- 作成日 : 2025年11月11日
雇用契約書は電子帳簿保存法の対象?保存方法と要件を解説
雇用契約書を電子化して管理したいものの、電子帳簿保存法にどう対応すればよいかお悩みではありませんか?本記事では、雇用契約書が法律の対象になるのかという基本から、具体的な保存要件、労働基準法との関係、そして電子化のメリット・デメリットまでを網羅的に解説します。ペーパーレス化を円滑に進めたい方はぜひ参考にしてください。
目次
雇用契約書は電子帳簿保存法の対象?
雇用契約書を電子データで授受した場合(電子取引)に限り、電子帳簿保存法の対象となり、法律で定められた要件に従って電子データのまま保存する義務が生じます。紙の書類としてのみやり取りした場合は、直ちにこの法律の対象とはなりません(ただし、法人税法などに基づき紙のまま7年間保存する義務は別途存在します)。
この考え方は、入社時に交わす「労働条件通知書」など関連する人事・労務書類にも適用されます。これらも電子データで授受した場合は、電子帳簿保存法における電子取引データとして、同様に電子保存の義務が生じます。これらの書類を適切に保存することは、税務調査への対応はもちろん、コンプライアンス遵守の観点からも非常に重要です。
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電子帳簿保存法の対象となる人事・労務関連の書類一覧
雇用契約書以外にも、電子データで保存する場合に電子帳簿保存法の対象となる人事・労務関連の書類は数多く存在します。書類ごとに法律上の位置づけが少しずつ異なるため、注意が必要です。
以下に、電子帳簿保存法の対象となる人事・労務関連の書類とそのポイントをまとめました。
| 書類の種類 | 主な根拠法規 | 電帳法との関連度 |
|---|---|---|
| 履歴書、職務経歴書 | 個人情報保護法 | △(直接の対象ではないが、採用取引の関連書類として保存) |
| 労働条件通知書 | 労働基準法 | 〇(賃金額の根拠となるため、関連は強い) |
| 雇用契約書 | 労働契約法、労働基準法 | ◎(人件費の根拠となるため、直接の対象) ※電帳法は保存方法のルールであり、契約の成立根拠法規ではない |
| 労働者名簿 | 労働基準法 | 〇(賃金台帳の基礎情報となるため、関連は強い) |
| 賃金台帳 | 労働基準法 | ◎(給与所得の源泉徴収簿を兼ねて国税関係帳簿として運用している場合、電子帳簿等保存の対象) |
| 出勤簿(タイムカード等) | 労働基準法 | 〇(主に労働基準法上の書類。給与計算の根拠として税務上の証憑にもなり得るが、直接の国税関係書類とは言い切れないため関連度は一段下がる) |
| 年末調整関連書類 | 所得税法 | ◎(所得税計算に必須のため、直接の対象) |
| 社会保険・労働保険関連書類 | 各保険法 | △(社会保険料は国税ではないため、電帳法の直接の対象外。ただしe-Gov申請控えなど、国税の計算に関連する証憑として扱う場合は電子取引データとして保存を検討) |
このように、多くの書類が電子化に対応しており、電子保存する際には電子帳簿保存法のルールを遵守する必要があります。
雇用契約書の電子化における2つの保存方法と要件
雇用契約書を電子データとして保存する方法は、大きく分けて2つあります。紙で受け取った契約書をスキャンする方法(スキャナ保存)と、最初から電子契約として交わす方法(電子取引)です。それぞれの具体的な要件を理解しましょう。
方法1. 紙の雇用契約書をスキャンして保存する(スキャナ保存)
従業員から署名・押印済みの「紙の」雇用契約書を回収し、それをスキャナで読み取ってデータとして保存する方法です。この場合、主に以下のスキャナ保存の要件を満たす必要があります。
- 入力期間の遵守:書類を受領してから最長2か月と概ね7営業日以内にスキャンして保存しなければなりません。この期限を過ぎると、原則としてスキャナ保存は認められません。
- 一定水準の解像度とカラー画像:解像度200dpi以上、赤・緑・青の各色が256階調以上のカラー画像で読み取る必要があります。
- タイムスタンプの付与:データの真実性を確保するため、原則としてタイムスタンプを付与します。ただし、訂正や削除の履歴が残るシステムを利用する場合は不要となるなどの緩和措置があります。
- 検索機能の確保:以下の要件を満たす検索機能を確保する必要があります。
- 取引年月日」「取引金額」「取引先」での検索
- 日付と金額は、範囲を指定しての検索
- 2つ以上の項目を組み合わせての検索(AND検索)
- 原本の破棄:上記の要件を満たしてスキャン・保存すれば、原本である紙の契約書は破棄することが可能です。これにより、書庫の省スペース化が実現します。
方法2. 電子契約として作成・保存する(電子取引)
