• 作成日 : 2025年1月31日

根抵当権極度額変更契約書とは?ひな形・例文・書き方を解説

根抵当権極度額変更契約書とは、既存の根抵当権の極度額を変更するときの契約時に作成する文書です。

当記事ではこの契約書に焦点を当て、具体例も交えて書き方や運用の注意点などを解説していきます。契約締結・契約書作成における重要なポイントを押さえて、安全な契約実務が遂行できるように目指しましょう。

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根抵当権極度額変更契約とは?

根抵当権極度額変更契約(ねていとうけんきょくどがくへんこうけいやく)とは、すでに設定されている根抵当権の極度額を変更するときに交わす契約のことです。

  • 根抵当権:継続的な取引関係から生じる、不特定の債権を担保するために定める権利のこと。
  • 極度額:根抵当権における担保の上限額のこと。

いったん定めた極度額は、当事者の一方が勝手に変えることは認められません。法律でも次のように明記されています。

(根抵当権の極度額の変更)
第三百九十八条の五 根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない。

引用:e-Gov法令検索 民法第398条の5

つまり、契約一般と同じように双方の納得があってようやく変更が可能となるということです。

ただし、根抵当権の極度額に関しては「利害関係を有する者の承諾」が必要とされており、ここには不動産の差押債権者なども含まれます。当初の契約当事者のみで変更できるとは限らないため注意が必要です。

根抵当権極度額変更契約を締結するケース

設定済みの極度額を変更する必要性が生じた際にこの契約は締結されます。増額や減額など変更の内容に応じてその背景も異なりますので、以下でも①増額、②減額、③その他に分けてそれぞれ説明していきます。

極度額の増額

極度額の増額は、債務者の事業拡大や追加融資の必要性が生じた場合に行われることがあります。

Point極度額の増額ケース
  1. 事業拡大に伴う資金需要の増加の例
    新規事業への参入や事業領域の拡大
    設備投資や工場建設などの大型投資
    M&Aや企業買収に伴う資金需要
    海外展開に向けた投資資金の確保 など
  2. 運転資金の拡大必要性の例
    取引先や受注の増加に伴う運転資金の増加
    季節性の高い事業における資金需要の変動
    人員増加に伴う人件費などの増加 など
  3. 担保価値の上昇の例
    不動産市況の好転による担保物件の価値上昇
    土地区画整理事業などによる利用価値の向上
    建物の改修・増築による資産価値の増加 など

新規事業への着手で追加の資金が必要となったとき、既存の根抵当権の極度額を増額することで追加の融資が受けやすくなり、不動産の価値が上昇して担保価値が増加したときにも極度額を増額して融資枠を拡大できる可能性があります。

極度額の減額

極度額の減額は、債務の返済が進んで必要な融資枠が縮小したケースや、担保不動産の価値が下落した場合などに行われることがあります。

Point極度額の減額ケース
  1. 事業規模の適正化の例
    不採算部門撤退による資金需要減
    子会社や関連会社の整理
    事業承継に伴う組織再編 など
  2. 財務体質の改善の例
    キャッシュフロー改善による借入依存度の低下
    自己資本比率の向上 など
  3. 担保価値の変動の例
    不動産価格の下落による担保評価額減
    法規制の変更による土地利用制限
    災害などによる担保物件の価値毀損 など

その他のケース

上記のほか、例えば複数の不動産に共同根抵当権が設定されていて、一部の不動産についてのみ極度額を変更するケースなどもありますし、共同根抵当権者間での弁済の順序や割合の変更を行うケースもあります。

根抵当権極度額変更契約を締結するときは、変更の必要性やその後の影響について慎重に検討し、関係者間で十分な協議を行うことが求められます。

変更後の極度額が適切であるか、担保価値との関係で妥当といえるかどうか、なども考慮しましょう。

根抵当権極度額変更のメリット・デメリット

根抵当権の極度額変更には、債務者と債権者双方にとってメリットとデメリットがあります。これらを理解することで極度額変更の意思決定をより適切に行うことができるようになるでしょう。

