• 作成日 : 2025年7月18日

工事請負契約書の保管期間は?目安や保管期間終了後の扱いを解説

建設工事に欠かせない「工事請負契約書」。その作成や内容に注目が集まりがちですが、適切に保管していないと、税務調査やトラブル発生時に大きなリスクとなる可能性があります。本記事では、建設業法や税法、民法などの法的根拠をもとに、工事請負契約書の適切な保管期間やその後の取り扱い、安全な廃棄方法、電子保存の注意点までを解説します。

工事請負契約書とは?

工事請負契約書とは、建物の新築やリフォームなどの工事を行う際に、発注者(注文者)と請負業者の間で交わされた契約内容を書面化したものです。

まず、工事請負契約書がどのようなものか、その役割から見ていきましょう。

契約書の役割と重要性

工事請負契約書の主な役割は、工事の内容、金額、工期、支払い方法など、お互いが合意した内容を明確に記録することにあります。建設工事は金額が大きく期間も長いため、後々の認識のずれを防ぐために契約書が役立ちます。

建設業法では、工事請負契約を結ぶ際に、法律で定められた16項目(工事内容、請負代金額、工期、支払い方法、契約不適合責任に関する取り決めなど)を記載した書面を作成し、相互に交付することが義務付けられています。これは工事の規模に関わらず適用される法的な要請です。契約内容を明確にすることで当事者双方を保護し、公正な取引を促す目的があります。

万が一、工事中や完成後に問題が発生した場合、契約書が解決の指針となります。対応方法や費用負担などのルールが定められていれば、それに従って話し合いを進められます。裁判になった場合、契約書は有力な証拠となります。

工事請負契約はどんなときに必要になるのか

工事請負契約書は、あらゆる建設工事で作成され、特にトラブル発生時にその価値が発揮されます。

例えば、以下のような場面で契約書が判断基準となります。

  • 工事内容・品質の相違: 契約書に記載された仕様や品質基準が根拠となります。
  • 費用に関する揉め事: 追加工事費用 や支払い条件など、契約書の規定が基準となります。
  • 工期の遅れ: 契約書に定められた工期や遅延時の取り決めに基づいて対応を協議します。
  • 完成後の不具合(契約不適合): 引き渡し後の雨漏り などに対し、契約書の契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)の規定に基づき修補などを求めます。
  • 支払いトラブル: 代金未払いや業者倒産などの際も、契約書の支払い条件が重要になります。
  • 契約解除: 解除条件や違約金に関する規定に従います。

明確な契約書がなければ、これらの問題解決は非常に困難になります。契約書はトラブル発生時の「ルールブック」として機能し、特に立場の弱い側を守るためにも不可欠です。

工事請負契約書の保管期間

工事請負契約書の保管期間には、建設業法・税法・民法など複数の法律が関係します。保管期間を誤ると、法令違反やトラブル時の証拠不足に繋がるため、正しい知識が重要です。ここでは、各法律に基づく保管義務と実務上の最長期間について解説します。

建設業法に基づく保管期間

建設業法では、契約書や添付書類を原則として「引渡しから5年間」、新築住宅の直接契約では「10年間」の保管が義務付けられています。完成図や施工記録などの営業図書も10年間の保管が必要です。書類は工事を担当した営業所ごとに保管しなければならず、違反すると10万円以下の過料の対象になることもあります。

税務署(法人税法・所得税法)関連の保管義務

税法上では、法人は契約書を含む帳簿書類を「原則7年間」保管する必要があります。赤字の繰越控除をする場合は「10年間」になるケースもあります。個人事業主青色申告で7年、白色申告では5~7年の保管が求められ、消費税関連書類も7年保存が必要です。税務調査への備えとして適切な管理が求められます。

会社法との関係

会社法では株式会社の会計帳簿・事業に関する重要書類の保管期限は「10年」とされています。工事請負契約書は計算の基礎となる重要な書類なので、同じく10年保管するのが望ましいといえます。

民法上の時効との関係

民法では、権利の消滅時効は「知ったときから5年」または「行使できるときから10年」とされています。工事後に瑕疵が見つかった場合、契約書の内容に基づく対応が求められるため、証拠として10年間の保管が望ましいといえます。法的リスクに備える意味でも長期保管が推奨されます。

保管期間の最長はいつまで?

