- 作成日 : 2025年11月11日
雇用契約書の電子化には従業員の同意が必要?取得方法や注意点を徹底解説
雇用契約書の電子化を進める企業が増える中、「従業員の同意」が法律上の重要な要件であることをご存知でしょうか。労働条件の通知を電子的に行うには、単にシステムを導入するだけでなく、労働者本人の明確な希望と同意が不可欠です。
本記事では、雇用契約書を電子化する際に、なぜ従業員の同意が必要なのか、具体的な同意の取得方法、もし同意が得られなかった場合の対処法まで、企業の担当者が知りたい情報を網羅的に解説します。
目次
雇用契約書の電子化に従業員の同意は必要?
雇用契約書の電子化には、法律上の明確なルールに基づき、従業員本人の同意が不可欠です。企業側の都合だけで電子化を一方的に進めることはできません。
従業員の希望と同意が法律で定められている
労働基準法では、労働条件の明示は原則として「書面」で行うと定められています。そのため、雇用契約書を電子的に交付するには、法律上の必須条件として「労働者本人が希望し、同意すること」が必要となります。これは、すべての労働者が自身の労働条件を確実に理解し、確認できる状態を保障するための重要なルールです。
根拠となる具体的な法律条文
このルールの根拠は、労働基準法第15条および労働基準法施行規則第5条にあります。
労働基準法第15条では、会社が従業員を雇い入れる際に、給与や働く時間などの労働条件を本人に明確に伝えなければならないと定めています。特に重要な項目については、省令で決められた方法で示すことが義務付けられています。
そして、その「省令で定められた方法」について具体的に定めているのが労働基準法施行規則第5条です。この規則では、労働条件の明示は原則「書面の交付」と定めつつ、例外として2019年の法改正により、労働者本人が希望した場合には、電子メールなどの電子的な方法も認められるようになりました。
重要なのは、「契約の締結」と「労働条件の明示」を分けて考えることです。雇用契約そのものは電子的に結ぶことが可能ですが、労働基準法で定められている「労働条件の明示」を電子的に行うには、労働者本人が希望した場合に限り、認められています。
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雇用契約書の電子化で従業員から同意を得る方法は?
従業員から円滑かつ法的に有効な同意を得るには、いくつかの方法が考えられます。法律の条文上は「労働者が希望した場合」に電子交付が可能とされています。客観的な証明までは明文で要求されていませんが、後のトラブルを避けるため、実務上は本人の希望があったことを記録として残しておくことが強く推奨されます。
その証明の確実性に応じて、各方法の役割が異なります。ここでは、代表的な3つの方法について、それぞれの特徴と正しい活用法を解説します。
方法1. 個別の同意書を取得する
最も安全で確実な方法は、「雇用契約書(労働条件通知書)の電磁的方法による交付に関する同意書」といった名称の書面を、従業員一人ひとりから個別に取得することです。
紙に署名・捺印をもらう形式でも、電子契約システムを通じてデジタルに署名してもらう形式でも構いません。「誰が、いつ、何に同意したか」が明確な証拠として残るため、将来的な紛争リスクを最大限に低減できます。企業のコンプライアンスとリスク管理の観点から、これが最も推奨されるベストプラクティスです。
方法2. メールや人事システム上で同意を得る
従業員本人のメールアドレスからの同意返信や、本人しかログインできない人事労務システム上で、電子交付に関する同意のチェックボックスにチェックを入れてもらう方法も有効です。
この方法が法的に有効と認められるには、その意思表示が間違いなく本人によるものであると証明できることが不可欠です。そのためには、「会社が付与したメールアドレスからの返信」や「個人IDでログインしたシステム上の操作ログ」など、本人性と日時を特定できる記録を、同意書と同様に大切に保管する必要があります。
方法3. 就業規則で包括的に規定する
就業規則に「会社は、労働条件通知書を電子的に交付することを原則とする」といった条文を設ける方法も考えられます。
注意点として、この方法単体では法律が求める「労働者個人の希望」を証明するには不十分と見なされる可能性が高いです。就業規則はあくまで会社全体のルールを定めるものであり、個人の自発的な意思表示の証拠にはなり得ません。
この方法は、全従業員に対して「会社として電子化を推進する方針であること」や「電子交付という選択肢があること」を周知するための補足的な手段として活用するのが適切です。実際の同意は、必ず方法1または方法2によって個別に取得してください。
雇用契約書の電子化で従業員から同意を得るための手順
実際に従業員から同意を得る際は、後のトラブルを避けるために正しい手順を踏むことが重要です。ここでは、会社としての方針説明から、同意記録の保管までの一連の流れを4つのステップに分けて具体的に解説します。
ステップ1. 電子化の方針とメリットを説明する
まず、なぜ会社として雇用契約書の電子化を進めるのか、その背景と目的を全従業員に丁寧に説明します。
