- 更新日 : 2026年7月13日
民法96条とは?取消しの要件や手続きをわかりやすく解説
民法96条は、詐欺や強迫によって行った意思表示を取消せると定めた規定で、不当な契約から表意者を守ることを目的としています。
- 詐欺または強迫による意思表示の取消しが認められる
- 取消権は追認できる時から5年・行為時から20年で消滅する
- 善意・無過失の第三者には取消しの効果を対抗できない
第三者による詐欺や取消権の時効には例外ルールがあるため、要件を正確に理解しておくことが大切です。
民法96条は、詐欺または強迫によって行った意思表示を取り消せると定めた規定です。だまされて締結した契約や脅されてサインした書類は、この条文に基づいて取消しを求められます。ただし、善意の第三者が関わるケースや取消権の時効(除斥期間)など、被害を回復できない場面もあるため、要件と手続きを正しく理解しておくことが重要です。
目次
民法96条とは?
民法96条は、詐欺や強迫による意思表示の取り扱いを定めた規定です。条文は3つの項で構成され、原則として取消しを認めつつ、例外ケースも設けています。
(1項)詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
(2項)相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
(3項)前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
参考:民法|e-Gov法令検索
1項は、だまされたり脅されたりして行った意思表示を取り消せると規定しています。「取消せる」とは、取り消すことも取り消さないこともできるという意味で、被害者の選択に委ねられます。
2項と3項では、取消しが制限されるケースや、取消しができても実質的な損害回復が難しい場面が定められています。例外があることを押さえておきましょう。
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民法96条の目的は?
民法96条の目的は、詐欺や強迫によって意思表示した人(表意者)を守ることにあります。
契約は当事者の自由な意思を前提として成立し、権利・義務が発生します。だまされたり脅されたりして行った意思表示は、表意者の真の意思とはいえません。取消しを認めることで、表意者が損害を回復する手段を得られるようにしています。
たとえば、偽ブランド品を正規品と信じて購入させられた場合、民法96条に基づいて売買契約の取消しを主張すれば、支払済みの代金の返還を求めることができます。
民法96条の詐欺と刑法の詐欺罪の違いは?
民法96条の詐欺と刑法上の詐欺罪は、「だます行為」を扱う点で共通しますが、法律の目的と適用ルールが異なります。
| 項目 | 民法96条(詐欺) | 刑法246条(詐欺罪) |
|---|---|---|
| 目的 | 被害者の私的救済(契約取消し・損害回復) | 社会秩序の保護(刑事処罰) |
| 効果 | 契約の取消し・原状回復 | 拘禁刑(10年以下) |
| 財物の移転 | 要件ではない | 財物または財産上の利益の移転が必要 |
| 追及者 | 被害者本人 | 検察官(国家) |
民法96条に基づく取消しは、被害者が契約を無効にして損害を回復するための手段です。一方、刑法上の詐欺罪は国家が加害者を刑事訴追する制度であり、被害者を主体とする民事上の救済とは仕組みが異なります。
なお、同一の行為が民法上の詐欺にも刑法上の詐欺罪にも該当することは多く、双方の手続きを並行して進めることも可能です。
詐欺による取消しの要件は?
詐欺による意思表示を取り消すには、次の要件をすべて満たす必要があります。
1. 加害者が詐欺行為をしたこと
1つ目の要件は、加害者が故意に詐欺行為(相手をだます行為)を行ったことです。
相手をだまして偽物を本物と信じさせ購入させようとする行為などが該当します。勘違いや言い間違いは故意とはいえず、この要件を満たしません。また、仕入れ予定の商品が届かず結果的に販売できなくなったケースも対象外です。なお、真実を告げる義務があるのに黙っていた「沈黙による詐欺」も、状況によっては詐欺に該当することがあります。
2. 被害者が詐欺によって錯誤したこと
2つ目の要件は、被害者が加害者の詐欺行為によって錯誤(誤った認識を持つこと)したことです。
詐欺と知りながら敢えて意思表示した場合は、錯誤があったとはいえません。錯誤とは、「だまされたことに気づかず、誤った認識を持った状態」を指します。
3. 被害者が錯誤による意思表示を行ったこと
3つ目の要件は、被害者が錯誤した状態で意思表示を行ったことです。
詐欺行為によって偽ブランド品を本物と誤認した被害者が「買う」と意思表示することなどが該当します。この意思表示によって契約が成立し、商品受領の権利と代金支払いの義務が生じます。
詐欺による取消しが認められるのは、上記3つの要件をすべて満たすケースです。なお、刑法上の詐欺罪(刑法246条)が適用されるのは、これらに加えて「財物または財産上の利益の移転」という要件を満たす場合です。
強迫による取消しの要件は?
