- 作成日 : 2025年7月9日
法人の契約書の保管期間は何年?会社法・税法・業法に基づく保存年数や注意点を解説
契約書の保管期間は、法人における法令遵守の基本であり、会社法・法人税法・労働基準法など複数の法律により期間が定められています。適切な期間を把握せずに契約書を破棄すれば、法的責任や取引上のトラブルを招く可能性があります。本記事では、契約書の保管期間に関する正しい知識と実務対応を解説します。
目次
契約書の保管期間は何年?法人が押さえるべき法定年数一覧
企業の契約書には法律ごとに定められた保管期間があります。主要な根拠法令とその保管期間を以下にまとめます。
法律名 | 保存義務期間 | 起算点 |
---|---|---|
会社法(会社法432条2項) | 10年間 | 各会計帳簿の閉鎖時 |
法人税法(法人税法施行規則59条など) | 7年間(※青色申告の欠損金がある場合は最長10年) | 該当書類を含む事業年度終了日の翌日から2カ月後(=確定申告期限の翌日) |
労働基準法(労基法109条) | 5年間 | 労働者の退職日または死亡日、もしくは書類の最終記入日 |
その他の法令(業法等) | 書類の種類により2年〜15年・永久までさまざま | 書類の種類による |
複数の法律が関係する場合、最も長い保存期間(例えば会社法の10年)に合わせて保管するのが安全策です。特に法律で定めのない契約書であっても、後述する紛争リスク等を考慮し少なくとも10年程度は保存しておくことが望ましいでしょう。
なお、電子保存を行う際も、保存期間自体は紙の場合と同じ年数です。電子帳簿保存法によって保存期間が短縮されるわけではなく、「紙の保管期間が7年ならデータであっても7年間保存し続ける」必要があります。要件を満たして電子保存すれば、紙で保存する場合と同等に法令遵守できます。
では、それぞれの法律で具体的にどのような契約書が該当し、どのような起算点で保管期間を数えるのかを確認していきます。
会社法における契約書の保管期間は10年間
会社法では、株式会社など会社の設立・運営に関する基本法として、帳簿や重要な資料の保存義務を定めています。この中で「会社の取引に関わる契約書全般」は原則10年間保存しなければならないとされています。会社法432条2項に「株式会社は、会計帳簿の閉鎖の時から十年間、その会計帳簿及びその事業に関する重要な資料を保存しなければならない」と規定されており、契約書はここでいう「事業に関する重要な資料」に該当します。例えば請負契約書、委託契約書、売買契約書、基本取引契約書など業務上重要な契約書はこのカテゴリに含まれます。
- 保管期間:10年(会計帳簿の閉鎖時から起算)
- 該当書類例:請負契約書、委託契約書、売買契約書、基本取引契約書、帳簿類 など
- 違反時の罰則:100万円以下の過料(会社法976条)
つまり、事業年度ごとの決算が締まった時点から少なくとも丸10年間は、当該年度に関する契約書や帳簿を会社として保管義務があるということです。例えば2025年3月期の決算に関連する契約書は、その決算確定時から2035年まで保存が必要になります。
法人税法における契約書の保管期間は7年間
企業活動において税務申告を行う法人は、法人税法および関連法令により、帳簿書類を一定期間保存する義務があります。法人税法施行規則59条では、青色申告法人(一般的な株式会社等)は7年間、決算書類や取引に関する証憑書類を保存するよう定めています。契約書も取引の証拠となる証憑書類の一つに含まれ、税務上最低7年間の保管が必要です。
法人税法上の保存期間の起算点は、該当書類を作成・受領した事業年度の年度終了日の翌日から2カ月後(=通常は確定申告期限)から数えて7年間です。例えば2025年4月1日〜2026年3月31日の事業年度内に締結・作成した契約書であれば、その事業年度の終了後2カ月が経過した日(通常は2026年5月末)から7年後の2033年5月末まで保存義務がある計算になります。
なお、法人税法では青色申告の法人で欠損金(赤字)が発生した場合には、その欠損金を繰り越す期間に合わせて保存期間が最長10年に延長されます(※平成30年4月1日以前開始事業年度は9年)。このように税務上の必要から7年またはそれ以上の長期保管が求められる点に注意が必要です。また、税務調査で契約書など証拠書類を提示できない場合、経費の否認や青色申告取り消しなど不利益を被るリスクもあります。税務関連の契約書類は社内で厳重に管理・保存し、7年間は確実に保管しましょう。
