- 作成日 : 2025年5月7日
個人向け業務委託契約書を作るには?例文・テンプレートを紹介
個人に業務を委託する場合も、業務内容や報酬などを記載し、法的リスクを低減させられるよう企業同士の取引同様に厳格に作成すべきです。ここでは契約書のテンプレートも紹介しておりますので、例文も参考にしながらその作成方法をチェックしていきましょう。
目次
個人向けの業務委託契約とは?
個人向けの業務委託契約とは、特定の業務の遂行を目的として締結する契約であり、外注のために締結する主な契約類型とも説明できます。委託先が法人であることもあれば、個人事業主やフリーランスなどの個人と契約を交わすこともあります。
個人・法人の違い、それだけで契約内容や契約書の書き方が変わるものではありませんが、取引相手となる相手方の実情を踏まえた契約業務を意識することが大事です。
個人と企業で違う業務委託契約の実態
企業間の業務委託契約では、実質において対等な立場での交渉が前提となることが多いのに対し、個人との契約だと交渉力や法的知識に事実上の差があることも多くなっています。
とはいえ個人事業主やフリーランスも法人と同じ一事業者ですので、一般消費者と同等の扱いをする必要はなく、法令上も個人であるというだけで消費者保護法による適用を認めているわけではありません。
ただ、事実上の力関係の差を逆手に取って不利な条件を個人に押し付けるなどの事案も発生していることから、フリーランス保護法も施行され一定の規制がかけられています。
また、業務委託契約といいつつ労働者のように働かせる事案も発生しており、この場合は業務委託契約を締結していても雇用関係が法的に認められる可能性があります。そうすると労働法の適用や社会保険の加入義務などの問題も生じるため、個人に業務を委託するときは運用実態に注意しなくてはなりません。
業務委託契約の種類
業務委託契約は、民法上の①請負契約、②委任契約、③準委任契約の3つの契約形態に分類することができます。依頼する内容や契約内容に応じて分類されるものであり、取引先が個人であっても、どの契約形態にも該当する可能性はあります。
請負契約について |
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委任契約について |
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準委任契約について |
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業務委託契約全般に共通する事項についてはこちらでも詳しく説明しています。
個人と業務委託契約を結ぶケース
企業が個人に業務委託を行うケースは千差万別で、「法人相手としか契約してはいけない」といった業務は基本的にありません。しかし傾向として個人と取引を交わす例が比較的多い業務もありますので、以下にその典型的な例を取り上げます。
- Webサイトやアプリの制作の依頼
- 稼働中のITシステムやネットワークの運用・保守の依頼
- 広告素材やパンフレット、ロゴなどのデザイン制作の依頼
- マーケティングなどに関わるコンサルティングの依頼
- 弁護士や税理士など独占業務を持つ専門家への依頼 など
業務委託契約書はどちらが作成する?
業務委託契約書の作成は法律上の義務ではありませんが、口頭の約束だけだと報酬の金額や支払いなどが争点となり揉める危険性があります。そこで取引先が個人であっても厳格に契約書を作成して、取り決め内容を客観的にも証明できるように備えておくべきです。
作成はどちらが行っても構いませんが、委託先が弁護士や司法書士などの専門家でなければ企業側が作成して交付することが多くなると思われます。
草案を作成して相手方に提示し、同意が得られればその内容で確定させられますが、納得いかない箇所を指摘されたときは話し合いによって当該条項の調整を行うことになるでしょう。どの立場であっても契約内容を一方的に押し付けることはできません。
個人と業務委託契約をするメリット・デメリット
委託者である企業側、業務を受託する個人側それぞれにどのようなメリット・デメリットがあるのか、以下に整理します。
委託者側のメリット・デメリット
企業が個人と業務委託契約を締結する場合、法人との契約や雇用契約と比較して次のようなメリットとデメリットがあります。
委託者である企業が個人と業務委託を交わすメリット | |
---|---|
コストが安い | 雇用契約と異なり社会保険料の会社負担や福利厚生にかかる費用が発生しない。 法人相手に業務委託をする場合と比べても、マージン相当の費用がかからず低コストで済む傾向にある。 |
柔軟性が高い | 法人との契約では組織的にマニュアルなどが運用されており一定の制約がかかることもあるが、個人との契約ではより柔軟な条件設定や変更ができる傾向にある。 |
特定個人のスキルを活用できる | 組織に蓄積されたノウハウではなく、実際に業務に当たる特定の個人を指定して、当該個人が持つ能力をそのまま活用することができる。 |
機動力が高い | 個人だと、法人のように厳格な承認プロセスや決裁手続きが設けられていないことが多く、交渉から業務開始まで機動的に動ける傾向にある。 |
ただし、上記の特徴はあくまで傾向であることに注意が必要です。
また、個人の場合だと「病気など個人的な問題により業務が中断されるリスクがある」「法人のように登記がされておらず資本金の払い込みもないため信用面の見極めが難しい」「大きな損失が生じた場合でも個人の弁済能力には限界がある」などのデメリットがあります。
