- 作成日 : 2023年11月2日
時効とは?刑事と民事における定義や完成猶予などを解説
時効とは、ある出来事が一定期間継続しているとき、その状態に即した権利関係を確定させることです。時効というと、刑事上の時効を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実は民事上の時効も存在し、時効によって権利の取得や消滅が起きます。今回は、時効の概要や取得時効と消滅時効、時効の援用や時効期間のカウント方法などを解説します。
目次
時効とは
時効とは、ある出来事から一定期間が経過していることを尊重し、その事実状態に即した権利関係を確定させることです。たとえば、ある土地を占有したまま一定期間が経過した場合、一定の条件を満たせば、本来の所有者からその人に所有権が移転します。
時効というと、刑罰を逃れるという刑事上の時効を思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、実は民法にも時効という概念があり、企業は特に民法における時効について理解することが大切です。
以下では、時効が定められている目的と、刑事事件・民事事件における時効について解説します。
時効が定められている目的
時効が定められている目的は、継続している事実状態を法的に保護することです。
出来事が起こってから長時間経過すると、証拠が消えてしまい、事実関係の立証が難しくなります。そのため、ある出来事が長時間続いているのであれば、続いているという現状を保護するべきだ、と考えられています。
また、刑法上の時効については、処罰する必要性が希薄化するのも理由の1つです。
刑事事件における時効
刑事事件における時効とは、犯罪ごとに定められている有効期間中に、犯人が逮捕されない、あるいは刑が執行されない場合、犯罪者の処罰や刑罰の執行が免除されることです。
刑事事件における時効には、公訴時効と刑の時効の2つがあります。
公訴時効とは、犯罪から一定期間が経過した後、検察官が被疑者を起訴できなくなることです。
刑の時効とは、刑事裁判で刑が確定した後、一定期間執行されなかった場合、その刑が失効することです。刑が執行されないことはほぼ起こり得ませんが、法律上では刑の時効についても定められています。
民事事件における時効
時効は、刑事事件だけでなく民事事件においても定められています。
民事事件における時効は、取得時効と消滅時効の2つです。
取得時効とは、物を継続して一定期間占有したことを条件に、その物の所有権を取得できるということです。一方、消滅時効は、一定期間行使されなかった権利を消滅させることを指します。
取得時効と消滅時効については、次で詳しく説明します。
事業者がおさえておきたいポイント
ここでは、民法上の時効である取得時効と消滅時効について、事業者がおさえておきたいポイントを紹介します。
取得時効や消滅時効はどのような条件を満たす際に成立するのか、ビジネスにおいて特に注意しなければならない点は何かなどを解説しているため、参考にしてください。
取得時効
取得時効では、以下の5つの要件を全て満たすことで、自分のものでないものを占有しても所有権が認められます。なお、占有は単に使用していること、所有は自分のものとして使用したり、処分できたりすることです。
- 所有の意思をもって占有を開始した:所有者として占有を開始したと、客観的に認められる必要がある。(もともと賃貸借を前提に占有を開始した場合などにおいては、所有の意思は認められない)
- 平穏に占有を開始した:脅迫して奪った場合は認められない。
- 公然と占有を開始した:本来の所有者に対して占有していることを隠匿している場合は認められない。
- (10年間の時効を主張する場合)占有開始時に善意無過失であった:占有開始時に所有権がないことを知らず、知らなかったことに対して過失がないことが必要。
善意・平穏・公然は民法186条により推定されるため、推定を覆そうとする相手方の方で「所有の意思が無かった」「悪意であった」などを証明する必要がある。 - 一定期間占有し続けた(10年または20年):10年または20年間、占有し続ける必要がある
善意・平穏・公然は民法186条により推定されるものの、「無過失」については推定されません。そのため、たとえば不動産を自分のものと信じて占有していた場合、無過失とはみなされない可能性があります。登記簿を調査すれば、他人の所有物であるとわかるためです。その調査を怠ったと考えられ、「無過失」が否定される可能性が高いです。この場合、10年間の時効は主張できず、20年間に延長されます。
また、取得時効は、自分の所有物についても認められると解釈されています。所有権を取得した事実の立証が難しい場合でも、取得時効の要件を満たしていれば、時効を援用して所有権を確保できるのがポイントです。
消滅時効
消滅時効とは、権利を行使できる状態になって一定期間が経過し、時効を援用する意思表示をした場合、その権利が消滅する、というものです。消滅時効が完成した場合、債務者が時効を援用することにより、債務の履行義務を免れます。
権利が正当なものであっても、消滅時効が成立してしまうと権利を行使できなくなるため、注意が必要です。