複数の法律を総合すると、最長の保管期間は10年です。建設業法や会社法、税法、民法いずれの観点からも、10年保管しておくことで法的リスクをカバーできます。長期保証がついた工事については、その保証期間が終了するまでプラス数年の保管が安心です。

法律上の保管期間を表にまとめました。

法律根拠対象書類(例)保管期間 (原則)保管期間 (例外・最長)起算日(例)
建設業法 (施行規則28条)帳簿・添付書類 (一般工事)5年工事目的物の引渡し時
帳簿・添付書類 (新築住宅工事)10年工事目的物の引渡し時
営業に関する図書 (完成図, 打合せ記録等, 元請のみ)10年工事目的物の引渡し時
法人税法 (施行規則59条)帳簿書類 (契約書, 領収書, 請求書等)7年10年 (欠損金繰越時)当該事業年度の確定申告書提出期限の翌日
会社法 (432条)会計帳簿及び事業に関する重要な資料 (契約書含む)10年会計帳簿の閉鎖時
所得税法 (個人事業主)帳簿・書類 (青色/白色, 契約書, 領収書等)5年 または 7年7年 (消費税課税事業者)確定申告期限の翌日
民法 (消滅時効)契約書 (紛争時の証拠として)(推奨) 10年権利を行使できる時 (客観的)

実務上の保管期間の目安

工事請負契約書の保管期間については、法律で定められた年数がありますが、実務ではそれを超える対応が求められることが多くあります。企業としては法令順守だけでなく、トラブルや調査への備え、そして社内業務の効率化といった観点から、実用的な保管方針を整えることが不可欠です。

5年?7年?10年?どれが妥当か

建設業法や税法、民法などの各法律を比較すると、保管期間はそれぞれ異なります。たとえば建設業法では原則5年、一部の工事では10年、税法上は7年または10年、そして民法上は時効を考慮して10年の保管が望ましいとされています。こうした事情を踏まえると、実務上は一律で10年間契約書を保管することが最も合理的です。

10年保管としておけば、個別の法律による差異を意識する必要がなくなり、管理ルールが統一されるため、業務の効率化にもつながります。法人や元請業者、新築住宅の施工を行う企業にとっては、10年保管がリスクを最も低く抑える選択肢となります。

業界の慣習とリスク回避

実際の現場では、多くの建設業者が契約書を10年間保管する体制を取っています。それは法令違反を避けるためだけでなく、契約トラブルや税務調査、社内での情報共有など、さまざまな場面で契約書の存在が重要になるからです。仮に保管期間を過ぎて契約書を破棄していた場合、問題が発生した際に証拠が不足し、責任の所在が曖昧になる可能性があります。

また、税務調査の際に必要な書類を提示できなければ、信頼性を損ない、重加算税や罰則などのリスクも考えられます。さらに、過去の工事実績を証明できなければ、入札や新規取引時に不利になることもあるため、適切な保管は信用維持にも直結します。

紙 vs 電子|おすすめの保管方法と注意点

契約書の保管方法としては、紙と電子データのどちらでも可能ですが、それぞれに特徴があります。紙での保管はすぐに取り入れられる手軽さがあり、視認性や安心感がありますが、保管スペースの確保や劣化、火災など物理的リスクに注意が必要です。一方で、電子データでの保管は省スペースで検索性にも優れ、クラウド環境を利用すれば災害時や遠隔からのアクセスにも対応できます。ただし、電子帳簿保存法に準拠する必要があり、改ざん防止措置や見読性の確保、検索機能の搭載が求められます。

電子で受領した契約書は、原則として紙に出力せず、電子のまま保管する必要があるため、専用の保存システムや社内ルールの整備が不可欠です。自社の体制やリスク許容度に合わせて、最適な保管方法を選ぶことが重要です。

保管期間終了後の取り扱い

工事請負契約書を10年間保管したあと、期間が満了したからといってすぐに破棄してよいとは限りません。破棄には法務・業務の両面から慎重な判断が求められます。この章では、破棄の前に確認すべき重要なポイントと、情報漏洩を防ぐための安全な廃棄方法について解説します。

契約書を破棄する前に確認すべきこと

保管期間を経過した契約書であっても、ただちに破棄するのではなく、いくつかの重要な確認作業を行う必要があります。まず前提として、関係するすべての法律に基づく保管義務が本当に終了しているかを再確認しましょう。例えば、建設業法や税法の保管期間を満たしていても、関連する訴訟やクレームが進行中であれば破棄は避けるべきです。

