- 作成日 : 2025年11月11日
決算取締役会とは?開催時期から決議事項、成功させるためのポイントまで徹底解説
決算取締役会は、企業の1年間の経営成績と財政状態をまとめた計算書類を承認し、株主総会に提出するための重要な会議です。
この記事では、決算取締役会の基本的な定義や目的、決算発表との違いから、具体的な決議事項、最適な開催時期、そして会議を成功に導くためのポイントまでを網羅的に解説します。企業の担当者や個人事業主の方が、決算承認取締役会の流れと重要性を理解し、円滑な運営を行うための一助となれば幸いです。
目次
決算取締役会とは?
決算取締役会は、会社の決算を正式に確定させ、株主総会に報告するための会社法に基づいた公式な承認手続きです。経営陣が作成した計算書類や事業報告が適正であることを、取締役会として決議する重要な役割を担います。
決算取締役会の定義と目的
決算取締役会の具体的な目的は、会計監査人や監査役の監査を受けた計算書類(貸借対照表、損益計算書など)および事業報告の内容を精査し、その承認を決議することにあります。この承認を経て、会社は正式な決算内容を株主総会で株主に報告できます。
会社法上の位置づけ
決算取締役会の開催は、会社法によって定められています。具体的には、会社法では取締役会が計算書類等を承認することを義務付けています(会社法436条3項)。そして、承認された書類を株主総会の招集通知に際して株主に提供すると定められています(会社法437条)。つまり、承認は招集通知を発送する前の適切なタイミングで行われる必要があります。
これは、株主に対して正確な経営情報を提供し、会社の透明性を確保するための根幹となる手続きです。
年次決算と四半期決算での違い
この記事で主に取り上げているのは、年に一度の「年次決算(本決算)」に関する取締役会で、これは会社法に基づく手続きです。一方で、上場企業の四半期開示については制度が変更されています。
2024年4月に金融商品取引法上の四半期報告書制度が廃止され、開示は東京証券取引所の規則に基づく「決算短信」に一本化されました。この決算短信の公表は、会社法で取締役会の承認が義務付けられているわけではありません。ただし、実務上は社内規程に基づき、承認プロセスを経るのが一般的です。
決算取締役会と決算発表の違い
決算取締役会が「社内の意思決定」であるのに対し、決算発表は「社外への情報開示」という点で、目的、対象者、法的根拠が根本的に異なります。
決算取締役会の目的は、前述の通り「計算書類等の承認」という社内の意思決定です。参加者は取締役や監査役といった内部の関係者に限定されます。 一方、決算発表の目的は、投資家や取引先、顧客といった社外のステークホルダーに対して、経営成績や財政状態を広く公表することです。
両者の違いをまとめると、以下のようになります。
| 項目 | 決算取締役会 | 決算発表 |
|---|---|---|
| 目的 | 社内の意思決定(計算書類等の承認) | 社外への情報開示 |
| 対象者 | 取締役、監査役など内部関係者 | 投資家、取引先など外部ステークホルダー |
| タイミング | 定時株主総会の前 | 原則として直ちに開示(適時開示)。実務上、期末後45日以内が一つの目安。 |
| 法的根拠 | 会社法 | 金融商品取引法、証券取引所の規則など |
| 主な内容 | 計算書類・事業報告の承認、剰余金配当議案の決定(※) | 決算短信、有価証券報告書の内容 |
(※)剰余金の配当は原則として株主総会決議事項です。取締役会で決定できるのは、定款に定めがあるなど会社法459条の要件を満たす場合に限られます。
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決算取締役会では何を決定(決議)する?
決算取締役会では主に、1年間の経営成績を示す計算書類と事業報告の承認、そして株主への利益還元である剰余金の配当、さらに株主総会の招集に関する事項が議案として決議されます。それぞれ詳しくみていきましょう。
計算書類等の承認
最も重要な決議事項は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表といった「計算書類」とその附属明細書の承認です。取締役会がその内容の正当性を認め、会社の公式な決算とすることを決定します。
事業報告の承認
事業報告は、その事業年度における会社の事業の概況や経営成績、対処すべき課題などを記載した書類です。取締役会は、この事業報告とその附属明細書の内容も承認し、株主への報告内容を確定させます。
剰余金の配当(配当決議)
株主への利益還元である剰余金の配当(配当)を行うか否か、行う場合は1株あたりいくらにするかを決定します。ここで決議された内容は、株主総会の議案として提出されます。
株主総会招集通知の内容決定
定時株主総会をいつ、どこで開催し、どのような議案を提出するかといった、株主総会の招集に関する具体的な内容を決定します。決算取締役会で承認された計算書類や配当議案も、この招集通知に記載され、株主に通知されます。
決算取締役会はいつ開催するのが適切?