たとえば、従業員が残業代の支払いを請求できる権利を持っていながら、雇用主に対してその権利を行使しなかったとします。そのまま消滅時効期間が過ぎると、消滅時効が成立し、労働者の残業代請求権は消滅する、ということです。残業代請求権の消滅時効は、2020年3月までは2年、同年4月以降は労働基準法の改正と経過措置により3年とされています。
また、取引先に請求書を送ったにもかかわらず支払いがされない状態が続いている場合も、消滅時効に注意しましょう。支払期日の翌日から5年を迎えた場合、請求書の有効期限が切れて支払いを受ける権利が消滅してしまいます。
消滅時効期間は、権利によってそれぞれ定められています。
請求書の消滅時効については以下をご覧ください。
時効が完成した場合
時効が完成した場合、時効の援用を行うことで、時効完成の利益を享受できるようになります。
時効の援用とは、時効の完成によって直接利益を得る者が、時効の完成を主張することです。
たとえば、取得時効においては、時効の成立によって占有物の所有権を確保できる者が「利益を得る者」に該当します。占有者が時効を援用する、つまり「時効が完成したため所有権を取得します」と主張することで、占有者は所有権を取得し、本来の所有者は所有権を失う、ということです。
民法では、時効を援用しない限り、時効の効果は発生しないものとされています。時効期間が過ぎたからといって、自動的に所有権が移行するわけではない点に注意しましょう。
時効の援用は、時効期間が過ぎており、時効が完成する要件を満たしている場合、基本的には成功します。援用者になれるのは、時効の完成によって直接利益を受けられる人(当事者や連帯保証人など)のみです。
また、時効を援用する方法に特に指定はありません。裁判で主張する方法以外にも、口頭や書面による援用も認められています。裁判手続以外で援用する場合は、援用した事実を証明できるよう、内容証明郵便を利用するとよいでしょう。
時効の完成猶予とは
時効の完成猶予とは、一定の事由(完成猶予事由)が生じることで、時効を迎える期間が先延ばしになることです。その事由が終了するまで、あるいは一定期間、時効が完成しません。
たとえば、時効の完成を目前に控えているものの裁判を起こす時間がない場合は、催告を行うことで期間を引き延ばせます。
時効の完成猶予事由としては、以下のような事由が挙げられます。
- 裁判上の請求・支払督促
- 催告
- 仮差押え・仮処分
- 強制執行・抵当権の実行
- 和解・調停
- 協議を行う旨の合意
- 破産・再生・更生手続参加
- その他、天災等による裁判所業務の停止など
あくまでも、時効を迎える期間が延長されるだけであり、時効がリセットされるわけではない点には注意が必要です。
なお、時効期間の経過がリセットされることを、時効の更新と呼びます。
時効期間はどうカウントする?
時効期間のカウントを開始する時点を、起算点といいます。
取得時効における起算点は、時効の基礎である事実が開始されたときのことです。
また、消滅時効における起算点には、以下の2つがあります。
起算点 | 概要 | 例 |
---|---|---|
主観的起算点 | 権利を行使することができると知ったときのこと。 一般債権であれば、債権者が債務者に対して債権を請求できることを知った日の翌日。 | 返済期限を定めたお金の貸し借りなら、期限の翌日 |
客観的起算点 | 権利を行使することができるときのこと。 一般債権であれば、債権の請求が可能な日の翌日。 | 返済期限を定めていないお金の貸し借りなら、契約日の翌日やボーナス入金日の翌日など。 |
一般債権については、主観的起算点から5年間、あるいは客観的起算点から10年間のどちらかを経過することで、消滅時効が完成します。
2020年民法改正のポイント
2020年の民法改正では、消滅時効について大きな変更があり、具体的には短期消滅時効と商事消滅時効が廃止されました。
従前の民法では、工事債権は2年、運送賃債権は1年など、債権の種類によって短期の消滅時効の規定がありました。また、一般の民法上の債権であれば10年であるのに対して、商行為によって生じた商事債権の場合は5年など、民事債権か商事債権かで違いがあったのもポイントです。
しかし、2020年の法改正によって、債権の種類を問わず、権利を行使できることを知ったときから5年、または権利を行使できるときから10年に変更されました。
なお、2020年3月31日以前に成立された各種債権については旧民法が適用されるため、注意が必要です。
自社の権利を守るために時効について正しく理解しよう
時効とは、ある出来事が一定期間継続しているとき、事実状態に即した権利関係を確定させることです。時効には刑事上だけでなく民事上の時効も存在します。請求書の送付や従業員との雇用契約、借入など、さまざまな場面で時効が関係しています。トラブルを防ぎ、自社の権利を正当に守るためには、時効について正しく理解することが大切です。時効については2020年4月に改正されているため、改正内容の把握も欠かせません。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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