- 更新日 : 2024年8月29日
事業用定期借地権とは?ひな形をもとに契約書の書き方や注意点を解説
事業用定期借地権とは、事業の用途のみに限定して土地を貸す権利のことです。用途が事業用建物に限定されており、契約期間が過ぎたら更新をすることなく更地にして返還されます。
本記事では事業用定期借地権の概要やメリット・デメリット、設定契約書の書き方・注意点を解説します。
目次
事業用定期借地権とは?
事業用定期借地権とは、事業の用途のみに限定し、期間を定めて土地を借りる権利のことです。
ここでは、事業用定期借地権の概要を解説します。
事業の用途に限定して期間を決めて土地を借りる権利
事業用定期借地権とは4種類ある定期借地権のひとつで、事業用の目的に限定して土地を借りる権利です。主にロードサイドや商業地域にある土地、長期にわたり使用する予定のない土地が対象になります。
例えば、郊外など、都市開発などで数十年後には周辺状況が変わると予想される場所に店舗を設ける場合などに利用されます。商業施設や倉庫、工場といった大規模施設や、ホームセンター・コンビニといった店舗の設置に利用されることが多いでしょう。
借地の際の高額な権利金を支払う必要がないため、長期の借地期間を必要としない場合に利用される方法です。
契約期間に上限がある
事業用定期借地権の契約期間は、10年以上50年未満です。従来は契約期間が10年以上20年以下とされていましたが、借地借家法の改正により変更されました。契約の設定は、以下の2種類になります。
- 10年以上30年未満
- 30年以上50年未満
このうち30年以上で契約した場合、借主には建物買取請求権が認められます。建物買取請求権とは、契約終了時に貸主に対して建物の買い取りを請求できる権利です。
事業用定期借地権では、基本的に契約終了時は更地で返還しなくてはいけません。しかし、契約満了時点でまだ十分使用ができる建物の場合、それを解体するのは損失とみなされるため、30年以上50年未満の契約では、建物買取請求権が可能とされています。貸主が建物買取請求を避けるためには、契約時に特約をつけておくことが必要です。
更新がなく更地返還となる
事業用定期借地権は基本的に契約の更新はできず、契約期間が満了したら土地を更地に戻して返還しなければなりません。建物は借主の費用で建てられ、取り壊しも借主の費用で行われます。
普通借地では、借主が契約期間の途中で建物を建て替えたとき、契約期間は延長される場合があります。しかし、事業用定期借地権ではそのような例外もなく、特約で建物買取請求権を付与した場合でない限り、契約期間満了で更地返還が必要です。
公正証書での契約が必要
事業用定期借地権設定契約は、公正証書の作成が必要です。公正証書とは、公証人が作成した、法律行為や権利についての証書のことです。
一般的な借地権では通常の契約書でもかまいませんが、事業用定期借地権では定期借地制度の濫用を防止するため、必ず公正証書で契約しなければなりません。公正証書で定めない場合、契約は無効となります。
公正証書で契約する前には土地の造成や許認可取得などの準備があり、まず公正証書ではない書面で覚書を作成するケースもあります。
そのほかの定期借地権の種類
定期借地権には、以下の4種類があります。
- 一般定期借地権
- 建物譲渡特約付借地権
- 事業用定期借地権
- 一時使用目的
一般定期借地権は存続期間が50年以上と長く、建物の使用目的は限定されていないため、居住用の建物も建てられます。建物買取請求権を行使しない旨の特約がある場合には、契約満了後には、事業用定期借地権と同じく土地を更地にして返却しなければなりません。
建物譲渡特約付借地権は30年以上の存続期間があり、契約満了後に借主は建物買取請求権を行使できます。
一時使用目的は、工事用の仮設プレハブやイベントなど、一時的な用途に限定された借地権です。
事業用定期借地権のメリット・デメリット
事業用定期借地権には、契約期間を選べる、地代を高めに設定できるなどがメリットです。その一方で、契約期間の途中で解約できないなどのデメリットがあります。
ここでは、事業用定期借地権のメリット・デメリットを紹介します。
メリット1:契約期間を選べる
事業用定期借地権は契約期間が最低で10年、最長50年の間から選べる点がメリットです。
