- 作成日 : 2025年5月7日
年末調整代行の業務委託契約とは?契約書のテンプレート・例文、委託の注意点を紹介
年末調整代行の業務委託契約は、企業の税務処理を効率化するための手段として機能する契約です。当記事ではこの契約について詳しく紹介するとともに、契約書の書き方やポイントについて具体例を交えながら解説しています。「年末調整の負担が大きくて困っている」という方や、「年末調整業務を効率化したい」という企業の担当者の方はぜひご一読ください。

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目次
年末調整代行の業務委託契約とは?
年末調整代行の業務委託契約とは、企業が行うべき年末調整に関する業務を、外部の専門業者(税理士法人や社労士法人、年末調整の代行サービスなど)に委託するために締結する契約のことです。
この契約によって年末調整業務の一部または全部をアウトソーシングし、企業内部の事務負担を軽減することができます。
※業務委託契約一般については、こちらの記事でも解説しています。
年末調整代行サービスの内容
年末調整代行サービスには、一般的に以下のような業務が含まれます。
具体的な対応範囲は、依頼先や代行サービスのプランによって異なります。また、税理士や社会保険労務士(社労士)など有資格者でなければ対応できない業務もあるため、これらの専門家以外に委託するときには注意してください。
年末調整代行の業務委託契約を締結するケース
企業が年末調整業務を外部に委託する理由はさまざまです。代表的な理由としては、以下のようなケースが挙げられます。
事務負担を軽減したい | 煩雑な事務作業が一定期間に集中して発生するため、この事務負担の与える影響が大きい場合は、外部への委託を検討することがある。 |
---|---|
年末調整に対応する専門知識がない | 税制に関する知識がないと対応が難しいケースがある。 |
繁忙期で社内リソースを割けない | 年末が繁忙期になる企業だと、限られた人的リソースを本業に集中させる必要があるため、年末調整業務の代行を検討することがある。 |
正確性・法令遵守を徹底したい | 税務に関する手続きは正確性が求められるため、専門家による確実な処理を望む場合に委託を検討する。 |
以上のケースに該当するときは年末調整業務の代行を依頼するのが効果的ですが、自社個別の状況や課題に着目して検討することも大事です。
業務委託契約書はどちらが作成する?
業務委託契約書は、契約当事者のどちらが作成しても問題ありません。
そもそも業務委託契約を交わすとき、特に企業間の契約では契約書を交わすのが一般的です。しかし、法律上の義務として作成するわけではありません。口頭でも契約は有効で、委託内容が年末調整業務であってもその点は同様です。
ただし、取引の条件や具体的な委託内容を特定・記録するためにも、契約書の作成は実務上必須といえます。
年末調整を業務委託するメリット・デメリット
年末調整業務を代行してもらうことには多くのメリットがあります。組織の規模などによって恩恵の大きさは異なりますが、一般的には次のようなメリットがあるといえるでしょう。
年末調整代行のメリット | 詳細 |
---|---|
プロの知見を活用できる | 税務や社会保険に関する専門的知識を持つプロフェッショナルに業務を任せることで、複雑な制度にも対応できる。社内で専門知識を持つ担当者の確保が難しい場合、代行業者の利用が有効。 |
業務負担の軽減 | 年末調整は短期間に業務が集中し、社内リソースの負担が大きくなりがち。委託することで、社内の人的リソースを本来の業務に集中させられる。特に、年末が繁忙期となる企業ではその恩恵が大きい。 |
正確性の向上 | 専門知識を持つ業者が対応することで処理の正確性が向上し、法令違反などのリスクが軽減される。税制の改正で年末調整業務に係る変更があった際でも、法令遵守を徹底できる。 |
時間的コストの削減 | 社内で1から処理するより、効率的なシステムや知見を持つ業者に委託した方が、全体としての処理時間を短縮できる傾向にある。特に、多くの従業員を抱えている組織ではその恩恵が大きい。 |
一方で、次のようなデメリットがあることも踏まえて依頼を検討することが重要といえます。
年末調整代行のデメリット | 詳細 |
---|---|
依頼料の支払いが必要 | 直接的な支出が発生する。そのため、特に小規模企業や従業員数が少ない企業では、費用対効果を慎重に検討する必要がある。 |