労働関連法における契約書の保管期間は5年間
労働基準法など労働関連法令にも、労働者に関する契約書類の保存期間が定められています。労基法109条では、使用者(会社)は雇用に関する書類を5年間保存しなければならないと規定しています。ここには雇用契約書や労働条件通知書など従業員との契約・人事に関する重要書類が含まれます。かつては3年とされていましたが、2020年の法改正で5年に延長されました。
- 保管期間:5年(従業員の退職または書類完結から起算)
- 該当書類例:雇用契約書、労働条件通知書、解雇通知書、労働者名簿、賃金台帳 など
- 違反時の罰則:30万円以下の罰金(労基法120条)
起算点は書類の種類によって異なり、雇用契約書や労働条件通知書、解雇通知等は「労働者の退職または死亡の日」から5年、賃金台帳などは「最後の記入をした日」から5年と定められています。例えば社員が退職した場合、その社員に関する雇用契約書や退職に関する書類は退職日から少なくとも5年間は保管しなければなりません。
労働基準法に違反してこれらの書類を保存しなかった場合、30万円以下の罰金が科される可能性があります。また労務トラブル発生時に契約内容を証明できないと、会社側が不利になるリスクもあります。人事・労務関連の契約書類についても、社内でルールを定めて確実に5年間は保存するようにしましょう。
その他の法令による契約書等の保存期間
上記以外にも、業種別の法律や特別法で契約書や関連資料の保存期間が定められているケースがあります。自社の事業内容に応じて、以下のような業法上の保存義務にも注意しましょう。
- 建築士法:建築士事務所が業務上作成する契約書や図書は15年間保存(作成日が起算)。
例:設計契約書、構造計算書など(2006年の耐震偽装事件後に5年→15年へ延長) - 製造物責任法(PL法):製造業者は製品の製造・出荷に関する記録(契約含む)を10年間保存(製品引渡日が起算)。
例:製品の製造委託契約書、生産記録、出荷指示書など - 建設業法:建設業者は工事に関する契約書や完成図書等を10年間保存(工事完成・引渡日が起算)。
例:工事請負契約書、施工図、工事経過記録など - 宅地建物取引業法:不動産業者は重要事項説明書や賃貸借契約書等を5年間保存(契約締結日または賃料発生日が起算)。
例:不動産の売買契約書、賃貸借契約書(賃貸契約は少なくとも5年) - 廃棄物処理法:産業廃棄物処理の委託契約書は5年間保存(契約終了日が起算)。
例:産業廃棄物収集運搬委託契約書、産業廃棄物処理委託契約書 - その他:社会保険関係書類(健康保険・厚生年金・雇用保険)は2年間保存(完結日や退職日が起算)、契約が有効存続中の契約書は期間の定めなく永久保存が必要(契約が続く限り破棄不可)、など。
なお複数の法令にまたがる場合は前述のとおり最も長い期間に合わせておけば確実です。逆に言えば、法令で特に保存期間が定められていない契約書については迷ったら10年間程度保存しておくと安心と言えます。
契約書の保管期限を守らない場合のリスク
契約書の保存期間を遵守しないことで発生するリスクは、法律違反による制裁だけではありません。企業の信頼性や実務運営にも悪影響を及ぼす恐れがあるため、適切な管理体制が求められます。以下に主なリスクを整理します。
法的ペナルティを受ける可能性がある
契約書の保存期間内に書類を廃棄した場合、会社法や労働基準法、法人税法などに違反することとなり、法的なペナルティを受ける可能性があります。例えば、会社法に違反すれば最大で100万円の過料、労基法違反では30万円以下の罰金が科されることがあります。また、法人税法に基づく帳簿書類の保存を怠れば、100万円以下の過料が適用されることもあります。さらに、税務上の優遇措置である青色申告の取り消しといった行政上の不利益も生じる可能性があるため、保存期間の遵守は法令対応として重要です。
税務調査や監査時に不利益を被る