法律で定められた株主総会の日程から逆算し、一般的に「定時株主総会の開催日より2週間以上前」に設定する必要があります。
会社法では、株主総会の招集通知を発送する期限が定められています(会社法299条1項)。原則として公開会社では総会の日の2週間前までですが、非公開会社では1週間前まで(定款でさらに短縮可能)と、会社の種類によって期間が異なる点に注意が必要です。
決算取締役会ではこの招集通知の内容を決定するため、必然的に定められた発送期限よりも前に開催する必要があります。
例えば、3月決算の会社の場合、以下のようなスケジュールが一般的です。
- 4月上旬〜5月上旬:決算作業、計算書類・事業報告の作成
- 5月中旬:会計監査人による監査、監査役による監査
- 5月下旬〜6月上旬:監査報告を受け、決算取締役会を開催
- 決算取締役会後:株主総会招集通知を株主へ発送
- 6月下旬:定時株主総会の開催
決算取締役会でよくある失敗とは?
決算取締役会における失敗は、主に「準備不足による審議の停滞」「非効率な議事進行」という2つの要因から生じます。これらが引き起こす具体的な失敗例は以下の通りです。
失敗例1:資料の不備や説明不足
資料の数値誤記や根拠不足は、審議を中断させ、経営陣への信頼を大きく損ないます。また、説明が一方的で、数字の背景にある事業上の要因や見通しが語られなければ質疑も深まらず、取締役会が本来の役割を果たせません。
失敗例2:議論が発散し、時間内に終わらない
議長のコントロールが甘いと、議論が本筋から逸れて重要議案の審議時間が圧迫されます。その結果、結論を急いでしまったり、最悪の場合は会議を再度設定することになったりと、株主総会に向けた後続のスケジュールに遅延をきたします。
失敗例3:形式的な進行で、実質的な議論が行われない
取締役会が承認のためだけの「儀式」と化し、単に資料を読み上げるだけの形式的な進行に陥るケースです。実質的な議論がなければ、取締役は経営の監督機能を果たせず、決算数値に隠れた重要な課題やリスクを見過ごすことになります。
決算取締役会を成功させるためのポイント
成功の鍵は、論点を明確にした資料を事前に共有する「徹底した準備」と、あらゆる質問を想定した「質疑応答のシミュレーション」に集約されます。よくある失敗例の対策として、以下ポイントをおさえておきましょう。
ポイント1:質の高い事前準備
取締役会が始まる前の準備段階で、実質的な成功の8割が決まります。
- 明確で分かりやすい資料作成:決算資料は要点を絞り、グラフや表を活用して視覚的に分かりやすくまとめます。専門用語には注釈を加えるなど、会計の専門家でない取締役にも配慮することが議論の質を高めます。
- 資料のダブルチェック:作成した資料は、複数人・複数部署で内容をレビューし、数字の正確性や論理的な整合性を担保します。資料の不備は審議を停滞させる最大の要因です。
- アジェンダと時間配分の事前共有:議題と各議題の時間配分を明確にしたアジェンダを資料と共に事前に共有し、参加者全員が会議の全体像とゴールを理解した状態で臨めるようにします。
- 質疑応答のシミュレーション:取締役から想定される質問とそれに対する回答を事前に準備しておきます。これにより、当日の質疑応答がスムーズに進み、より深い議論が可能になります。
ポイント2:円滑な議事進行(ファシリテーション)
どんなに良い準備をしても、当日の進行が非効率では意味がありません。
- 議長のリーダーシップ:議長は、議論が脱線しないように交通整理を行い、時間内に結論が出るよう会議を導きます。特定の人物だけでなく、各取締役に満遍なく発言機会を促し、多角的な意見を引き出す役割が求められます。
- 論点の明確化:各議案において、何が報告で、何が決議事項なのか、そして特に議論すべき論点は何かを明確に提示しながら進行します。これにより、議論が発散することを防ぎます。
決算取締役会の一般的な流れ
決算取締役会は、形式的な手続きを正確に行うことが重要です。一般的に以下の流れで進行します。
1. 開会宣言と定足数の確認
まず、議長(通常は代表取締役)が開会を宣言します。その後、事務局が出席している取締役および監査役の人数を報告し、会社法および自社の定款で定められた定足数(決議を行うために必要な最小限の出席者数)を満たしていることを確認します。この確認がなければ、後続の決議が法的に無効となる可能性があるため、非常に重要なステップです。
2. 議事録署名人の選任
取締役会の議事録は、会社法369条3項に基づき、原則として、出席した取締役および監査役の全員が署名(または記名押印、電子署名)をしなければなりません。特定の人物を「議事録署名人」として選任し、その人だけの署名で済ませることはできません。この全員による署名が、議事録の正確性と法的な証拠能力を担保します。