情報セキュリティ上のリスク | 従業員の個人情報や給与情報などを外部に提供することになるため、情報漏洩のリスクが少なからず生じる。そのため、委託先の情報管理体制の確認が重要。 |
業者との連携業務が生じる | 社内外の連携が必要となり、コミュニケーションに関わる時間や労力が必要となる。また、指示の伝達ミスや認識の相違によるトラブルが起こる可能性もある。 |
料金の支払いによる費用負担は大きなデメリットといえますが、デメリットのみに着目せず、削減できるコストなどの効果も踏まえて総合的に判断することが大切です。
年末調整には社労士・税理士にしかできない業務がある
年末調整の業務のうち、税務判断や法定書類の作成・提出などは有資格者にしか行えません。年末調整に関しては主に税理士と社会保険労務士(社労士)が関わることになりますので、それぞれが専門的に取り扱う業務範囲を簡単に整理しておきます。
税理士が必要な内容
税理士がいなければ対応できない業務内容として、以下が挙げられます。
義務が課せられている企業自身が対応することに問題はありませんが、これらの業務を外部に委託するときは税理士資格を持つ者が対応しなければなりません。
社労士が必要な内容
年末調整そのものは税務に関する業務ですので、税理士が主に対応します。しかし、それに関連する次の業務を対応するのは社労士です。
これらの業務は税理士でも対応できないため、社労士の存在は欠かせません。
なお、給与計算や保険料の計算に関しては独占業務とされていないため、法的には社労士でも税理士でも対応は可能です。
年末調整代行の業務委託契約締結の流れ
年末調整代行の業務委託を前向きに考えている企業は、次の流れに沿って契約締結へと手順を進めていくとよいでしょう。
- 委託先を選定する
- 年末調整の期限目前で慌てて探すのではなく、早めに委託先の選定を始める。
- 選定にあたっては、実績や対応可能範囲、料金などに着目して複数の業者を比較するとよい。
- 委託する業務内容の決定
- どこまで代行してもらうのか、どの業務を自社で対応するのかを確定させる。
- 費用対効果が大きくなるように調整する。
- 業務委託契約の締結
- 納期や支払い条件、契約違反時のペナルティである違約金などについても話し合い、双方で合意する。
- 合意した内容を契約書にまとめる。
- 紙で作成するほか、電子契約書として作成することも可能。
年末調整の代行を円滑に進めるためには、早期に委託先選びと業務範囲の検討を始めることが重要です。業務委託開始後も、委託先と連携を取りながら、進捗を共有し適切に対応する姿勢が求められます。完全に任せきりにするのではなく、一定程度は業務に関与することで、よりスムーズな遂行が可能になるでしょう。
年末調整代行に関する業務委託契約書のひな形・テンプレート
年末調整代行の業務委託契約書をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められます。
ひな形はそのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウドでは、契約書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードいただけます。適宜加筆修正して活用してください。

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「年末調整代行 業務委託契約書」に記載すべき内容
年末調整代行の業務委託契約書を作成する際は、曖昧さを残さないよう、両者の権利義務関係を明確に設定することが大事です。業務の特性上、個人情報を多く扱うこと、税務処理に関わることにも配慮した内容も契約書に盛り込みましょう。ここからは、年末調整代行における業務委託契約書の書き方のポイントを、具体例を挙げながら説明します。
業務内容
具体的な業務範囲を明確に記載することが重要です。例えば、「年末調整業務全般」といった抽象的な表現だと後々のトラブルの原因となるおそれがあるため、次のように項目を列挙しておきましょう。
例文)
第○条 甲は、甲の令和○年の年末調整に関する以下の業務を乙に委託し、乙はこれを受託する。
① 申告書類の作成及び印刷
② 申告内容及び申告書類の確認
③ 申告書類の管轄機関への提出代行
④ 年末調整データの作成
また「再委託」についても検討しましょう。例えば、「第三者への再委託は、○○の書面による事前承諾がない限り行ってはならない。」といった条項を記載します。
