• 更新日 : 2024年8月30日

経営委託契約書とは?ひな形をもとに記載項目や注意点を解説

「経営委託契約書」とは、事業の経営を他人に託すときに交わす契約書のことです。経営は必ずしも事業の所有者が直接行う必要はなく、経営委任契約を締結して他人に委託することも可能です。

ただし、経営の委託という重大な権限を与えることになるため事前にルールを契約書に明記すべきです。ひな形も参照し、契約書に記載すべき項目を把握しておきましょう。

経営委託契約書とは

経営委託契約書は、経営委託契約を締結するときに当事者間で作成する、仕事の内容や受託者に課される義務、報酬に関することなどをまとめた文書です。

そもそも「経営委託契約」とは事業の経営を他者に託す契約のことであり、事業譲渡やM&Aなどとは異なります。事業の所有者自体が移転するわけではなく、あくまで事業主体の名義は当該契約の委託者であり変更がありません。

どんな場面で経営委託契約を締結するのかというと、現在の経営者だけだと安心して事業活動が進められず、十分な経営ノウハウや人脈、実績のある人物に関わってもらいたいというシーンです。

なお経営委任契約は法律上定義された契約類型ではなく、業務委託契約と似た性質を持っています。そのため契約締結、契約書作成にあたっては業務委託一般に関する知識も身に付けておくとよいでしょう。

業務委託契約書についてはこちらのページで詳しく説明しております。

経営委託契約書のひな形

契約書を作成するとき、すでにある程度骨格ができているひな形を利用すると作業効率が上がります。経営委託契約書については、こちらのページからひな形がダウンロードできます。

そのまま流用できない点には注意し、条文一つひとつを読み込み、調整していくことは必要です。

経営委託契約書に記載する主な項目

契約書の書き方は自由ですが、何の契約を、誰が交わしているのかがはっきりするようにしましょう。「経営委託契約書」などと表題を付け、当事者の一方を「甲」、他方当事者を「乙」と定義。甲と乙による署名捺印も忘れないようにします。

契約書を構成する各条文については、同じ経営委託契約書であっても内容は異なります。ここでは主な記載項目に絞って解説をしていきます。

業務の内容

経営委託契約書の肝となる部分をまずは記載しましょう。「甲(委託者である会社)は、○○○の名称で行う事業の経営を乙(受託者である個人)に委託し、乙はこれを受託する。」などと明記し、委託したい具体的な情報もまとめていきます。

ただしそのすべてを契約書内に記載する必要はなく、別紙を設けて「本件事業に関する詳細は別紙記載の通りとする」などと定めてもよいです。

また、「甲が求めに応じて、乙は、本件事業に関する帳簿、データ等を提出する」などと業務遂行に伴う情報提供の責任等についても定めておきましょう。「本件事業を行う乙の事務所への立ち入り検査を許容するものとする」などと立ち入り検査についても言及しておくと委託者としては安心です。一方で受託者側としては過度に重い責任がかかっていないかをチェックする必要があります。

損益の帰属主体

経営委任契約には大きく2つのパターンがあります。1つは「狭義の経営委任」と呼ばれ、経営を任せる個人の側に大きな権限があるパターン。もう1つは「経営管理」と呼ばれ、受託者には主に事務処理のみが任されるパターンです。

①狭義の経営委任②経営管理
  • 事業主体の名義は委託者のまま(共通)
  • 経営の計算は受託者が行う
  • 損益は受託者に帰属
  • 委託者は、受託者から売上または収益の一部の支払いを受ける
  • 事業主体の名義は委託者のまま(共通)
  • 経営の計算は委託者が行う
  • 損益は委託者に帰属
  • 受託者は、委託者から報酬の支払いを受ける

ポイントは「損益がどちらに帰属するのか」にあります。

例えば「乙は、本件事業にかかるすべての利益、損失が甲に帰属することを認めた」と記載したとき、甲が委託者ならうえの②に該当します。損益の帰属先は委託者です。

競業避止義務

経営を行うという立場上、受託者が競合する他の事業をできてしまっては都合が悪いです。どちらかの事業を優先して、有利な状況を作り出す、逆に不利な状況を作り出すこともできてしまいます。

そこで「乙は、甲の書面による事前の同意がない限り、本件事業と競合する他の事業を行うことができない」などと、競業避止義務についても定めておくべきです。

また、重大な情報を共有することも考えられますので、秘密保持に関する事項も記載しておくべきです。場合によってはNDA(秘密保持契約)を別途締結することも検討しましょう。

他にも当該契約に基づく権利義務を第三者に譲渡してはいけない旨や「委託者の同意がない限り〇〇をすることはできない」などと権限に制限をかけることも委託者としては大事です。

受託者への報酬

契約締結時の交渉で特に重要なのが「受託者に対する報酬」の定めです。「〇〇万円」と一定額を毎月支払うよう定めてもよいですし、「月次売上額の〇%」と成果に対応する報酬を定めるのでもよいです。双方納得のいく金額を考えましょう。

経営委託契約書をチェックする際のポイント

経営委託契約書を作成するとき、経営に関わってほしいと依頼を出す委託者は、次の点をチェックしましょう。

  • 受託者に必要以上の権限を付与していないか
  • 損益の帰属主体に問題はないか
  • 受託者に対する報酬が適切か
  • 競業避止義務や秘密保持義務が設定できているか
  • 受託者としての地位を第三者に譲渡できる内容になっていないか など

経営を委託される受託者としては、次の点をチェックしておくことが大事です。

  • 任される仕事の内容や責任の重さに対して報酬が釣り合っているか
  • 競業避止義務や秘密保持義務が課される範囲、期間などが重すぎないか
  • 受託事務についての情報提供や立ち入り検査等の負担が重すぎないか など

契約書を作成する側・作成された契約書をレビューする側、どちらの場合でも条文すべてを読み込んで問題がないことを確認していく必要があります。

経営委託の重大性を理解して契約書を作成しよう

経営委託契約を締結することで、経営に関わる権限を他人に託すこととなります。業務委託契約に近い性質があるとはいえ、事業全体に与える影響の度合いがとても大きいです。

この契約の重大性を鑑みて契約書の作成・チェックは慎重に行うべきであり、必要な記載事項が漏れていないか、大きなリスクを負う内容になっていないか、しっかりと評価していきましょう。


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