• 作成日 : 2024年12月3日

遡及効とは?民法による事例や禁止される場合などをわかりやすく解説

遡及効は、「過去にさかのぼって効力が発生する」という意味です。法律行為や契約の場面では、ある時点にさかのぼって法律行為や契約内容が無効、あるいは有効になるときに使われる用語です。

本記事では、遡及効の基本的な意味についてわかりやすく説明します。また、民法における具体例や、遡及効が禁止される場面についても解説します。

遡及効とは?

遡及効とは、過去にさかのぼって法律の効果が生じることです。原則として、法律行為の効果は将来に向かって発生します。

ただし例外的に、法律行為の効果を過去のある時点から発生させることを法律で定めているケースがあります。また、当事者の合意により契約で遡及効を定めることも可能です。

以下では、遡及効の意味について詳しく解説します。

遡及効の意味

「遡及効」とは、その漢字が表すとおり、さかのぼって効力を及ぼすという意味です。法律行為においては、法律や契約内容が、成立する以前にさかのぼってその効力を発揮することを指します。

例えば、それまで無効だった契約がある条件をクリアすると、契約成立の時点にさかのぼって有効になるケースがあります。反対に、契約が解除されることで、初めからその契約はなかったことになるというケースも遡及効です。

遡及効の読み方

遡及効は「そきゅうこう」と読みます。同じく「そきゅう」と読む言葉に「遡求」があります。

「遡求」は、手形・小切手が支払われないときや支払われる可能性が低いときに、手形・小切手の所持人が振出人や裏書人などに対して一定金額の支払いを請求することです。「償還請求」ともいいます。「さかのぼる」という意味で遡及効と似ていますが、遡求は「さかのぼって求める」点で遡及効と異なります。

遡及効と将来効の違い

遡及効と似た言葉に「将来効(しょうらいこう)」があります。共に「〜効」であるため混同されがちですが、2つは明確に違います。将来効は、将来に向かって効力を発生させることです。つまり、遡及効が過去にさかのぼって効力を発生させる意味であるのに対し、将来効は未来に向かって効力を発生させるという点で異なります。

法律行為における遡及効の具体例としては「取消」があります。取消は、法律行為や契約の内容を過去にさかのぼって取り消すことです。

一方、将来効の具体例としては「撤回」があります。撤回とは、法律行為や契約の内容の効力を将来に向かってなくすという意味であり、過去にさかのぼってなくすわけではありません。

民法による遡及効が発生する事例は?

民法には、遡及効が発生する場面についての規定が複数あります。以下では、どのような場面で民法による遡及効が発生するのかについて、代表的な例を3つ紹介します。

無権代理人による契約への本人追認の遡及効

無権代理人による契約とは、代理権をもたない者が、本人の代理人として契約を締結することです。原則として、無権代理行が締結した契約は、本人に対しては効力がありません。例えば、無権代理人が本人に代わって勝手に物を買っても、本人は代金を支払う必要はないことになります。

もっとも、本人が後から当該無権代理行為を「完全に有効なものとする」という意思表示(追認)をすれば、契約の時点にさかのぼって効力が生じます(民法113条1項、116条)。つまり、遡及効により契約は最初から有効になるため、上記の例でいえば本人は代金を支払う債務を負うことになるのです。

時効が成立した場合の遡及効

時効が成立すると、その効力は起算日にさかのぼります(民法144条)。したがって、一定期間占有を継続すれば権利を取得できる「取得時効」や、一定期間行使しなければ権利が消滅する「消滅時効」は、それぞれ一定期間が過ぎて時効が成立すれば遡及効が発生するのです。

例えば、土地の占有について取得時効が成立すれば、時効成立時ではなく占有を始めたときから権利を取得したことになります。

また、消滅時効が成立すれば、遡及効により債務者の債務は消滅します。ただし、債務者の方から、消滅時効を自分の利益のために主張する意思表示が必要です。

債務等の相殺の方法及び効力

相殺とは、同種の目的を有し、互いに対立する2つの債権が両方とも弁済期にあるとき、双方を対等額で打ち消し合うことです。

例えば、A社がB社への売掛金を1000万円、B社がA社への売掛金を700万円もっているとします。このとき、700万円分を相殺して打ち消し合うことで、B社はA社に対して差額の300万円を支払えばよいことになるのです。

