- 作成日 : 2025年5月7日
通訳の業務委託契約書を作るには?契約書の例文・テンプレートから書き方を紹介
通訳の業務委託契約書は、通訳者と依頼主の間で交わされた契約内容を記した文書です。当記事では、通訳の業務委託契約について説明するとともに、契約締結にあたって作成すべき業務委託契約書の基本的な書き方や、作成時のポイントなどについても、具体例を交えながら解説をしていきます。通訳との契約を検討している方は、ぜひご参照ください。
目次
通訳の業務委託契約とは?
通訳の業務委託契約は、各種言語の通訳スキルを持つ受託者(個人または法人)と、通訳を必要とする事業者などとの間で締結する契約のことです。
この契約を交わすことにより、通訳業務の内容や期間、報酬、責任範囲などが具体的に定められ、各当事者を法的に拘束することとなります。
双方の認識の齟齬を防いでトラブルが起こらないようにするために、実務上は契約書を作成するのが一般的です。また、万が一トラブルが生じた際にも、この契約書が重要な判断基準となって紛争の長期化を防ぐ役割を担います。
通訳業務を外部に委託するケース
企業や団体が通訳業務を外部に委託するケースとして考えられるのは、組織内に適切な言語スキルを持つ人材がいない場合や、特定の期間だけ通訳サービスが必要な場合などです。以下に、通訳業務を外部委託するケースをいくつか紹介します。
- 国際的なシンポジウムやビジネスセミナー、展示会、海外企業との商談など、一時的に通訳が必要な場面
- 法律やIT、医療、金融など、専門用語を多く取り扱う場面での通訳が必要な場面
- グローバル企業での定例会議や研修、社内イベントなど、外国の役員・従業員との円滑な意思疎通を図るためのサポートとして通訳が必要な場面
- 海外出張や海外拠点訪問における随行通訳が必要な場面
- 国際共同事業や外国企業との提携など、長期プロジェクトにおける継続的な通訳サポートが必要な場面 など
企業活動のグローバル化が進むと、より多様なシーンで通訳者を活用することになるでしょう。
業務委託契約と雇用契約の違い
業務委託契約と雇用契約の大きな違いは「指揮命令関係の有無」です。
雇用契約では、使用者が労働者に対して労働時間や業務内容について直接指示する権限を持ちます。しかし、業務委託契約における委託者は基本的に業務の結果のみを求め、その遂行方法については受託者の裁量に委ねなければなりません。
つまり、雇用契約を交わした方が、使用者となる企業側は強いコントロールが可能となります。しかし一方で、社会保険などの環境を整えなくてはならず、各種労働法の適用があるなどの制約を受けることになるのです。
業務委託であれば、当事者双方に自由度が保たれて契約解除も比較的容易ですが、その分受託者の裁量に委ねなければならない部分も多くなります。
業務委託契約の種類
業務委託契約は、契約の目的や内容によって次のタイプに分類することができます。
請負契約 | 受託者が一定の仕事の完成を約束し、依頼主がその成果物に対して報酬を支払う。報酬が成果物に対して支払われるのが特徴。 |
---|---|
委任契約 | 法律行為の代行などを受託者に依頼する契約。報酬が業務の遂行そのものに対して支払われること、対象となる業務の内容が主に法律行為であることに特徴がある。 |
準委任契約 | 法律行為以外の特定の業務の遂行自体を目的とする契約形態。報酬が業務の遂行そのものに対して支払われること、対象となる業務の内容が書類作成や開発業務、通訳など、法律行為以外の幅広い行為であることに特徴がある。 |
業務委託契約に関してはこちらのページでも詳しく解説しております。
業務委託契約書はどちらが作成する?