委託料とその支払方法
委託料の金額または計算方法などを明確化することも重要です。
例文)
第○条 甲は乙に対し、本件業務委託料として、金○○円を支払う。支払は、乙の業務終了後 1ヶ以内に、乙の指定口座に振り込むものとする。振込手数料は甲が負担する。
2 本件業務において乙が負担あるいは立替えた費用がある場合は、業務終了後○日以内に乙から甲へ明細を提示して請求し、甲は前項の本件業務委託料の支払と合わせて当該費用を支払うものとする。
単に金額を記載するだけでなく、上のように支払方法なども明記しておきましょう。
追加料金が発生する可能性があるのなら、その点についても言及しておくべきです。例えば、「○○が必要となった場合、1件あたり○○円の追加料金が発生する。」といった内容を記載します。発生条件などに合わせて内容を調整し、費用に関するトラブルが起こらないように備えましょう。
成果物とその納品方法
年末調整業務の成果物としては、「源泉徴収票」「給与支払報告書」「法定調書合計表」などが考えられます。これらの納品形式(紙媒体・電子データ)や納品期限を明確に定めておくことが重要です。
例えば、「・・・を○年○月○日までに納品するものとし、○○については電子データ(○○形式)にて提供する」などと具体的な記載をします。また、納品後の検収方法やその期間についても定めておくと、支払条件との連動もスムーズです。
秘密保持条項
従業員の個人情報や企業の情報に対する適切な管理を担保するため、秘密保持を義務付ける条項も定めておきます。
例文)
第○条 乙は、甲から乙に開示又は提供された個人番号及び特定個人情報を適切に取り扱い、正当な理由なしに当該情報を第三者に開示・漏洩してはならない。
第○条 甲及び乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当する場合には、何らの通知をすることなく、直ちに本契約を解除することができる。
⑴ 相手方が本契約の規定の1に違反したとき
⑵ ・・・
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。
個人情報保護法などに基づく具体的な管理方法を定めるほか、上の例文のように解除や損害賠償請求の条件として定めることも有効です。
年末調整を業務委託する際の注意点
年末調整業務を外部に委託するときは、相手方が有資格者であることの確認を取りましょう。税理士や社労士しか対応できない業務を代行してもらうのなら、有資格者であること、あるいは税理士などと提携している代行業者であることを確認します。
また、従業員の個人情報を扱うことになるため、情報漏洩のリスクを考慮して、委託先におけるセキュリティ対策と管理体制にも注意が必要です。詳細まで把握・評価することが難しいときは、個人情報保護方針やセキュリティポリシーのチェック、あるいはプライバシーマークの取得状況などをチェックするとよいでしょう。
費用面では、基本料金のほかに追加費用が発生するケースについても注意すべきです。費用が変動する可能性、追加費用が発生する可能性を事前にチェックし、委託してから料金に関して揉めることのないように備えましょう。
年末調整に関する業務委託契約書の保管や電子化について
年末調整に関する業務委託契約書は、契約期間中は確実に保管しておきましょう。契約期間を終えてからも10年間保管しておけば、法的なリスクを回避しやすくなります。
保管期間や保管方法は、その他の一般的な契約書と変わりありません。電子化に対する制限もないので、電子契約として締結しても問題ありませんし、書面で作成した契約書をスキャンして保管することも可能です。
ただし、電子化の際は一定以上の解像度を維持すること、改ざんなどができない措置を講ずることに注意してください。
年末調整の代行も視野に効率化を進めよう
年末調整業務の効率化や精度向上を図るなら、代行サービスの利用も視野に入れるとよいでしょう。その際は、組織の規模や状況に応じた適切な委託先を選定し、どのような業務を代行してもらえるのかを確認する必要があります。
選定した委託先と合意して業務委託契約書を作成するときには、代行してもらいたい業務内容が反映されているかを確実にチェックしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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