- 更新日 : 2024年9月20日
土地信託契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
土地信託契約書とは、委託者が所有する土地について、管理や運用を受託者に任せる際に締結する契約書です。信託法の規定を踏まえつつ、土地の管理や運用に関するルールを明確に定めましょう。この記事では、土地信託契約書の書き方やレビュー時のポイントなどを、条文の具体例を示しながら解説します。
目次
土地信託契約とは?
土地信託契約とは、委託者が所有する土地の管理や運用を、受託者に任せる内容の契約です。
委託者の財産を受託者へ移転し、受託者がその財産を受益者のために管理・運用する仕組みを「信託」といいます。
委託者から受託者に預けられた財産は「信託財産」といい、受託者は形式上、信託財産の所有者となります。受託者は、信託契約などのルールに従って、信託財産の管理・運用を行います。
信託財産の管理・運用を通じて得られた収益は、信託契約などによって定められた受益者へ分配されます(委託者が受益者を兼ねるケースもあります)。
土地を信託財産として信託を設定するのが「土地信託契約」です。
土地信託契約を締結するケース
土地信託契約を締結する主な動機の一つが、信頼できる者に土地の管理や運用を任せたいということです。身内の者や同族会社などを受託者とするケースもある一方で、信託銀行などを受託者としつつ、アセットマネージャーを付けて運用指図をさせるケースもあります。
また、土地信託契約には「倒産隔離」と呼ばれる効果があります。委託者が倒産したとしても、信託されている土地は競売にかけられません。委託者の経営状況や経済状況に関わらず、長期的かつ安定的に土地を運用したい場合には、土地信託契約の活用が有力な選択肢となります。
土地信託契約書のひな形
土地信託契約書のひな形は、以下のページからダウンロードできます。実際に土地信託契約書を作成する際の参考にしてください。
※ひな形の文例と本記事で紹介する文例は、異なる場合があります。
土地信託契約書に記載すべき内容
土地信託契約書には、主に以下の事項を記載します。
①信託の目的
②信託財産
③信託の登記
④費用の負担
⑤管理・運用の方法
⑥信託報酬
⑦信託の計算等
⑧受益者に対する金銭の支払い
⑨信託の終了
⑩その他
信託の目的
第1条 甲は、乙が本件土地の上に建物(以下「本件建物」という。)を建築し、本件土地及び本件建物を信託財産として管理及び運用することを目的として、乙に信託し、乙はこれを受託する(以下、本契約に基づいて設定される信託を「本件信託」という。)。
土地信託契約の冒頭には、信託の目的を記載します。土地上で何をすることを想定しているのか(例:建物の建築など)を明記しましょう。
信託財産
第2条 本契約に基づく信託財産(以下「信託財産」という。)は、本件土地及び本件建物並びにそれらの果実とする。
2 甲は、乙の事前の承諾を得て、甲の所有する財産を信託財産に組み入れることができる。
信託の対象とする財産を特定します。土地のほか、土地上に建物を建築する場合にはその建物も信託財産に含めます。土地を特定するための情報については、別紙として添付する物件目録に記載するのが一般的です。
土地や建物を賃貸することによって得られる賃料収入は「果実(法定果実)」と呼ばれます。賃料収入などの果実は信託財産から生まれたものであるため、自動的に信託財産となります。
また、委託者(兼受益者)においては、受託者の承諾を得て追加信託を実行できる旨を定めることも考えられます。
信託の登記
第3条 甲は、乙に対し、本契約締結の日までに、本件土地について信託による所有権移転登記及び信託の登記を行うことにより引き渡すものとし、乙はこれに協力する。
2 乙は、本件建物の建築が完了したときは、本件建物について保存登記及び信託の登記を行う。
3 第1項及び第2項の登記費用は、甲の負担とする。
信託の登記をしなければ、土地や建物が信託財産であることを第三者に対抗することができません(信託法14条)。また受託者においては、信託財産である土地や建物につき、信託の登記をして分別管理することが義務付けられています(信託法34条1項1号、2項)。
土地を信託する際には、所有権移転登記と信託の登記の手続きをセットで行う必要があるので、その旨を土地信託契約書に明記しましょう。また、土地上に建物が竣工した際には、その建物について保存登記および信託の登記を行うべき旨も定めましょう。
費用の負担
第4条 本件土地及び本件建物の信託についての諸経費(本件建物の建築費用を含む。)は、甲が負担する。
2 乙は、前項の諸経費について、信託財産の中から支払いを受け、又は甲から前払いを受けることができる。
建物の建築費用や、土地・建物の管理費および修繕費などの諸経費をどのように支出するかを定めます。受託者が自ら費用を負担することは基本的になく、委託者(兼受益者)が負担するか、または信託財産が負担する形とします。
土地信託契約の場合、現金(または預貯金)を併せて信託していれば、そのお金で費用を賄えます。
これに対して、現金(または預貯金)を信託していない場合には、賃料収入が入ってくるまで信託にお金がないため、費用は委託者(兼受益者)負担を原則とせざるを得ません。ただし、受託者としては信託財産から回収できた方が簡便であるため、信託財産の中からも支払いを受けられる旨を定めておくのがよいでしょう。