業務委託契約書の作成は法律上の義務ではないものの、トラブル防止の観点から、作成しておくことが望ましいとされています。
契約書の作成者に関して明確な決まりがないため、契約当事者のどちらが作成しても問題ありません。ただし、最終的には双方のサイン・合意によって契約書は完成となりますので、一方が勝手に契約書を完成させることはできないことを覚えておきましょう。
通訳の業務委託契約の特徴
通訳の業務委託契約は、請負契約または準委任契約として成立すると考えられます。
報酬体系は以下のように多様です。
- 時給
- 半日(3、4時間)単位あるいは1日(7、8時間)単位
- プロジェクト単位の固定報酬
なお、緊急対応や時間外対応には、追加料金が発生することもあります。
実際には、個人(フリーランス)の通訳者と締結することもあれば、法人(通訳会社)と締結することもあるでしょう。一般的に、法人の方が品質の安定性は高いとされていますが、交渉の柔軟性が高いのは個人の方だといえます。
個人の場合はコストも比較的低い傾向にあるため、スキルが高いフリーランスの通訳者と契約締結できれば、高い費用対効果を望めるでしょう。一方で、法人と違って代替が効きにくいというリスクを考慮する必要があります。
通訳を業務委託するメリット・デメリット
社外の通訳者を利用することには次のメリットがあります。
メリット | 詳細 |
---|---|
専門性の高い人材の活用 |
|
社内育成よりコスト管理しやすい | |
機動的に対応できる |
|
リソースの最適化 |
|
一方で、次のようなデメリットがあることにも注意が必要です。
デメリット | 詳細 |
---|---|
日程調整が必要 |
|
コストがかかる |
|
以上のメリットとデメリットを踏まえ、自社の状況や通訳が必要となる場面の特性に応じて、外部への委託と内製化のバランスを考えるようにしましょう。
通訳の業務委託契約書を締結する流れ
通訳の業務委託契約を締結する一般的な流れは次の通りです。場当たり的に依頼をするのではなく計画的に進めましょう。
- 業務範囲・条件の検討
- 通訳を依頼する目的から、具体的にどのような業務に対応してほしいのかをはっきりさせる。
- 契約期間や報酬形態、納期などを検討する。
- 委託先の選定
- 過去の実績や専門分野などを確認して委託先を選定する。
- 料金体系なども比較する。
- 契約条件の交渉
- 業務内容や報酬、納期、責任範囲について話し合う。
- 契約書のひな形をベースに、具体的な条件を反映していく。
- 業務委託契約の締結
- 双方の合意が得られたら、契約書に署名・捺印を行う。
- 書面のほか、電子契約システムを利用して契約締結することも可能。
契約締結後は通訳者に必要な資料や情報を提供し、円滑に業務が遂行できるように備えましょう。
通訳の業務委託契約書のひな形・テンプレート
通訳の業務委託契約書をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。
ひな形はそのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウドでは、契約書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードいただけます。適宜加筆修正して活用してください。
通訳の業務委託契約書の作り方
通訳に関する業務委託契約書の書き方のポイントや具体的な記載項目を、具体例と併せて紹介します。
契約の目的
何のために通訳の依頼を行うのか、契約の目的を次のように明示します。
例文)
第○条 本契約は、甲が令和〇年〇月〇日に開催するイベント(イベント名○○・以下「本件事業」という。)における通訳業務を委託することを目的とする。
日付やイベントなどの名称も記しておくことで、より目的をはっきりさせることが可能です。
委託業務の内容
委託する業務内容、通訳者・通訳会社に求める行為を具体的に記します。
例文)
第○条 ・・・以下の業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託した。
① 本件事業のゲストである○○氏が行うスピーチ及び質疑応答の通訳業務
② 本件事業のバンケットにおける○○氏のための通訳業務
③ ①②の業務を行うための甲との打ち合わせ
④ その他本件業務遂行に必要な事項
あとで「その業務は契約に含まれていません。」「別途報酬が発生します。」などと主張されるリスクも考慮して、委託した業務を列挙していきます。
また、第三者へ業務を再委託してもよいかも考えましょう。次のように、同意を条件としてその都度判断を下すことも可能です。
