- 作成日 : 2025年3月25日
商法と会社法の関係は?新旧対照表で改正のポイントをわかりやすく解説
商法と会社法の関係性を理解することは、企業の設立や運営に欠かせません。本記事では、平成17年改正・令和元年改正を中心に、実務で押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。
目次
商法とは
商法(明治32年法律第48号)とは、日本における商事取引全般を規律する基本的な法律です。制定当初はドイツ法をはじめとする大陸法系の影響を受けており、主に商行為、商人、会社などに関する規定が網羅的に置かれていました。
しかしその後、時代の変化や経済のグローバル化に対応するための改正が重ねられ、現在では実質的に会社法が独立する形で大幅な再編が行われています。
商法の歴史
日本で初めて旧表法と呼ばれるものが制定されたのは明治23年(1890年)です。ただし旧商法は当時の商習慣などに添っていない、明法との矛盾があるなどの理由から、現在の商法にあたる法律が1899年(明治32年)に制定されました。当初は会社に関する規定も商法に含まれていましたが、その後の経済・社会情勢の変化に伴い、会社に関する重要規定を分離・整備する動きが加速していきます。
特に平成17年(2005年)の大改正により、会社法が新たに制定されるとともに、商法は商行為や海商など限定的な分野を中心とした規定を残す形となりました。
商法の目的
商法の主な目的は、「商行為や商人にかかわる法律関係を迅速かつ効率的に処理できるようにするため、取引の安全性や信頼性を確保するルールを定めること」であり、下記の事項を重視しています。
- 商人の地位の明確化: 個人や法人を問わず、一定の商行為を営む者を「商人」と位置づけ、権利義務関係を明確にすること
- 商行為の迅速性・安全性の確保:商取引が円滑に行われるための手続きや、取引相手が安心して契約関係を築ける仕組みを提供すること
- 海上取引・運送などの特殊分野に対応:海商法や運送取引など、特有のリスクを伴う分野に特別のルールを整備し、紛争防止やスムーズな流通を図ること
商法の構成
商法は、かつては会社法の規定も内包していましたが、平成17年の改正以降は以下の構成になっています。
- 第1編 総則:商法全体に共通する定義や総則的事項
- 第2編 商行為:商行為の種類、代理行為の扱いなど、商取引の一般的なルール
- 第3編 海商:船舶の所有・運航、海上輸送、海上保険などの海事にかかわる規定
平成17年の改正以前は「会社」に関する定義や設立、機関設計などの規定も含まれていましたが、改正後はそのほとんどが会社法に移行しています。
参考:e-Gov法令検索 商法
会社法とは
会社法(平成17年法律第86号)とは、商法から分離・独立して制定された、会社に関する包括的な法律です。株式会社・合名会社・合資会社・合同会社といった各種会社の設立、機関設計、株式・組織再編などに関する詳細な規定が設けられています。
会社法の歴史
会社法の起源は、商法にありました。かつては商法の中で会社に関する規定が整備されていましたが、ビジネス環境の多様化や企業形態の高度化に伴い、会社に関するルールをより包括的・集中的に整備する必要性が高まります。
その結果、平成17年に大規模な法改正が行われ、従来の商法・有限会社法・特例法などに分散されていた会社の規定をまとめた「会社法」が新設されました。
会社法の目的
会社法の目的は、「企業の設立や運営が柔軟かつ円滑に行われるようにし、かつステークホルダーの利益を適切に保護すること」にあります。主なポイントは以下のとおりです。
- 取引相手の保護:会社が必要な情報を開示することで、取引相手が適切な判断を下せるようにする仕組みの整備
- 利害関係者の利益確保:株主や従業員など、会社にかかわるすべての利害関係者の権利や利益を保護
- 法律関係の明確化:会社に関する法的関係を明確にし、法的安定性と予見可能性を高めることで、企業間の取引や内部統治を円滑に進める
会社法の構成
会社法は、以下の8つの編で構成されています。