根抵当権極度額変更のメリット

根抵当権の極度額を変更することで、以下のようなメリットが得られます。

極度額変更のメリット詳細
融資枠の柔軟な調整極度額を増額することで追加の融資を受けやすくなり、新しい支店を設けるなど、事業拡大や新規プロジェクトを始める際の資金調達に役立つ。

逆に、事業規模の縮小などに伴う極度額の減額によって融資枠の適正化も図れる。

担保価値の有効活用不動産の資産価値が上昇したことに伴い極度額を増額することで、その価値上昇分を融資枠の拡大に活用できる。
リスクの低減極度額を適切に調整することで、債務者と債権者双方のリスクを低減できる可能性がある。例えば極度額を減額することで、債務者は過剰な借入リスクを抑えられ、債権者も貸付リスクを抑えることが期待できる。

根抵当権極度額変更のデメリット

極度額を変更することには次のようなデメリットも存在することに留意しましょう。

極度額変更のデメリット説明
手続きが煩雑極度額の変更には、利害関係人の承諾や登記申請が必要となり、時間と手間がかかる。
コストの発生変更登記には登録免許税や司法書士報酬などのコストがかかる。また、利害関係者とのやり取りや契約実務などの面で人的コストもかかる。
追加融資への悪影響極度額の増額自体が直接的にほかの金融機関からの追加融資を困難にするわけではないが、極度額が高すぎるとほかの金融機関が後順位で融資を行うことに躊躇する可能性がある。
債務負担増の可能性極度額を増額した場合は、将来的な債務負担が増える可能性が高まる。増額した極度額いっぱいまで借り入れをしてしまい返済に苦しむ、といったリスク。

根抵当権の極度額変更には融資条件の調整や担保価値の有効活用といったメリットがある一方、手続きの煩雑さやコスト面でのデメリットも存在します。極度額の変更を検討する際は、これらのメリットとデメリットを十分に考慮し、財務状況や将来の事業計画に照らし合わせて慎重に判断することが重要です。

根抵当権極度額変更契約書のひな形

根抵当権極度額変更契約書の作成は極度額変更の効力のために必須の行為ではありません。しかしながら、登記申請の際に必要となるなど実務上は必須と考えた方がよいでしょう。そして契約書の作成は慎重に進める必要がありますが、一般条項などさまざまな状況下で共通する部分もありますので、ひな形を利用していると効率的に業務が進められます。

こちらのページで根抵当権極度額変更契約書のひな形をダウンロードできますので、ぜひご活用ください。

根抵当権極度額変更契約書に記載すべき内容

根抵当権極度額変更契約書の作成で忘れてはいけないのが「変更対象となる根抵当権の特定」「極度額の変更内容」です。この点を契約書上の条項として設けるようにしてください。

この2つのポイントについて、ひな形をもとに記載の方法をご紹介します。

変更対象となる根抵当権の特定

この契約書が、どの根抵当権を対象としているのかを必ず特定しないといけません。

書き方に制限はなくさまざまな表現が可能ですが、例えば不動産の「所在」「地番」「地目」「地積」などは記しておく必要があるでしょう。

条文内に盛り込むのが難しいときは、次の文章のように「下記記載」などと別のスペースに記載すると情報が整理しやすくなります。

“甲と乙は、甲が乙に対して有する債務を担保するため、下記記載の甲所有の土地に設定した、乙を根抵当権者とする根抵当権(令和〇年〇月〇日〇法務局〇支局受付第〇号)につき…”

極度額の変更内容

根抵当権を特定したうえで、この契約の主目的である極度額の変更内容をわかりやすく表記します。

次のように、変更前後どちらの金額も記載しておくとどのように変更されたのかが一目でわかります。

“乙を根抵当権者とする根抵当権につき、その極度額を次のように変更する。
変更前  極度額金○○円
変更後  極度額金●●円“

また、極度額変更の重要な要件である利害関係人の承諾に関しても、次のように契約書に記載しておくとよいでしょう。

“乙は、本変更につき、利害関係人の承諾を得るものとし、甲はこれに協力する。”