例えば、10年後に土地を利用する計画がある場合は最低期間で契約し、更地で返還してもらえるため、計画を実施できます。特に使用の予定がない土地であれば、長期間の設定も可能です。自分の土地活用計画に合わせて設定でき、明け渡し請求や建物の買い取りなども必要ありません。
メリット2:地代を高めに設定できる
事業用定期借地権は地代を高めに設定できる点もメリットです。居住用と比較して、事業用の借地権は地代が高めに設定できる傾向にあります。
事業の収益が高ければ、より高い地代の設定も可能です。貸し出す期間が長期にわたるため、安定して収入を得られるというメリットもあります。
自分で事業を行うのに比べ、土地を貸すだけで収入を得られるのも利点といえるでしょう。
メリット3:建物への投資が必要ない
事業用定期借地権で貸主は、土地を貸すだけで建物への投資が必要ありません。また、建物所有者ではないため、建物の固定資産税や保険料、メンテナンス・修繕費といった建物に関する費用が一切かからない点もメリットです。
貸主が負担する費用は、基本的に土地の固定資産税・都市計画税といった租税公課のみです。
デメリット1:契約期間の途中で解約できない
事業用定期借地権は、契約期間の途中で貸主からの解約ができません。特約を設けて借主から解約することはできても、貸主からの解約はできない点がデメリットです。これは、借主の利益を守るという趣旨があります。
契約期間を長く設定した場合、途中で土地活用をしたいと思っても、契約が満了まで待たなければなりません。
借主に契約違反などがあれば契約の解除も可能ですが、そのような問題がない限り契約期間満了まで解約はできないことを把握しておきましょう。
デメリット2:借主が経営破綻するリスクがある
事業用定期借地権は、契約期間中に借主が経営破綻するリスクがあります。経営破綻した場合、建物が撤去されずそのまま残り、撤去費用を貸主が負担しなければならない可能性もあるでしょう。
建物は貸主の所有物ではなく、取り壊しには建物所有者の許可が必要という問題も発生します。
借主の事業に破綻の兆候が見られたら、早めに話し合うなど対応策を考える必要があります。
事業用定期借地権設定契約書のひな形・テンプレート(ワード)
事業用定期借地権設定契約書を作成する際は、ひな形を利用すると効率的です。以下のページから弁護士が監修したワード形式の事業用定期借地権設定契約書を無料でダウンロードできるので、ぜひご活用ください。
なお、事業用定期借地権は公正証書で作成することに注意しておきましょう。
事業用定期借地権設定契約書の書き方、作成のポイント
事業用定期借地権設定契約契約書は、公正証書で作成します。ここでは、書き方や作成のポイントを解説します。
契約対象になる土地の概要
まず、冒頭で契約対象になる土地の概要を記載します。記載例は、以下のとおりです。
別紙目録では、「所在」「地番」「地目」「地積」など、当該土地の不動産登記簿の記載内容を引用して記載します。
用途や範囲
借地権の使用目的や範囲を記載します。事業用定期借地権では建物所有目的で、事業の用途であることを明記しなければなりません。
一例として、「事業の用に供する建物の所有を目的とする」という文言を記載します。
賃貸借の契約期間
賃貸借の契約期間を記載します。10年以上50年未満の範囲内で設定することが必要です。
記載例は、以下のとおりです。
本件土地の賃貸借期間は、20××年4月1日から20××年10月31日までとする。
土地の賃料
土地の賃料について記載します。月額と支払日、支払方法を記載し、土地に関する税金や土地価格の変動、経済事情の変化などで金額が相応でなくなった場合、賃料の増減ができることも記載しておきましょう。
権利金
権利金とは、不動産の賃貸借契約において、一時金として支払われる金銭のことです。敷金や保証金とは異なり、契約が終了した際に返還する必要のないものとして扱われます。なお、権利金は法律上必要なものではないため、必ず決めなければならないものではありません。
返還や債務
賃貸借契約期間の終了もしくは解約により契約が終了した場合に、土地を原状回復して貸主に返還することを記載します。また、契約の終了日までに土地の明渡しをしないときに遅延損害金を支払うことも定めておくとよいでしょう。