- 第1編 総則:会社法全体に共通する用語の定義や商号に関する規制など、包括的な規定
- 第2編 株式会社:株式会社の設立手順、株式発行、機関設計、会計、解散・清算など、株式会社に関する規定
- 第3編 持分会社:合名会社、合資会社、合同会社といった持分会社の設立、社員の責任、持分譲渡などに関する規定
- 第4編 社債:会社が発行する債券(社債)の発行手続きや譲渡、社債権者集会などについての規定
- 第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付:会社の組織再編に関する手続きや株主保護措置についての規定
- 第6編 外国会社:外国会社が日本で取引する場合の規定
- 第7編 雑則:訴訟や登記、公告や訴訟手続などに関する規定
- 第8編 罰則:違法行為に対する規定
商法と会社法の関係
商法と会社法の関係を理解するためには、「会社法が商法の特別法として機能する」という原則を押さえておくことが重要です。特別法とは、一般的な事柄を定める法律(一般法)に対し、特定の事柄に関する特別の規定を設ける法律を指します。
会社に関する事項は、まず会社法の規定が優先して適用され、会社法に定めがない部分について商法の規定が補完的に適用されます。
以下で詳しく見ていきましょう。
会社は商法・会社法どちらにも従う
企業が商行為を行う場合、それが「商人による商行為」に該当するならば、商法の規定が当然に考慮されます。一方で、企業が株式会社などの形態をとっている場合は、会社に関する部分について会社法が優先的に適用されます。
たとえば、商品販売などの一般的な商取引においては商法上のルールが参考になる一方、取締役会や株主総会の運営など会社組織固有の問題に関しては会社法の規定に従う必要があります。したがって、企業活動の内容に応じて、商法と会社法の両方を確認することが求められます。
会社には会社法が優先的に適用される
会社法が特別法として制定された結果、会社組織に関する事項は商法よりも会社法が優先して適用されます。これは法律の基本原則である「特別法は一般法に優先する(特別法優先の原則)」に基づくものです。
具体例を挙げると、株式会社の取締役会運営や株主総会の招集手続きなどは会社法に詳細に規定されているため、これらの事項については会社法のルールに従います。一方、会社が行う商取引(例:商品の売買契約)については、会社法に特別な規定がない限り、商法の規定が適用されます。
ただし、平成17年の改正により会社に関する規定の多くが会社法に移行しました。その結果、実務上会社組織の運営において商法が適用される場面は限られています。たとえば、会社の商行為に関する時効期間や商業登記の効力など、会社法で特に規定されていない一部の事項については、なお商法の規定が補完的に適用されることがあります。
商法と会社法の新旧対照表
商法と会社法は、平成17年の法改正を機に大きく役割分担が変わりました。この改正は「会社法制の現代化」と呼ばれ、企業活動の多様化や国際競争力強化を目的としたものでした。従来、商法に含まれていた会社に関する規定が独立し、新たに会社法として体系化されたことで、企業経営者にとって使いやすい法体系が実現しました。
以下の表では、平成17年改正による主要な変更点を整理しています。この改正により、起業のハードルが下がり、企業の機動性が大幅に向上しました。
改正前(平成17年より前の旧商法) | 改正後(平成17年改正以降の会社法) | |
---|---|---|
法体系構成 | 会社規定は商法第2編に含まれていた | 会社法として独立(平成17年法律第86号) |
企業形態 | 株式会社・有限会社が別制度 | 有限会社制度廃止、株式会社に統合、新たに合同会社制度が創設(株式会社、合名会社、合資会社、合同会社の4種類になった) |
資本金要件 | 株式会社1000万円、有限会社300万円 | 最低資本金規制撤廃(1円から設立可能) |
取締役会 | 株式会社は原則として設置必須 | 株式譲渡制限会社は任意設置が可能になった |