根抵当権極度額変更契約書を作成する際の注意点

極度額の変更には利害関係人の承諾が必要ですが、これを見落として手続きを進めてしまうことのないようにしなくてはなりません。

ここでいう利害関係人とは以下の人物を指していますので、該当する人物がいるケースでは交渉を行うなど慎重に手続きを進める必要があります。

利害関係人の範囲説明
増額の場合同順位・後順位の抵当権者や根抵当権者、その他の担保権者同じ不動産に対し担保権を持つほかの債権者のこと。
後順位の差押債権者根抵当権設定後に不動産を差押えた債権者のこと。
後順位の処分禁止の仮処分債権者根抵当権設定後に不動産の処分を禁止する仮処分を申し立てた債権者のこと。
後順位の所有権の移転等の仮登記名義人根抵当権設定後に所有権移転等の仮登記を行った者のこと。
減額の場合根抵当権の転抵当権者根抵当権者が自身の根抵当権を担保として設定したときの、転抵当権を持つ者のこと。
被担保債権の差押債権者根抵当権によって担保されている債権を対象に差押えをした債権者のこと。

なお、元本確定の前後を問わず極度額の変更は可能ですが、元本確定後であれば民法第398条の21に基づく根抵当権の極度額の減額請求が可能で、このときは根抵当権設定者の一方的な意思表示で効力が生じます。利害関係人の承諾は不要です。

(根抵当権の極度額の減額請求)
第三百九十八条の二十一 元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後二年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。

引用:e-Gov法令検索 民法第398条の21第1項

根抵当権極度額変更契約書の保管年数や保管方法

作成後の根抵当権極度額変更契約書に関しては以下の点に留意してください。

根抵当権極度額変更契約書の法定保管期間
  • 会社法では10年間、法人税法では7年間の保管を求めているため、10年間は保管しておきたい。
  • 関連する取引や担保権が存続しているなら、法定の保管期間を超えても保管を継続することが望ましい。
根抵当権極度額変更契約書の保管方法
  • 施錠可能なキャビネットでの保管など、紛失や情報漏洩を防ぐ適切な方法で保管する。
  • 電子化しておくとより柔軟な保管体制が整えやすい。

なお、保管期間を過ぎたとき、急いで破棄をする必要はありませんが、不要に長期間保管すると管理コストや情報漏洩リスクが高まるため注意してください。

根抵当権極度額変更契約書の電子化は可能?

多くの契約書は電子化が認められています。不動産に関する一部契約では書面の作成が法的に求められており紙の契約書の作成が義務となっていますが、根抵当権極度額変更契約に関しては電子化が可能です。

ただし、以下の点に注意が必要です。

根抵当権極度額変更契約書の電子化の注意点
  1. 電子署名の利用
    電子署名法に基づく電子署名を利用すれば、書面における押印と同等の法的効力が得られる。
    印影の画像データを張り付けても意味をなさない。
  2. セキュリティ対策
    不正アクセスや改ざんを防ぐためのセキュリティ対策を講じる。
    電子契約システムを使えばある程度安全性は担保されるが、選定するシステムによってセキュリティ水準は異なる。
  3. 相手方との合意
    電子契約を相手方に強要はできない。
    相手方が書面の交付を求めているときは従来のやり方を選択する必要がある。

電子化により保管スペースの削減や検索性の向上などのメリットが得られますが、適切な運用と管理が求められます。

根抵当権極度額変更契約書を適切に準備しよう

根抵当権極度額変更契約書は、債務者と債権者の関係を適切に管理するとともに、担保価値を最大限に活用するうえで重要な文書といえます。

作成時には契約内容を的確に反映すること、そしてその内容に関しては利害関係者の承諾を得ておくことに留意してください。契約書の適切な保管と管理も将来的な紛争予防の観点から重要です。
また電子化も視野に入れ、より安全でより効率的な契約業務が遂行できるようにしましょう。


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