- 更新日 : 2025年2月4日
横領誓約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
横領誓約書は横領が発生したとき、犯人である従業員に着服の事実を認めさせて返済を義務付ける書面です。〇〇契約書や〇〇請求書と同様に、フォーマットを利用して作成するパターンが一般的です。本記事では横領誓約書のひな型や書き方、項目の具体例、作成時のポイントを紹介します。
目次
横領誓約書とは
横領誓約書は横領した金額と期日までの弁済を犯人に義務付ける書類です。従業員による金銭の着服や不正な引き出しがあった場合、違法な利得の返還を求めるために作成が求められます。
横領が疑われる従業員から誓約書の提出を受ければ、裁判で争いになった場合に有利です。署名や押印を得ることで後の言い逃れを防ぐ効果があるため、横領の事案が発生した企業は横領誓約書を準備して従業員に署名や押印を求める必要があります。
横領誓約書を作成するケース
横領誓約書の提出を求めるのは、従業員の業務上横領罪が疑われるケースです。業務上の横領とは「業務上、自己の占有する他人のものを横領する行為」が該当します。
刑法では10年以下の懲役刑が科され、業務とは関わりがない横領の事実を問う単純横領罪よりも重い刑罰です。
業務横領罪の「業務」とは、社会生活上の地位に基づき行われる反復・継続的な事務作業を意味します。例えば、従業員が会社から預かった金銭や物品を自分のものに着服する行為が挙げられます。
また、経理担当者が会社の法人口座から自分の預金口座に送金する事例もよくみられます。さらに従業員が外部の第三者と共謀して架空の請求書を作り上げ、会社の資金を第三者名義の口座に振り込む手法も一般的です。
横領誓約書を作成する目的は、横領した犯人の自白を書面に残して証拠を残すためです。状況証拠集めがうまくいかなければ、いくら疑わしき人物でも刑事罰に処することは認められません。
偽の請求書や印鑑、不正な出金記録などの証拠が十分でなくても、本人の自白があれば警察に捜査を進めてもらいやすくなるなど、罪を問える可能性が高まります。
横領誓約書のひな形
横領誓約書を社内で一から作成するのは手間と時間がかかります。日常的に使用する書類ではないため、過去のデータが存在しない場合も珍しくありません。
テンプレートを利用すれば初めての方でもミスなく簡単に作成できます。マネーフォワードでは弁護士が監修した横領誓約書のひな型を提供しています。以下のリンクからフォームへ必要事項を入力することにより、無料でダウンロードできます。ぜひご活用ください。
横領誓約書に記載すべき内容
ここからは、横領誓約書に記載すべき項目を具体例も交えて解説します。
債務弁済条項
債務弁済条項は横領した金額を特定して弁済を約束させる目的で記載する条項です。例えば「乙は甲の従業員としての勤務期間中、横領したことにより、本日時点で甲に対して3,000万円の債務がある旨を承認する」と記載します。
支払条項
支払条項は債務弁済条項で確定した債務をいつまでに返済するか支払スケジュールや期日を表す条項です。例えば「乙は前項記載の3,000万円を分割して毎月末日までに金10万円を甲指定の銀行口座に振り込むとする。期間は〇年〇月〜〇年〇月までとする」と記載します。
期限の利益喪失条項
期限の利益喪失条項は債務者の期限の利益(一括の支払を義務付けず分割払いを認めること)を失わせ、弁済遅延があった時点で全額の支払を求めるために記載します。例えば「乙が前項記載の分割金の支払を怠り、その額が30万円に達した場合、甲からの催告なくとも当然に期限の利益を失う。第〇条記載の金額から既払い額を控除した額および期限の利益を喪失した日の翌日から、弁済が完了するまで年〇%の割合の遅延損害金を支払う」です。
なお、一度返済が遅延しただけで期限の利益を喪失させるのは厳しすぎるため、毎月の返済額の2倍や3倍に達したときに適用する趣旨の記載が求められます。
連帯保証条項
長期の分割払いを求めるならば連帯保証条項をつけると安心です。例えば「丙(連帯保証人)は、乙の委託により、甲に対して、乙の甲に対する債務を連帯して保証する旨を約した」と記載します。
守秘義務条項
横領が発生した会社だと外部に知られると社会的な信用力に影響が生じ、取引先の減少やブランド力の低下につながります。横領誓約書に守秘義務条項を盛り込み、従業員を発端として悪評が広がる事態を未然に防ぎましょう。
例えば「甲と乙、および丙は本件および本示談書の内容につき、合理的な理由がある場合を除いて第三者に開示しない」と記載します。誓約書の守秘義務条項は退職した従業員の社会復帰やキャリア形成にも関係するため、企業側も遵守しなくてはいけません。
清算条項
清算条項とは書面で定めた条項に抵触しない限り、損害賠償を請求する行為はしない当事者に義務付けるものです。例えば「甲と乙、丙は本件に関して本誓約書に記載した事項以外には何の債務関係も存在しないことを確認する」と記載します。
従業員が会社側から後日、新たに損害賠償を提起されるリスクを防止するための条項ですが、企業側にも紛争の蒸し返しをなくして争いを終了させる利点があります。
横領誓約書を作成する際の注意点
横領誓約書を作成する前に横領がいつ・何時行われたか調査・情報収集が必要です。主な確認事項は以下のとおりです。
- 横領日と金額
- 偽造された書類の有無
- 送金伝票のチェック
- 犯行を疑われる従業員の当日の行動
横領で金銭を摂取する事例では、架空の請求書や発注書、契約書が作成された可能性があります。身に覚えのない書類が見つかったときは、筆跡や印鑑が本人のものか確認しましょう。
