- 更新日 : 2024年8月30日
職務発明契約書とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
職務発明契約書とは、会社の従業員が職務発明をした場合、その権利を承継する契約を締結する際に作成する書類です。職務発明についての特許を受ける権利は発明者に原始的に帰属しますが、あらかじめ会社に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、会社に帰属します。
本記事では、職務発明契約書の概要や締結するケース、記載すべき内容を解説します。契約書を作成する際の注意点も説明しますので、参考にしてください。
目次
職務発明契約とは
職務発明とは、会社や大学に所属している従業員や研究員などが、会社等の事業範囲に属し、かつ現在または過去の職務に関して行った発明のことです。
特許を受ける権利は原則として発明を行った者に原始的に帰属するため、就業規則等であらかじめ会社に特許を受ける権利を取得させることを定めていなければ、職務発明であっても、特許を受ける権利を持つのは会社ではなく従業員になります。
職務発明契約は、このような従業員に帰属する特許を受ける権利を承継するための契約です。
会社側は、あらかじめ会社に特許を受ける権利を取得させることを定めない限り、契約により従業員から特許を受ける権利を承継しなければ、職務発明にかかる特許を受ける権利を取得できません。
職務発明契約を締結するケース
会社が発明者である従業員から職務発明の特許を受ける権利を承継または取得する方法としては、あらかじめ就業規則に定めるか、職務発明規程を設けるといった方法があげられます。
それらがない場合は、職務発明が行われるたびに、特許を受ける権利の承継やその対価について会社と発明者である従業者が個別に契約を交わす必要があります。
職務発明契約を締結するのは、過去または現在の職務に属する範囲内で行った新たな発明です。過去の職務に属する発明であっても、職務上で発明したものであれば職務発明となります。一方、会社の業務範囲に属しない発明は自由発明となり、職務発明契約の対象にはなりません。
職務発明契約書のひな形
職務発明契約書を作成するためのテンプレートは、次のURLからダウンロードできます。弁護士が監修したワード形式のひな形を無料で利用できるため、ご活用ください。
職務発明契約書に記載すべき内容
職務発明契約書には、必ず入れるべき項目があります。ここでは、職務発明契約書に記載する内容を解説します。
前文を書く
契約書では、権利義務の発生に関して当事者を明確にすることが必要であり、まず前文として、契約当事者と契約内容を記載します。当事者のうち、どちらが甲でどちらが乙なのかを定義してください。
また、読みやすくするよう、契約内容を「本契約」とするなど略称を使えるようにしておくことも必要です。
(記載例)
〇〇〇〇(以下「甲」という。)と株式会社〇〇(以下「乙」という。)は、甲が将来行う職務発明に関する権利義務の承継および対価の支払い等に関し、以下の通り契約(以下「本契約」という。)を締結する。
「定義」と「発明等の届出および認定」を定める
本文では「条」を設け、具体的な契約内容を記載します。まず、契約で使用される用語の定義を定めましょう。
(記載例)
第1条(定義)
本契約において使用される用語の定義は以下の通りとする。
(1)「発明等」とは、特許権の対象となる発明、実用新案権の対象となる考案、意匠権の対象となる創作をいう。
(2)「職務発明等」とは、甲がなした発明等であって、その性質上、乙の業務範囲に属し、かつ、その発明等をするに至った行為が乙の現在または過去の職務に属するものをいう。
また、従業員が発明を行ったときの届出と、職務発明であるか認定する際の手続きについても定めます。
(記載例)
第2条(発明等の届出および認定)
甲は、乙の業務の範囲に属する発明等を行った場合には、速やかに、その内容を書面にて自己の所属長を通じて乙に届け出なければならない。
2. 乙は、前項の届出に基づき、当該発明等が職務発明等に該当するか否か認定し、甲に速やかに通知するものとする。
権利の承継について明示する
契約書では、特許を受ける権利が従業員から会社に承継されることについて、明示する必要があります。特許を受ける権利が第三者と共有である場合には、持分の承継について共有者の同意を得る必要があります。
(記載例)
第3条(権利の承継)
甲は、前条による認定を経た職務発明等にかかる権利の全部を乙に譲渡する。なお、当該権利が甲と第三者との共有である場合には、その甲の共有持分を乙に譲渡する。
2. 甲が職務発明等をなしたときは、当該職務発明等にかかる権利は、当然に乙に移転するものとし、甲または乙による特段の意思表示その他の手続を要しない。
対価を設定する
職務発明契約の効力を発生させる条件は、対価の設定です。会社は職務発明の特許を受ける権利を無条件で承継できるわけではありません。
会社のサポートや研究開発費の負担がなければ実現できない発明でも、その発明は発明者自身のアイデアによるものです。そのため、対価として「相当の利益」を支払わなければなりません。
相当の利益については、特許庁がガイドラインを定めています。
対価を設定しなかったときや金額が相当ではない場合、従業員は「相当の利益」を会社に請求できます。
(記載例)
第4条(発明等の対価)
乙は、その承継した職務発明等にかかる権利の実施または処分により利益が生じた場合には、甲に対し、その利益の額に〇%を乗じた額の対価を支払うものとする。ただし、当該職務発明等の内容により、前記割合が不適当と認めるときは、乙と甲との協議により別途対価を定めることができる。
意見の聴取手続きを定める
会社が設定した利益が相当かどうかを裁判所が判断しなければならなくなったとき、裁判所は、会社と従業員間の対話や協議の経過等を斟酌することになっています。
そのため、契約書でも、相当の利益の内容について従業員の意見を聴取する手続きについて規定しておく必要があります。
(記載例)第5条(意見の聴取)
乙は、前条による対価の支払い後、甲より請求があったときは、甲に対し、速やかにその金額の算定の基礎となった資料を開示し、算定の根拠について説明するものとする。ただし、秘密情報等に該当する資料は開示しない。
一般条項を入れる
契約書には、どのような契約書にも共通して必要になる「一般条項」があります。主に、次のような事項があげられます。
- 契約期間
- 自動更新条項
- 中途解約条項
- 権利の侵害に対する協力義務
- 秘密保持義務
職務発明契約書にも、必要に応じてこれらの条項を盛り込みましょう。とくに秘密保持義務は、発明について他社に漏洩させないためにも設定が必要です。
職務発明契約書を作成する際の注意点
職務発明契約書を作成する際は、対価の設定に注意してください。相当の利益は、その発明から得られる利益の大きさに比例するものです。相場があるわけではなく、1件につきいくらという決め方も適切ではありません。
曖昧な設定ではトラブルが起こる可能性があるため、対価の基準は必ず契約書に明記するようにしましょう。
また、職務発明を特許出願しないで社内に留保する場合でも、発明者へは「相当の利益」による対価の設定が必要です
職務発明契約書の作成は慎重に行おう
社内に職務発明についての規定がない場合、従業員が発明した特許を受ける権利を引き継ぐためには契約の締結が必要です。権利の承継や対価の設定などを定めた職務発明契約書を作成し、従業員の職務発明を適切に扱わなければなりません。
職務発明を特許出願しない場合にも、職務発明契約書の作成や対価の設定は必要です。
特許法の条項や特許庁のガイドラインも参考に、職務発明契約書を慎重に作成しましょう。
参考:特許庁 特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)
参考:e-GOV 法令検索 特許法
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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