- 更新日 : 2026年7月13日
民法117条(無権代理人の責任)とは?無過失責任についてもわかりやすく解説
民法117条は無権代理人の責任要件を定めた条文で、2020年施行の改正で立証のしかたが整理されました。
- 代理権を証明するか本人の追認を得れば責任を免れられる
- 相手方が悪意または過失で代理権の欠缺を知らなかった場合は責任を問いにくい
- 代理権がないと知りつつ行為した場合は相手方の過失にかかわらず責任を負う
制限行為能力者が無権代理行為をした場合は責任の対象外となるため、代理行為の前に代理権の有無を必ず確認しておきましょう。
民法117条は、代理権のない者(無権代理人)が代理人として行動した際の責任について定めた条文です。無権代理人は代理権の証明や本人の追認を得られない場合、相手方の選択に従い履行または損害賠償の責任を負います。2020年4月施行の改正民法では、責任を問われる要件の立証方法が実務に即したかたちに整理されました。
民法117条(無権代理人の責任)とは?
民法117条は、代理権を持たない者が代理人として行動した場合、その者自身が相手方に対して責任を負うと定めた条文です。
代理とは、ある人(代理人)が別の人(本人)のために行った法律行為の結果が本人に帰属する制度です。代理を活用するには本人と代理人の間で代理権についての合意が必要であり、合意のないまま代理人として行動した者や、与えられた代理権の範囲を超えた行為をした者は「無権代理人」として扱われます。
無権代理人が行った行為の効果は、追認がない限り本人に帰属しません。損害賠償を求められたときは、本人ではなく無権代理人自身が賠償の責任を負います。
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民法117条1項の規定内容は?
民法117条1項は、他人の代理人として契約をした者が自己の代理権を証明したとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い履行または損害賠償の責任を負うと規定しています。
つまり、以下のいずれかを満たす場合は無権代理人ではなく「代理人」として扱われます。
- 代理権があることを証明した
- 本人の追認を得た
どちらも満たさない場合は無権代理人とみなされ、相手方の選択により契約の履行または損害賠償の責任を負います。
民法117条2項の規定内容は?
民法117条2項は、一定の条件を満たす場合に無権代理人が前項の責任を負わないことを定めており、相手方の事情や無権代理人の行為能力により責任の有無が分かれます。
1項の原則(無権代理人が責任を負う)には、以下の例外が設けられています。
民法117条2項1号(相手方が悪意の場合)
相手方が「他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを知っていたとき」は、無権代理人は責任を負いません。
たとえば、AがBの代理人としてCにBの土地を譲渡すると約束した場合を考えます。AはBから代理権を与えられておらず、CもAが代理権を持たないことを知っていたとします。この場合、AはCに対する土地譲渡の義務を負わず、損害賠償の責任も生じません。
民法117条2項2号(相手方に過失がある場合)
相手方が「過失によって代理権のないことを知らなかったとき」も、原則として無権代理人は責任を負いません。ただし、無権代理人自身が代理権のないことを知っていた場合はこの限りでなく、責任を負います。
たとえば、AがBの代理人としてCにBの土地を譲渡すると約束した場合で、CがAの委任状を確認せずBに直接問い合わせることもしなかった(過失あり)としましょう。Aに代理権がない場合、AはCへの義務を負いません。一方、AがBの代理権のないことを知りながらCと契約した場合は、Cの過失を問わずAに損害賠償の責任が生じます。
民法117条2項3号(制限行為能力者の行為の場合)
無権代理人が「行為能力の制限を受けていたとき」は責任を負いません。未成年者など法律行為能力に制限を受けている者が代理行為をした場合、相手方への損害賠償義務は生じません。
これは、行為能力を制限されている者を過重な責任から保護するための規定です。代理人として行為する者が未成年者や成年被後見人でないかどうかも、事前に確認しておく必要があります。
民法117条の改正内容(2020年施行)は?
2017年5月26日に成立した民法の一部を改正する法律により、2020年4月1日から民法117条の規定内容が改められました。債権関係の規定は1896年の民法制定以来、約120年ぶりの大幅な見直しとなり、実務により即した内容となっています。
なお、改正の施行日である2020年4月1日より前に行われた代理行為については、改正前の民法が適用されます。
民法117条1項の改正:証明責任の転換
改正前の1項では無権代理人が「代理権を証明できなかったこと」や「追認を得られなかったこと」という消極的な事実を示す必要がありましたが、改正後は「代理権を証明したとき、または本人の追認を得たときを除き」という積極的な除外要件の形式に変わり、実務上の立証が容易になりました。
消極的な事実(〜できなかったこと)の立証は、実務では難しいとされていました。今回の改正により、代理権の証明や本人の追認という積極的な事実を示せれば責任を免れる形式になったため、代理権の有無をより明確に扱えるようになっています。
民法117条2項の改正:悪意の無権代理人の責任
改正により2号に「ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない」というただし書きが加えられ、相手方に過失があっても、自ら代理権のないことを知りながら行為した無権代理人は責任を免れないことが明文化されました。
改正前は相手方に過失がある場合、無権代理人は一律に責任を負わないとされていました。しかし、自身の代理権のなさを認識しながら行為した者を保護することは妥当ではないとして、改正後はこの場合の責任が明確化されています。代理行為を行う際は、相手方の事情にかかわらず、自らの代理権の有無を慎重に確認することが求められます。
民法117条に関する判例と実務上の解釈は?