監査役 | 原則として設置必須 | 株式譲渡制限会社は任意設置が可能に |
株式譲渡 | 原則自由(制限には厳格要件) | 定款による譲渡制限がより柔軟に |
利益配当 | 決算期に限定 | 株主総会の決議があればいつでも剰余金分配が可能に(要件あり) |
組織再編 | 合併対価は自社株式のみ | 現金・親会社株式など対価の柔軟化 |
新設された制度 | — | 会計参与制度、合同会社制度の新設 |
この改正は単なる法律の整理統合にとどまらず、企業経営の実態に即した柔軟な制度設計を可能にしました。特に最低資本金規制の撤廃は起業促進に大きく貢献し、機関設計の自由度向上は中小企業の負担軽減につながったといえます。また、合併対価の柔軟化(三角合併など)はM&A手法の多様化をもたらし、企業の事業再編を促進する効果がありました。
この改正により、会社に関する重要な規律が一つの法律にまとめられ、企業の実務担当者にとっては使い勝手が向上しました。一方で、商法は商人や商行為、海商法などに特化し、従来の「企業法全般をカバーする」という役割から大きく整理されたといえます。
令和元年の会社法改正のポイント
平成17年の大改正後も、経済・社会の動きに合わせて会社法は随時改正されています。その中でも令和元年(2019年)の改正(令和元年法律第70号)は、企業統治や株主保護にかかわる重要な見直しが行われました。
ここでは主な改正点を4つ取り上げ、ポイントを解説します。
株主総会に関する見直し
令和元年改正では、株主総会の議題に関する情報提供の充実や、株主総会の運営方法についての見直しが行われました。
株主が必要とする情報をよりタイムリーに提供するための措置や、議決権行使の電子化などが進められています。上場企業を中心に、株主の利便性と意思表示の透明性を高める方向での制度整備が強化されました。
取締役等に関する見直し
役員報酬の透明性確保を目的として、取締役や監査役など会社役員の報酬に関する情報開示が大幅に強化されました。特に上場企業の経営陣においては、報酬体系やその決定プロセスに対する監督をより適切に行う必要性が高まっています。
この改正により、企業ガバナンスが一層透明化され、役員による不正リスクの軽減や、株主・投資家の信頼確保につながることが期待されています。
社債管理補助者制度の導入
同改正により、新たに社債管理補助者制度が導入されました。これは社債管理者(通常は信託銀行など)が社債管理業務を遂行する際、その補助業務を担う社債管理補助者に弁護士や弁護士法人が就任できるように社債管理者よりも要件が緩和されています。
大規模な社債発行においては多様な管理業務が発生するため、社債管理補助者を活用することで、より効率的な社債管理が可能になります。
株式交付制度の導入
もうひとつの注目される改正点が、株式交付制度の導入です。従来の組織再編の枠組みを補完する形で、他社の株式を対価として、自社が他社を子会社化できる制度が整備されました。
その結果、企業間のM&Aやグループ再編などが柔軟に行えるようになり、戦略的な経営判断がしやすくなると期待されています。特に、現金買収ではなく株式を用いた統合を検討する企業にとっては、大きな選択肢の拡大といえるでしょう。
商法・会社法の問題点
商法および会社法は、企業取引や組織運営に不可欠な法律ですが、現行制度にもいくつかの課題や問題点があります。今後の改正を見据えた上で、以下のようなポイントがしばしば議論されています。
国際競争力のさらなる強化
日本では株主総会のオンライン開催や英文開示の充実など、グローバル化に対応した法整備が進められているものの、海外の先進事例と比較すると日本の会社法・商法制度はいまだ十分とはいえない側面があります。
国内外の投資家やスタートアップ企業などからは、海外諸国の制度よりも迅速かつ柔軟な法的枠組みを求める声が根強く存在します。
中小企業に対する配慮
会社法は大企業のみならず中小企業にも適用されますが、必ずしもすべての規定が中小企業の実態に即したものではないとの指摘があります。