借主が建物等の収去義務を怠ったとき、貸主は建物収去工事費の相当額を請求できることも記載しておきます。
禁止事項
土地の使用に関する禁止事項を記載します。禁止事項には、主に以下の内容があげられます。
- 風俗営業に関わる利用
- 暴力団その他の反社会的団体及びそれらの構成員が利用
- 政治的用途・宗教的用途
- 地域住民等の生活を著しく脅かすような活動
- 悪臭・騒音・粉塵・振動・土壌汚染など、近隣環境を損なう用途
このほか、禁止したい事項を列挙します。
契約違反による解除の規定
契約違反となり、催告せずに契約を解除できる項目を記載します。一例として、以下のような内容があげられます。
- 賃料の支払いが滞ったとき
- 借地権を第三者に譲渡もしくは第三者に対する債務の担保にしたとき
- 禁止事項に違反したとき
- 破産手続開始、民事再生手続開始などの申立てを受けたとき
公正証書の作成
公正証書に関する項目です。借地契約を内容とする公正証書の作成を公証人に委任することや、公正証書の作成に要する費用の負担についての定めなどを記載します。
紛争やトラブル
契約に関し、当事者に紛争やトラブルが生じたときの解決手段を記載します。まず裁判外の民間紛争解決手続により解決を図り、なお紛争解決に至らずに裁判手続に移行する場合の管轄裁判所などを定めるのが一般的です。
作成年月日と署名・押印
最後に作成年月日を記載し、以下のように貸主・借主それぞれの署名をして押印します。
20××年1月1日
甲 〇〇 〇〇 印
乙 〇〇 〇〇 印
事業用定期借地権の地代相場
定期借地権における地代の相場は、200平米の場合、全国平均で年間約80万円です。実際の地代は、エリアによって変動します。ここでは、地代相場の計算方法などを解説します。
地代相場の計算方法
借地権の地代は、一般的に固定資産税など公租公課の約2〜3倍とされています。例えば、固定資産税を毎年3万円払っている場合、年間の地代は6〜9万円が相場です。
それ以外に、道路や路線に面する土地の評価額から計算をする方法や、土地から得られる期待利回りから計算する方法(積算法)があります。
事業用定期借地権の地代は契約期間で変動する
事業用定期借地権の場合、地代は契約年数の残存期間によって変動します。まず、土地に建物が建てられている場合には、貸家建付地(貸家の敷地の用に供されている宅地)として扱われ、評価額が20%ほど減額されます。
また、不動産の固定資産評価額は期間が経過するほど下がるため、契約期間が長ければ長いほど租税公課も下がり、地代も安くなる傾向があるでしょう。
事業用定期借地権設定契約書に関する注意点
事業用定期借地権設定契約書を作成する際は、収入印紙が必要なこと、公正証書で作成する必要があるため電子契約はできない点に注意が必要です。
詳しく見ていきましょう。
収入印紙が必要
事業用定期借地権設定契約書は印紙税法に定められた第1号文書にあたり、収入印紙が必要です。収入印紙は、経済的な取引に伴って作成した書類に課せられる印紙税を支払うための証票です。
契約書に権利金など将来返還されないお金が記載されている場合、その金額に応じて収入印紙を貼付します。金額が1万円未満であれば非課税になり、1万円以上10万円以下では200円など、金額に応じて印紙代が定められています。
電子契約はできない
契約書を電子契約にすれば収入印紙がかからず、契約書の作成や郵送などの手間が省けます。
しかし、事業用定期借地権設定契約書は借地借家法23条により、電子契約ができません。公正証書での作成が必要であるためです。公正証書は原則として、書面で作成することとされています。
事業用定期借地権設定契約は公正証書による作成が必要
事業用定期借地権は事業用の用途に限定され、契約満了により更地返還が必要な借地権です。契約書は必ず公正証書で作成する必要があり、電子契約はできません。
契約期間が選べ、地代を高めに設定できるなどのメリットがあります。ただし、原則として貸主からの途中解約はできません。
事業用定期借地権設定契約書には記載すべき事項が多いため、内容をよく確認して作成しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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