代理行為は契約を伴うことが多いため、民法117条が争点となる裁判は少なくありません。以下に代表的な判例を紹介します。
本人が追認拒絶後に相続が発生した場合の判例
本人が無権代理行為の追認を拒絶した後に無権代理人が本人を相続しても、無権代理行為は有効にならないと最高裁は判示しています。
本人が追認を拒絶した時点で、無権代理行為の効力が本人に及ばないことが確定します。その後に無権代理人が本人を相続しても、追認拒絶の効果に変わりはありません。
裁判要旨は以下のとおりです。
本人が無権代理行為の追認を拒絶した場合には、その後無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になるものではない。
出典:裁判所 最高裁判所判例集 事件番号 平成6(オ)1379
設立登記前の会社の代表取締役が契約した場合の判例
設立登記が未了の会社の代表取締役が会社名義で第三者と契約した場合、その代表取締役は民法117条の類推適用により第三者に対して責任を負うと最高裁は判示しています。
代表取締役は会社設立の発起人であり、設立登記が未済であることを知っていたことから、自身の行為が法人を代理するものではないことを理解していたと考えられます。そのため、代理権なしに会社を代表して行った行為の結果については、代表取締役自身が責任を負うとされています。
裁判要旨は以下のとおりです(原文の漢数字表記を維持して引用)。
株式会社の設立を計画発起した者が、未だ設立登記をしないうちに、右会社の代表取締役として、第三者との間に、会社設立に関する行為に属しない契約を締結した場合、その者は、右第三者に対し、民法第一一七条の類推適用によつて責に任ずべきである。
出典:裁判所 最高裁判所判例集 事件番号 昭和32(オ)483
民法117条に関して注意すべきポイントは?
民法117条を理解することで、代理権を持たない者の行為に対する責任について、法に則った判断ができるようになります。
無権代理人の責任が生じる要件
代理権のない者が代理行為をした場合、原則として無権代理人自身が責任を負いますが、相手方の悪意・過失、または行為者の行為能力の制限によっては責任が生じないことがあります。
以下のいずれかに該当する場合は、必ずしも無権代理人が責任を負うとは限りません。
- 代理権があることを証明した
- 本人の追認を得た
- 行為者に代理権がないと相手方が知っていた(悪意)
- 行為者に代理権がないと相手方が過失によって知らなかった(ただし無権代理人が知っていた場合を除く)
- 行為者が行為能力の制限を受けていた
なお、相手方に過失があった場合でも、無権代理人自身が代理権のないことを知っていたときは責任が生じます。代理行為を行う前に、自らが本人から権利を付与されているかどうかを確認しておくことが、トラブル回避につながります。
無過失責任の意味と実務上の影響
民法117条の責任は無過失責任であり、代理権があると信じていた場合でも、代理権を証明できなければ履行または損害賠償の責任を問われます。
無過失責任とは、行為者に過失(不注意)がない場合でも責任を負うことをいいます。民法117条では、代理権があると信じた根拠に十分な注意があったとしても、代理権を証明できない以上は責任を免れないとされています。
この考え方は、代理取引の相手方を保護するために設けられています。代理行為を依頼する側は、代理権の授与を書面で明確にしておくことで、無権代理人の責任を問われるリスクを軽減できます。代理行為を引き受ける側も、代理権の範囲を事前に確認し、証明できる状態にしておくことが重要です。
代理権の有無と範囲
代理権の有無と範囲は、委任状や本人との直接確認により検証でき、書面として残しておくことで後の紛争を防ぎやすくなります。
口頭による代理権の授与は後から証明が難しいため、委任状には代理権の範囲(たとえば「〇〇に関する契約の締結」など)を明記することが望まれます。代理行為を受ける側も、委任状を確認するだけでなく、必要に応じて本人に直接確認することで代理権の存在を確かめることができます。
相手方に過失があれば無権代理人は責任を負いにくくなります(民法117条2項2号)。しかし、代理取引のトラブルを防ぐためには、相手方の注意に頼るのではなく、委任状の取り付けを自ら習慣づけることが大切です。
無権代理と表見代理の違い
無権代理と表見代理は混同されやすい概念ですが、表見代理(民法109条・110条・112条)は、本人が代理権の外観を作り出した場合に本人自身が相手方に責任を負う点が異なります。
表見代理が認められると、相手方は本人に対して契約の履行を求めることができます。一方、無権代理では本人への責任追及ができず、無権代理人に対してのみ責任を追及できます。いずれのケースも代理権を巡るトラブルである点は共通していることから、代理権の有無と範囲を明確にしておくことが紛争予防の出発点となります。
民法117条で定める無権代理人の責任を正しく理解しよう
民法117条は、代理権のない者が代理行為をした場合に無権代理人自身が履行または損害賠償の責任を負うと定めた条文です。2020年施行の改正により、責任の有無をめぐる立証のあり方が整理され、悪意の無権代理人が責任を逃れにくい仕組みが明文化されました。
代理権の有無は、委任状や本人への確認によって明らかにできます。代理行為を行う前には必ず代理権の存在と範囲を確認し、書面として残しておくことが、無権代理に起因するトラブルを防ぐうえで有効です。
民法117条の責任は無過失責任であるため、代理権があると信じていた場合でも、証明できなければ責任を問われる可能性があります。代理取引に関わる場面では、法的な要件を理解したうえで慎重に対応することが求められます。
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