3. 議案の審議と報告
議事の中心となるのが、議案の審議です。通常、以下の順で進められます。
- 計算書類および事業報告の内容報告:担当役員から、作成された計算書類(貸借対照表、損益計算書など)と事業報告の内容について説明が行われます。
- 監査役・会計監査人の監査結果報告:監査役(または監査役会)および会計監査人から、それぞれの監査手続きの結果と、計算書類等が適正であるかについての意見が述べられます。
- 質疑応答と審議:出席している取締役から、報告内容に関する質疑が行われ、議案について議論を深めます。
- その他の議案の審議:剰余金の配当(配当案)や、定時株主総会の開催日時・場所・議題といった招集に関する事項についても、同様に説明、審議、質疑応答が行われます。
4. 決議と閉会宣言
全ての議案について審議が尽くされた後、採決に移ります。議長が決議事項を改めて確認し、出席取締役の過半数(または定款で定められた数)の賛成をもって可決されます。全ての議案の採決が完了した後、議長が閉会を宣言し、取締役会は終了となります。
決算取締役会後にするべき手続きは?
取締役会が終了しても、法的に定められた一連の手続きが残っています。これらを確実に行うことが、会社のコンプライアンスを担保します。
取締役会議事録の作成と保管
取締役会の議事録は、決議内容を正確に記録して作成する必要があります。作成時期について会社法に「遅滞なく」といった明確な期限の定めはありませんが、実務上は速やかに作成することが望ましいでしょう。
議事録には、開催日時・場所、議事の経過の要領とその結果、出席した役員の氏名などを記載し、出席した取締役および監査役の全員が署名(または記名押印)をします。
完成した議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置く義務があります(会社法371条1項)。これは、後日の紛争に備える証拠となったり、株主や債権者からの閲覧請求に対応したりするための重要な義務です。
取締役会議事録については以下の記事で詳しく解説しています。
株主総会招集通知の発送
取締役会で決議された内容に基づき、株主に対して株主総会招見通知を発送します。この通知には、開催日時や場所、議案(計算書類の承認、剰余金配当など)を記載し、事業報告や計算書類といった関連資料を添付します。
発送期限は会社法で定められており、例えば公開会社の場合は、原則として株主総会開催日の2週間前までにその通知を発送しなければなりません(「株主の手元に届く」ことまでを要求するものではありません)。
計算書類等の本店備置き
株主が株主総会の前に関連情報を閲覧できるよう、計算書類等を本店に備え置く必要があります。備置きの開始日は、取締役会設置会社では総会の2週間前の日から、非設置会社では1週間前の日からとなります。この備置き義務は本店では5年間続き、支店がある場合はその写しを3年間備え置く必要があります。
電子化の活用という決算取締役会の新しい運営スタイル
近年、取締役会に関連する一連の業務を電子化し、効率とガバナンスを向上させる動きが活発化しています。
- オンライン開催:テレビ会議システムなどを利用して取締役会をオンラインで開催することも、要件を満たせば法的に認められています。これにより、遠隔地の役員も参加しやすくなります。
- 招集通知の電子化:株主の同意を得るなどの条件はありますが、招集通知を電子メールなどで送付することも可能です。印刷や郵送のコスト・手間を削減できます。
- 議事録の電子署名とクラウド管理:クラウド型のサービスを利用して議事録を作成・管理し、電子署名サービスで署名を行えば、ペーパーレス化が実現します。これにより、物理的な保管スペースが不要になるだけでなく、検索性やセキュリティも向上します。
これらのツールを自社の状況に合わせて導入することが、取締役会の生産性を高める第一歩となるでしょう。
適切な準備で決算取締役会を円滑に
本記事では、決算取締役会の意義から具体的な決議事項、開催時期、失敗例や成功のためのポイントまでを解説しました。
決算取締役会は単なる形式的な手続きではなく、会社の1年間の経営を総括し、株主への説明責任を果たすための重要な意思決定の場です。この記事で紹介したポイントを参考に、入念な準備と適切な運営を心がけることで、決算承認取締役会をより実質的で円滑なものにすることができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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