ペーパーレス化による環境配慮、コスト削減といった会社側のメリットだけでなく「いつでもどこでも契約内容を確認できる」「紛失のリスクがない」など、従業員側のメリットも具体的に伝えることで、理解と協力を得やすくなります。
ステップ2. 同意書(または同意取得画面)を準備する
次に、従業員の同意の意思を記録するためのフォーマットを準備します。紙の同意書だけでなく、人事システム上で同意を得るための画面などを用意する場合も考え方は同じです。
以下の項目を盛り込むと、抜け漏れのない明確な同意記録となります。
- 同意書を提出(または同意)した年月日
- 所属部署、氏名
- 「私は、労働条件通知書(兼 雇用契約書)の交付を、電磁的方法によって受けることに同意します。」といった明確な同意文言
- 署名・捺印欄(書面の場合)
ステップ3. 従業員へ通知し、同意を得る
準備した同意書を従業員に案内し、内容を理解してもらった上で同意の意思表示をしてもらいます。
- 新入社員の場合:入社手続きの際に、他の書類とあわせて同意を得るのが最もスムーズです。
- 既存社員の場合:全員に方針を説明する場を設けるなど、丁寧なコミュニケーションを心がけ、同意取得を進めると効率的です。
ステップ4. 同意の記録を適切に保管する
従業員から得た同意の記録(同意書やシステムのログなど)は、雇用契約書と同様に非常に重要な書類です。
労働基準法上の保存期間は原則5年(当分の間は3年)ですが、その起算点は書類ごとに異なります。例えば、労働者名簿は「退職日」から、賃金台帳は「最後の記入日」から数えるなど、対象の記録に合わせて適切に管理する必要があります。そのため、同意の記録も関連する労働関係書類と同様の期間、保管することが推奨されます。
また、電子データで同意記録を保管する場合、その記録が本人の意思であることを後から確認できるようにしておくことが重要です。同意の希望記録自体に法定の厳格な保存形式はありませんが、もし雇用契約書や労働条件通知書そのものを電子データとして授受した場合、そのデータは電子帳簿保存法の要件(訂正・削除の履歴が残るなど)を満たす形で保存する必要があります。
従業員が雇用契約書の電子化に同意しない場合は?
従業員が電子化に同意しない場合、企業が取るべき唯一の正しい対応は、その従業員に対して従来通り「紙の雇用契約書」を交付することです。従業員の同意権は法律で保護されており、電子化の強制は許されません。そのため、同意者と不同意者の両方を適切に管理できる体制を整える必要があります。
紙での交付義務と強制のリスク
従業員が電子化に同意しない場合、または電子的な受け取りを希望しない場合、企業は必ず紙の雇用契約書を交付しなければなりません。
同意しないことを理由に、評価を下げるなどの不利益な取り扱いをすることは絶対に許されません。また、「管理が煩雑になる」といった理由で電子化を強制することは、労働条件の明示義務を果たしていないとして労働基準法違反となる可能性があります。あくまで電子化は「労働者の希望」が前提であることを忘れてはいけません。
実務上の管理体制と運用のポイント
実務上は、同意した従業員と同意しなかった従業員の両方が混在する状況が想定されます。そのため、以下のような管理体制を整えておくと、業務が円滑に進みます。
- 管理リストの作成:どの従業員が電子交付に同意し、誰が紙での交付を希望しているかを明確に管理するリスト(Excelやスプレ-ッドシートなど)を作成します。
- 二重の運用フローの確立:電子契約システムで管理する従業員と、紙のファイルで管理する従業員の両方に対応できる業務フローを確立し、手続きに漏れがないようにします。
- 定期的な意向確認: 一度は同意しなかった従業員も、後から考えが変わる可能性があります。年に一度など、定期的に電子化への意向を確認する機会を設けることも有効です。
雇用契約書を電子化するメリット
雇用契約書の電子化は、コスト削減や業務効率化に留まらず、採用活動の迅速化やコンプライアンス強化など、企業と従業員の双方に多くのメリットをもたらします。利点を詳しくみていきましょう。
コスト削減
電子契約では印紙税の節約がメリットとして挙げられることがありますが、雇用契約は印紙税法で定められた課税文書(不動産売買契約書や請負契約書など)には該当しないため、もともと非課税です。
そのため、印紙税の節約は直接のメリットにはならないものの、紙代や印刷代、郵送費、さらには遠隔地の内定者との契約にかかる交通費といった、より直接的なコストを確実に削減できます。
業務効率化と採用スピードの向上
内定から入社手続きまでの契約プロセス全体をオンラインで迅速に完結できます。これにより、特に遠隔地の候補者を採用する場合や採用が集中する時期において、人事部門の業務負担が大幅に軽減され、内定承諾から入社までの期間が短縮されるでしょう。
コンプライアンスの強化
誰がいつ労働条件通知を受け取り、同意したかの記録がデジタルシステム上に正確に残ります。これが、法律で定められた「労働条件の明示義務」を果たしたことの明確な証拠となるのです。また、契約更新時期のアラート機能なども、管理上の見落としを防ぐのに役立ちます。
多様な働き方への対応
日本全国のリモートワーカーや海外在住の従業員とも、場所を問わず迅速に雇用契約を締結できます。これにより、優秀な人材を獲得する機会が広がるでしょう。