業務を請け負う個人・フリーランスのメリット・デメリット
業務委託という形で働く個人・フリーランスとしては、以下の点で雇用契約とは異なるメリットがあるといえるでしょう。
雇用されず業務委託で働くメリット | |
---|---|
働き方の自由度が高い | 業務遂行の方法や時間の使い方に関して、雇用契約に比べて高い裁量を持つことができる。自分のペースや働き方に合わせた業務遂行が可能となり、ワークライフバランスの向上につながる。 |
複数の企業と契約可能 | 「副業禁止」のような制限がかからず、複数の企業と契約を結び、さまざまな仕事ができる。 |
取り分を増やせる | 必ずしも稼ぎが増えるわけではないが、取引先が支払う報酬をそのまま受け取ることができるため、同じ業務に当たった場合の取り分は増える傾向にある。 |
節税の可能性 | 個人事業主として確定申告を行う場合、業務遂行のために必要な支出などを売上から控除できるため、家賃の家事按分や青色申告特別控除などにより雇用されている場合より税負担が下がる可能性がある。 |
上記のメリットがある反面、「収入の安定性が乏しく雇用保険も適用されない」という大きなデメリットもあります。仕事を受注することができればいいですが、その保証がないため結果的に稼ぎが少なくなる危険性も高くなるでしょう。
また、「社会保険関連の負担が大きくなる」「確定申告などの事務作業にも対応しないといけない」というデメリットも大きな問題です。
個人と業務委託契約を締結する流れ
企業がフリーランスなどの個人に業務を委託するとき、知り合いから紹介を受けるか、クラウドソーシングサイトなどのプラットフォームを使って信用できる方を探す必要があります。
本人確認の仕組み、評価制度が整備されているプラットフォームであれば信頼性が一定程度は担保されるでしょう。
発注先となる個人を見つけることができれば、その方と条件の交渉を行い、合意が取れれば契約書を作成します。
なお、取引内容にもよりますが、個人との取引では「源泉徴収」や「支払調書の作成・提出」に注意してください。
会社員と異なり、業務委託の場合は原則として発注企業に源泉徴収義務はありませんが、「原稿料や講演料」「弁護士や司法書士、公認会計士などへの報酬」「スポーツ選手やモデルなどに支払う報酬」などが発生するときは源泉徴収が必要になります。
また、年間の支払総額が一定額を超えるときは支払調書を作成して税務署に提出しないといけません。報酬の内容によって提出義務の判断基準は異なりますが、最低額だと5万円、そのほか50万円、75万円を超えたときに提出義務が課せられるケースもあります。
個人向け業務委託契約書(更新なし)のひな形・テンプレート
個人向け業務委託契約書(更新なし)をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。
ひな形は、そのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウドでは、契約書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードできます。適宜加筆修正して活用してください。
個人向けの業務委託契約書に記載すべき内容
業務委託契約書を作成するときは、以下の記載事項が適切に盛り込めているか確認しながら作業を進めていきましょう。
- 委託業務の内容
- 契約期間と更新の有無
- 報酬金額とその支払い方法
- 知的財産権の取り扱い
- 秘密保持義務
- 契約解除条件
各条項の書き方を以下に示します。
委託業務の内容
発注業務の内容を記載します。契約書に細かく記載していくのが難しい場合は、次のように別紙へ詳細を渡すという方法もあります。
例文)
第○条 甲は、○○に関する業務(以下「本件業務」という。)を乙に委託し、乙はこれを受託する。
2 本件業務における仕様などの詳細については、別紙1記載の通りとする。
また、直接取引を交わす個人以外に再委託されることを防ぐため、次のような条項を設けることも検討しましょう。
例文)
第○条 乙は、甲の本件業務の全部または一部を、甲の事前の書面による承諾なしに第三者に再委託してはならない。
契約期間と更新の有無
いつからいつまで契約を有効とするのか、必要に応じて契約期間を定めましょう。単発で成果物の納品を求める契約ではなく、継続的に一定の作業に当たってもらう契約では特に重要です。
また、契約期間を定めたときは更新の有無についても言及し、更新の可能性を残す場合はその手続きについても定めましょう。「一方からの解除の申し出なければ契約は更新されたものと見なす」と定めることも可能です。
報酬金額とその支払い方法
金銭のやり取りに関してはトラブルが起こりやすいため、報酬の金額あるいはその定め方、支払方法についても契約書で明確にしておきましょう。
例文)
第○条 甲は、乙に対し、本件制作業務の委託料として金〇円を支払う。
2 前項の支払いは、以下の通り行う。
①本契約締結時 金〇円
②本件業務完了時 金〇円
3 乙は、前項②の金額を、本件業務完了後翌月〇日までに甲に請求し、甲は同月末日までに乙指定の銀行口座に振り込んでこれを支払う。振込手数料は甲が負担する。
4 本件業務の履行に際して、通常発生する費用については乙がこれを負担する。ただし、甲の事情により費用が発生した場合はこの限りではない。