強迫による意思表示を取り消すには、次の要件をすべて満たす必要があります。
1. 加害者が強迫行為をしたこと
1つ目の要件は、加害者が故意に強迫行為(違法な暴力・脅迫による無理な要求など)を行ったことです。
「拒否すれば生命や財産に危害を加える」などと言って要求を受け入れさせようとする行為などが該当します。
2. 被害者が強迫によって畏怖したこと
2つ目の要件は、被害者が加害者の強迫行為によって畏怖(怖がること)したことです。
被害者が相手より強い立場にあり畏怖したとはいえない場合や、自分で適切に判断した場合は該当しません。
3. 被害者が畏怖したために意思表示を行ったこと
3つ目の要件は、被害者が畏怖して本当の意思に反する意思表示を行ったことです。
「同意しなければ仕事をクビにする」などと言われて不本意な契約にサインすることなどが該当します。
詐欺や強迫による意思表示を取り消すための手続きは?
詐欺や強迫による意思表示を取り消すには、相手方に取消しの意思表示をします。取消しが認められると、契約は最初から無効として扱われます(民法121条)。
たとえば、詐欺や強迫によって土地を売却する契約を結んだ場合、相手方に取消しの意思表示をすることで契約自体がはじめから無効になります。売買が完了して土地を引き渡した後であれば、受領した代金を返却し、土地の返還を求めることができます(民法121条の2・原状回復義務)。
ただし、取消権には時効(ただし、いずれも除斥期間と考えるのが通説です)が設けられています。取消権の行使期限は次のとおりです。
- 追認できるとき(詐欺に気づいたときや強迫から逃れたとき)から5年
- 意思表示したときから20年
期限を過ぎると取消権は消滅するため、気づいた時点で早めに対応することが重要です(民法126条)。
参考:民法|e-Gov法令検索
民法96条に基づく取消しに関連する規定は次のとおりです。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 取消権者(120条2項) | 詐欺又は強迫によって取消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者に限り取り消すことができる。 |
| 取消しの効果(121条) | 取消された行為は、初めから無効であったものとみなす。 |
| 原状回復の義務(121条の2) | 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復する義務を負う。 |
| 取消し及び追認の方法(123条) | 取消すことができる行為の相手方が確定している場合には、その取消し又は追認は、相手方に対する意思表示によってする。 |
| 取消権の期間の制限(126条) | 取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。 |
第三者が関わる場合の取り扱いは?
第三者が詐欺行為に関わる場面や、善意の第三者が存在する場合は、取消しが制限されるケースや実質的な被害回復が難しいケースがあります。
第三者が詐欺を行った場合(民法96条2項)とは?
民法96条2項の「第三者が詐欺を行った場合」とは、契約当事者以外の第三者の詐欺によって表意者が錯誤し意思表示したケースです。
たとえば、AがBの土地購入を検討中に、不動産業者Cが仲介手数料を得るために土地の問題点を隠してAに購入を決断させた場合が該当します。この場合、「相手方BがCの詐欺を知り、または知ることができたとき」に限り、Aは意思表示を取消せます。Bが詐欺の事実を知らず、知りえなかった場合は取消せません。
強迫については、同様の制限は設けられていません。詐欺と異なり、強迫に遭った表意者には落ち度がないとされるためです。
善意でかつ過失がない第三者(民法96条3項)とは?
民法96条3項の「善意でかつ過失がない第三者」とは、詐欺の事実を知らず、知らないことについて過失もない当事者以外の人です。
たとえば、BがAからだまし取った商品を、詐欺の事実を知らないCに売却した場合、AはCに対して取消しを主張できません。AはBへの詐欺取消しは求めることができますが、CがすでにBから商品を取得している場合、実質的な損害回復のためにはBへの損害賠償請求など別の方法を検討する必要があります。
なお、民法96条2項と同様に、強迫による意思表示には本項は適用されません。
民法96条に関連する判例は?
民法96条3項の「善意でかつ過失がない第三者」の解釈については、最高裁判所判決(1974年9月26日・民事判例集28巻6号1213頁)が参考になります。
事案の概要は次のとおりです。
- 詐欺によりAがBに農地を売却し、Bは農地法5条の許可を条件とする所有権移転仮登記を行った
- BはCに所有権移転の権利を譲渡した。Cは詐欺について善意・無過失であった
- 農地法上の許可が下りておらず所有権移転が未完了の時点で、Cが民法96条3項の善意・無過失の第三者に該当するかが争われた
最高裁は、民法96条の趣旨から「第三者の範囲を所有権その他の物権の転得者で、かつ対抗要件を備えた者に限定する理由は見いだし難い」と判示し、Cを善意の第三者と認める判断を下しました。
この判決は、詐欺被害者の救済と善意の第三者保護のバランスをどう図るかという観点から、実際の案件を検討する際に参照される重要な先例となっています。
民法96条を理解して詐欺・強迫による被害に備えよう
民法96条は、詐欺や強迫によって意思表示した人を守るために設けられた規定です。取消しの意思表示によって契約は最初からなかったものとなり、被害の回復が図れます。
ただし、第三者による詐欺や善意の第三者が関与するケースでは取消しに制限があること、取消権には時効が設けられていることを忘れないようにしましょう。
詐欺や強迫による被害を受けたと感じた場合は、早めに弁護士へ相談することを検討してください。時効の進行や第三者への転売など、時間の経過とともに対応が難しくなる要素もあるため、速やかな行動が重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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