• 作成日 : 2024年11月7日

インハウスローヤー(企業内弁護士)が増えている?年収や仕事、求人方法を解説

近年、企業内で法務業務を行う「インハウスローヤー」が増加傾向にあります。企業法務を重視する企業、コンプライアンスの徹底を図る企業にとっては重要な存在ですが、具体的にはどのような仕事をしているのでしょうか。当記事ではインハウスローヤーの採用も視野に入れている企業に向けて、顧問弁護士との違い、採用のメリットなどを解説します。

インハウスローヤー(企業内弁護士)とは?

インハウスローヤーとは、企業に雇用され、企業内で法務関連の業務を行う弁護士を指しており、「企業内弁護士」「社内弁護士」と呼ばれることもあります。企業の一従業員として、日常的に発生する法的問題に対応することで企業活動を法的にサポートする役割を担います。具体的には、以下のような役割を担います。

  • 契約書の作成やレビュー
  • コンプライアンスのチェック
  • 紛争対応
  • 社内教育
  • 知的財産権の管理 など

なお、同じインハウスローヤーでも雇用形態は企業によりさまざまです。他の従業員と同じようにフルタイムで採用することもあれば、短時間労働での契約を交わすこともあります。
例えば初めてインハウスローヤーを採用する場合だと費用対効果などの面で不安もあるでしょうし、法務の業務量がそれほど多くない場合もあるでしょう。そのようなときは週2,3日だけ勤務してもらうといったやり方もあります。
また、M&Aを行う場合のように、一時的に法務体制を強化する必要性が生じることもあるでしょう。そのような場面だと有期雇用の契約を交わすことも考えられます。

インハウスローヤーと顧問弁護士の違い

企業の法務に関わる弁護士には、インハウスローヤーの他に「顧問弁護士」がいます。どちらも企業の法務をサポートするという点では共通していますが、その役割や関わり方には次のような違いがあります。

インハウスローヤー顧問弁護士
所属先企業法律事務所など
弁護士の立場企業の従業員外部の専門家
業務への関わり方日常的な法務業務に深く関与企業からの依頼に基づき対応
業務の専門性企業法務に特化幅広い法的知識
費用給与を支払う顧問料を支払う

顧問弁護士の場合は、企業から依頼された個別の案件に対して、専門的な知識や経験を活かして対応します。
一方のインハウスローヤーは、日常的な法務業務に主体的に関わり、契約書のチェックなど企業法務全般に幅広く対応します。

弁護士業界はインハウスローヤーが増えている?

日本組織内弁護士協会ではインハウスローヤーに関する調査を行っており、ホームページ上にインハウスローヤー数の推移についても掲載されています。

年度企業内弁護士数(日本全体)
2001年66
2013年953
2014年1,179
2022年2,965
2023年3,184
2024年3,391

出典:日本組織内弁護士協会「企業内弁護士数の推移(2001年~2024年)」

調査結果によると連続して増加し続けていることがわかっており、その数も2013年までは全国で数十人~数百人単位であったインハウスローヤーが、2014年以降は1,000人を超え、2024年においては3,000人を超える数にまで増加していることが示されています。

インハウスローヤーの割合は平均して7.4%ですが、関東、とりわけ東京においては平均を上回る10%超もの割合でインハウスローヤーが活躍していることもわかっています。

インハウスローヤーが多い企業ランキング

同じく日本組織内弁護士協会による調査結果から、どの企業にインハウスローヤーが多いのか、ランキングとその推移を見てみます。

まず、執筆時点の最新情報によれば2024年のランキングは次のように示されています。

順位企業名人数
LINEヤフー74
三井物産36
三井住友信託銀行35
アマゾンジャパン32
丸紅28
三菱UFJ信託銀行26
野村證券25
アクセンチュア24
三菱商事24
10三井住友銀行21
10三菱UFJ銀行21
12KDDI20
13豊田通商18
13リクルート18
15SMBC日興証券17
15住友電気工業17
17みずほ証券16
18NTTドコモ15
18住友商事15
20伊藤忠商事14

出典:日本組織内弁護士協会「企業内弁護士を多く抱える企業上位20社(2001年~2024年)」

こうして採用数の多い企業を見てみると、特にIT業界や金融業界にインハウスローヤーは集中していることがわかります。

また、採用人数の全体数が増加していることはもちろん、採用企業数も増加傾向にあることもわかっています。2007年以降は採用企業数が100社を超え、2018年には1,000社を超え、2024年においては1,500社近い数にまで伸びてきています。