また、営業日報や交通費請求書、出金記録などで怪しい従業員の記録を調査して、アリバイがない時間帯がないかチェックする必要もあります。犯人を特定しなければ横領誓約書の提出を求められないため、情報の収取は徹底的に行いましょう。
横領が発覚した場合の対応手順
従業員の横領が発覚した場合、企業側には速やかな対応が求められます。一般的な対応手順は以下のとおりです。
事実関係の調査
はじめに横領に関する証拠を集める必要があります。万一訴訟に発展した場合、従業員の違法性を問うには客観的に事実を証明できる書類やデータの提示が欠かせないためです。
会社の法人口座からの不正な引き出しや送金が疑われる場合は、出金伝票や送金伝票が貴重な資料です。横領を目的とした従業員が架空の請求書や発注書を作成した場合、原本が証拠に利用できます。
偽造した書面に上長の押印があれば、偽の印鑑の作成や不正な持ち出しの事実がないか合わせて確認が必要です。
本人・関係者からの事情聴取
本人や、横領が疑われる時間帯に発生場所にいた他の従業員からの事情聴取を実施しましょう。企業側が想定していない事実の発覚や認識違いが見つかる可能性があるためです。
事情聴取では相手方にかかわらず聴取内容を記録として残し、署名や押印による確認を受けることが重要です。本人が横領を認めていない場合でも後の警察の事情聴取で矛盾が発覚する可能性があるため、議事録の作成が求められます。
誓約書の取得
横領の事実を認めたときは、本人に対して支払誓約書の提出を求めましょう。後の裁判や警察の事情聴取で重要な資料となる大切な書類です。
横領した金銭をいつまでに支払うのか、具体的な期限を明らかにするよりもまず書面の確保が第一です。相手方を非難・叱責せず、早急に押印や署名を受ける必要があります。
退職勧奨または懲戒解雇
最後に横領を犯した従業員に退職勧奨、もしくは懲戒解雇の処分を下します。業務上横領罪は刑法上刑罰が課せられる犯罪行為にあたるため、解雇の処置をとるのはやむを得ません。
懲戒解雇できるか否かは、就業規則に懲戒解雇事由に抵触するかどうかで判断します。直接横領を罰する記載がなくても「刑法その他刑罰法規に違反する行為をしたとき」とあれば、就業規則に基づく解雇が可能です。
なかには懲戒解雇の処分を下す前に、懲罰委員会の開催や弁明の機会を与えることを義務付ける規則を設ける会社もあります。就業規則に規定した手続きをふまねば解雇処分は無効になる可能性もあるため、ルールに則った措置が必要です。
横領の発生防止策
横領を未然に防止するため企業側ができる対策を紹介します。
横領が発生する主な原因は、ずさんな管理体制や不十分な社員教育です。現金の出納や予算の管理が正確ではない、または1人の担当者に一任している環境では不正な持ち出しや着服が起きる危険が高くなります。
また従業員の意識が低く、後で返せば良いだろうと軽く考えて会社の資金を勝手に懐に入れるパターンも存在します。
チェックフローや体制を刷新する時間的な余裕がない企業は経理業務のアウトソーシングがおすすめです。費用の負担は避けられませんが、従業員から資金の管理を遠ざけて横領や不正を防止できます。
横領で懲戒解雇する場合に解雇予告手当は必要?
横領で懲戒解雇する場合は原則として解雇予告手当の支払は不要です。解雇を言い渡した日から解雇日までの期間が30日を下回っても、期間相当の平均賃金を負担する必要はありません。
労働基準法では懲戒解雇でも解雇予定日の30日前に申し出しない限り、企業側に解雇予告手当の支払が義務付けられます。
しかし例外的に労働者の責めに帰すべき事由に基づき解雇する場合は労働基準監督署長の認定(除外認定)を受けることで、手当の支払をせずに解雇しても特段問題はありません。
横領が原因の解雇は明らかに労働者の責めに帰すべき事由に該当します。したがって管轄の労働基準監督署の認定を受けることで、解雇予告手当の支払は高確率で不要となるでしょう。
業務上横領罪の時効
刑事訴訟法において業務横領罪の公訴時効は7年と定められています。単純横領罪や遺失物等横領罪といった他の横領罪より刑罰が重いため、時効期間が長く設けられています。
公訴時効の期限内ならば横領を疑われる者を検察官に起訴してもらって刑事裁判にかけることが可能です。公訴時効の期限を過ぎると刑事裁判にかけられなくなり、処罰を科すこともできません。
なお刑事事件の公訴時効の起算点は横領行為が終了したときです。起訴した時点から進行するわけではありません。また、公訴時効と民事の時効は別のものであり、民法上の損害賠償請求権は「損害および加害者を知ったときから3年」のため、民事訴訟の提起を検討中の方は時効が過ぎてしまわぬよう注意が必要です。
横領が発覚したときは従業員から誓約書の提出を受けよう
横領が発覚した際は関係者に事情聴取を行い、犯行した本人から誓約書の提出を受けなくてはいけません。横領誓約書は犯人を明らかにして横領された金銭を確実に回収するために必要な書面です。
金額や支払方法、支払期限のほか、期限の利益喪失条項や連帯保証条項、清算条項などが含まれます。
本人の署名や押印を受けた清算書があれば後日裁判を提起する際の重要な証拠となります。従業員が横領していないと言い出しても、書面を根拠に主張を拒むことが可能です。
いつ横領が起きても適切、かつ迅速な対応をとるために事前にひな形を用意しましょう。本記事を参考に大切な会社の資金を従業員に持ち逃げされる事態に備えて、適切な防止策を実施しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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