- 作成日 : 2024年1月5日
2020年施行の実用新案法改正とは?概要や事業者への影響を解説
2020年4月から施行された改正実用新案法により、実用新案権侵害の損害賠償に関するルールが見直されました。同時期に施行された特許法の改正と同じ内容です。本記事では2020年4月施行・実用新案法改正による変更ポイントなどを解説します。
目次
実用新案法とは?
「実用新案法」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作(=考案)を保護するためのルールを定めた法律です。実用新案権の出願・登録や内容、権利侵害時の取り扱いなどを定めています。
実用新案権とは
「実用新案権」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作(=考案)について、特許庁の登録を受けることが発生する知的財産権です。
自然法則を利用した技術的思想の創作のうち、高度なものは特許権による保護の対象となります。
これに対して実用新案権は、特許権を取得できるほど高度ではない創作についても取得できます。他社との差別化を図りたい技術的な創作について、簡易的な手続きにより知的財産権の保護を受けたい場合は、実用新案権の出願をすることが有力な選択肢になります。
実用新案権の登録を受けた考案は、特許庁によって公表されます。過去に実用新案権の登録を受けた考案の例としては、シャチハタ工業株式会社(現:シャチハタ株式会社)のスタンパーや、花王株式会社のクイックルワイパーなどがあります。
実用新案権を侵害された場合は、侵害者に対して、侵害行為の差止めや損害賠償を請求できます。
2020年に施行された改正実用新案法のポイント
2020年4月1日に、改正実用新案法が施行されました。改正法では、実用新案権を侵害された被害者による損害賠償請求の範囲が拡大されています。
改正のポイント|損害賠償請求の範囲拡大
改正実用新案法では、実用新案権侵害による損害賠償請求の範囲が拡大されました。
従来の実用新案法では、被害者の生産・販売能力(=実施相応数量)の限度で、実用新案権侵害の損害賠償が認められるに過ぎませんでした。これに対して改正法では、実施相応数量を超える部分についても、ライセンス料相当額の損害賠償が認められるようになりました(改正実用新案法29条1項2号)。
なお、実用新案権者と侵害者の間でライセンス契約を締結する場合は、侵害がない状態で締結するライセンス契約に比べて、ライセンス料が高く設定される傾向にあります。改正法では、裁判所がライセンス料相当額の損害賠償を認定するに当たり、実用新案権の侵害があったことを前提とした対価を考慮できることが明記されました(同条4項)。
改正の背景
2020年4月1日には、実用新案法と併せて、特許法などその他の知的財産法の改正法も施行されました。改正実用新案法における変更点は、特許法などにおける損害賠償規定の見直しと内容を共通にしています。
以前から特許権者の間では、侵害行為に対する損害賠償規定が不十分であるとの不満が上がっていました。具体的には、被害者の生産・販売能力を超える損害賠償請求が認められないのは不公平であることや、損害賠償の範囲につき、裁判例と学説が対立していて不明確な部分があることなどが指摘されていました。
今回の特許法や実用新案法などの改正は、特許権者・実用新案権者などの保護が不十分な状況を改善するため、上記の不満に対応して行われたものです。
公布日・施行日
改正実用新案法の公布日および施行日は、以下の通りです。
施行日:2020年4月1日
実用新案法改正による事業者への影響は?
実用新案法改正による損害賠償規定の見直しは、実用新案権者はもちろんのこと、技術的な創作を製品化しようとする事業者にも影響が及びます。
実用新案権者にとっては、侵害者に対する損害賠償の範囲が拡大したため、今回の法改正が有利に働きます。反対に、実用新案権によって保護されている他人の考案を無断利用した事業者は、改正実用新案法に基づき、実用新案権者に対していっそう多額の損害賠償責任を負うことになりかねません。
特に他社の考案を参考として自社製品を製造しようとする場合は、その考案が実用新案権その他の知的財産権の対象になっていないかどうかを必ず確認しましょう。
実用新案権など、他社の知的財産権の侵害には要注意
2020年4月以降、実用新案権や特許権の侵害に関する損害賠償請求の範囲が拡大したことにより、他社の知的財産権を侵害した場合のリスクはいっそう大きくなったといえます。
技術的な創作を製品化する際には、先行する他社の発明や考案が存在しないかをチェックすることが大切です。弁理士や弁護士のサポートを受けながら、慎重な調査を行ったうえで製品化に踏み切りましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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