雇用契約書を電子化するデメリット
メリットの多い電子化ですが、導入にあたってはコストや法律上の手続き、従業員への配慮など、事前に把握しておくべきデメリットも存在します。以下を注意点としておさえておきましょう。
導入・運用コスト
電子契約サービスを導入するには、初期設定費用や継続的な月額利用料が発生します。ただし長期的に見れば、前述した郵送費や人件費の削減効果がこれらのコストを上回るケースも少なくありません。
従業員への説明と同意取得の手間
法律の定めにより、全従業員(既存および新規)から電子化に関する個別の同意を得るプロセスが必須です。これは、このプロセスに特有の大きな手間となります。
機密情報の漏洩リスク
雇用契約書を電子データで扱う以上、不正アクセスやサイバー攻撃による情報漏洩のリスクは常に考慮しなければなりません。
特に雇用契約書には、給与や住所といった極めて重要な個人情報が含まれます(注:マイナンバー(個人番号)は税や社会保険の手続きのために別途取得しますが、利用目的が法律で厳格に定められているため、通常、雇用契約書自体に記載することはしません)。
万が一これらの情報が外部に漏洩した場合、企業の社会的信用を大きく損なうだけでなく、従業員から損害賠償を請求されるといった法的な問題に発展しかねない点が、大きなデメリットと言えます。
ITリテラシーの差による導入・運用の困難さ
雇用契約は、特定の部署だけでなく全従業員が対象となります。そのため、従業員間のITスキルの差が大きい場合、一部の従業員がシステムをうまく使えず契約手続きが滞ったり、操作方法に関する問い合わせが人事部門に殺到したりするリスクがあります。全社的にスムーズな運用を実現する上で、この従業員間のITリテラシーの差が、大きなハードルとなる点がデメリットです。
電子契約システムを選ぶ際のポイントは
自社に適した電子契約システムを選ぶ際は、単に料金だけでなく、複数の観点から総合的に判断することが不可欠です。長期的に安心してシステムを運用するために、特に重要となる5つのポイントを解説します。
ポイント1. 法的要件への準拠
最も重要なのは、日本の法律に準拠しているかという点です。特に雇用契約で利用する場合、以下の法律への対応は必須となります。
- 関連法規への対応を確認:特に、電子データで授受した雇用契約書は電子帳簿保存法上の「電子取引データ」に該当するため、同法が定める要件(真実性の確保・可視性の確保)に従って保存しなければなりません。また、電子署名法は契約の有効性に必須ではありませんが、電子署名が本人のものであることを証明しやすくする重要な法律です。
ポイント2. 強固なセキュリティ体制
従業員の個人情報を含む重要な契約書を扱うため、万全なセキュリティ対策が講じられているかを確認します。
- セキュリティ機能の確認:通信の暗号化、不正アクセスを防ぐアクセスログの管理、契約日時の証明となる認定タイムスタンプの付与など、データの改ざんや情報漏洩を防ぐ機能が充実しているかを確認しましょう。
ポイント3. 管理者と従業員双方にとっての使いやすさ
システムは、管理者だけでなく、契約書を受け取る側の従業員にとっても使いやすいものでなければなりません。
- 操作性の確認:専門知識がなくても直感的に操作できるシンプルなインターフェースかを確認しましょう。特に、従業員が迷わずスムーズに契約内容の確認と同意ができるかは重要です。無料トライアルなどを活用し、双方の立場から実際の使用感を確かめるのがおすすめです。
ポイント4. 充実したサポート体制
導入時や運用開始後にトラブルが発生した際、迅速で手厚いサポートを受けられるかも重要な選定基準です。
- サポート内容の確認:導入時の設定支援や操作説明会、運用開始後の電話やメールでの問い合わせ対応など、自社のITリテラシーに合ったサポート体制が整っているかを確認しましょう。
ポイント5. 費用対効果と料金体系
最後に、自社の利用規模に合った料金体系であるかを確認します。
- 料金プランの確認:月額固定費用、送信件数に応じた従量課金など、料金体系は様々です。将来的な利用量の増減も考慮し、長期的に見て最も費用対効果の高いサービスを選びましょう。
雇用契約書の電子化については、以下の記事でも方法や要件、注意点などを詳しく紹介しています。
正しい手順で同意を得て雇用契約書の電子化を成功へ
本記事では、雇用契約書の電子化における従業員の同意の重要性について、法的な背景から具体的な実務まで解説しました。
電子化は多くのメリットをもたらしますが、その大前提には、労働基準法が定める「労働者本人の希望と同意」があります。成功の鍵は、個別の同意書取得やシステム活用といった確実な方法で、一人ひとりの明確な意思を確認することです。
また、同意しない従業員には必ず書面で交付し、同意者と不同意者の両方を適切に管理する運用体制を築く必要もあります。これらの法的なルールと実務上のポイントを正しく理解し、丁寧な手順を踏むことが、トラブルのない円滑な電子化移行を実現します。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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