近年主流となっている、電子契約サービスなどを利用して、最初から電子データとして雇用契約を締結する方法です。この場合、その電子データは電子取引の要件に従って保存しなければなりません。
- 労働基準法上の注意点:従業員の同意が必須 電子帳簿保存法とは別に、労働基準法では「労働条件通知書」を電子的に交付する場合、「労働者が希望したこと」が必須条件となります。メールやチャットなど、本人が希望したことが客観的にわかる記録を残しておきましょう。
- 真実性の確保:データが改ざんされていないことを証明する措置が必要です。これには、タイムスタンプが付与される仕組みや、訂正・削除の履歴が残るシステムを利用する方法があります。多くの電子契約サービスは、この要件を満たしています。
- 可視性の確保:保存場所に、電子計算機(パソコン等)、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、速やかに出力できるようにしておく必要があります。
- 検索機能の確保:スキャナ保存と同様に、「取引年月日」「取引金額」「取引先」での検索機能を確保することが求められます。
労働条件通知書と雇用契約書、電子帳簿保存法の扱いは同じ?
電子データでやり取りした場合、どちらも電子帳簿保存法に則って保存する必要があり、基本的な扱いは同じです。
まず、労働条件通知書と雇用契約書は、根拠となる法律が異なります。
- 労働条件通知書:労働者の権利を守るための労働基準法に基づく書類
- 雇用契約書:人件費の根拠となる税法上の重要書類(国税関係書類)
このように出自は異なりますが、これらをメールへの添付や電子契約サービスを通じて電子的にやり取りした時点で、どちらも電子帳簿保存法における「電子取引」に該当します。
そのため、紙に印刷して保存するのではなく、受け取った電子データのまま、検索要件などを満たして適切に保存・管理することが不可欠です。
労働条件通知書の電子化については、以下の記事で詳しく紹介しています。
雇用契約書を電子化するメリット
雇用契約書を電子化することは、単に法律に対応するためだけではありません。企業にとって、コスト削減やセキュリティ強化など、多くの具体的なメリットをもたらします。
コスト削減と業務効率の大幅な向上
紙の契約書にかかっていた印刷代、郵送費、保管スペースの賃料などが不要になります。また、契約書の作成から従業員への送付、締結、保管、そして後からの検索まで、一連のプロセスがオンラインで完結します。これにより、人事・総務担当者の作業時間が大幅に削減され、より付加価値の高いコア業務に集中できるようになります。
コンプライアンスとセキュリティの強化
適切なシステムを導入すれば、電子帳簿保存法が求める検索性や真実性の要件を、手作業よりも確実かつ容易に満たすことができます。また、紙の書類のように誤って紛失したり、盗難にあったりする物理的なリスクを低減できます。アクセス権限を細かく設定することで、権限のない従業員が重要な人事情報に触れることを防ぎ、セキュリティレベルが格段に向上します。
多様な働き方への対応と人材獲得力の向上
リモートワークや遠隔地の従業員を採用する際、紙の契約書では郵送に時間がかかり、入社手続きが遅れる原因となります。電子契約であれば、場所を問わずに即日で契約締結が可能です。このような迅速でスムーズな手続きは、従業員体験(EX)を向上させ、企業の魅力の一つとして人材獲得競争においても有利に働きます。
雇用契約書を電子化する際のデメリットや注意点
電子化には多くのメリットがある一方で、導入前に理解しておくべきデメリットや注意点も存在します。事前の準備を怠ると、かえって業務が混乱する可能性もあるため、しっかりと対策を検討しましょう。
システムの導入コストと運用コスト
電子契約サービスや文書管理システムを導入するには、初期費用や月額の利用料がかかります。また、単にツールを導入するだけでなく、スキャナなどの周辺機器が必要になる場合もあります。費用対効果を事前にしっかりとシミュレーションすることが重要です。
社内業務フローの見直しとルール整備
電子化を成功させるには、既存の業務フローを根本から見直す必要があります。契約書の作成、申請、承認、保管に関するプロセスを再設計し、誰が・いつ・何をするのかを明確にした社内規定を作成しなければなりません。全従業員への周知と操作方法の教育も不可欠です。
一部の従業員への配慮とITリテラシーの問題
全ての従業員がITツールに精通しているとは限りません。特に、パソコンやスマートフォンの操作に不慣れな従業員がいる場合、電子契約への戸惑いや抵抗感が生まれる可能性があります。導入時には丁寧な説明会を実施したり、個別の相談窓口を設けたりするなど、全員がスムーズに移行できるよう配慮することが求められます。
電子化した雇用契約書は、いつまで保存が必要?
