• 更新日 : 2022年10月13日

総数引受契約書とは?雛形を基に記載事項や注意点を解説

総数引受契約書とは?雛形を基に記載事項や注意点を解説

「事業経営で工場建設や海外進出を考えているが、資金調達で悩んでいる」という経営者は少なくないでしょう。

金融機関からの借入とは異なり、負債を伴わない株式会社の新株発行は魅力ある選択肢です。

今回は、その中でもメリットが大きい総数引受契約について総数引受契約書の雛形を示し、記載事項や注意点を解説します。

総数引受契約書とは

資金調達方法の一つである募集株式の発行は、多額の調達が可能である上に負債が生じません。

しかし、募集株式には不特定多数から出資を募るイメージがあるため、不安を覚える経営者もいるかもしれません。

会社法における募集新株発行には、不特定多数に株式を発行する公募の他、第三者に対して株式を発行する第三者割当、既存の株主に株式を付与する株主割当があります。

株主割当は、原則として株主構成や持分割合が変わらないため、既存の株主にとってはあまりメリットがありません。また、迅速な資金調達には不向きです。

第三者割当による増資には、募集事項をあらかじめ株主総会で決定して株式引受の募集を行い、申込者の中から株式の割当先と割当株式数を決定する「申込割当方式」と、株式の引受人をあらかじめ決めて行う「総数引受方式」があります。申込割当方式が原則的な方法で、総数引受方式はそれを簡略化した方法であり、その際の契約が総数引受契約です。

総数引受契約では新株を引き受ける者がすでに決まっているため、募集新株発行における募集株式の申し込みや割当決議手続きを省略することができます。また、未上場企業でも短期間で多額の資金を調達できるというメリットがあります。

総数引受契約書は、その際に締結される契約書です。

総数引受契約書の雛形

総数引受契約書のテンプレート(雛形)の一例を紹介します。記載内容はあくまで例なので、利用する際は事案に応じて編集してください。

総数引受契約書に記載すべき項目

総数引受契約書の記載事項は、法律で定められているわけではありません。しかしながら、新株発行において申込割当方式の場合、募集株式の引受を申し込む者は一定事項を記載した書面を株式会社に交付することになっているため、総数引受方式でもそれを踏まえる必要があります。

それ以外にも明記すべきことがあるので、記載事項として説明します。テンプレートを参照しながらお読みください。

契約書双方の名前や住所

前述のとおり、公募増資では申込者の氏名または名称及び住所は書面の記載事項になっています(法203条2項)。また契約である以上、当事者双方を明記するのは当然でしょう。

募集株式の種類と株式数

会社法203条2項では、引き受けようとする募集株式の数も記載内容となっています。また、募集株式では優先権を付与した種類株式を発行することがあるため、種類も明記します。

払込金額

割り当てる募集株式1株の払込金額も記載します。ただし実際の払込金額は、割り当てる募集株式数に1株当たりの払込金額を乗じた金額になります。

募集株式の割当方法

総数引受契約では、1人の引受人にすべての募集株式を引き渡すことも、複数人に分けて引き渡すこともできます。いずれの場合も、引受人の氏名と割り当てる株式の種類、株式数を記載します。

増加する資本金・資本準備金に関する事項

総数引受契約を締結し、出資金の払込を受けると、発行済株式総数や資本金額が変動するため、変更登記の申請が必要です。その際に添付書類として総数引受契約書を提出するため、増加する資本金・資本準備金に関する事項は明記すべきでしょう。

払込期日

払込期日は期日を特定する場合と、一定の期間とする場合があります。後者の場合、総数引受契約書には期間の最終日を記載します。

払込を取り扱う場所

払込を行う金融機関名、支店名、所在地も記載します。

総数引受契約の際の注意点

総数引受契約書のテンプレートを提示し、記載事項について解説しました。ここからは、総数引受契約に関する注意事項について見ていきましょう。

特定引受人の議決権が大きくなる場合

公開会社の場合、募集株式を発行することによって特定引受人が総株主の議決権の数の2分の1を超える株式を取得すると、支配株主の異動が生じます。この場合の支配株主を特定引受人といいます。

この場合、総数引受契約で定めた代金支払期日の2週間前までに、株主に対して一定事項を通知、または募集事項の公示と同様の方法によって公示する必要があります。

一定事項とは、特定引受人の氏名または名称及び住所、特定引受人が引き受けた募集株式の株主となった場合に有することとなる議決権数、募集株式発行後の総株主数の議決権数、特定引受人に対する募集株式の割当に関する取締役会の判断とその理由、監査役の意見などのことです。

譲渡制限株式の場合

非公開会社では、定款ですべての株式に譲渡制限を設けているケースが少なくありません。
このような全株式譲渡制限会社の場合、原則として、株主総会の特別決議により募集事項を定めなくてはなりませんが、株主総会の特別決議により募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することが認められています。また、総数引受契約の承認は、原則として、株主総会の決議となり、取締役会設置会社では、取締役会の決議となります。

少数株主による異議申し立ての可能性

前述のとおり、公開会社では特定引受人が総株主の議決権の数の2分の1を超える株式を取得した場合は株主に通知または公告をしなければなりませんが、その結果総議決権の10分の1以上の議決権を有する株主が異議申し立てを行った場合、会社は払込期日または払込期間の初日の前日までに、株主総会の普通決議によって特定引受人に対する募集株式の割当または総数引受契約の承認を受ける必要があります(法206条の2第4項)。

表明保証違反についての注意点

第三者割当を実施する会社が、総数引受契約の当事者である引受人に対して開示した情報に誤りがないことを保証することを表明保証といい、総数引受契約書に表明保証条項として記載されます。さらに、表明保証違反の場合には払込金額の返還をするとの条項が記載される場合があります。

しかし、総数引受契約を締結して払込が終わった後、募集株式を発行した会社に表明保証反があった場合、募集株式発行に関する法定の手続きを欠いた募集株式発行であって無効とされ、払込んだ金員の返金請求が認められない可能性があります。

総数引受契約の締結後に必要な手続き

総数引受契約の締結後、株式引受人による出資金の払込、登記申請といった手続きを行うことになります。

登記申請では、必要書類として定款、株主総会議事録、取締役会議事録、総数引受契約書、資本金の額の計上証明書、出資金払込証明書、登記委任状などが必要になります。

総数引受契約の基本を知っておこう!

迅速に資金を調達できる総数引受契約による第三者割当増資について、総数引受契約書を中心にテンプレートを提示して解説しました。

正式な手続きが一部省略されているため簡易な印象がありますが、注意すべき点もあります。総数引受契約による第三者割当増資を検討する際は、専門家のアドバイスを受けることも検討するとよいでしょう。

よくある質問

総数引受契約書とは何ですか?

引受人が決まっている第三者割当増資をする際の引受人との間で締結する契約書です。詳しくはこちらをご覧ください。

総数引受契約書に記載すべき項目は何ですか?

募集株式の種類・株式数、募集株式の割当方法、募集株式の払込金額などです。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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