なお、支払期日に関しては合理的な理由なく長く定めないようにすべきです。フリーランス保護法が適用される場合、「成果物の受領から60日以内のできる限り短い期間内」に設定しないといけません。
知的財産権の取り扱い
受領する成果物に関する知的財産権にも留意してください。次のように定めて、発注者の権利行使が妨げられることのないよう備えましょう。
例文)
第○条 本件業務の過程で生じた著作物、その他成果物に関する特許権や著作権、実用新案権、意匠権等は、甲に帰属する。
2 乙は、本件業務の過程で生じた著作物について、著作者人格権を行使しない。
なお、著作者人格権については他人に譲渡できない性質の権利ですので上のように定めます。ただし、この規定は必ずしも受託者を拘束できるものではなく、事実上の抑止力に留まる可能性も考慮しなくてはなりません。
秘密保持義務
発注に伴い自社の情報を提供する場合は、秘密保持義務についても定めるべきです。
例文)
第○条 甲及び乙は、本件業務に関して知り得た、相手方の技術上及び営業上の一切の情報について、相手方の事前の書面による承認がない限り、第三者に開示・漏洩してはならない。
2 本条の規定は、本契約終了後もなお効力を生ずる。
外部に漏れたときのリスクが大きな情報を取り扱うときはより厳格なルールを設ける、あるいは別途NDA(Non-Disclosure Agreement:秘密保持契約)を交わすことも検討しましょう。
契約解除条件
「発注したにもかかわらず、いつまでも作業に着手してくれない」「はじめに取り決めたルールを守ってくれない」など、業務の遂行に支障を来たす事態が生じたときに備え、契約解除の条件についても規定しておきます。
例文)
第○条 甲及び乙は、相手方が次の各号のいずれかに該当する場合には、何らの通知をすることなく、直ちに本契約を解除することができる。
⑴ 相手方が本契約の履行に関し、不正の行為をしたとき
⑵ 相手方が本契約の規定に違反したとき
2 甲は、乙が、乙の責に帰すべき事由により、履行期間内に業務が完了しないと明らかに認められるときは、何らの通知をすることなく、本契約を解除することができる。
中途解約の場合の精算方法も定めておくと、報酬に関して揉めるリスクも下げられます。
個人との業務委託契約で注意すること
個人と業務委託契約を交わすときは、「偽装請負にならないようにすること」と「フリーランス保護法に配慮すること」に注意してください。
偽装請負の防止
形式上は請負契約として締結しているものの、実態が雇用契約・労働者派遣の状態にあることを「偽装請負」といいます。
これは違法な状態であるため、契約書において「受託者が業務遂行の裁量を有すること」や「発注者に指揮命令権がないこと」を明記するとともに、実際の運用もその記載に従うようにしてください。
そのためにも、勤怠管理の実施、直接的な指示命令は避け、成果物ベースで報酬を支払う仕組みを作りましょう。
フリーランス保護法への対応
フリーランス保護法は、個人との取引条件を明確化して当該個人の権利を法的に保護するための制度です。
※同法における「フリーランス」とは、業務委託の相手方である事業者であって、従業員を使用しない個人のこと。
発注側の企業や業務委託の期間によっても異なりますが、次のような規制が適用されます。
- 取引条件を書面(または電磁的記録)で明示すること
- 報酬支払期日を成果物の受領から60日以内すること
- 「成果物の受領拒否」「定めていた報酬を減額すること」「市場価格より著しく低い報酬を不当に定めること」「物品購入や役務利用を強制すること」など一定の行為の禁止
- (6ヶ月以上業務を委託している場合)解除または更新をしない場合、30日前までに予告すること など
弁護士に相談するなどして、自社の運用実態、契約書の内容に問題がないか一度見直すようにしてください。
業務委託契約書の保管や電子化について
業務委託契約書は、法人税法に基づくと原則として7年間保管しないといけません。そして会社法上の「事業に関する重要な資料」に当たるときは原則として10年間保管する必要がありますので、契約終了後に保管することをおすすめします。
紙の契約書をスキャンして、電子データとして保管し続けることも可能です。ただしこの場合は一定以上の解像度とすること、タイムスタンプを付与することなどの要件を満たしてください。
電子契約を締結したときは契約書データをそのまま電子的に保存できます。この場合も改ざん防止措置を講じ、可視性や検索性を確保するなどの要件を満たす必要がありますが、適切な電子契約システムを導入することで技術的な要件をクリアすることができるでしょう。
個人への業務委託でも契約書を作成しよう
個人事業主やフリーランス相手に仕事を発注するとき、口頭あるいはメールのみのやり取りで済ませてしまい、契約書の作成を省略してしまっているケースもあります。もし相手方が契約書の作成を求めてこなかったとしても、契約書が作成されていないことは双方にとってリスクとなりますので、個人に対する業務委託でも契約書の作成を忘れないようにしてください。
また一定の要件を満たす場合、企業側にはフリーランス保護法に基づく規制が適用されます。公正取引委員会の紹介ページを参照、あるいは弁護士に相談するなどして、適法に個人へ発注できる体制を整えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
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