また、工事実績として将来的に必要となる可能性がないか、入札資料や業績証明として利用価値が残っていないかも検討する必要があります。さらに、社内規定で独自により長期の保管が定められている場合もあるため、内部ルールの確認も不可欠です。誤って重要書類を破棄するリスクを避けるためには、複数人による確認プロセスや、承認を得たうえでの廃棄、さらには廃棄記録簿の作成といった管理体制の整備が重要です。単に年数が過ぎたからという理由だけで安易に破棄することは、大きなリスクをはらんでいます。

情報漏洩防止のための安全な廃棄方法

工事請負契約書には、当事者の氏名、住所、契約金額、工事内容といった機密情報が数多く含まれており、不適切な破棄は情報漏洩につながる重大なリスクを伴います。したがって、一般ゴミとして処分するような方法は厳禁です。安全に処理する方法としては、まず社内で実施できる手段としてシュレッダーによる裁断処理が挙げられます。なかでもクロスカット型のシュレッダーを用いれば、復元の危険性を大きく減らせます。

ただし、大量の処理には時間と労力がかかるため、効率性を求める場合は専門業者への委託が現実的です。たとえば、契約書を繊維レベルで分解する溶解処理や、焼却処理によって灰にする方法などがあり、いずれも情報を完全に消去できる安全性の高い手段です。

業者を選定する際は、セキュリティ体制や処理内容、廃棄証明書の発行有無、さらにはISO27001などの認証取得状況や秘密保持契約の対応可否まで確認することが望まれます。また、電子データについても単なる削除では不十分であり、専用のデータ消去ソフトや物理破壊を用いた確実な処理が求められます。

どの方法を選ぶにせよ、情報漏洩リスクを徹底的に防ぐという姿勢が、契約書の最終的な取り扱いにおいて最も重要です。

よくある質問(FAQ)

工事請負契約書の保管に関しては、実務担当者から寄せられる質問が多くあります。ここでは2つの疑問について、解説します。

契約書をなくしたらどうなる?

契約書を紛失してしまった場合でも、それによって契約そのものが無効になることはありません。ただし、契約内容を証明する書類が失われることで、トラブル発生時に自らの主張を裏付けるのが困難になります。たとえば、工事内容や金額、支払い条件、工期などについて争いが生じた際、契約書がなければ解決までに時間がかかり、不利な状況に陥る可能性もあります。

また、契約書は建設業法や税務関連法の保管義務の対象でもあるため、紛失によって法令違反と見なされることもあります。さらに、書類の取り扱いがずさんであると判断されれば、企業としての信用にも影響しかねません。紛失に気づいた場合は、まず社内で徹底的に捜索し、コピーやスキャンデータが保存されていないか確認しましょう。それでも見つからない場合は、契約相手に連絡を取り、写しの再発行やコピーの提供を依頼することが必要です。

電子データだけで保管しても問題ない?

契約書の保管については、紙だけでなく電子データでの保存も法律上認められています。特に近年では電子契約の導入も進んでおり、最初から紙で交付されないケースも増えています。ただし、電子データでの保存には「電子帳簿保存法」に基づく一定の要件を満たす必要があります。

たとえば、改ざんができないようにするための真実性の確保、見やすく出力可能である可視性の確保、取引年月日や金額などで検索可能な検索性の確保といった点が求められます。これらを満たすには、対応したシステムを導入するなど、あらかじめ社内の管理体制を整えておくことが重要です。特に電子的に受領した契約書は、紙に出力するのではなく、電子のまま保存することが原則となっている点にも注意が必要です。

工事請負契約書は長期的なリスク管理の要

工事請負契約書は、法律上の義務を果たすだけでなく、トラブル時の証拠としても重要な役割を果たします。建設業法や税法、会社法、民法の観点から見ても、10年間の保管が実務的に最も安心で合理的な対応といえます。保管期間終了後の破棄には細心の注意が必要で、安全な廃棄方法と情報漏洩対策が求められます。また、電子保存を選ぶ場合には、電子帳簿保存法の要件を満たす体制整備も欠かせません。

契約書の適切な管理は、将来のリスクを防ぎ、企業の信頼を守る重要な業務のひとつと言えるでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事