例文)
第○条 乙は、甲の本件業務の全部または一部を、甲の事前の同意を得ることなく第三者に再委託してはならない。
契約期間
イベントやプロジェクトの期間に対応する形で契約期間を定めます。
例文)
第○条 本件業務の契約期間は、本日から本件事業終了時(令和〇年〇月〇日〇時)までとする。
必要に応じて、契約期間の更新の有無、更新の条件や方法についても定めましょう。
報酬とその支払方法
揉める危険性の高い「報酬」については、特に慎重にルールを定めます。次のように特定の金額を明示するのもよいですし、契約時点で金額を確定させるのが難しいときは、具体的な計算式を記載して報酬額の根拠を定めるのもよいでしょう。
例文)
第○条 甲は乙に対し、本件業務委託料として、金○○円を支払う。支払は、本件業務終了後 1カ月以内に、乙の指定口座に振り込むものとする。振込手数料は甲が負担する。
2 本件業務における打ち合わせ及びイベント当日の交通費については、乙が負担する。
3 本件業務において乙が甲の代わりに立替えた費用がある場合は、本件業務終了後●日以内に乙から甲へ明細を提示して請求し、甲は前項の本件業務委託料の支払と合わせて当該費用を支払うものとする。
加えて、費用負担や支払方法、支払期限についても定めます。
また、必要に応じて次のようなキャンセル規定も設けましょう。
例文)
第○条 本件事業または○○氏の出演が中止となった場合は、理由の如何を問わず、甲は乙に対し、別紙記載の通りのキャンセル料を支払う。
契約解除の条件
次のように契約を解除できる条件も定めておくと、トラブルがあった際の対応もスムーズになります。
例文)
第○条 甲は、相手方が次の各号のいずれかに該当すると認められる場合には、何らの通知をすることなく、直ちに本契約を解除することができる。
⑴ 相手方が本契約の履行に関し、不正の行為をしたとき
⑵ 相手方が本契約の規定の一に違反したとき
2 前項の規定は、甲による乙に対する損害賠償の請求を妨げない。
併せて、具体的な禁止行為・当事者の義務を示しておくと、より判断がしやすくなるでしょう。
通訳の業務委託契約で確認したいこと
業務を委託する通訳者を選定する際は、通訳の実績・スキルが自社のニーズに合っているかを確認しましょう。また、契約時には成果物の権利帰属のルールについても留意すべきです。
通訳の実績・スキル
通訳のスキル、得意とする分野などは、通訳者によって異なります。そのため、通訳者または通訳会社の過去の実績や専門分野を、契約締結前にチェックしておきましょう。
対応可能な言語はもちろんのこと、医療や法律、ITなど、どの分野に強みを持つのかも確認します。評価にあたっては、過去の事例やクライアントからの評価が参考になるでしょう。
成果物の権利帰属のルール
通訳内容の録音や翻訳を通じて成果物が生まれるときは、著作権などの権利に関する取り扱いにも注意が必要です。著作権は原則として通訳者や翻訳者に帰属するため、このことが事業に支障をきたすおそれがあるのなら、あらかじめ契約書で著作権の譲渡や利用許諾について定めておきましょう。
契約で定めても、あらゆる権利行使を放棄させることはできませんが、リスクを一定程度は低減させられます。
通訳の業務委託契約書の保管や電子化について
業務委託契約書の原本は、紛失や改ざんなどの危険がない場所で保管してください。税制や会社法の規定を踏まえると、契約終了から10年間は保管しておくことが望ましいでしょう。
長期間紙を保管する場合は、スペースや管理コスト、劣化などの問題が生じることもありますが、電子化しておけば多くの問題を解決できます。スキャンして電子化するほか、電子契約で締結しても書面の契約書と同等に扱うことが可能です。
ただし、そのためにはタイムスタンプを付与したり、システム上で検索できるようにしたりするなど、一定の要件を満たす必要があります。
業務委託契約書を作って通訳業務の範囲や報酬を明確にしよう
通訳の業務委託契約書は、業務範囲や報酬、権利関係などを明確にする書面です。業務の性質や状況に応じて適切に契約内容を調整し、不明点があるときは法律の専門家に相談しながら作成しましょう。
依頼先が法人ではなく個人(フリーランス)であったとしても、契約書で契約内容を明示することが重要です。関連法としてフリーランス保護法が施行されていますので、公正取引委員会のHPを参考にしながら、法令に抵触することのないように契約書を作成しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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