インハウスローヤーの年収の目安

インハウスローヤーの年収に関しては、こちらのアンケート結果が参考になります。

以上のデータから、「750万円~1,500万円」の年収となる割合が多いことが読み取れます。特に「1,000万円~1,250万円未満」の割合が高く、平均的には1,000万円を超える年収になると思われますので、その他の職種における平均年収と比べると高収入の仕事であるといえるでしょう。

ただ、年代によって年収の傾向は大きく異なります。20代や30代だと「750万円~1,000万円未満」、40代だと「1,000万円~1,250万円未満」、50代以上だと「1,250万円~2,000万円未満」が最も高い割合を示しています。

また、性別による差も傾向として表れています。男性だと最も高い割合が「1,000万円~1,250万円未満」ですが、女性だと「750 万円~1,000 万円未満」となっています。

インハウスローヤーの仕事内容

インハウスローヤーは通常法務部に所属し、ビジネスに密着した形で法務サポートを行います。

仕事内容として例えば、あらゆるビジネスシーンで発生する「契約書関連業務」があります。取引先との契約書はもちろん、雇用契約や秘密保持契約など、社内向けの契約書の作成、審査、交渉にも携わります。
企業活動全体が法令に遵守しているかをチェックし、問題があれば改善を促すのも重要な役割です。社内規程の整備や社員教育なども通じて、企業の健全な活動を支えます。

また、取引先とのトラブルや訴訟が発生した場合、状況に応じて外部の法律事務所と連携しながら解決を目指します。

さらに、M&Aなど企業の成長戦略を法的にサポートすることもあります。合併や買収に伴う法的な手続きやデューデリジェンスを行い、リスクを最小限に抑えながら、企業の成長を促進します。コーポレートガバナンスや株主総会関連業務など、企業統治に関わる業務も担当します。

法律事務所で働く場合との違い

法律事務所で働く場合、さまざまな依頼主からの相談や依頼に対応し、事件の種類も多岐にわたります。企業法務に限らず、離婚・相続・交通事故・刑事事件など、幅広い分野の案件に対応することになるでしょう。

一方、インハウスローヤーは特定の企業に所属し、その企業の法務に特化して業務を行います。企業の事業内容や業界について深く理解して、ビジネス戦略に沿った法務サポートを提供することが求められます。

企業がインハウスローヤーを採用するメリット

企業がインハウスローヤーを採用するメリットは次の通りです。

  • 迅速な法的対応が期待できる
    → インハウスローヤーは社内にいるため、迅速に対応できる。
  • リスク管理の精度が上がる
    → インハウスローヤーは日常的に企業活動に関わっているため、潜在的なリスクを早期に発見しやすく、未然に防ぐことが期待できる。
  • コスト削減の可能性
    → インハウスローヤーの採用には高額な人件費がかかるが、トラブル発生のたびに生じる弁護士費用のことを考えるとコスト削減も期待できる。ただし顧問弁護士を利用する場合との比較が重要。
  • 企業価値向上への寄与
    → 法令遵守を徹底して適切なリスク管理を行うことが企業の信頼性向上につながり、ひいては企業価値向上にも貢献する。

特にコンプライアンスが重視される業界・業種においてはインハウスローヤーを採用するメリットが大きくなるでしょう。

インハウスローヤーの募集・求人方法や注意点

自社ホームページに求人情報を掲載するのが最も簡単な求人方法ですが、十分な応募者が集まらず、また、人材としての十分な質を確保できない恐れもあります。

そこで転職サイトなどのサービスも利用してみましょう。その際、法務などに特化したサービスの利用も検討してください。あらゆる職種を取り扱っている大手転職サイトだとより多くの人にリーチできますが、効率的ではないケースもあります。
そのため弁護士資格を持っている方が多く登録しているような、専門職に特化した人材紹介サービスも併せて利用してみましょう。

なお、インハウスローヤーの募集にあたっては、「求める人物像を明確にしておくこと」「待遇面を充実させること」にご注意ください。
まず、どのようなスキルや経験が自社にとって必要かを明らかにしておかないとミスマッチの危険性が高まります。また、待遇面で相場より劣っているとやはり優秀な人材を確保しにくくなってしまいます。上に示した統計データなども参照しつつ、少なくとも平均以上の待遇を目指すとよいでしょう。

必要性やコストを考えて採用を検討しよう

インハウスローヤーの数は全国的に増加傾向にあり、特にコンプライアンスを重視する企業なら今後採用も考えていきたいところです。

ただし、相応の人件費が発生しますのでその必要性についてはよく考えることが大事です。顧問弁護士の利用で十分なケースもあるので、費用対効果も考えながら採用活動に取り組みましょう。


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