相殺の効力について、民法506条2項は、互いに意思表示をした時点ではなく「双方の債務が互いに相殺に適するようになったとき」にさかのぼって効力を生じると規定しています。「互いに相殺に適するようになったとき」とは、双方が「同種の目的を有する債務を負担する場合」「双方の債務が弁済期にあること」(民法505条1項)です。これが相殺における遡及効です。

例えば、互いに相手会社の製品を購入しているA社とB社において、A社はB社に対し11月30日までに100万円を支払わなければならず、B社はA社に対し11月15日までに70万円を支払わなければならないとします。このとき、15日までにB社が70万円を支払わなければ、A社の100万円の債務のうち70万円が打ち消され、30日までに30万円支払えばよいことになります。

相殺の意思表示は、「双方の債務が互いに相殺に適するようになったとき」にさかのぼって効力を生じる(民法506条2項)ため、15日にさかのぼって遡及効が生じ、A社は30万円の支払債務が生じることになるのです。

契約書の遡及条項の書き方・例文は?

契約を締結する際、当事者の合意があれば契約書に遡及効の条項を入れることが可能です。遡及効が発生する日についても、当事者の合意によって決められます。必ずしも契約締結日にする必要はありません。例えば「本契約は、契約締結日にかかわらず、〇〇年〇〇月〇〇日より遡及的に効力を有するものとする。」などと記すとよいでしょう。

また、遡及効は契約全体にもたせることも、契約の一部にもたせることも可能です。契約全体について遡及効を持たせる場合は、

「第○条(遡及効)

本契約は、締結日にかかわらず、20XX年●月●日にさかのぼって効力を生じるものとする。」

などと条項を入れるとよいでしょう。

一方、一部の契約内容についてのみ遡及効を持たせる場合は、

「第○条(遡及効)

本契約のうち、第○条から第◯条までの規定は、締結日にかかわらず、20XX年●月●日にさかのぼって効力を生じるものとし、その余の条項は、締結日から効力を生じるものとする。」

などとします。

遡及効が禁止される場合は?

契約などの法律行為については、私的自治(契約自由)の原則から遡及効が柔軟に認められます。

ただし、例外的に遡及効を認めない規定も存在します。例えば、民法第620条は「賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる」と定めており、遡及効を認めていません。これは、長期にわたって賃貸借契約を継続していた場合に、契約締結の時点から賃料などを全て借主に返すなどということは現実的ではなく、遡及効を認めるとむしろ当事者に不利益になるためです。したがって、賃貸借契約の解除では、将来に向かってのみ契約関係が終了することと規定しています。

また、法改正によってルールが変更された場合は、改正前に行われた行為にさかのぼって遡及効を適用することは認められないのが原則です。なぜなら、改正されたルールを改正前の行為に適用すると、当事者に不利益な事態が及んだり、人権侵害が生じたりするからです。この場合に遡及効が適用できるとすると、将来における法改正を予測しながら不利益が生じないような生活を強いることになり、社会生活は不安定なものになってしまうでしょう。

特に、刑罰に関する法改正については、人権保護の観点から遡及効禁止の原則が厳格に適用されます。

遡及効の意味をしっかり理解して契約に役立てよう

遡及効は、過去にさかのぼって効力を発生させられるため、法律行為や契約の内容によっては当事者に非常に有益です。特に、契約においては私的自治の原則から、遡及効についての条項を柔軟に契約書に盛り込むことが可能です。また、民法の規定によっては、当事者の利益保護のために遡及効を定めているケースもあります。

一方、人権の保護の観点から、遡及効が認められない場合もあります。遡及効についての基本知識をしっかり押さえたうえで、契約に臨みましょう。


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