契約書が適切に保存されていない場合、税務調査や会計監査の際に不利な立場に置かれる可能性があります。税務署や監査法人から契約の正当性を問われた際、契約書の提示ができなければ、取引の事実を証明できず、経費計上の否認や修正申告、さらには過去の決算内容の訂正を迫られる事態も想定されます。結果として、追徴課税や法人としての信頼低下につながるおそれがあります。帳簿とあわせて契約書の保管が求められるのは、このような実務上のリスク回避のためでもあります。
訴訟やトラブル時に証拠を提出できない
契約書は、企業間の取引における権利義務を確認するための最重要文書であり、紛争やトラブル発生時には証拠としての価値を持ちます。もし保管期間中に誤って契約書を廃棄してしまうと、訴訟において証拠が提出できず、会社にとって不利な判断が下される可能性があります。契約内容を確認できなければ、裁判での敗訴や不本意な和解に追い込まれるリスクも否定できません。トラブルに備える意味でも、保管期間の管理は重要です。
取引先からの信頼を失うリスクがある
契約書を紛失していたことが取引先に知られた場合、企業としての信頼性が損なわれることにつながります。例えば「以前締結した契約書を再確認したい」と求められたときに書類が見つからなければ、相手方に対し管理体制の不備を印象づけてしまいます。こうした失態は情報管理全体への不信感を招き、将来的な取引関係にも悪影響を及ぼしかねません。書類の適切な保管は、対外的な信頼維持にも直結する業務です。
情報漏えいの危険が高まる
必要以上に長期間、契約書を保管し続けることもリスクとなり得ます。契約書には取引先や社員の個人情報、機密情報が記載されていることが多く、不要な書類を放置することで情報漏えいの可能性が高まります。保存期間を過ぎた書類を整理せず溜め込むと、廃棄処分の際に不適切な処理をされるリスクがあり、倉庫やゴミ処理の過程で情報が外部に漏れる危険も生じます。法定期間の終了後は、速やかに安全な方法で処分する運用が不可欠です。
契約書保管のポイントと効率的な管理方法
契約書は法定期間を守るだけでなく、効率的な管理体制を整えることが重要です。以下に実務上のポイントを5つに分けて紹介します。
社内規程を整備する
まずは保存期間や管理手順を定めた社内規程(文書管理規程など)を策定します。契約書の種類ごとに保存期間や起算日、担当部門、廃棄の方法を明確にし、法定年数を下回らないよう配慮します。複数の法令にまたがる場合は、最も長い期間を基準に設定することでリスクを回避できます。
契約書の一覧・台帳を作成する
保存管理のためには契約書ごとの情報を記録した一覧や台帳が有効です。保存期限を把握しやすくなり、廃棄や更新の管理がスムーズになります。Excelや管理ソフトを用いてデータ化することで、検索や修正も効率化され、保管漏れの防止にもつながります。
電子化の活用
紙の契約書は保管スペースや検索性に課題があるため、電子化による一元管理が有効です。新規契約は電子契約を利用し、既存の紙書類はスキャンしてPDF保存することで効率化できます。電子帳簿保存法の要件を満たした保存方法なら、法令にも準拠しつつ業務効率も向上します。
定期的に見直し監査する
契約書の管理体制は、年に1回など定期的に棚卸しを行い、期限超過や保管漏れがないかを確認する必要があります。内部監査やJ-SOX対応の観点からも、この見直しは重要であり、問題があれば迅速に是正し、管理体制の改善に活かします。
専門サービスを利用する
社内対応が困難な場合は、契約書管理システムの導入や外部業者への委託も有効です。システムでは期限通知や検索機能などが整っており、人的ミスの防止にもつながります。物理的な書類は文書保管業者に預けることで、保管スペース不足にも対応可能です。
契約書の保管期間と管理体制を正しく整えましょう
法人における契約書の保管は、会社法・税法・労基法など各法令に基づく保存期間を正確に把握し、適切に対応することが重要です。紙・電子いずれの形式でも法的要件を満たす保管が必要です。社内規程の整備や電子化、定期的な点検、専門サービスの活用によって、効率的かつ安全な管理体制を構築しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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