用者責任を負わないとあります。
ただし、企業側でそれを立証しなければならないため、免責されるためのハードルはかなり高いと考えておいたほうがよいでしょう。
実務上は、企業の免責が裁判で認められるケースは非常に稀です。選任・監督に十分注意を払っていたとしても損害が生じれば責任を問われることが多く、実質的な無過失責任として扱われているといっても過言ではありません。企業は「注意しているから大丈夫」という楽観的な見通しではなく、リスクが現実化することを前提とした体制整備が求められます。
使用者責任が問われる具体的なケースは?
使用者責任が認められるケースは業種を問わず広く存在します。以下に代表的なケースを整理します。
| ケース | 具体例 |
|---|---|
| 交通事故 | 社用車での事故、マイカー通勤中の事故など |
| 詐欺・横領 | 従業員が立場を利用して顧客を欺き損害を生じさせた場合 |
| 個人情報漏洩 | 従業員が顧客情報等を外部に漏洩した場合 |
| 従業員間のトラブル | 事業の執行をきっかけとした社内での暴力行為など |
| 顧客対応トラブル | 従業員の説明不足・備品破損・契約上の不正行為など |
| ハラスメント | パワハラ・セクハラなど職場内での嫌がらせ行為 |
使用者責任が生じる行為については明確な線引きが難しいケースが多く、「まさか自社が責任を問われるとは」という事態が起きやすいでしょう。特にハラスメント案件は、加害者本人だけでなく企業も民法第715条に基づく責任を問われることがあります。問題が発覚した際の対応を誤ると損害賠償額が拡大する可能性もあるため、弁護士などの専門家への相談も視野に入れておくとよいでしょう。
参考:雇用・労働職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省
使用者責任はパートや業務委託先にも及ぶ?
使用者責任が及ぶかどうかは雇用形態ではなく、実質的な指揮監督関係で判断されます。
パートタイム労働者や有期雇用労働者についても、指揮監督下で業務を行っていれば使用者責任の対象となります。雇用形態が正社員かどうかは判断の基準にはなりません。
業務委託契約を結んでいる相手方についても同様です。契約書上は「委託」であっても、実態として業務の内容・方法・時間などを企業が細かく指定・管理している場合、指揮監督関係があると判断されることがあります。
正社員だけを管理していればリスクを抑えられると考えていると、意図せず範囲外のリスクを見落とす可能性があります。雇用形態にかかわらず、実態として指揮監督関係にある者については、適切なルールの整備と教育が求められます。
使用者責任のリスクを軽減するには?
リスクを軽減するには、日常的な予防策の整備と万が一に備えた損害保険の加入が中心となります。
就業規則・社内ルールを整備する
ルールを整備し、従業員の意識を高めることが使用者責任に関する予防策の基本となります。
特に企業の所有物の利用方法については、ルールを厳格に定めておくべきです。社用車やその他備品などを使って第三者に損害を与えた場合、業務と直接関係がない行為でも企業が責任を問われる可能性があるからです。企業の所有物の利用に関してルールを整備し、無断使用を防ぐことが大切です。
就業規則に使用者責任に関わる行為の禁止事項を明記するとともに、定期的な研修・講習を通じて従業員の意識を高めておきましょう。
損害保険に加入する
いつ生じるかわからない使用者責任に備えて、損害保険に加入しておくことも選択肢の一つです。
従業員数が多く管理が難しい場合や、社用車や備品の利用頻度が高い場合は、加入を検討するとよいでしょう。
損害保険の内容は商品によって異なるため、第三者に対する損害賠償をカバーできるかどうか、どのような行為に適用されるのか、よく確認してから加入しましょう。
使用者責任を負った後に求償できるケースは?
使用者責任に基づいて賠償金を支払った場合、その後企業が従業員等に求償できるケースがあります。民法第715条第3項にも、そのように規定が置かれています。
そのため使用者責任を負ったからといって、損害を100%負担することになるとは限りません。法的に求償権が認められているため、従業員の行為が悪質だった場合は従業員個人に請求することも検討するとよいでしょう。
ただし、求償できる金額には注意が必要です。裁判では「公平の原則」が適用され、従業員に悪意や重大な過失がある場合を除き、企業が損害の全額を従業員に請求することは認められないのが一般的です。実際には支払った金額の一定の割合(数割程度)の請求に制限されるケースが多く、全額回収できるとは限りません。
使用者責任のリスクに備えて企業の体制を整えよう
使用者責任は従業員の行動に広く適用されるため、リスクを完全に失くすことは困難です。雇用形態を問わず実質的な指揮監督関係があれば対象となるため、正社員以外の管理体制も含めて見直す視点が求められます。
自社の業種・業務内容だとどのような事故が起こりやすいのかを想定し、発生する可能性が高いものについては予防策を講じておきましょう。就業規則の整備や定期的な研修の実施、損害保険への加入を組み合わせることで、使用者責任のリスクを着実に抑えていくことができます。
よくある質問
使用者責任とは何ですか?
使用者責任とは、従業員が行った行為について使用者である企業が負う損害賠償責任のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
使用者責任が認められる要件は何ですか?
使用者責任が認められるには、不法行為を行った者と企業が使用関係にあり、その不法行為が業務の執行について行われたこと、企業側に免責事項が認められないという要件を満たす必要があります詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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