雇用契約書および関連書類の保存期間は、主に「労働基準法」と「法人税法」によって定められています。
- 労働基準法上の保存期間:5年間(当面は3年間)。厚生労働省の通達により、雇用契約書は「雇入れに関する書類」として労働者の退職、解雇、または死亡の日から5年間(当面の間は経過措置として3年間)保存する義務があります。
- 法人税法上の保存期間:7年間。法人税法では、帳簿書類の保存期間を事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間と定めています。
結論として、より長い期間が定められている法人税法に合わせて「7年間」保存しておくのが、最も安全で確実な方法です。 これは、退職した従業員の書類についても同様です。
電子帳簿保存法の要件を満たさなかった場合の罰則は?
電子取引で授受した雇用契約書などを、要件を満たさずに保存したり、データを破棄してしまったりした場合、以下のような罰則を受ける可能性があります。
青色申告の承認が取り消されるリスク
もし税務調査で電子データの保存義務違反が発覚し、その内容が悪質であると判断された場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります。
青色申告が取り消されると、欠損金の繰越控除や特別償却といった税制上の大きな優遇措置が受けられなくなります。 これは、将来的なキャッシュフローに深刻な影響を与える可能性があり、企業経営にとって非常に大きな打撃となります。
追徴課税や加算税が課されるリスク
電子データが要件を満たして保存されていない場合、そのデータは税法上の証拠として認められず、経費として否認される可能性があります。
例えば、雇用契約書が適切に保存されていなければ、それに基づいて支払われた給与が経費として認められず、結果として所得金額が増加し、追加の法人税(追徴課税)が発生します。さらに、電子データの内容に隠蔽や仮装といった不正行為が認められた場合は、通常より税率が重い重加算税が10%加重される措置があります。単なる保存ミスと、意図的な不正とでは罰則の重さが異なります。
会社法上の過料が課されるリスク
電子帳簿保存法への違反が、直ちに会社法の過料に繋がるわけではありません。ただし、会計帳簿や事業に関する重要資料の保存は会社法上の義務(10年)でもあり、この義務違反と判断された場合には、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。
電子帳簿保存法を理解し、雇用契約書の適切な電子化を進めよう
本記事では、電子帳簿保存法へ対応しながら雇用契約書を電子化するための、具体的な要件や注意点を網羅的に解説しました。
雇用契約書を電子化する際は、紙をスキャンするスキャナ保存と、電子契約で交わす電子取引の2つの方法があり、それぞれに法律の要件が定められています。特に、電子契約で手続きを進める場合は、労働基準法に基づく従業員の同意も不可欠です。
法律対応は複雑に感じるかもしれませんが、雇用契約書の電子化は、コスト削減や業務効率化、セキュリティ向上に直結する大きなメリットがあります。まずは自社の状況を整理し、この記事で紹介した7年間の保存期間や罰則規定も参考にしながら、適切な管理体制の構築に向けた第一歩を踏み出しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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