管理・運用の方法
第5条 乙は、以下の方法により信託財産を運用及び管理(以下「信託事務」という。)する。
(1) 本件土地は、本件建物の敷地として管理する。
(2) 本件建物は、乙が相当と認める者に賃貸することにより運用する。
(3) 乙は、信託財産につき、適切な時期に適当な方法で修繕、保存及び改良を行う。
2 乙は、善良なる管理者の注意をもって、信託財産を管理及び運用するものとする。
信託財産である土地や建物などの運用方法を定めます。
上記の条文例では、受託者の裁量を幅広く認める建付けとなっていますが、運用のルールを細かく定めることもできます。例えば、賃貸する際の賃料について下限を設定したり、修繕等については事前に委託者(兼受益者)の承諾を必要としたりすることなどが考えられます。
また、賃料収入として得られた金銭をそのまま置いておくのはもったいないので、金銭の運用方法を定めておくことも考えられるでしょう。
信託報酬
第6条 本件土地の信託による信託報酬(以下「信託報酬」という。)は、信託財産の賃料収入の〇%とする。
2 乙は、信託報酬を、信託財産の賃料収入から差し引くことにより受領する。
受託者が得る信託報酬の計算方法や支払方法などを定めます。土地信託契約では、信託報酬を賃料収入に連動させるのが一般的ですが、固定額の信託報酬を定めることなども可能です。
信託の計算等
第7条 本契約に基づく信託の計算期間は、毎年1月1日から12月31日までとする。
2 乙は、信託事務に関する計算を明らかにするため、信託財産の状況を記録する。
3 乙は、第1項の信託の計算期間に対応する信託財産目録、収支計算書、貸借対照表及び損益計算書を、各計算期間の終了日の翌月末日までに作成し、甲に提出しなければならない。
信託の計算期間を定めたうえで、計算期間について受託者が記録すべき事項や作成すべき書類(または電磁的記録)を明記します。計算書類については作成期限を定めたうえで、受益者に対する提出を義務付けましょう。
受益者に対する金銭の支払い
第○条 乙は甲に対し、信託財産の賃料収入の〇%を、当該賃料収入を受領した月の翌月末日までに、甲が指定する預貯金口座へ振り込む方法により支払うものとする。振込手数料は信託財産の負担とする。
信託は受益者のために設定されるものであるため、信託財産を運用する過程で得られた収益については、受益者に対して分配するのが一般的です。
土地信託契約においては、土地や土地上の建物を賃貸することにより得られた賃料収入のうち、一定の割合に相当する金銭を受益者に分配することなどが考えられます。
受益者に対する分配の方法は柔軟に定めることができるので、想定に沿った内容の条文を記載しましょう。
信託の終了
第○条 本件信託は、信託法第163条第1号から第8号までに定める場合のほか、以下のいずれかの事由が生じた場合に終了する。
(1) 甲及び乙が、本件信託を終了させることに合意したとき。
(2) 本契約締結の日から○年が経過したとき。
(3) ……
2 本件信託が終了したときは、残余の信託財産をすべて甲に帰属させる。
信託の終了事由は信託法163条において定められていますが、そのほかにも信託契約において終了事由を定めることができます。一定期間の経過など、想定に応じた終了事由を定めましょう。
また、信託が終了した際に、信託財産を帰属させる権利者を指定する必要があります。信託期間中の受益者を帰属権利者に指定するケースが多いものの、別の者を指定することも可能です。
その他
上記のほか、土地信託契約書には以下の事項などを定めることがあります。
- 再委託
- 損害賠償
- 合意管轄
- 誠実協議
など
土地信託契約書を作成する際の注意点
土地信託契約書においては、信託財産である土地や建物などの運用・管理に関するルールを明確に定めるべきです。ルールの内容や詳しさは、当事者の意向によって柔軟に調整できるので、ご自身の想定に沿ったルールを土地信託契約書に定めましょう。
また、土地信託契約書には信託法の規定が適用されます。信託法には、契約に定められていないルールが多数規定されているので注意が必要です。把握していなかったルールが適用されて不測のトラブルが生じることにないように、信託法の規定についても理解を深めておきましょう。
土地信託契約は、信託法を踏まえつつ適切に作成しましょう
土地信託契約は、信頼できる人に土地の管理・運用を任せたい場合や、倒産隔離によって長期的かつ安定的に土地を運用したい場合などに活用できます。
土地信託契約書を作成するに当たって特に留意すべきなのは、土地や土地上の建物の管理・運用に関するルールを明確に定めることと、信託法の規定が適用されることです。
土地信託契約書における管理・運用ルールは、当事者の意向に従って柔軟に定めることができます。想定どおりの結果が得られるように、土地信託契約書の内容をきちんと作り込みましょう。
また、信託法には信託に関する詳細なルールが定められています。強行規定も多いので、契約に定められていないルールが多数適用されるケースがよくあります。予期せぬルールが適用されて不測のトラブルが生じることのないように、土地信託契約書を作成する際には専門家のリーガルチェックを受けることをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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