取締役会設置義務や監査体制など、企業規模によって求められる要件をよりきめ細かく調整する余地があるとの意見がある一方、制度の複雑化とのバランスをどう取るかが課題です。
経営陣の責任追及や株主権保護の在り方
役員報酬や取締役の責任追及については、令和元年改正で一定の強化がなされました。しかし、近年はESG投資の拡大やステークホルダー資本主義の議論が活発化する中で、株主のみならず従業員や地域社会といった広範な利害関係者をどのように保護するのかという課題が浮上しています。
今後は、経営陣が長期的な企業価値向上を実現するための具体的な法整備が進む可能性があります。
商法との境界領域の不明確さ
会社法により多くの規定が整理されたとはいえ、商法に残っている商行為の定義や海商法との関係で、企業活動においてどこまで商法を適用すべきか悩むケースもあります。特にベンチャー企業など新しいビジネスモデルが台頭する中で、伝統的な商行為の範囲外に位置づけられる取引形態が増加しており、その法的評価が明確ではない部分も課題といえます。
参考:e-Gov法令検索 会社法
参考:e-Gov法令検索 商法
会社法や商法を正しく理解し、実務に活かすために
商法は日本の商事取引全般を規律し、会社法は企業組織を支える骨格として機能しています。平成17年の大改正によって会社法が独立し、その後の令和元年改正で企業のガバナンスや社債管理、組織再編に関する制度がさらに整備されました。これらの法律は、企業経営を適正かつ効率的に進める上で不可欠な存在です。
商法と会社法の関係性を正しく理解し、それぞれの目的や機能を把握することは企業活動の基盤となります。特に会社法は企業形態の変化に応じて頻繁に改正される法律であるため、最新動向を常に確認し、法改正に対応できる柔軟なガバナンス体制の構築が企業経営者には求められるといえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
契約締結日とは?効力発生日との違いなど
契約書には、日付を記入する必要があります。この書き方が原因となって、問題になることもあります。企業活動を継続するにあたって、正しい知識を持って契約書作成実務に取り組まなければ、いつか損害を被る可能性があるのです。 この記事では「契約締結日と…
詳しくみる民法95条とは?錯誤の例や取消しの要件をわかりやすく解説
民法95条とは、錯誤に関する規定です。法律行為で重要な錯誤がある場合、表意者は取消しができます。旧民法で錯誤は無効とされていましたが、民法改正により取消しに変更されました。錯誤には種類があり、それぞれ取消しできる場合が異なります。 ここでは…
詳しくみる特許の出願公開制度とは?公開タイミングや特許出願時の注意点などを解説
特許の出願公開制度とは、出願から1年半が経ったタイミングで公開特許公報上に出願内容が公開される制度です。特許を出願する際は公開内容を確認して、同じ内容がすでに出願されていないかをチェックしましょう。今回は、制度の目的や公開のタイミング、公開…
詳しくみる仲裁条項とは?設定するケースや記載の具体例、注意点を解説
仲裁条項とは、契約に関して紛争が発生した場合に、その解決を特定の第三者に委ねることに合意する契約書内の条項です。通常、紛争は裁判によって解決を図りますが、あえて裁判を利用せず、当事者間の合意によって決めた第三者に委ねることがあります。仲裁条…
詳しくみる特定商取引法におけるクーリング・オフ制度とは?
クーリング・オフ制度は、消費者保護を目的として1970年代以降に導入・拡大されてきた制度です。さまざまな形態をとる商取引を対象に、契約の申込み撤回や解除などの方法が具体的に定められています。 今回は特定商取引法(略称「特商法」)を中心に、ク…
詳しくみる民法627条とは?退職の申入れや解雇予告についてわかりやすく解説
民法627条は、雇用契約の解約の申入れに関して定めた法律です。雇用期間が設定されていない場合、同条では当事者はどのタイミングでも解約の申入れができると定められています。 本記事では、民法627条の概要、就業規則や労働基準法との関係を解説しま…
詳しくみる